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この街で君と出逢った  作者: 二条 光
6/20

出逢い/進展(後篇)

 車に乗り込むとかおりの緊張が一気に高まった。

 時刻は午後九時を過ぎている。

 どこに行くんだろ……。帰るかな……。

 かおりが彼の出方を待っていると「オレんち来る?」と隣に座る龍之介のピンと張った声がきこえた。

 それに頷いてしまえば、その後のことを了解したのと同じな訳で、かおりは自分の心の声に耳を傾ける。

 一緒にいたい。まだ帰りたくもない。彼と一夜を共にしても構わないと思っている。

 かおりは緊張のあまり喉を鳴らす。そして、小さく頷いた。

 彼は彼女の顎を摘み顔を覗き込むと、チュッと軽い音を立てキスをした。


「りょ~かいっ」


 彼女を見る龍之介、その表情は至極朗らかで余裕すら感じられる。

 一方のかおりは恥ずかしくて顔を背ける。


「ステキな夜にしようね~」

「ハイハイッ」


 かおりは顔をそらしたまま冗談っぽく返した。



 一路、車は龍之介のマンションへ向かって走っていた。


「――……落ち着かない?」


 気ぜわしく話し続けていたかおりがいったん黙ったところで、龍之介はそう言ってふんわりと微笑んだ。

 彼女は緊張を見抜かれていたことが非常に恥ずかしくなり、「そんなこともないけどっ」とやはり早口でまくし立てる。


「ほら、早口になってる」


 ニヤリとする龍之介。


「わかってるんだったらいちいち触れなくてもよくない? 意地悪~いっ」

「いや~、かわいくて。ついね~」


 ケラケラと笑いながら、かおりの頭を撫でる。


「触んな~」


 かおりは顔を真っ赤にして龍之介の手を外す。


「ハイハイ」


 彼女の邪険にする態度が照れ隠しであることはバレている。彼はニヤニヤしながら左手をハンドルに添え戻す。


「後でイヤってほど触れられるもんねっ」


 彼の言葉に体中の血管がキュッと収縮し逆流する気がして、かおりは息苦しくなった。

 もう、ホントにこの男は~!!


 少しの沈黙の後、目的地に着くとかおりは一層緊張を強いられ、心がちぎれそうな気持ちになる。

 こんなに緊張したのは本当に久しぶりのことで、処女じゃなくなった遠き日を思い出し、あの日も確か夏だったと振り返っていた。


「なんかオレまで緊張してきたんですけどっ」


 龍之介はかおりと繋いでいた左手を離すとゴシゴシとジーンズの脇でこすりつけ、再び繋ぎ直した。

 かおりはそれがかわいらしく感じ、フッと笑いを洩らし、少しばかり緊張がほぐれるように感じた。


 マンションのエントランスはふたりに反応し、明かりがつく。

 龍之介は空いた右手で壁に埋め込まれているオートロックの解除ボタンを押していく。番号を見たら悪いような気がし、かおりは横を向いた。

 ロックが解除され、目の前の自動ドアが静かに開くとかおりは彼に引かれ中に入る。


「オレ、他人ひと入れるの初めてだから」

「え、ウソ~」

「女のコ入れてそうでしょ」


 驚いて彼を振り向くと、かおりの考えを見透かしたように自嘲気味に笑うからつられてクスッと笑った後「うん」と頷いた。

 ふたりは二基あるうちの近いほうのエレベーターの前に立つ。


龍之介がエレベーターのボタンを押すと緑色が点り、上の数字が最上階の一五からゆっくりと小さな数字に移動していく。


「オレ、絶対入れないよ、」


 彼の力強い口調と目力にかおりは少し圧倒されながら彼を見ている。


「後々コワいからね~」

「コワい?」


 かおりは首をかしげる。


「うん。勝手に合鍵作られたりね」

「えー、それはないでしょ~」


 まったく信用していないかおりはゲラゲラと笑う。


「あり得るって。ウチ教えてなくてもマンションの前で何回も待ち伏せされたことあるし。車のワイパーにメモ残されたり」

「は? メモ!? なんて書いてたの?」


 まだ信用できないかおりは半笑いで彼の話を訊き返す。


「“あのオンナ誰?”とか」

「え~、コワっ!!」


 思わずゾッとしてかおりは自身の体を抱きしめるように両腕をさする。


「でしょー。マンションの玄関前で待たれるならまだしも、自分ちの前にいられた時はさすがに引っ越し考えたけど」


 その時のことを思い出したのか、苦笑する龍之介。


「えー、コワっ! コワコワっ!!」


 本当に合鍵を作られ兼ねないのはよくわかった。

 そして、龍之介との関係は遅かれ早かれ色んな人に知られ、知らないうちに誰かから恨みを買うかもしれないと、彼女は悪寒が止まりそうになかった。

 彼女の心境を察したのか、龍之介は握っていた手に力を込める。


「大丈夫だよ、かおりちゃんのこと責任持って守りますから~」


 そう言うと龍之介は彼女の顔を覗き込んで、一瞬頬に口づける。


「バカっ!! こんなところでこんなことしたら、それこそ誰に見られるかわかんないでしょ!」


 困惑した表情でバシバシと彼の腕を叩くかおり。

 当の龍之介は彼女の暴力にも笑っているため、自然とかおりも肩の力が抜けたように叩くのをやめ、笑顔で彼の横顔を眺めていた。


 エレベーターが下りてきて、静かにドアを開ける。

 龍之介は鼻唄を歌いながら彼女の手を引き、中に入ると“12”そして“閉”と書かれたボタンを素早く押した。

 ほんの少しだけ間があり、ゆっくりとドアが閉まり始めたと同時に彼はかおりを引き寄せるときつく抱きしめ、唇を奪う。そして、まるでそれに応えるかのように彼女は背に腕を回した。

 激しくかおりを求める龍之介。

 かおりから甘い吐息が漏れると、龍之介の舌が口腔内に侵入し、彼女のそれを絡め取る。抑えきれなくなったのか、彼女のTシャツの中に手を忍ばせると腹の表皮を柔く撫で、ブラの上から胸をさすり始めた。


「う~……んっ」


 かおりは龍之介の手を押しのけると、彼は一度唇を離した。


「もうっ! ダメっ」


 そりゃあキスを許した私も私だけどさっ!

 少しだけ後ろめたい気持ちは口にせず、かおりは唇を尖らせる。


「はぁい」


 いたずらを叱られた子供のように首をすくめる龍之介。かおりはそれを見て小さく笑った。


 そうして、エレベーターは十二階に到着した。

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