フリートの場合1
※前話までと主人公が違うのでご注意
あまりに唐突に、彼の二十数年の人生は幕を下ろした。
記憶をたどれば、自分の死体が脳裏に浮かぶ。
それから、死後の景色。
人のいない葬式。
両親ですらやる気のない、死者の供養。
法令に違反しないためだけの火葬。
それから、神に出会った。
神は言う。
――願いを叶えてあげよう。
――ただし、何でもというわけじゃない。
――君の願いを僕が汲んで、もっとも君が望まないかたちで、能力をあげる。
ふざけた神だ。
ひょっとしたら悪魔なのかもしれないと彼は警戒した。
しかし――沈黙も嘘も、無理だった。
ここは魂を漂白する場所だ、と神は言う。
建前も韜晦も見栄もない。
ただ本音が垂れ流される場所。
だから彼は、答えざるを得なかった。
友達がほしい。
多くなくてもいい。
ただ――自分が死んだ時に、悲しんでくれるような間柄の人が、一人でもほしい。
神はうなずく。
――わかった。
――君の死後、多くの人が君の死を嘆くような力をあげよう。
――魂の底から慟哭し、君という存在の大きさを感じざるを得ないような力を。
――それこそ、後追いをしてしまうほどのものを、君にあげるよ。
契約は成立した。
ただ、もらった力に、彼は不満を漏らす。
こんなモノ、あったって役に立たないし、立てたくもない、と。
神は笑う。
嘲るように。
――役に立たない力なんか、ないよ。
――役立てるかどうかは、君次第だ。
――ただ、きっと君はその力を使う。
――君がこれから生きる世界の運命を司る者として、それだけは保証しよう。
――まあ、力を使うか、力に使われるかは、君次第だけれどね。
彼は自分の魂が新しい人生に引き寄せられるのを感じる。
最後に神がつぶやく。
――お誕生日おめでとう。
そうして彼は。
自分の産声を聞いた。




