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第10話

ボーテル視点です。


「お、今日は新しい“星”の適正試験か」

「だな、とりあえずどうなるか見に行くとして……ボーテルさん、今回のはどんな感じですか?」

「ん〜、そうだね。なかなかに面白い素質だと思うよ」


 同僚にそう聞かれながら、ボクは今回の星……あの不運にもオーガに転生してしまった彼についてそう評価した。


 ボクの所属する異界移民管理部では普段から彼のような“星”……つまりは転生者を相手に仕事を行っている。

 と、言っても、ボクも十年ほど前には今の彼と同じような“名も無き星”だったわけだけど。


 ちなみに、さっきから出ている星というモノだけど、これは転生者を表す世界共通の符丁だ。

 本来であればもう少し長い呼び方なんだけど、略して(ホシ)と呼ばれている。

 

 まぁ、そんなことはさて置き、今は彼のことだ。

 俺の周りにいる同僚達も、久方ぶりの星の品評に若干浮かれている。


 ここ数ヶ月の間、ボクたち探索班の努力の甲斐もなく、新しい星を見つけることが出来なかった。

 そもそも見つけることは困難ではある。だが、探索の結果『星が落ちた』痕跡だけは見つかり肝心の星がどこにも居ない……いうなれば空振りが続いていたのだ。

 

 

 この世界に落とされてくる星たちはある一定の出現パターンを有している。

 世界全体で見れば恐らくは日に二・三人は落ちているはずなのだが、その出現場所が有る程度固定されているのだ。


 それが中立地帯……通称『はじまりの草原』とよばれる地点だ。

 このはじまりの草原……以下草原と言うが、この地帯は世界で数箇所存在が確認されている。

 

 この世界に落ちてくる星は、判明している限りその全てがその草原内に出現し、あてもなく彷徨っているか、途方にくれて立ちすくんでいるかのどちらかなのだ。


 では出現場所が判っているにも関わらず、見つけることが困難な理由は何か。

 幾つか理由として挙げられるのだが、最大の理由はこの草原がありえないほどに広いということだろうか。

 なんらかの力が働いているのであろうか、その草原は数百年もの間、人からも、魔物からも、木々からも、ありとあらゆるモノからの侵食を跳ね除け、されど広がることもなくそこに有り続ける。

 その広さ……小国であればまるまる一つ入るであろうとも言われている。


 つまり、ボクたちのような探索者はその広大な草原から一人の人間を探し出し、そしてソレを保護しないと行けないのだ。

 

 はっきりいって難易度はかなり高い。

 よほど高性能な目をもっていないと見つけ出すこともできないだろう。


 さらに、発見を困難にしている要因がある。

 それは星の出現はきまって夜だという事だ。

 

 さぁ、それでなくとも広い草原でさらに暗闇に包まれた夜だというその状況。

 見つけ出すことが困難、という事が理解できたのではないだろうか。


 さらにさらに、追い討ちをかける様に難度をあげるもう一つの要因がある。

 それは“中立地帯”であるという事だ。

 

 つまり、開発不可・長期滞在不可・軍事浸入不可という事だ。

 浸入を許されるのは各国の探索者と呼ばれる専門家のみ。


 この条件が発見を寄り一層困難にしているよういんじゃないだろうか。




 ……おっと話がまた脱線した。


 今は彼の話、そんな苦労を経て久々に保護をする事に成功した大事な星の話だ。

 回りも、現在教育係となっているボクへの好奇の目を、聞き耳を立てている状態だ。

 

 ……聞き耳を立てている中には、彼を人目みて悲鳴をあげ腰を抜かしていた人もいる。というのはおいておこう。


「三日しか時間が無かったから初歩の初歩……自身の“固有魔法の自覚”と、“能力の方向性の自覚”だけしかしてないですよ?」

「―――まあそんな所だろう? でもどう見たってオーガな訳じゃないか」

「そうそう、三年ほど前の“焔魚”の件もそうだけど、言うなれば魔王候補じゃないか」


 ――魔王候補。

 ま、周囲が騒ぐのも無理は無い。

 彼にも説明した魔王。

 実はそのうちの一人はこの国の……しかも此処で発見した星なのだ。

 その為、此処で働く職員のその殆どが落ちたての魔王候補という存在を知っている。



「しかし、彼女もえらく特殊な個性の持ち主だったけど……ボーテル、そこの所どうなんだ?」


 そういうと、同僚達はボクへ『彼の固有能力は何か』を暗に尋ねてくる。

 今話に出た“焔魚”の魔王と比べてどうなのか? と


「そうですね。今のところ把握できている固有魔法が二つ。最低でもあと一つは有るようですけどまだ未発現です」

「……さすがに三日ではそんなもんか。んで、どんな魔法なんだ?」

「ふふ、それは彼の模擬戦を見てのお楽しみですよ。それに……ほら、もう身体測定が始まりますよ」


 そうボクが言うと、皆、会場となっている訓練場へ目を向ける。


 ――そこへ現れた彼へと集中する視線。


「……っておい。服はどうした? まだあの仮の服なのか」

「……動き回ってポロっていったらどうするよ!?」

「はははは、すみません。流石に三日では彼が着れるような服を用意出来なくて」


 そう。現れた彼は……この数日間着ている普段着……カーテンをポンチョの様にした、あのテルテル坊主スタイルなのだから。





「あ、一応下着(トランクス)だけは流石に用意してるんで。万が一は大丈夫ですよ」









 さてさて、そんな彼を肴にした観戦ムードだが、身体測定が進むにつれその評価内容は大きく二分するようになってきた。


「おいおい、なんだってんだ、あのバカ力は……」

「いや、それよりもあのスタミナだろ。あれだけ動いて息一つ乱してないぞ」


 とか言いながら、彼の驚異的なまでの肉体能力の高さに目を向ける者。

 あるいは……。


「おいおい、なんだってんだ、あんなヘボイ魔力は……」

「それに見ろ、総量の絶対値も少ないぞ。広域魔法は勿論、中位以上の魔力行使は不可だろうな」


 とか良いながら、彼の絶望的なまでの魔法行使能力の低さに嘲笑する者。


 主に別けるとしたらこの二つだろうか。



 

 かつて彼にも説明はしたのだが、転生者の能力は()()()に等しい。

 つまり、彼がアレだけの肉体能力を有していることと反比例するように、魔法能力関連が著しく低くなっているのだ。

 

 ボクも来た時には愕いたのだけど、この世界……なまじ魔法が普及している反面、魔法能力が低いと評価が低く付けられる傾向にある。


 理由としては簡単。

 元の世界とは違い、科学技術が発展しての機械ではなく、魔法技術が発展しての魔道具なのだ。

 機械は電気やガス、ガソリンなどの燃料で動く。

 だが、魔道具は魔力を燃料として動くのだ。


 この世界にも魔力が乏しい……あるいは皆無の人間も居る。

 そんな人は魔法を満足に扱えず、また魔道具すら使えないケースすら有りうる。

 つまり、そんな人達同様、彼もまたある意味蔑まれ、下に見られる可能性すら有りうるのだ。

 ここに居る職員全員がそんなくだらない差別意識をもっているわけではないが、幾人かは魔力が低い=無能という認識を持っている。

 それゆえ、彼をには既に蔑視の視線を向ける者も若干存在していることが否めない。






 ……まぁ、それも彼の固有魔法を見るまでかな?

 ボクは久方ぶりにみた()()()の魔法を思い出しながら。思わず笑みを浮かべる。

 と、そんなボクへ背後から思わぬ声が掛かる。


「……ほう? ボーテル。余裕があるようだが……なにか面白いものでもあるのかな?」

「――っと、これは室長。こちらに来られるとは。下で見ていても宜しかったのでは?」


 その声の主……初老に差し掛かった男性。

 この異界移民管理部の長……室長レーゲンワルツ。

 本来であれば、下の試験場にて特等席が用意されてるのだが、どうやらそれを辞してこの二階の観戦席までやってきたようだ。



「下だと周りの連中が煩いのでね。それに彼の本質が理解できていない者が多すぎるからね」

「……と、言いますと?」

「なに。キミも気がついているだろう? 類稀なる筋力、息一つ切れぬスタミナ、圧倒的に乏しい魔力、そして決して高くは無い敏捷性」

「……そうですね、あれだけ致命的に魔力が少ないのは珍しいですからね」

「そうだ。アレだけの劣った能力がありながら、何故優れているのが筋力と体力()()なのだ? と、そういう事だ」



 室長のその言葉にボクは目を細める。

 この事に気がついているのはあの時彼を見つけた僕達と、そしてその情報を開示した室長だけだろう。


「身体の素質の総合力はどの星も等価。確かにあの肉体能力には目を見張るものがあるが、今の彼の能力では等価には届かない」


 室長のそんな言葉を耳にしながら、視界の先では彼が模擬戦の用意を始めている。


「故に、彼にはこの身体検査では判定できないほかの能力要因が考えられる。そして、その能力の片鱗は資料にあった戦闘報告からも垣間見ることが出来る」


 視界の先、模擬戦闘用の自動人形(オートマタ)が起動しだす。

 その数十体。

 

 通常の戦力であれば……そう、たとえばボクのような探索に特化したような者であればものの数分も経たず負けてしまうだろう。

 というか、ボクの時は物量に押し切られ負けてしまった。

 

 内臓型の魔力電池(バッテリー)を装備していて初級から中級までの魔法なら行使できるというトンデモ仕様なのだ。

 

 ……当然の事ながら、アレを作ったのも星……つまり転生者なのだが。

 その為だろう。あの自動人形、全員メイド服を着用した女性型なのだ。

 

 完全に趣味全開の仕様である。

 しかも、なまじ可愛い作りをしているだけあってタチが悪い。

 

「……くそぅ。相変わらず可愛いな」


 正直な所、ボクもキライじゃない。

 恐らく作成者……まぁ、すでに故人だが……ボクと同郷なんじゃないだろうか。

 なんとなくだが、対面している彼も同じことを考えている気がする。

 ……前々から思うけど、彼も同郷じゃないだろうか?


 ちなみに、アレを全滅させたのは覚えているだけでも数人しかいない。

  

「先ず間違いなく、彼は……戦闘に特化した素質を有している。君もそう思うだろ?」

「え? ええ、そうですね。 それに面白いモノを見ることが出来ると思いますよ?」


 そう言うと、視線の先――模擬線の開始が宣言され……。

 そして彼がソレを……あることにのみ特化した固有魔法を発動する。


「行くぞ! 《tacticalタクティカル formationフォーメーション》」


 その発動と共に、彼を蒼く輝く鎧が包むのだった。

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