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この街で君と出逢った  作者: 二条 光
4/20

出逢い/デート(後篇)

 彼はかおりの少し前に立ち斜めに体を向け、手を出す。繋ぐつもりらしい。


「なにこの手~」


 そう言いながら顔を赤らめてパシンと叩くかおりに、笑う龍之介。太陽が沈もうとする空にとけたその笑顔はとてもキラキラとしていて見ることが出来ず、かおりはそっと顔を背けた。


「繋がないの? あー、腕組む派?」


 そう言うと今度は左手を腰に添え、腕を組む体勢になる。


「どっちでもないしっ」


 彼女の返事をきき、龍之介はにんまりとする。


「じゃあ、手。はいっ」


 再度彼女の前に右手を出す。

 仕方ないなぁ。

 心の中で悪態をつきながらおそるおそる差し出すと、彼は嬉しそうにそれをしっかりと握った。

 そして、さっきまでは握手するような軽い繋ぎ方だったが、今度は指と指をしっかり絡ませる、俗に言う恋人繋ぎをしてきた。

 かおりは恋人繋ぎは好きではなく、ややもすると繋ぎ直すくらいだったけれど、龍之介とのそれは不思議なくらい受け入れることができ、もっと絡めたいとすら思った。

 しかし、やはり自分から強く絡めることができなかった。どうしようもなく彼に惹かれていることを本人に悟られていることは気づいていたが、まだそれを素直に表すことはできなかった。

 また、それを表してしまったら、きっと底なし沼のように彼に溺れていきそうな気がしてそれが怖くてできなかった。


 店内は常に店員の活気の良い声が上がり、ザワザワとしている。大学生やサラリーマン、OLの若い年齢層から高齢の男女、家族連れなど実に様々な顔ぶれがあった。

 ふたりは大学生らしき男性店員に案内され、奥の座敷に通される。

 廊下側には戸はないものの、隣とは壁で仕切ってあるため、気兼ねなく食事ができるようになっている。

 向かい合わせに座り、それぞれ一冊ずつメニューを眺め始めた。


「飲み物は?アルコール?」

「未成年は呑みませーん」


 おのおのメニューに視線を向けたまま。

 龍之介の問いに笑いながら首を横に振るかおり。


「ハハ、またまたー。ホントはイケるクチなんじゃないの~」

「ううん。ホントはアルコール受け付けないだけなんだけどね~」

「あー、分解酵素ないのか」

「多分、ゼロに等しいよ。分解酵素。そっちは? あ、どっちにしろ車だから呑めないか」

「うん、そそっ」


 そうして、ふたりは烏龍茶を注文することにした。


「なんでも頼みな、オレのおごり」

「え、いいよ~」


 かおりが言いながら顔を上げると、彼も彼女を見ていて目が合った。

 吸い込まれそうなほどの魅力的な彼の眼差しにかおりは慌てて視線をメニューに戻す。

 マジでこの人ホントヤバイ。あー、心臓がもたないわ。この人。

 彼はそんな彼女に気づいているのかいないのか、変わらず口を開く。


「いや~、オレがハラ減ってるから付き合ってもらったんだし。いいとこ見せたい、みたいな?」

「ん、わかった。ありがと、じゃあごちそうになります」


 ケラケラ笑ってる龍之介の顔が本当は見たくてたまらなかった。しかし、見た後の精神的な破壊力が容易に想像できてかおりは顔を上げることが出来なかった。

 メニューに視線を落としたまま会話を進めていくふたり。


「で?」


 龍之介は軽い口調で問う。


「ん?」

「なんで別れたの?」

「なに、実はそ~んなに知りたいの?」


 今度はかおりがニヤリとする番だった。その表情のまま顔を上げると、ちょうど龍之介も顔を上げたところではイヤそうにしていた。相手を虜にしそうな魅力が弱まっていて、かおりはホッとする。


「そんなもったいぶるならきかない」


 わざとらしく再びメニューに視線を向ける。


「うわっ、ムカつくっ。意地でも聞かせてやるっ。あのね、カレシとはね~」

「ワーワー」


 龍之介は両耳を塞ぎ、奇声を発した。


「バーカ」


 かおりがそう言うと、ふたりは目を合わせて笑った。


「……カレシ、こっちの人?」


 首を振るかおり。


「違う、高三ん時から付き合ってたの」

「あ、そういやさ。かおりちゃん、地元は?」

「彩の国~」

「おぉ、マジで? 埼玉? 同じ関東だね~」

「そっちは?」

「武蔵野市民だよ」

「あー、吉祥寺とかね」

「そそ」


 やっぱりこっちの人じゃなかったんだ。

 かおりは初めて彼と会った時のことを反芻しそうになって、慌てて頭の中から消し去ろうとする。


「で?なんで別れたの?」

「こないだ別れたんだよね。っていうか、フラレた。ハハ」

「なんでフラレたの?」


 自虐的に笑うかおりに対し、龍之介はいたってマジメに彼女の話に耳を傾ける。今までの流れから考えるとてっきり彼は笑うと思っていたが、意外な反応にかおりは戸惑いながらも話を続ける。


「他に好きなコができたらしいよ」


 サラッと流そうとつい早口になるかおり。自分からこの話題をふっておいて、追求されるとあまり深くはきくのは勘弁してほしいと、なんとも身勝手な気持ちになるのだった。


「そうなんだ」

「しかも、メールで別れようって送ってこられた時は凹んだ。なんでメールなんだろうって。距離があるからすぐに会えないからさ、せめて電話だろって思った。そう思わない?」

「う~ん。まぁ、なんとも……」


 曖昧な笑みを浮かべる龍之介。

 どうせ、アンタもメールでオンナを切るクチか! アンタに話した私がバカだった……。


「で、合コンにきたってわけ?」

「そっ。初めてなんだよね、合コン」


 もっともこうしてすぐに抜け出したので、合コン自体経験しているとは言い難いが。


「え、そうなの~?」


 非常に驚いている龍之介。


「なんで? そんな驚くこと?」

「よっぽど慣れてるのかと思って」

「なんで?」

「だって、チョーやる気なさげじゃない? その格好」


 龍之介はかおりの胸元を見た。さっき女友達に同様なことを言われたことを思い出し、渋い顔をして自分の胸元を見つめるかおり。


「自分に自信があるから、あえてやる気なさげなのかと思った」


 そう言うと龍之介はクツクツと笑う。


「やる気はないワケじゃなかったけど、やる気あるっぽい風に見られて軽く思われたくなかったし」

「思わない、思わない」


 目の前でオバサンのように手を振りながら笑いを必死に堪える龍之介。


「見るからにマジメそうだもん、かおりちゃん」


 そう言ってついに吹き出す龍之介。


「もうっ、そんな笑わないでよ!」


 かおりは顔を真っ赤にして龍之介の腕をバチンと叩いた。


 その後も食べながら談笑するふたり。

 この人と一緒にいたい。この人と仲良くなりたい。この人といたら本当に楽しい。

 最近別れた元カレや好きになった相手など、恋愛感情を抱いた男は何人かいた。しかしながら、龍之介ほど強く惹かれる気持ちを抱いたことはなかった。

 かおりの胸は彼への気持ちで溢れていた。

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