人外と将軍
彼の両親は、人狼の母と人間の父親でした。
そんな彼に人生の転機が訪れたのは、ある王国の魔物討伐に傭兵として参加したときでした。
これは一人の半人外といわれる男と人外のお別れのお話です。
執務室に現れた女性にクローディア王国将軍は目を向けた。
既に学園にいた人外の学生から学生の実家
そして、その実家から城に話は回っていた。その内容に執務室の向こう側では文官や騎士達が慌しく動いているのがわかる。
「行かれるのですね」
何も言わない黒衣の女性に将軍は椅子から立ち上がると恭しく礼をする。
女性は300年国に仕えた功労者にして軍人である傭兵だった将軍を騎士として誘ってくれた恩人だった。
「えぇ」
凛とした声には怒りも憎悪も感じられない。代わりに感じたのは諦めたような残念そうな感情だった。
「私を愛してくれる人は、この国には居ないみたい」
「そのようなこと」
「利用し利用されるのに私は疲れてしまったわ。丁度いいから、コレを期に休もうと思うの」
それが意味するのは、国を辞しても他国の為に力を振るわないということ。それは復讐として戦争を起こされない確約と同時に彼女が魔物狩りから引退することを意味する。
守護者として名を轟かせた『吸血鬼』が完全に表舞台から消えるのだ。彼女がいたからこそ、王国と友好を結んだ国もあった。
「暫く荒れますな」
「迷惑をかけるわ」
「『人外と人とは隣人であり友である』
国の言葉を忘れただけでなく、恩を返せないのは残念です」
「気にしなくていいわ」
「後のことはお任せください」
婚約破棄をした王子は学園から連れてきている最中だ。
その間に王は適切な処分を下すだろう。
「あの子は、処刑かしら?」
「…恐らくは」
『人外』との友好関係の見本であらなければならない王子が人外嫌いなのは王妃の影響が大きい。まぁその王妃の人外嫌いは「己が恋をした人外に振られた」という短絡的なものだ。
なにを教え込んだのかは知らないが、大方「人外とは王族の奴隷」とでも教えたのだろう。
実際に本来は人間と人外で構成される王子つきの騎士は全て人間に変えられていた。
「そう」
「悔やんでおられますか?」
「少し…将軍」
「はい」
「君がよければ、私とくる?この国は近いうちになくなる」
「ですな」
国から少し離れたところに魔物の巣らしきものがあると報告があがったのが今朝だ。今はまだ小さいが、大きくなれば大きな災厄となる。
本来であれば、折を見て守護者である彼女の助力を借りようと思っていたのだ。それも、最早叶わない。
「恐れながら吸血鬼様
私は貴方と共にはいけません。私には妻と子供がいます。2人とも、この国を愛しております」
まるで御伽噺の再現だと将軍は笑う。
「ご安心を
吸血鬼殿に鍛えられた騎士団です。早々に破れたりはしません」
安心させるような言葉に女は目を閉じた。すると、晴れやかな笑顔を見せて頷いた。
「また振られてしまったわ。では、そろそろ失礼するわ。
ウルフリード将軍
気高き半人外の騎士
私の最後の弟子
貴方が最後に笑って死ねることを暗闇の其処から願っているわ」
そういって姿を消してしまう吸血鬼に対してウルフリードは敬礼をしていた。ハーフの彼を拾って育ててくれた恩人にして、国の功労者への敬意だった。
それを遮るように慌しく扉がノックされる。
『将軍!至急お伝えしたい事が!』
「わかった」
深く頷いて彼は扉を開いた。途端に飛び込んできた様々な報告や話に耳を傾けながら将軍は指示を出し始めた。
□□□
数年後、魔物の群れに襲われたクローディア王国
その当時のことを知る難民は皆口をそろえて言う。
「騎士団が逃がしてくれたんだ」
その証拠としてウルフリード率いる騎士団は国の盾として王族と民衆を逃がすために魔物の群れと戦い散っていったそうだ。
今でも当時の戦場となった王国の広間には、人間ではもてないような大剣が刺さっており人々は自分たちの英雄に日々感謝を注いでいる。
将軍様はハーフでしたが、人外の血が濃くなったのか魔物を倒せるくらいの実力がありました。
そんな彼を見つけて鍛えたのが守護者として有名だった吸血鬼さんでした。彼女の元で戦い方を覚えるうちに将軍にまでなった彼は貴族のお嬢さんとゴールインして子供まで居ます。
因みに、王妃様が人外嫌いになったのは将軍様が好きで求婚しようとしたところで当時の第一王子(現国王)との縁談が来てしまったからです。王族の縁組を断れない王妃様の苦悩的な話は、また別の話で書けたら
できれば王子様や綺麗なお嬢さんのお話も書けたら書きたいです。では