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第1話

 どこまでもどこまでも続く一本道。

 俺は黙って黙々と歩き続けていく。

 体感でだが、かれこれ一時間以上は歩いているだろう。

 後ろを振り返った所で視界に入るのは全く同じどこまでも続く一本道。

 俺はため息をつきつつ、再度歩きだす。



「しかし……どこだ? 此処は??」


 思わずぼやきが漏れる。 


 ほんの一時間ほど前、気がつくと俺は見知らぬ場所に立っていた。

 白い壁に白い天井。足元の白いタイルの隙間がはっきりくっきりと浮き彫りになるほどのコントラスト。

 いや、自分の記憶にこんな場所は無い。


 というか、俺に記憶が無い。

 此処に来る前は何をしていたのか?

 此処には何をしに来たのか?

 そして俺の名前は何なのか?


 その一切が解らない。

 だが、心にはなぜか前に進まなければと、その思いだけしっかりと残っている。

 

 解らないことだらけだ。

 思い出せない事だらけだ。


 いや、思いだせる事の方が少ない。

 くだらない知識、ゲームの内容、漫画の内容、美味しかった料理、趣味の家庭菜園。

 思い出せる事が少ない以上、そんな事ばかり考えながら歩き続ける。


 ひたすらに、ひたすらに、ひたすらに、ひたすらに……。


 



 どれだけたっただろうか。

 もう歩いているという感覚も無い。

 今、俺は歩いているのか、立ち止まっているのか。

 手を動かしているのか、脚を上げているのか。


 ……前を見ているのか、それとも後ろを見ているのか。

 もう顔を動かす事もできない。

 手足を動かしている感覚は全く無いが、ただ、前に進まないといけないという思いだけは決して消えず、タイルの流れていく様子から、きっと俺は前に進んでいるんだろう。


 


 何も解らない、解らない。

 だが前に進まないといけない、進まないと俺は()()()()()()()ことが出来ない。


 ―――あれ? 終わりを始めるってなんだ?

 

 忘れているはずの何かを思い出しかけたとき、入ってくる景色は一変する。

 目の前の通路は終わりを向かえ、目の前には大きな机とそこに座っている人物、そしてその周りに乱立する多くの扉が目に入った。


「お勤めご苦労さま、まぁコレで多少の咎は祓い落とせたかな? では、改めて、ようこそ■■■■さん、此処が分岐点、仕分けの場、数多の可能性の場、そして貴方の贖罪の場です」


 いっていることは耳に入るが、一部意味が解らない。

 俺の事を何て呼んだんだ? 何か名前らしきものを呼ばれたが、なんていったか解らない。 


 それに目の前の人物……あれは一体なんだろう?

 男なんだろうか?

 女なんだろうか?

 大人なんだろうか?

 子供なんだろうか?

 老人なんだろうか?

 

 見えているはずなのに解らない。


 ―――お前は……誰だ?? 此処はどこだ??


「あれ? ああ、思ったより記憶の劣化が激しいのかなぁ? まぁ、此処まで来れたんだ問題は無いだろうし。一応再度の説明ですが、■■■■さん貴方はお亡くなりになりました。享年■■歳、死因は■■■ですよ」


 ―――俺は……死んだ……死んだ?

 

 まただ、名前もそうだが、年齢も死んだ理由も言われているのに理解が出来ない。


「ん〜? ひょっとしなくても認識阻害を起しているかな?? まぁ、事前に承諾は受けてるし、このくらいの劣化ですんだんだったら問題ないのかな?」


 ―――劣化? それに事前の承諾? 俺は前にお前と話したことが有るのか?


「お、意外と会話が成立する? ……ひょっとしたらアタリかな?? えと、再度説明しますね。私は此処を管理する担当の者です。貴方は死後の裁判に掛けられました。その際、幾つかの条件に該当した為、この()()へと送られたのですよ。今のところ会話についていってますか?」


 ―――刑場……? ここは地獄なのか?

 目の前の存在の話を聞いて、何故だろう、此処が地獄で、俺が死んでいるという事が自分の中であっさりと受け入れられた。


「此処まで来た魂の中でも比較的理解が早いですねぇ。あれかな? やっぱり、現世でオタク知識やゲーム知識などでこういった現象に耐性が出来ているからなんですかねぇ? まぁ、仰るとおり、此処は言うなれば地獄……冥府の一部所にあたります」


 やはり、地獄……という事は俺はなんらかの罪を犯した……という事だろう。

 ―――俺は何をヤッたんだ? 


「ああ、罪状ですか? ■■■■■■に、■■■■■■■ですよ? ……まぁ、これは多分認識できていないかなぁ? まぁ安心してください、軽犯罪ですし、快楽で他者の命を奪った、などという事は有りませんから」


 やはり何を言っているのか解らない箇所がある。

 だけど、酷く悪辣なことをしたんじゃないと安心する。

 

「ふむふむ、私との会話で少しずつですけど、魂が回復してきましたかね。では、引き続き説明を行います。この刑場では必要な場所に貴方を派遣し、働いてもらう……いうなれば労働により罪科を償うというモノです」


 ―――労働……働くのか、一体俺は何をすれば良いんだ?

 一体何をさせられるのか?

 疑問に思う俺に対し、目の前の存在は何故だろう、目鼻も把握できないはずなのに、顔をニヤリとさせたように感じると、


「ええ、貴方には魔法あり、モンスターアリの異世界に行って生活してもらいます。……よかったですね〜、今大人気の異世界転生モノですよ〜、きっと」


 ―――い、いせかい?

 何故だろう。明らかに不安に思うはずのその一言に、胸をときめかせている俺がいる。そんな気がする。


「まぁ、■■■■さんは事前説明の際も食いつきが良かったですからねぇ、『意地でも此処にたどり着いてみせるっ!』て意気込んでましたから」


 ……きっと、その言葉に間違いは無いのだろう。

 俺が前に進まないとと、心に強く思っていたのもソレが原因か。

 ……そういえば、思いだせる知識、それはゲームやらマンガ、小説などサブカルチャー的なものが多く含まれていたような気がする。


 きっと、俺は生前オタクだったんだろう。


「さて話を進めますね。この刑罰としての異世界転生ですが、罪状が重くない者、異世界へや未知への探究心に溢れるもの、そして、()()()に溢れるものを対象に実施しています」


 ―――決断力??

 前二つは何となく解るが、何故最後に決断力?


「そうですね、おそらく現世では“選ばれた勇者”とか“魂の資質”だとかそういう【特別なもの】が条件となっているようですが、此処では違います。この選考基準ですが、向こうでやっていただきたい内容に必要な条件で選んでいます」


 ―――必要な条件? それにやってもらいたいことって。

 ああ、そうだった。

 心ときめいたけど、これはあくまで刑罰。

 何かをさせる為に必要な……労働条件なんだろう。


「いえいえ、実に簡単なことです。向こうの世界で“自由気ままに生きる”これが労働内容です」

 ―――は?


 意味が解らない。

 ……いや、本当は解っているはずだ。

 俺が忘れているだけで、この話も既に一度聞いているのだろう。

 だからこそ、俺は此処へ必死になってたどり着いたのではないのか??


「勿論、向こうの世界にも法はありますよ? それを破って捕まれば、向こうの法で裁かれる。これは当然のこと」

 ―――じゃあ?


「要するに、それ以外は自由……まぁ、強いて言えば、技術や概念の拡散に務めていただければ。という事ですね」

 ―――技術? 概念?


「ジャンル的に知識チートとか、物造りチートとかですかね。ああいった事を自重無しでやっていただける、いや、やる必要が有れば遠慮も手加減も無くやる。そんな人材を探しているんです」

 ―――そ、それは……“アリ”なんで?

 

「勿論“アリ”です。というか、向こうの管理神の要請を受け、こちらから転移者を選出しているので問題は一切ありませんよ」

 ―――つまり、向こうの世界でエジソンとか、ライト兄弟とか、ダヴィンチとか、野口秀雄とかになればいいんですね?

 

「YES! その通りです、魂が磨耗したこの状態で理解が速くて助かります。……いやぁ、今日のは仕事が捌けてたすかりますよぉ〜、ほんと」

 なんだろうか、サムズアップしながら喜んでいるように感じられる。

 ……というか、やっぱりお仕事……お役所仕事なのか。


「まぁそんなこんなで、向こうに送る以上、体を再構成する必要があります」

 ―――あれ? 転生じゃないんですか?

 先の話からして、赤ん坊からの転生かと思っていたんだけど。


「いやいや、赤ん坊からやり直すなんて非効率です。ここで新しく素体を作ってソレを個人の嗜好にあわせ再調整するのがベターですから」

 なるほど。それは効率が良さそうだ。

 赤ん坊からだと、無駄に数年費やすことになりかねないからな。


「んでは、♂型素体を差し上げます。自身が望む理想の姿……でも良いですし、効率よく生きていけるような形でも構いません。貴方の第二の人生を彩る……そんな姿を想像し、創造してください」


 ……これは難しい。

 記憶がほぼ無く、生前の自分という像を思い浮かべられない。

 そんな中で、理想の自分を作成する。

 

 ……これは本当に難しい。

 せめて、生前のコンプレックスを覚えているのならそれを解消した姿を思い浮かべるのだが……。

 と、いろいろ考えていると、ふと自分の知識の中、何かのゲームの情報だろう、キャラクタークリエイトの知識が思い浮かぶ。

 

 3Dグラフィックで描かれる男キャラ。

 この記憶というべきだろうか、それとも知識と言うべきだろうか、その姿を幻視し……不意に手足の感覚が蘇る。


「んお? 速いですねぇ……しかし……これはまた、なんと言うべきでしょうか……デカイですねぇ」

「……え?」


 その言葉に、思わず自分の手を、脚を、胴体に目を向ける。


「……お、おおおお!?」

 それだけの、他の対比物との比較でなくとも解る。

 残っている知識・経験・記憶を総動員し、分析する。


 身長推定……二メートルオーバー。

 体重は確実に百キロは超えているだろう。

 

 日に焼けたような小麦色の肌。

 分厚い二の腕・太腿。

 骨格からして違うのだろう。かなり広い肩幅に胸板。

 その胸板も、記憶には無いが、知識にはあるような鎧のような肉の塊……。

 多分、髪の毛の色は黒だろう、うん、そうだろう。

 

 どこぞの最強の漢とか、戦闘民族とかそういった者たちを連想する鍛えられた筋肉の集合体。

 そこに有ったのは、俺が昔プレイしたいたであろうゲームの自キャラそっくりの筋骨隆々の大男の姿だった。

  

 

「いやぁ〜、デカイですねぇ〜、ほんとに。では次は身体能力・素質の設定です」

「身体能力に素質??」


 俺は新しく生まれ変わった、と言うべき肉体を動かしながら、その言葉に首をかしげる。


「ええ、向こうでは魔法もあればモンスターも居る。現世でぬくぬくと育ったこの世界の人間には少し荷が重いんですよ」

「なるほど……解った。では、どういう感じで設定するんだ?」


 モンスターとの戦闘が前提としてある世界か。

 知識や技術を伝えるとはいえ、そこら辺は必須なんだろう。

 

「そうですね、身体能力の方向性を指定してください。それにあわせてステータス調整を施します。あと、素質ですが、どんな能力が欲しい〜と言うのを数個提示してください、そこから()()()()()()()()()()()に調整しますので」

「む? そうか……何にするか……」

 

 悩むな……。

 正直魔法というのも興味がある。

 だが、それはソレとして、今まで使ったことも無い技能で戦いがあるだろう世界を生き抜ける事ができるのか?

 向こうの世界の価値観もわからない以上、いくら自重しなくていいとはいえ、下手な調整は不味いだろう。


「そうだな、身体能力は“体力とか肉体面重視”で、素質だが、“体力とか怪我とか回復を早められるの”とか用意できるか? それに魔法があるって事なんで“傷を癒すの”とか“自分や人を補助出来るもの”とかがあれば良いんだが……何とかなりそうなら攻撃魔法とかも欲しいけど」

「むむむむむ? なかなか面白そうなことを言いますねぇ。効く限り、方針としては『いのちをだいじに』というヤツですか?」

「……えらくピンポイントな方針だな。ニュアンスは近いが、向こうで命の危険があるんだろ? だったら死ににくくいタフな体ってのが欲しいと思って。それに、向こうでの価値観が解らないから、変な魔法より、回復魔法とか支援魔法とかのが需要がありそうな気がしてな」


 考えた中、これが俺の方策。

 判断基準こそ少ない……いや、少なすぎるんだが、モンスターが居るという時点で戦闘は必須。

 だが、俺は別に凄腕の傭兵でも、剣士でも格闘かでもない……たぶん、そんな事ない。

 だったら、命を優先して考えたほうが得策だろう。


「ふむふむふむ、まぁ、道理ではありますねぇ。命あってのモノだねですから……まぁ、既に死んでいるんですけどね」


 ムフフ、と笑い声が聞こえてきそうだが、こちらからすればあまり笑えない冗談だ。

 ……まぁ、一度死んでいる以上、安全に行きたいじゃないか。


「でも、そんな亀みたいに守ってばかりでは逆に生き残れないんじゃないですか? せめて何か一つ戦う手段が……ああ、回復魔法の素養はかなり()()んで、支援ならまだしも、攻撃魔法の素質は難しいですよ」

「そうなのか? ……あれもコレも……というわけじゃないんだが、難しいな」

「そりゃそうですよ、あまりふざけた事はできませんから。力も強くて、頑丈、魔力も高く、攻防優れた魔法が使える。そんなチートの存在、世界のバランスを崩しますから」

「……崩すからチートなんじゃないのか?」


 見解の相違か?

 まぁ、別にチートして無双がしたいわけではないし。

 出来る範囲で出来ることをしてうまく立ち回ることこそ王道だろう。


「まぁ、そういうわけで、魔法の素質以外で何かありましたら。軽いものなら何とかなりますよ?」

「……そうか、じゃあ、“武術の素質”か何か大丈夫か? 魔法以外だったらそういうのがあれば便利だろうし」

「なるほど……なるほど、なるほど。その組み合わせであるのなら()()()ですね。ではその希望を基に作成します。最後に何かありますか?」


 と、言われても、俺には聞くべき記憶が残っていない。

 ……あ。一つ思いついた。


「向こうで生きるって……何をすれば刑期終了ってあるのか?」


 一応、俺は罪人らしいし、刑罰で向こうの世界に飛ばされる。

 なんか流刑の気もするが、達成条件みたいなのがある可能性も……。


「いやいや、任期とかそういうのは有りませんよ。純粋に向こうでの第二の人生と思って構いません」


 ……やっぱり流刑スタイルだったか。


「ではではでは、頑張ってくださいね。……あ、肉体に依存する欲求は向こうに到着後解除されますので」

「……へ?」


 何か、爆弾発現が聞こえた気がしたが、既に周りの景色は歪み……全てが白く飲み込まれていく中、俺は意識を手放した。








 ◇◆◇


「ふふふ〜ん。要望どおり要望どおり、()()()スペックを作りましょう〜」


 一人、鼻歌を歌いながら、その人物……この異世界移民プロジェクトの責任者たる存在は先ほどの()()の身体スペックを調整していた。

 手元の資料……近代的なデザインのタッチパネルを操作する、その視線の先には調整中の能力が記されていた。


 ●筋力(STR)体力(VIT)抵抗値(RAS)極振り

 ●自動体力回復

 ●回復魔法補正

 ●支援魔法補正

 ●武技再現補助


「んふふふふふ、出来た出来た」

 

 そういいながら、この能力値を先ほどの素体へと出力していく。

 こうして、新たなる世界……魔法とモンスターが溢れる世界に新しい星が産み落とされた。

 

  

 



 

 

 

 

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