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召喚勇者の結末  作者: 稲荷竜
召喚勇者の末路
3/15

トラサカキツトの場合3

 彼に敵はいなかった。

 とはいえ、最初、キツトは自身のあまりの強さに戸惑いを覚えるばかりだった。


 だが、思い直す。

 なるほどこれが勇者なのか、と。


 冒険を続けるにつれ、彼は視界に時折浮かぶ謎の項目の意味を理解していった。

 HPというのは、耐久力だ。

 MPというのは、魔法を使うたびに使用される力だ。


 スキルレベル、ステータスというのは、よくわからない。

 HPは攻撃を受ければわずかに減るし、MPは魔法を使えば減る。

 だけれどすべてが9で埋め尽くされているせいで、スキルレベルやステータスは何をする時にどのように働いている数字なのか判別がつかなかった。


 もっとも、言葉からだいたいの意味を察することは難しくなかった。

 戦士レベルは戦士的な行動に必要な数値なのだろう。

 隠密レベルは隠れ潜む時に必要だし。

 商人レベルは商売をする際に有利に働くことだろう。



 冒険を続けるたびに、彼は自身の力を把握していく。

 最初はわからなかった冒険というもののノウハウも次第に蓄積されていった。


 ただ。

 彼は、仲間を募ることだけはしなかった。


 もとより個人での行動が性に合っていたというのもある。

 それ以上に、仲間を募ったところで足手まといでしかないというのも、わかっていたからだ。


 自分は強すぎる。

 彼がそう判断し確信するまで、一週間もいらなかった。

 むしろ、巻きこまないためにも、ギルドと呼ばれる場所に行き、彼が行く地域から冒険者を遠ざけてもらうなどの配慮を積極的に行なうほどだ。




 彼は冒険を続ける。

 幾多の魔獣を倒し、ついに魔王を倒した。




 世界が平和になる。

 彼の行いを、国が――いや、大陸、世界が、大歓声を以て賞賛した。



 正義の行いにより賞賛を浴びる。



 それは、彼にとって意外で、わずかに心地よく――そして、多大な違和感を覚えることだった。

 正義とは、賞賛されないものだ。

 善い行いとは、共感されないものだ。

 悪を誅したところで、誰にも理解されないものだ。

 そのように思いこんでいた彼は、世界を挙げての大歓迎に対し首をかたむけざるを得なかった。



 彼はディーネにだけ、自分が抱く違和感を語った。

 ディーネは彼に答える。


「川に落とされた石は波紋を起こすものですわ。キツト様、あなたという大岩が起こした波紋がこれほど人々を巻きこんだのです。けれども――大岩自身に波紋を起こす自覚はないのでしょう。傲岸にならず、傲慢にならず、ただそこにある。あなた様のその無欲さは、戸惑いではなく誇るべきものだと、わたくしは思いますわ」


 そういうものか、とキツトはやはり疑問がぬぐえなかった。

 けれど、ディーネが言うならそうなのだろうとも思った。


 この少女はいつだって真摯で、正直だ。

 臣民を思い、国王を思い、他者のことを、思いやっている。

 キツトは冒険のあいだ秘めていた言葉を打ち明ける。



「結婚しないか?」



 それは、いつかこの世の悪を根絶し、平和になったら言おうと思っていた言葉だった。

 ほとんど一目惚れだ。

 この少女の真っ直ぐで純粋で、暗いところのない心に、彼は心底から惹かれていた。

 ディーネは笑顔で答える。


「はい。わたくしでよければ」


 彼女の中にどのような想いがあったのか、キツトは観測しきれない。

 だが、決して『世界を救った英雄に言われて断れない』という理由での承諾ではないことを、キツトは理解していた。


 この少女は嘘をつかない。

 綺麗で、真っ直ぐだ。

 だからこそ惹かれたし、だからこそ打ち明けた。




 こうして勇者はお姫様と結婚をすることになりました。

 二人の幸せは、長く長く、ずっと長く続いていくのでしょう。



 ただし。



 それはただの推測に過ぎない。

 幸せなお話は、往々にして幸せの最高潮でエンドマークを打つものである。

 そしてまだ、このお話のエンドマークは、打たれていない。


 ここが幸福の最高潮ではないからか。

 ――あるいは。


 この人生はなしがハッピーエンドで終わるはずなんてないと。

 彼が、思っているからか。

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