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召喚勇者の結末  作者: 稲荷竜
少女と化け物
13/15

○○○○の場合3

 コレットは街で職を見つけたようだった。



「酒場でね、雇ってもらえることになったのよ」



 嬉しそうに、彼に抱きつく。

 彼は、コレットの頭を慎重になでた。

 強すぎる力を持つ体だ。ふとした間違いで重大なケガを負わせかねない。



「ご主人が子供を亡くしてて、わたしを引き取ってくれるんですって! ……あ! 大丈夫よ! いちおう、職に就くために親がいないっていうことにしてるから、そういう話になっただけ。わたしのパパは、パパ一人だもの」



 嬉しい反面、困りもした。

 彼女には、普通の人間として人生を送ってほしかった。



「パパは、わたしの幸せを願ってくれてるの、すごくわかるわ。でもね、わたしに『帰ってこなくてもいいよ』って言う時、とっても寂しそうな顔をするの。わたしはそれが、気がかりよ」



 そんな顔をしてしまっていたのか、と彼は反省する。

 ほとんど表情もないような、凶悪な顔立ち。

 それでも、娘には伝わってしまうらしい、感情のわずかな機微。



「明日も、時間を見つけて来るわ。なにか食事を手に入れて、来るわね。パパはやっぱり、今日もお腹が空いてるみたいだもの」



 コレットは、本当に毎日のように来た。

 そのたびに違う食べ物を持ってくる。

 彼は『美味しいよ』と言って、コレットの持ってきた物を食べた。

 でも。



「パパはわたしに気を遣ってるみたいね。だって、食べても食べても、お腹が鳴ってるんだもの。なにか、パパを満足させられればいいんだけれど……量じゃないのよね。だって、森でとった動物を、まるまる一頭食べたって、パパはお腹が空いてるみたいだもの」



 コレットには、見抜かれていた。

 ……本当に鋭く、聡い子だ。



 彼は怯えた。

 いつか娘に、自分の内心を見抜かれるのではないかと、彼は、怖がった。

 だから。




「……ごめんなさいパパ。しばらく、帰ってこれないかも」




 コレットが街で働いて数ヶ月。

 そんなことを言い出した時、彼はひそかに、安堵した。



「別にいいけれど……どうして急に?」

「酒場の親方がね、本格的に料理の修業をつけてくれるんですって。それでね、わたし、パパの話に出てきた、パパのいた時代の料理を作るために、腕を上げようと思ってるのよ」

「コレット……」

「だから、その修業に集中するために、しばらく、来れないかも……」



 彼女はしゅんとする。

 彼は、娘の頭を優しく撫でた。



「気にしなくたって、いいんだよ。ちょうどいいから、コレット、お前は料理人として、街で生きていくんだ。その方がきっと、お前のためだ」

「嫌だってば。わたしの幸せはね、パパと一緒に生きていくことなのよ。……今はまだ難しいでしょうけど、きっと、街の人にだって、パパはいい人なんだって、認めさせてやるわ。だから、待っててね。すごい料理人になって、まずはパパを幸せにするから」



 コレットは力強く宣言する。

 彼は、娘の申し出を認めた。


 娘と過ごす日々は、たしかに幸福だったから。

 彼女と一緒にいられるならば、そんなに幸せなことはないから。


 娘の好意に甘える。

 それが駄目なことだとわかっていても。


 ……それが。

 きっといつか、不幸を呼び寄せるのだと、うすうす思っていても。

 今の幸福にあらがう強さを、彼はもっていなかった。



 娘は料理人の修行にでかけた。

 毎日、時間を見つけて娘と会っていたが、それも数日はなくなるだろう。



 だから彼は、次に娘と会った時に思いあまってしまわないように、行動を開始する。

 ――この森は。

 彼が選んだ住処だ。


 人里から離れている。

 でも、人里が見える。


 滅多に人は来ない。

 でも、たまには人が来る。


 彼は行動を開始する。

 そして。

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