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この街で君と出逢った  作者: 二条 光
14/20

観光/キャンパス

「おなかすかない?」

「そろそろメシいっときますか?」


 如己堂を後にし、今にもぐ~っと鳴りそうなオナカをおさえながら龍之介を見ると、彼は腕時計で時間を確認しながら訊く。


「今何時?」


 龍之介を見るかおり。


「十二時ちょいすぎ」

「せっかく観光するんだから、長崎らしいモノ食べたくない?」

「いいね~」

「龍之介、どっかわかる? このへんで」

「意外とさ、住んでると長崎らしいものって食べてないよね」

「だよねー」


 市内の繁華街などは出歩いているがこのあたりはあまりウロウロしないため、このへんの食事処にふたりは疎かった。


「じゃあ、大学の食堂なんかどう?」

「食べた~いっ」


 龍之介の提案にかおりは満面の笑みを浮かべて挙手し、賛成の意を表す。



 N大学へ徒歩で向かうふたり。


「N大が第一志望だったんだよね、私は教育学部だったけど」

「えーそうなの? くればよかったのに」


 龍之介は残念そうに言う。

 彼は子供の頃から勉強が得意で今の進学先も特別苦労せずに入学している。そのため、彼にとってみれば、志望校に合格しないという概念が希薄だったため、第一志望が不合格だったからよその大学に進学することはピンとこないらしい。


「だって、落ちたら入れないでしょ」

「あーそっか。そうだよね」


 これだから、勉強の出来るヤツってキライなんだよねーとかおりは苦笑するしかなかった。


「でもさ、同じ大学に入ってたら意外と出逢ってなかったかもしれないね。かおりのガッコーとはよく合コンしてきたけど、同じ大学のコとそういえばやったことないもんなー」

「そうなんだねー」

「じゃあ、かおりがウチの大学落ちてそっちに行ったのは正解だったってことだね」

「えー、やっぱりどうせなら受かりたかったけど~?」


 かおりが首をかしげながら言うと、龍之介はニヤニヤする。


「そだね。きっと、かおりがウチの大学通ってたら通ってたでそこでも出逢ってるだろうしね~」

「! ……ハイハイ」


 サラリとそんな言葉を口にする龍之介に一瞬ギョッとするが、それでもそんな風にどのような選択をしても出逢うべくして出逢ったのだということを彼が言ってくれたのはとても嬉しく、そして、非常に面はゆい心地がするため、彼から視線をそらし、悪態じみた反応をするのだった。



 約十五分、彼が通うキャンパスに到着した。


「思ったより歩いたね」

「だね~。けっこう距離あったなー」


 一番陽が高くなっている時間帯ということもあり、炎天下の中歩いたふたりはびっしょり汗をかいていた。

 汗でべたついている心地の悪さを感じながらも、観光気分を味わっていることが楽しくてニコニコしながら、お互いが持っていたペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干した。



「こっちの校舎は初めてでしょ?」


 構内に入り珍しそうに周りを見回しているかおりに訊く。


「うん」


 龍之介の在籍する医学部とかおりの志望していた教育学部は学び舎が異なるため、彼女はこちらには足を踏み入れたことがなかった。


 いかにも大学ってカンジだなー。


 かおりの通う大学は女子大なので学生は当然女性しかいないが、しかし今来ている彼の大学は男女入り混じった学生がすれ違ったりする。また今日はどうやらオープンキャンパスの日らしく、制服をした学生や保護者なども来ており、非常に活気に溢れていたため、なおさらにかおりの抱いているイメージの雰囲気に満ち溢れていた。



「お~!」


 食堂へ行くと、こちらに気づいた男子学生が手を挙げる。

 スキンヘッドでスポーツで鍛えたのだろうか、ガタイがいい。そのため、非常に威圧感がある。


「お~」


 龍之介が嬉しそうに近づいていくので、かおりもその後に続いた。


「あ、このコがカノジョ?」


 後ろのかおりに気づき、ニヤッとして訊く男。


「うん、そうなんだよ!」

「へぇ」


 男の視線がぶしつけに感じ、かおりはなんとなく不愉快に思う。


 どうせ、また龍之介に似合わないって思われてるんだろうな。ま、いいけど。もう慣れたし。


 龍之介と付き合うようになって、大学で「あの龍之介くんの恋人」という噂が広まっており、幾度となくそういう視線を感じた。

 また、それは街中でも同じだった。

「うわ、かっこいい。え、隣の人が彼女?」

「うそ~」

 などとヒソヒソ陰口を叩かれることもしょっちゅう。

 人目を惹く彼の隣に並ぶ自分が不釣り合いなことはかおり自身嫌というほど自覚していた。


 龍之介が彼の前に座ったので、いまだジロジロと見られて正直この場から離れたい気持ちもあったが、かおりは隣に座る。


「龍之介のことよろしく頼みます」


 え?


 ところが、かおりにとっては意外とも思える反応だった。目の前の彼はさっきまでとは打って変わって、柔和な表情を浮かべている。


「かおりにずっと会わせたかったんだ。オレの友だちで同じ学部の吉田ヨシダ


 吉田と呼ばれた彼はかおりに軽く頭を下げる。


「小学校の時一緒でさ、中学に入学する前に吉田が転校しちゃって。大学で偶然再会したんだ」

「そうなんだぁ」


 龍之介の言葉にニコニコしながら聞き入っている吉田とそんな吉田とかおりを交互に見ながら、お互いを引き合わせることができたことを心底嬉しそうに思っている龍之介。

 そんな二人を見て、かおりもすごく自然に笑みをこぼす。


「カノジョができたって龍之介からきいてさ。オレもずっと会いたかったんだよね」


 そう言って、かおりの前にすっと手を出す吉田。

 これは握手ってことだよね?

 かおりがおそるおそる手を差し出すと吉田は強く握った。


「なに、今日はデート?」

「うん、そー。吉田は?」

「あーさっきまで図書館で勉強してた。バイト行く前に学食でメシ食ってこうと思ってさ」

「じゃあ今から?」

「おお。一緒に食べるか?」


 龍之介はかおりを見る。


「いい?」


 かおりは二人を見比べながら笑みを浮かべ、「もちろん」と答えた。


 そうして、三人は一緒に昼食を摂った。

 かおりは子供の頃の龍之介の話を聴きたかったけれど、大学での勉強について二人が真剣に話し込んでいたため、その話は一切聴けなかった。

 しかし、二人の会話の端々にお互いが非常に信頼し合ってることをひしひしと感じられて、かおりにとっては龍之介の人となりを垣間見ることができ、それで充分満足していた。



「ごめんね、つまんなかったでしょ?」


 吉田が去ったあと、二人で夢中になってかおりが疎外感を感じていないのか急に不安になった龍之介。申し訳なさそうにしている。


「ううん。話はよくわかんなかったけど、龍之介と吉田くんが仲よさそうなのが見てて楽しかったからいいよ」

「仲よさそうだった?」

「うん、特に龍之介がね」

「そっか。そうかもね。吉田んちはさ、オレの住んでたアパートから近くって子供の頃よくメシ食わせてもらったりしたんだよね。オレんち母子家庭でビンボーだったからからかわれてることもあったんだけどさ、吉田、子供ん時からあんなカンジで上級生からもこわがられててよくかばってもらったんだ」


 昔を想い出しているのか、龍之介は目を細めて話している。その表情はとても穏やかでかおりの心まであたたかくなるのだった。

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