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召喚勇者の結末  作者: 稲荷竜
少女と化け物
11/15

○○○○の場合1

 滅びた村で、彼は自我を取り戻す。

 再誕だ。

 恵まれているはずの、第二の人生の始まり。

 ここではない世界から、ここに生まれ変わったという記憶。




 だというのに。

 彼の周囲にある景色は、滅んでいた。




 崩れた家屋は、重機の突撃でも受けたみたいにめちゃくちゃだ。

 折り重なった死体は、どれもひどく損壊している。

 逃げていく家畜たちは比較的元気そうなのが、救いだろうか。



 彼は周囲の光景に唖然とする。

 なにが起こったのか。

 気付いたらこうだった――彼の意識としては、そのようなものだ。

 この滅亡は不意打ちにも等しい。



 とにかく、こんな場所には一秒たりともいたくなかった。

 前世でまともな生活を送っていた彼には、あまりにむごすぎる。



 だからさっさと立ち去ろうとして。

 ……ふと、視界の端に動く、小さな物体を発見した。



 それは赤ん坊だった。

 まだハイハイでしか動けないような、ほんの幼い生き物。



 彼は、その生き物に近付く。

 驚異的でありようはずがない、その無害で無垢な存在の前に、ひざまずく。

 おそるおそる、手を触れようとして――




 彼は、自分の手が異形であることに気付いた。




 青い皮膚。

 鋭く長い爪。

 顔を触る。

 突き出た丈夫な顎。

 鋭く長い牙。

 額には二本の角が生えた、鬼のような顔つき。


 腕は野太い。

 脚も負けじと太く、屈強だ。

 体もシルエットこそ太っているが、すべて太く丈夫な筋肉でできていることがわかる。


 自分は人ではない。

 彼は、そのように認識した。


 手で触れるだけで、赤ん坊など傷つけてしまうかもしれない。

 だから彼は、赤ん坊に手を伸ばせなかった。



 でも。

 無垢なその子は、彼に近付いた。



 ほんの小さな存在に対し、彼はおののいた。

 その無垢な手で触れられるのが、なにより恐ろしかった。



 でも、彼はその子を拾い上げた。

 無邪気に笑う――女の子。


 ……滅びた村を見る。

 もう、この子の親も、いないのだろう。



 だから彼は決意した。

 ――自分が育てる。




 化け物と少女はこうして出会うことになった。

 たぶんこれが。

 二人の迎える結末の始まりだったのだろう。

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