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第4話

「あ〜、ちくしょう。なんとかなったのか?」


 俺は振り抜いた拳を元に戻しならが、先ほど爆発で吹き飛んだやつらを見下ろす。

 幸いというかなんというか、先の爆発によってこの周囲のあちらこちらから火が上がり、この草原を明々と照らしている。

 

 おかげで、先ほど俺を襲ってきたやつらの様子をうかがうことが出来た。


「……一応、気を失っているだけ……みたいだな。しかし、この格好は」


 襲撃者は男性三名。

 いずれも中年……いや、おっさんという外見だったのだが、着ているモノがいただけない。


「いやいや、この格好は無いだろ。なんで、こんな典型的な()()使()()()()()()なんだ?」


 それは俺に残っている知識のなかにもある、もはや古典的ともいって過言ないほどのあのダボっとしたローブだった。

 これでとんがり帽子とか、片手で使える指揮棒みたいな杖をもっていればそれこそ“ザ・魔法使い”だったのだろう。


「……でも、おっさんだしなぁ」


 切り抜けて余裕が生まれたのか、そんなどうでも良さそうなことが頭に浮かぶ。

 いや、どうでもよくないか? これが年端の行かない女の子だったり、瑞々しさ溢れる女性だったり、アカン感じの大人の女性だったりしたら大変なことだ。

 そうだ、襲ってきたのがおっさんだったという事を感謝しておこう。

 おっさん相手ならこれっぽっちも罪悪感に襲われることは無さそうだ、うん。 

  


「ってか、なんでこんな状況で俺は冷静にそんな事考えてるんだ?」



 思考が完全に脱線していたので、頭をふって本筋に戻す。

 あのおっさんたちは放置するとして、俺はどうすべきか。

 

 このまま此処に留まって、もし、あいつらの仲間か何かがやってきたら?

 ……高確率で再度襲われると思う。


 だったら、無理は承知でも移動してこの場を離れるか。



 さっきの戦いで受けた傷……あれだけ皮膚を焦がしたのに、すでに身体は傷一つ無い状態にまで回復している。

 恐らくは、来る前に話していた回復能力か何かだろうか。

 ただ問題は……。


「ちくしょう……また全裸かよ」


 身体は無事でも、俺が着ていた服はただではすまなかったようだ。

 すでに服は燃え尽き、灰となってしまっている。


「……どうすっかな」


 天を仰ぎながらため息をつく。

 ただし、そんな中でも倒れ付すおっさんへと視線は移っているのだが……。







「さてさて、どこに行くのが正しいのか……」


 俺は当てのないまま、再度草原を進んで行く。

 月夜の中、冷たい夜風が俺の肌をなで、()()をなびかせる。


 まぁ、緊急事態というか、燃やされた服の責任追及というかなんというか、俺はあのおっさんたちの服を剥ぎ取った。

 ローブに直でステテコパンツとかやばい格好でなく、下には普通の服とでもいうのか……とにかく、ちゃんと着ていたので問題なかろう。

 まぁ、異世界で時代感も違うからだろうが、俺の知識にあったような質感でなく、麻とか木綿とかに近い気がする。

 間違いなく、ナイロン素材は無いだろう。


 反面、ローブはなかなかの質感で手触りも良かった。

 なので、おっさん三人からローブだけを頂戴し、ぐるぐると腰に巻いているのだ。

 ……それに通常の服は間違いなくサイズの問題で入らないだろう。

 

「せめて、どこかで休めるところ……贅沢は言わないが、洞窟か大きな木とか、使ってない小屋とかその辺りがないか……」


 本当は人里が……と言いたいのだが、先ほどの対応からすると最悪の事態を想定したほうがいいだろう。


 ……最悪の事態。

 つまり、先ほどの対応が他の場所でも起こる可能生。

 つまり、あのおっさん達の言葉が正しい可能性 

 つまり……。


「俺のが外観がオーガと呼ばれるモノとそっくりである可能性……か」


 その場合、俺はどこに行ってもモンスターとして襲われる危険があるということか。

 さらに、それはこの世界で生きていくのが困難になるという事である。

 



「……笑えねぇな。ちっとも笑えねぇ」

  

 

 








「ホントにね。人語を解し、殺さず身包みを剥ぐオーガなんて笑い話にも成りはしないわね」


 そんな言葉と共に、俺を無数の蛇が襲う。


「なっ!?」


 それは余りにも突然だった。

 眠く、疲れていたこともある。

 先の勝利で油断していたこともある。


 だが周囲に人の気配はなく、言葉だけが届き、俺は地面から突如として襲ってきた蛇に巻きつかれていった。


 否……それは蛇に有らず。

 それは鎖。

 ジャラジャラと、蛇の威嚇音のように音をたて、俺の腕を、脚を、首を、胴を、身体の全てへ絡み付こうと襲い掛かる。   


「がっふっ!?」


 俺の両手両足に絡みつくと、そのまま勢いよく俺を地面へと叩きつける。

 その間にも、鎖は更に数を増し、拘束しようと倒れた身体へ殺到する。


 


「無駄よ、この《縛鎖》は封印捕縛に特化した魔法術式。相手の動きを封じ、地面へ縫い付ける拘束術」


 草が揺れる音と共に、俺の耳に澄んだ音が聞こえてくる。

 まるで鈴のような綺麗な(おと)


 

 すでに俺の直ぐ側まできているだろう、その声の主を見ようと首を動かすも、身体は地面に縫い付けられ動かすことが出来ない。


「くぉ!?……なんのマネだ」

「……驚いた。これだけの《縛鎖》を受けて意識が有るなんて……まさか、レジストしてる?」


 まるで俺を観察するかのように、淡々とその声は響く。

 身体が動かせない。

 何より力が思うように出せない。



「なんだってんだよ、ちくしょう。さっきのおっさん達といい、俺をどうするってんだ」


「術式は正常に発動しているわね。コレで意識を奪えないってことはそもそもの耐性の問題かしら?」



 だめだ、こいつ聞いちゃいねぇ。

 一瞬俺の言葉が伝わってないのかと本気で不安になったが、先ほど、人語を解すって言っていたから、言葉は通じるはずだ。

 さっきのおっさん達はいきなり攻撃しかけてきたけど、この女性(?)は俺の動きを封じて観察しているだけだ。


 落ち着け落ち着け俺。こんな時こそ慌てるな。

 慌てず、騒がず、落ち着いて行動だ。

 きっと話せば相互に理解が出来るはず。


 俺は十秒ほど自分にしっかりと言い聞かせ、深く深呼吸をする。


「えと、先ほどからオーガだと何だと散々に言われていますが、俺は人間で、えと、怪しいかもしれませんが、別に害意をもってるわけじゃないんですけど、できればこの鎖を解いてもらえませんか?」


「ホント、頑丈よね。普通コレだけ意識を奪う魔法受けたら……発狂するか廃人になるかなんだけど」


 前言撤回、だめだコイツ絶対に話が通じねぇ!!!


「てめぇ! なんだってんだ! くそ! はなせぇぇぇぇ!!!」


 俺が必死にガチャガチャと鎖を鳴らすも、壊れる気配も解ける気配も無い。

 というか、本当に地面に縫い付けられて身動きも出来ない。



「……ホント、頑丈。もう何本か追加しようかしら?」


 そんな不穏極まる言葉が聞こえ、ヤバイを通りこし、最早絶体絶命とはっきり意識し、背筋に冷たいものが走る。 


「ちょっと、そこの姫さん。まさか壊す気じゃないでしょうね?」

「……そんな事はしないわよ? これだけの《縛鎖》を受けて意識を保っている生き物も珍しいから」


 新手か?

 声からして男性か。

 しかし、率先して攻撃をしかけるでもなく、俺のピンチを助けてくれそうな気配がする。

 

「……から? ボクたちの任務は“星”の回収及び、その保護ですよ? 先ほどの魔法士たちもですけど、率先して戦闘吹っかけてどうするんですか」

「あら? 私は稀少(レア)素材(オーガ)を見つけて手をだしただけよ?」

「……解ってやってるでしょ? どう考えても、言葉を交わすオーガなんて存在しえませんよ。彼が新しく送られてきた“星”でしょう。それでなくとも、出遅れてるのに、これ以上は余所の介入を許すことになりますよ」


 俺は聞き耳をたて、様子を伺う。

 現状を打破するためにも、今俺が置かれている状況を掴まなければ。

 幸いにして、俺を保護する方向に話が進んでいる。


 ……異世界に送り込まれた初日におっさんに襲われ、女性に鎖で拘束され、見知らぬ男に保護されそうになる。


「なんだ俺を取り巻くこの状況。一連を振り返ってみたら今日は濃度の濃い散々な日だ……」

「……そこの兄さん、正直言ってボクも同情するよ。……まぁ、いえることは唯一つだね、『諦めず強く生きてください』……ほんとに」


「おおおおおお、初めて会話が成立したぁ!!!」


 こんな状況だが、思わず涙が出そうになる。

 やばい、この世界に来て短いが、俺は想像以上に追い込まれているかもしれない。


 俺はミノムシのようぐるぐる巻きになっている鎖をガチャガチャならしながら、声の主へ顔を向けようと動いてみる。

 

 しばらくガチャガチャやってみたけど、無理のようだ。


「……あの、どなたか知りませんが、この鎖……解いてもらえませんか?」

「……との事ですので、姫さん、解除してあげてください」


 男性、きっと良い人だ!

 

「え、なんで?」

「え?」

「……えと、姫さん?」



 なんだろう、俺の勘が告げている。

 ――コイツ……ヤバイ――


「拘束解除したら、戻って分解(ばらす)のに手間でしょ?」


 ――ヤバイヤバイ、コイツゼッタイヤバイ――


「え〜と、姫さん。ボクたちの任務は彼の回収保護ですよ? それがどうして解剖とか(そういった)方向にむくんですか?」

「大丈夫。黙ってればバレないから」


 綺麗な声で、言ってることえげつないっ!!!

 

「ちょっと! まってまてまて人殺しっ!?」

「大丈夫、痛いのは一瞬だから……多分」

「多分っ!? そしてソレ死んでるよね? 俺死んでるよね、それだと!?」


 最悪だ!!!!!

 会話が成立したと思えば、今度はその内容に涙しないといけない。


「う〜ん、仕方ない、このまま運ぼう」

「……は?」


 その言葉と共に、地面が光ったと思うと、俺はその光量に目を閉じる。


「……さて、ついたよ」

「……へ?」



 そして光が止み、目を開けるとそこは明るい一室だった。

 床には大きな魔法陣だろうか、理解の及ばぬ幾何学模様が描かれ、壁にはランタンだろうか、それを照らし出すだけの十分な光が用意されてる。


「ここは……?」


 俺はさっきまで草原にいたはず。

 これが魔法だとすると、転移……あるいは転送とかいうモノだろうか?


「いろいろ聞きたいこと、言いたい事があるだろうけど、とりあえず。『ようこそ、異世界の彷徨える魂よ。この国、【ビジュエタンセラント】は貴方を歓迎します』」


 どうやら、紆余曲折あったが、異世界初日を乗り切ったようだ。

 そんな事を考えながら、俺の疲れと睡魔にまけ、俺は意識を失うのだった。


 



 

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