表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピーチラビット  作者: 七色
2/3

2です!


 目が覚めたとき、紫は酷い頭痛だった。あー早くスーパー行かなきゃなあ、とか、惣菜パン、半額惣菜売り切れてないかなあ、とか、明日何時だっけ、とか、そんなこと考えながら、耳元での大騒ぎが全く脳まで届いてこない。

 

 「大丈夫ですか!しっかり!しっかり!」

 「…う…」

 

 五月蝿い、紫がどうにか目を覚ますと、周りにいた男たちが余計騒ぎ出した。近くに落ちていた眼鏡を拾ってかけると、それでもよく見えない。だって、こんな場所、知らない。


 さっきまでいただろうカフェはほぼ全焼、警察と救急車と消防車がひっきりなしに行きかい、大騒ぎしているのはマスコミだろうか、野次馬だろうか。腹が立つほど、写真を勝手に撮られている。

 「大丈夫ですか?お怪我は」

 「桃兎は」

 掠れた第一声は、自分でも驚くような内容で、そして紫は痛すぎて落ちてしまいそうな頭を支え、無理やり立ち上がり、カフェがあったところによろよろと向かう。驚いた救急隊員が紫の腕を引きとめた。

 「待って下さい!またいつ爆発するか」

 「桃兎は!」

 「助かったのは、あなただけです!早く救急車に」

 心臓が、口から零れ落ちるのではないかと錯覚するくらい、大きく揺れ、鳴った。汗がすごい。涙かもしれない。救急隊員の腕を振り払い、紫は店内へと戻っていた。それはまるで天啓のように、桃兎は自分を助けた、と思い、信じていた。最後に見た泣き顔と言葉が引っかかる。彼女はこうなることが分かっていた。そうして、自分を助けた。また、助けてくれたのだ。自分の命を救ってくれた彼女が、また自分を助け、おまけに死んでしまったなんて、その事実が受け止められなかった。

 ずるずると店内に入っていく。もうどこが天井で、どこが床だか分からないような有様だったが、自然と、自分たちが座っていただろう場所に向かっていた。そして、崩れ落ちた。落ちているぼろぼろになったポーチは、見覚えがあった。羽が生えた、桃兎のポーチ。こんな風にぼろぼろになってしまったのか、震えながらポーチを拾っていると、ふと、目の前がまた真っ黒になった。この色は見覚えがある。

 

 「紫の…お兄さん…」 

 「桃兎!」


 良かった、生きてた、店の奥にいた桃兎に紫は転びながら駆けつけたが、すぐ、足を止めた。桃兎は杖を高く上げ、必死で天井から落ちてくる落下物を必死で止めていた。桃兎の足元に二人倒れている。意識はないようだが、生きているように見える。この二人をかばっているのだ。

 「すいません…二人を、お願いします…支えるのに精一杯で…」

 「桃兎は!?」

 「二人とお兄さんが行ったら…すぐに行きます…」

 紫はすぐに嘘だと感じた。それができるなら、今すぐ浮かせているものを投げるなり消すなりできるはずだ。それでも、今まさにがんばっている桃兎にそこは責められなかった。紫はすぐに二人を引きずり、落下物から遠ざけると、救急隊員を大声で呼んだ。が、反応はない。ここにきて、ようやく紫は、今どういう状態なのか気づいた。時間そのものが止まっているんだ。

 とりあえず、もう二人に落下物は落ちてきそうにない。桃兎に大丈夫だと告げようとした瞬間、彼女がずっと耐えながら浮かせていた力が切れてしまった。危ない、と思うより早く、紫は落下物と桃兎の間めがけて飛び出した。



 目が覚めて、状況がよく分からない、最近こんなんばっかりだな-と思いながら、紫が目を覚ます。何もない真っ白な四角い部屋に横になっていて、胸の中には全裸の女の子がいる。こっちを向いてぷるぷる真っ赤な顔をして震えている。可愛いなあ、ちょっと年下過ぎる気もするけど、まあ夢だからいいかー

 紫がにやにやしながら、目の前の美少女の胸を揉み始めると、女の子がひゃあっと叫んだ。声まで可愛いなあ、桃兎そっくり-…


 「うわああああああ!!!」

 「え、え、えっちなことは駄目ですぅ~…」

 「す、すいません!ほんとにすいません!寝ぼけてました!寝ぼけてました!!」


 紫が頭を打ちそうな勢いで何度も土下座していると、桃兎が真っ赤な顔を隠しながら、くすくす笑っていた。笑ってくれてほっとしたが、どこを見ていいか分からない。着ていたブラウスを脱いで彼女に渡すと、下半身裸でだぼだぼの彼シャツを着ているという夢の産物が出来上がってしまった。いよいよどこを見ていいのか分からない。

 ここはズボンも脱いで渡したほうがいいのか、しかしそうなると、紫はパンツ一枚になる。裸にブラウスとズボンを装備した女子高生と、パンツ一丁の社会人―ものすごい見た目犯罪くさいが、背に腹は変えられない。紫が後ろを向いたままズボンを渡すと、桃兎がお礼を言った。履き始めているようだ。

 「な、何で裸なの?」

 「ごめんなさいです、魔法使い過ぎちゃって」

 「それで服脱げるの!?」

 「ご、ごめんなさぁい…」

 「いや、怒ってるわけじゃ」

 何のエロゲーだよ、ていうかここ何処だー視界をめぐらせた紫の動きがかちっと止まった。目の前に、黒い布を纏った小柄な生き物らしきものが近づいてくる。いつか自分を首絞めていた男だ。あれはまずい。

 「逃げるぞ桃兎!」

 「きゃあ!?」

 「おおっ!?」

 まだ履いてなかった、まだ履いてなかった、ものすごい中途半端にズボンを上げている桃兎から慌てて目をそらす。二回も見てしまった。しかし男は近づいてくる。紫は迷うより早く、桃兎を腰元から肩に担ぎ上げ、走り出した。

 「きゃああ!!」

 「走るよ!もう走ってるけど!」

 「むむむ紫のお兄さん!」

 「変なとこ触ってる!?ごめん、後でまとめて土下座する!」

 「い、いえ、あの…急に呼び捨てられるからドキっとして…何かこうきっかけとかイベントとか、何かもっとこう」

 「その話、今しないと駄目!?」

 走る走る走る、とにかく真っ白い道をひたすら走る。前も後ろも、上も下もわけが分からなくなってきた。そもそも出口が存在するのか考えていると、いきなり空間に放り出された。落とし穴があったというよりは、道がなくなった感覚があった。

 「うわっ」

 「きゃあっ」

 なすすべなく紫と桃兎がそのまま落下する。すぐに地面に落ちた、大した高さはなく怪我はないようだが、昨日打った尻がまた痛い。

 落ちたところは、真っ黒な空洞。少しずつ、少しずつ、男が近づいてくる気配がする。この穴の中へ何かしら攻撃されたらまずい。かといって、出ていってもすぐ捕まる可能性がある。紫が自然と桃兎へ手を伸ばすと、触れる前に彼女から胸の中に突っ込んできた。震えながら支え合う。心臓が五月蠅い中、桃兎が口を開いた。

 「紫のお兄さん…お願いがあるんです」

 「何?」

 「キスをしてくれませんか」


 「はあ???」


 あ、俺、こんな高い声出るんだ、なんて、驚いた。軽くだが現実逃避してしまった。何言ってんだこの子、信じられない顔で紫が桃兎を見つめると、彼女は真っ赤な顔をぷるぷるさせて、こちらを向いていた。

 「私、キスもしたこともないんです!なのに死ぬなんて嫌です!」

 「いや、言いたいことは何となく分かるけど!ちょっとそれはさすがに」

 「お願いします!人助けだと思って!」

 「そっ」

 それを言われたら断り辛い、据え膳食わぬは男の恥、色々な都合のいい言葉が紫の脳内を駆け巡るが、その中のどの言葉よりも、群を抜いて、脳内の中を一番早く駆け抜ける大変な事実があった。


 「駄目です」

 「どうして!桃兎のこと嫌いですか!?」

 「いや、違うから困ってるんだ。いいか、ここでキスしたら、キスだけじゃ終わらないぞ」

 「えー!!?」


 桃兎は真っ赤な顔で驚いている。そういえば抱き合っているといえなくもないような格好だが、心なしか距離が空き、壁が出来たような気がする。が、それでも紫は続ける。これも大事な性教育だ。

 「いいか。キスなんて前座だ。キスしたら最後、俺は君へ狼のように襲いかかり、全てを奪い尽くすぞ。男なんてそんなもんだ、キスで終わってくれる男なんて存在しない」

 「そんな夢も希望もない!」

 「あるか、男の中にあるのは始めてエロ本を見たそのときから、ずーーーっとエロだ!」

 「えーーー!!?」


 2人の大騒ぎがぴたっと止んだ。ひた、ひた、と男の足音が聞こえてくる。もう近い、このまま穴の中へ死ぬんだったら小さい可能性にかけて外へ飛び出すか、と、紫が考えているとそのまま破顔した。桃兎が両目を閉じて、こちらへ向かってくる。特攻決めてきやがった。慣れてない様子で目がつぶれてしまうのではないかと思うくらい目を閉じて、こちらへ近づいてくる様子が非常に可愛い―じゃ、なくて。

 「こら、桃兎!人の話を聞きなさい!」

 「ん―!」


 「ああもう、可愛いなあ…っ、止まれ!!」


 頭をかきむしりながら紫がそう叫ぶと、朝日のような光が2人を包んだ。そして、その光は、ふわふわと2人へと舞い降り、消えていった。桃兎の動きは止まっている。彼女は、泣きたいような、笑いたいような、不思議な顔をしていた。

 「紫のお兄さん…いえ、紫様。ありがとうございますです。桃兎、戦えます。あなたの声で、戦えるようになりました」

 「え?」

 この子は一体何を言っているんだ、戸惑う紫の向かいで、桃兎は今までで最高に可愛く笑った。そして紫の手を取り、膝まづいた。これでは、王子と姫が逆だ。

 「さあ、命令して下さい。桃兎に、命令して下さい」

 何だろう、気持ちがふわふわしている。上手く言い表せないが、酷く幸福だ。震える紫の口先は、なぜか、始めからそう決まっていたかのように、勝手に呟いた。

 「あいつに勝て」

 「はいですーーーっ!!」

 そう勢いよく叫んで飛び上がった桃兎は、元気に天使の杖をかたどった杖を回す。また顔に落ちるのだろうと思っていたら、杖は綺麗に弧を描き、そして、桃兎の手に吸い込まれるように受け止められた。

 思わず、「おおっ」と拍手すると、桃兎はそのまま勢いよく杖を男目がけて振り下げる。そんな折れそうな杖で殴るつもりなのか、驚く紫の前で、杖先の天使のモチーフは馬鹿みたいに巨大になった。


 「どりゃあああああ!」

 「ぐあああ!!」


 天使の面影もない鈍器にぶん殴られ、男は気の毒に倒れた。気を失ったらしい。もしかして死んだかもしれない。桃兎がポーズを決め、紫を穴から引きずりあげた。

 「さあ、逃げますですよ、紫様!」

 「はいっ!」

 とりあえず、質問、突っ込み、今は全て流すことにした。

 

 



 「はあはあ…はあ!」

 「はあはあ…っ、げほお!!」

 「だ、大丈夫?」

 「な、なんとかあ」

 とても女子高生とは思えない噎せ方をした桃兎が、元気に手を振った。若いことは羨ましい。紫は笑い返し、あたりを見渡す。どうにか外へ出られた。

 建物はどこかの廃工場といった具合だったが、いつまでも見学している場合ではない。あの男以外にも誰かいるかもしれないのだ。

 遠くで車の音がする、大きい道路に出ればタクシーも拾えるだろう。とにかく何かしら移動手段に頼らないと不安でたまらなかった。しかし、紫が己の格好を見る。パンツ一枚。一緒にいるのは、明らかに男物の上下を着た、女子高生に見えない女子高生。こんな状態で人様の目に触れていいものだろうか。とりあえず紫が桃兎に相談しようと彼女のほうを向くと、瞬速で顔を反らした。桃兎がいきなり服を脱ぎ始めたのだ。

 「な、何してんの!?」

 「だって、紫様が風邪引いちゃいます!」

 「いや、桃兎は!?」

 「私なら、大丈夫ですよ!紫様、命令して下さい、服を着ろと!」

 またこの子はいったい何を言っているんだ、理解は出来ないが、それ以上に、今まさに自分の後ろで裸になっているだろう桃兎の方を心配した。 


 「桃兎、服着て」

 「はいですーーー!」


 再び紫と桃兎にまぶしい光が降り注ぐ。もういいかな、と紫が振り返ると、桃兎は本当に服を着ていた。なぜか、パンツが見えそうなメイド服。驚いた紫の向かいで、桃兎はもっと驚いていた。心なしか顔が青い。

 「む、紫様、こういう趣味だったんです?」

 「うん、まあ嫌いじゃないな」

 「いやぁ、ドスケベさんですぅ!」

 そうか、俺の脳内にある服装になるんだ、なーるほどな、次はもっとえろい服にしよう、なんちゃってあっはっは、紫は一人で棒読みで笑い続けながら服を着て、ぽかぽか叩いてくる桃兎の手を引いて走り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ