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―――俺と主任と異世界と。(偽)  作者: 北島夏生
第1章 ―――俺と主任と異世界と。
9/13

1-7 第三の女

さて、イノシシ狩りから数日、俺たちは再びクラサドルへ向けて出発とあいなった。

捕獲したイノシシは、スタッフが美味しく頂きました。

いや、解体して内臓は洗浄して殆どは煮込み用にし、肉の方は一塊を料理して寄生虫の有無を確認した後、塩を塗った繰って冷暗所に釣っている。

かなりの分量があるから、暫くは肉に困らないだろう。

今回も主任とはづきちゃんは此処に残るそうだ。

そうして研究所を出た俺達4人は、クラサドルの見える崖上までやって来た。

崖の上からは、見渡す限りがハンプシャーフォレストだ。

水平線まで木が絶えないところを見ると、100キロ先まで森と言われても頷くしかないな。

ま、国程もある大魔森林の北の端でさえ、クラサドルからは、馬車で移動しても一月以上かかると言うから数百キロは確実なのか?


研究所を出て来た時には、朝焼けの中に薄靄(うすもや)を纏った木々が朝露を垂らしていたが、今は大分(だいぶ)()が昇り、晴れ渡る空に鳥達の声が聞こえてくる。

東の山脈は雪が冠を作り、山の頂に纏わり付くように鳥のように飛び回る生き物の姿が見える。

山の高さと大きさと、それらを考慮に入れるなら、その生き物はかなりの巨体を誇るものと思われる。

俺が立ち止まって、それらを見ているのに気付いたトシが並んでくる。

「ははっ、ほんとに異世界なんすね、アレ何ですかね?どう見ても鳥じゃないですよ。飛龍ってヤツっすか?」

そんな事を言いながら無邪気に笑みをこぼしている。

それに返すように、

「ほんとに異世界ってヤツだな。マトモな動物の体の強度と重量であんな馬鹿げた大きさの生物があるかよ?」

と。

この前来た時は居なかったが、今日はいいものが見れた、と驚きに感じ入っていると。

「アレでスか?」

そう言ってソノが誰に聞かせるとも無く呟く。

「アレって?」

トシが促すように返し、ソノが考えを纏め終わったかのように話し出す。

「あの飛龍が飛んでるのでスが、魔術を使って飛んでるということは無いでスか?」

そんな事を言い出したソノは更に続ける。

「何かの話の設定とかでよく有るんですが、ああいった非常識を纏った超巨大生物なんかは、地面にマトモに立つとそれだけで四肢が折れ、自分の体重だけで内臓破裂したりする可能性があるそうでス。だもんですから、ああいう生き物は魔術を使用して肉体強化したり、体重を軽くしたりという事が出来無いと、成長の途中で死んでしまうとか。」

そんな薀蓄(うんちく)を語ってくれる。

「ま、あんな巨体が空に浮くとか有り得ないし、魔術が使えないと成長、というか進化の過程で滅ぶか。」

ほんと異世界ってヤツは・・・。

そんな事を考えながら、俺は暫くの間、山頂付近で戯れるように飛び回る飛龍らしき生物を眺めた。


崖上に流れる川が、滝を作り崖下に落ちていく。

その水は下に落ちる前に()()りになり、雨が降るように下の泉に降り注ぐ。

泉から流れ出た水は、緩やかなカーブを描きながら北に向かって下ってゆく。

クラサドルの元になった遺跡は、この水を当てにして作られていたのだろうか。

崖の上から見ると、クラサドルという町は、背の低い市壁に囲まれた円形の町に、2階乃至、3階建ての建物が立ち並ぶ、西洋風の町、いや地方都市といった趣だ。

今日も町の各門から吐き出された冒険者達は、素材を求め、或いは商人の護衛として街道を東西に進んでいる事だろう。

ドミトリに聞いた事を思い返すに、この世界での移動、物流は今一確実性が無い。

どんな移動手段を取るにしても、平均的な移動時間について、ある移動方法による移動時間を足していってサンプルの数で割る、というような数学的平均の求め方に確実性が無いのだ。

ある地点AからBに到る場合、サンプルの数が一番多い日数が5日なら、平均で5日と考えるのがこの世界だ。

他の少ないサンプルが4日だろうと、9日だろうと考慮しない。

これは、『何か有った時』の延着具合がテンでバラバラになるために、普通に平均(・・)という意味で使うと余分な輸送費を支払う事になる商人が嫌っての事だ。

契約の内容にもよるのだろうが、商人の言う平均で5日行程の護衛契約の場合、当然5日で契約が行われる事であるが、数学的に普通の平均といった場合にはこれが7日とか8日とかが平均になる。

行く場所によっては、更に平均の日数が増えるだろう。

にも拘らず5日で到着するようなことになれば、それ以後の護衛代は全て損益となる訳だ。

となれば、商人の方は、超過日数の分については切るような契約を結びたいが、冒険者ギルドがそういった契約を通さない。

勿論、商人の方で自由に冒険者を集めるのは構わないが、ギルドの顔を潰す様なモノであるから、色々(・・)と報復がある。

よくもまあ其処まで思いつくものだと言うような多種多様の嫌がらせ。

商人だけでなく、冒険者にも累は及ぶ。

冒険者として生きるなら、ギルドを利用せざるを得ないのだし、それに従わないならそれで構わないということだな。

結局の所、ギルドからあぶれた奴らは、大体が貧民窟の住人(才覚次第で上に立つか下に付くかの差はあるが。)や傭兵(戦争が無ければこっそりと盗賊の類にジョブチェンジだ。)としてやっていく事になる。

特に傭兵等は山賊、海賊、野盗に成りすまして略奪をしかねないから、移動時には入る方の領地での入領税が酷い高額になる事もしばしばとか。

この辺り、冒険者ならギルドカードが有るし、魔術師や商人もそれに準じた身分証を持つ。

何処かの領民なら身分を証明する1枚キリの紙切れに油を染み込ませて保管してる。

真っ当なヤツ以外は全員高額の移動税を支払う事になる訳だ。

まぁそんな傭兵を雇って移動する商人もその税を負担する事になるし、下手をすれば荷物に手を付けられる(おそれ)もある。

新人商人への戒めとして、護衛代をケチって傭兵を雇って長距離を移動する奴隷商人が、目的地に着いたときには奴隷の数が2倍に増えた(奴隷全員コブ付きになった。)、というようなホラ話があるくらいだ。

中には、農民上がりの正規兵が逃げ出すほどに規律を厳守させる、名の売れた傭兵団もあるが、これらはホンの一握りだと言う話。


なんて事を思い出しながら階段を下りていく。

何度か通っているが不思議な物だコレは。

まさに異世界感爆発の物体だと思う。

崖上と下を繋ぐ階段だ、言葉の上では。

しかし、実物は不可思議極まりない物体である。

何しろ材質が怪しい。

見たところチタン系の合金を圧延して作った板にしか見えない。

この世界の技術では、チタンやそれに類する合金は精錬することが出来ない。

そんな板が、膨大な段数を作り上げているのだ、精密な建築機械で岩に撃ち込んだ様に同じ角度を取って規則正しく並んで、だ。

実に数百メートルはあるだろう高さの崖を上り下りする為の階段。

その目的の為に作られた物が、日本の建築技術でも不可能なレベルを実現しているのだ。

見た目は普通の金属板だが、厚さの割りに変形が無い、貫入した岩肌も欠けた所が無い。

まるで岩肌から生えたような感じだ。

とは言え。

さっきから俺達には会話は無い。

当然だ。

数百メートルの高さで、板っ切れみたいな階段を下りているのだ、俺達は。

幅自体は大人が二人すれ違っても余裕があるほど広いが、如何せん手摺(てすり)が無いのが酷い。

此処までの事をやったんだから最後までやり切れよ!と思わんでもない。

下りる時は只管(ひたすら)階段だけを見る。

絶対に崖下を覘いてはならない。

立ち止まる事もだ。

休憩の時は声を掛けて一斉に止まる。

決して他人の体に触れてはいけません。いけないんだってば!

そんな風におっかなびっくり下まで下りると、汗でびっしょりになる。


後は町まで森の中の獣道を歩くだけだ。

が、俺達は此処で休憩を取る。

下りて来た疲れもあるが、精神的な疲労もかなり感じていて、足が笑うというかフワフワして地面を踏締めているという感覚が薄い。

水を飲んで人心地付くと再び町へ向けて歩き出す。

ハンナが待っていると思えばこの道のりも苦にならない、事も無いかもしれないけど反論し得る余地を残してやってもいいぞ。

だが、まぁ全員が似たような思いだろう。

彼女達に会えるなら。

会ったら如何しようか、等と今日の予定を考えながら歩くのだった。


そうして歩いていく俺たちの傍で不意に、ガツッ、と木に何かを叩きつける音がしたため、俺達は顔を青褪めて立ち止まった。

誰も声を立てられず、さりとて何か行動する程の覚悟も無い俺達には、じっとしながら聞き耳を立てる事しか出来ない。

しかし、そのまま数十秒が経ち、何も起こらないと見た俺は、何とか震えそうになる足を抑え付ける様に音のした方に向かう。

獣道を逸れ、音がしたと思われる木の裏までソロリソロリと歩いて行った俺の目に入ったのは、朽ちて折れた木に突き立つ矢だった。

さ、山賊!?

そう思って直ぐ様木の後ろに隠れて3人に向かって指を突きつけ、町の方向へ振ってやる。

そうして、誰か居るのか!と大声で誰何すると。

「ああ、すまん!人だったか!(おど)かして悪かった!」

と返ってきた。

そのまま木の裏に隠れていると、1人分の足音が聞こえてきたので、顔を出して見てみると、犬っぽい耳の男が此方に歩いて来るのが見えた。

男は茶色の襟の無い麻っぽいシャツとズボンで、左手には弓を持っている。

腰の後ろにはマチェットか何かの柄が見えているが、抜かれていないのを見ると大きく溜息を吐いて、木の裏から出る事にする。

「いや、すまんかったな、怪我は無いか?」

そう聞きながら矢を抜く犬男。

「怪我は無い、獲物と間違えたのか?」

そう俺が聞くと、

「ああ、チラリと動くものが見えたのでな?途中の木に気付かなかった様だ、幸運だな、お互いに。」

おおお、折れた木が無かったら誰かに刺さってたのかよ!?

クソッ、ふざけんなよ!

そんな風に動揺しながらも、

「お互いの幸運に感謝だな、本当に。今度から気をつけろよ?」

そう言って返答を待たずに踵を返して獣道に向かう。

犬男は、あ、ああ、と困惑気味の返答をしながらも、足音は男が来た方向へと向かっている。


獣道に戻った俺は3人に迎えられた。

「大丈夫っすか、北川さん!」

そう聞いてくるトシに、

「いや、お前ら逃げろって指示しただろ。」

と言うと、

「先輩を置いて行けないですよ。」

とケンタが答える。

「いや、ま、そりゃ有難いんだが。」

そう答えるも内心では、逃げてもらった方が有難いんだが、しかし心配してくれるのもそれはそれで、とちょっと複雑ではある。

「北川さんは何で逃げなかったんでス?」

そんな事を聞いてくるソノさんに、

「お前ら、虎とか熊とか山賊とかだったら逃げられるわけ無いだろうが。だったら足止めが居るだろ?中間管理職舐めんなよ。」

そう答えてやる。

ソノとトシは素直に、おおお、と尊敬するような眼差しだが、ケンタは苦笑だ。

其処は素直に(あが)め、(たてまつ)れよ。

「どうでした?」

ケンタが聞いてきたので、俺はやや渋い顔で、

「おっさんの犬耳とか可愛げもクソも無かったな。」

と答えてやると苦笑が困った顔になったので、

「誤魔化し様が無かったからな、突き放すしかなかった。余計な詮索なんぞしなければいいんだがな?」

と真面目に答える。

ケンタもやはり渋い顔になって考え込む。

トシとケンタは・・・まあいいか。

大方、町の事でも考えながら話してるのだろう、楽しそうに先を歩く二人に教える程の事も無いか。

今はまだ、その必要も無い。


その後は特に何か起こるわけでもなく町に着く。

早速劇場にでも行ってハンナちゅわ~ん、とルパンダイブしたいところであるが、先ずはこの前の宿にまた部屋を取る。

あ、アリスも居るんだな・・・影が薄いスタァとは不憫な子・・・。

宿を押さえ、腹拵えした後は、この前調べた店を巡って買い物をする。

肉はいらないとして、取り合えず数日もつ様な食材を片っ端から買う。

4人でなんとか持ち帰れる分量を買いだめると、ハンナたちの居る、アロトント・ミュゼムとかなんとかに行く。

入り口のところで、掃除をしていた下女にチップを渡してハンナに、シューヘイが来た、と伝えるように頼むと、後は彼女からのアクションを待つばかりだな。

時刻は日が傾いてしばらく、多分午後の2時から3時位だと思う。

これは連れ立って買い物でもして、それから食事に行くのもいいかな?

何処に行くか4人で相談しながら待っていると、さっきの下女がやって来て中に入れてもらえる様だ。

従業員用と思われる入り口に案内され、彼女の先導で進んで行く。

やがて一つの部屋に辿り着き、この中でお待ちください、との事で中に入ることにする。

中はどうやら会議室、ミーティングルームといった目的のようなものらしく、一つの丸テーブルと10脚程の椅子が置かれた部屋であった。


俺達は適当な席に座って、体を休めて待つ。

テーブルに着いた片肘の、その手の平に顎を乗せ、目を瞑って考える。

結局のところは保留となった問題についてだが、彼女らはこの先どうする心算(つもり)であるのか。

出来れば今日の内に有る程度の事は決めておきたい所だ。

町の住人でもなく、宿に長期滞在している訳でもない連中が時たま町の中を歩き回っているという事実。

何時、誰が怪しむとも分からんからな。

別に(やま)しい事なんぞ何もしてないんだが、存在自体は疾しいからな、いや笑い事でもないんだが。

出来れば何処か町の中に家を持てれば良いんだが、この世界の情報に疎いんだよな。

何処から情報が漏れるかも分からないし、さてどうしたものか。

モンテ・クリストのように金で爵位が買えないだろうか。

はぁ、何処の世界も生きる為には片付けなきゃいけない問題が多すぎだよ。

もっとこう、シンプルに生きられないもんかねぇ?

敵が出る、ブチ殺す、金を手に入れてウハウハ、みたいな。

完全に脱線して、しょうもない事を考え始めたので一旦止め、目を開けて3人の様子を伺う。

ケンタは腕を組んで目を瞑り、考えて・・・無いな、寝てるし。

トシとソノは共に、両肘をテーブルに着いて鼻の前辺りで両手の指を組み合わせており、組んだ手の下からニヤリと笑う口元が覗いていて、実にシュールだ。


そんな風にして待っていると、廊下を歩く足音が聞こえてくる。

その足音が扉の前で止まると、(おもむろ)に開かれ、ウサギ達が飛び込んでくる。

飛び付いて来るか、と椅子を引いて身構えた俺を椅子に押し戻してハンナが向き合うように膝に飛び乗る。

遅れてアリスが後ろに回って俺を抱きすくめる。

二人とも、シューヘイ、シューヘイと呼びながら顔中をキスするやら舐めるやらでかなり酷い。

余りのくすぐったさに堪らず、逃げようと藻掻(もが)くが動けずにいると、ケンタも天国のような地獄に悶えていた。

ソノも似たような状態だったが、トシのところは違っていた。

両腿のそれぞれに、ウサギちゃんが背中合わせになるように座って、トシに体を預けるように寄りかかっている。

そのトシは二人の腹に手を当てて撫でている。

何かうらやましいな、アレ。

一頻り玩具にされた俺達は、見えぬ何かを吸い取られたような気分で、彼女達をそれぞれ隣に座らせている。

後から運ばれてきた紅茶を飲みながら、今後の事について話をすることにする。


「で、だ。お前達はこれからも仕事を続けるのか?予定が決まってるなら教えてくれると助かる。」

そう話を始めると、アニアが、

「えと、実はカツトシ達が帰った後、話したんですけど、恐らくもう来ないかもしれないんじゃないかって。」

あー、それで?、と先を促す。

「結構な額のお金を置いて行ったから、手切れ金なのかなぁって思って。それで既に村に使いを出して代わりの人のお願いと、村に帰る準備を始めてました。」

それならそれで都合はいいかもしれない。

「仕事は続けないの?」

そう彼女に聞いてみると思わぬ答えが返って来た。

「はい、実は兎族の人って凄く流れやすいので、妊娠が分かったら直に安静にするんです。だから私達はお店に出るのは次で最期ですね。とは言え、ダンスはしてもお客は取りつもりは無いですけど。」

聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がする。

「流れやすいって・・・どれぐらい?」

俺は恐る恐る聞き返してみる。

「大体、半分より少し多いくらいです。」

そんなにか、と驚くが、これは。

「兎族って言うと森兎も野兎も岩兎も全部?」

何処かの集落だけの事なのか、それとも。

「はい、そうです。だからなかなか人が増えなくって。」

これは考えたとおりの理由かな?そうだとすると・・・。

「若しかして、男だけの種族っていうのも相方が流れやすいんじゃないの?」

恐らくこの質問の答えは想像通りだと思う。

「はい、豚種の人ですけど、やっぱり凄く流れやすくて、なかなか人が増えないですね。」

ふむ、豚か。いや、それは置いといて。

「ああ、やっぱりか。」

そんな言葉が日本語で漏れていた。

「若しかして致死遺伝子ですか?」

そうケンタが日本語で聞いてくる。

「多分そうだろ、調べようが無いけどな。それなら半分以上が死産なのも分かるな。兎種の場合、男が居ないという事は、XYの時に致死という訳か?性染色体が一番怪しいのか。しかし、分離不全が常態化している可能性もあるが。ターナーの所見はなし。トリソミー以上だとしても・・・テトラソミーなら?いや、やっぱり無いな。」

そう答えると3人とも肯定なのだろう、此方を見ながら頷いている。

「調べようが無いのは残念ですね。かと言って治療のし様も有りませんよ。」

俺達と彼女達との子は。

それが気掛かりといえば気掛かりだ。

「確かにそうだ。1人も男が生まれないんじゃ、正常な遺伝子を持った兎種の女性というのは居なさそうだな。ま、今の状態を異常とするかどうかにもよるが。」

彼女達がそれを当然の事と受け入れているのなら、兎種を兎種たらしめている遺伝子がそれを望んでいるなら。

「しかし、どういう遺伝の仕方をしてるんですかね?普通、他種族の遺伝子を入れて子供を作れば、孫辺りに男が生まれていい筈なんですが。」

正に遺伝子の不思議、というか遺伝の法則から外れているような気がするんだが。

「さっぱりだな。単為生殖とか言い出したら軽くホラーだぞ。」


おっとハンナ達を放置しすぎたか、キスで口を塞がれた。

人前でキスやらイチャつくのに抵抗が無くなって来て、恐ろしい限りなんだが。

ま、ソレはソレ、コレはコレという事で、ハンナとアリスの髪をわしゃわしゃと掻き回してやり、兎耳を弄ぶ。

「流れた子の中に男が居るとは思わない?」

そうハンナとアリスに尋ねてみる。

「例えそうだとしてもどうしようもないもの。出来るだけ安静にして無事に生まれてくれる事を祈るだけよ。」

そうハンナが答える。

アリスも、

「人の姿になる前の早い段階で流れるのが救いだとしか言えないのよ。私達はそれに耐えてきたし、これからもきっとそうなの。」

と言ってやや気落ちした表情をしている。

兎種はそういうもの、として諦めて受け入れるしかないと思っているのか。

何とかしてやりたいものだが、薬でどうこうなる問題でもないのがもどかしい・・・。

いや、今はそれだけを考えていても仕方が無い。

「で、ハンナ達は代わりが来たら村に帰るのか?」

彼女達がどうするのか確認を取る。

「そのつもりだったけど、どうしようかしら?4日後の定期馬車に乗る予定だったけど、貴方達がこの町に居るならもっと遅らせても・・・。」

ハンナはそう言うが、んー、それは難しいな。

「俺達は、明日にはまた町を出るぞ。今度何時来るかは何とも言えん。村は遠いのか?」

そう言って肩を竦める。

「この町から馬車で西に3日程ね。街道をちょっと逸れた所にあるわ。本当は村の西2日の所にも町があるのだけど、こっちの方が大きいしね。」

結構距離が有りそうだな。

「流石に其処まで離れると付いて行くのは無理だな。この町にも常に居るという訳でもないし。」

残念だが、そう伝えるしかないだろう。

と、そこで話を聞いていたアニアが気になったのか、質問をしてきた。

「ええと、聞いても良いか分からないのですけど、その、隠れ里というのは何処にあるんでしょう?」

やっぱり其処は気になるよなぁ、だけど此処じゃ誰が聞いてるとも分からないから話せないのだよ。

「ああ、ええと、それについては後にしよう。ここではちょっとな。」

分かりました、と言って少し残念そうにしている。

おい、トシ、ちょっと頭撫でてフォローしてやれ!

「そうね、先ずは質問より、あの娘達のお相手をして貰わないとね!」

いい!?

「ふふっ、シューヘイは私達ともう1人で3人。ケンタのところも3人。テッペーの所は4人でぇ、カツトシの所は5人よ!」

それを聞いた俺達は揃って、ぶふっ、と吹いた。

「んふふふ、頑張ってね?」

トシは生きて明日の日を拝めるのだろうか?

この分じゃまたもや宿屋をブッチしそうだな、こりゃ。

今日は話だけして軽く遊んだら明日には帰る予定だったんだがな。

発情した娘の事を忘れていた、と言うより意識の外に放り投げてた気もするが。

こりゃ、帰るのは1日伸ばすかな、一応最大で3日間まで滞在を延ばす事も予定してたからな。

そんな事を考えていると、ハンナが立ち上がって手を引く。

俺は溜息を吐きながら立ち上がり、苦笑してハンナとアリスに手を引かれるまま付いて行くのだった。


そしてやって来たはす向かいの宿屋。

ベッドに座る俺の前に立つのは、3人のウサギちゃんだ。

左からアリス、ハンナ、そしてレーティア。

どうやらホールでホステスをしていた、他のダンスグループの1人なのだそうだ。

「クローナ村のレーティア。レティで良いわ、貴方のお名前は?」

そう言ってはすに構える彼女の頬は薄赤く染まり、やや上気した雰囲気を纏っている。

銀の髪と薄茶の耳が愛らしい、ちょっと冷たい美貌のおねぇさんウサギだ。

しかし、俺は知っている。

如何に澄まして取り繕うとも、発情したウサギさんがどれほど貪欲に求めるかを!

まぁ、それはハンナとアリスも同じなのだから前回の50%増しになる訳だ。

俺、明日生きて帰れるかな?

そんな俺を見ながら意識が俺の下半身に行っているのを感じるぞ、悪いウサギめ。

俺はニヤニヤと笑いながら、町娘がよく着ているワンピースにベルトをした格好の彼女を舐め回すように見る。

それでも彼女は嫌な顔をせずに火照った様に体をモゾモゾと、もどかしそうに揺り動かす。

そうして彼女の様子をじっくりと観察してから。

「ヤパンのシューヘイだ。よろしく頼む。」

と言うと、

「そう、よろしく頼むわね。」

と素っ気無い言い方をしつつも、体は確り寄せてくる。

他の二人は、微笑みながら俺の隣に座って見ているので、最初は彼女からと言う事なのだろう。

彼女をベッドの真ん中に導いて、その横に付いた二人に目配せをしてから彼女の具合を確認する。

カンカンの後では無いからか、やはり彼女の準備は出来ておらず、3人がかりで彼女を弄んでやる。

身悶えしながら、もう大丈夫だから、と言う彼女にも、俺はたっぷりと悪戯してやるつもりだ。

ハンナとアリスの顔を見てニヤリと笑った俺に、何をするのか見当が付いた彼女らも悪戯な笑みを浮かべる。

そうしてレティに深く入り込んだ俺に、彼女は体を跳ね上げさせた後、続くべき快楽の波が無い事に疑問を抱いて俺を見上げる。

俺は彼女の髪や耳を撫でながら他の二人とキスを交わす。

結果から言えば彼女もやはり決壊した。

だが、他の二人よりもよくもったのでこの辺りは発情の度合いにもよるのかもしれない。

そして彼女達はこれが気に入ったらしい。

レティ以外からも前回と同じように求められた。

今回は押さえ付ける事なく動かさずで、ゆっくりと彼女達の中に居座り続ける。

まぁこれ自体は俺にとってもありがたい。

短時間で、そんなに多く吐き出させられては体がもたないからな。

そんな風に考えながらも、今日もまた快楽に意識を刈り取られるのだった。


そして明けて次の日の昼、モソモソと動き出した俺の上には、レティが覆いかぶさって俺の胸に頭を預けていた。

寝起きの生理現象か、はたまた彼女の仕業なのか、すっかり彼女の中にお邪魔している。

アレだけ求めておいて、まだ足りないと言うのか。

と硬直した俺に構わず体を密着させたまま、俺の胸に顎を乗せるようにして見つめると、絶対に逃がさないから、と。


その後、宿に戻った俺達は、またもや女将(おかみ)に笑われた。

宿に泊まらないで女の所を渡り歩いたらどうなんだい、なんて。

多分それをしたら、男としてのプライドが、なんて話じゃなくなる。

きっと兎種の武勇伝が一つ増えるだけだ、またもや腹上死の犠牲者が、なんてね。

部屋を取り直して、其処に全員が集まった所で自己紹介してもらう。

俺の所に来たのは、ハンナロア、アリス、レーティアの3人。

ケンタの所は、エンジェラ、アンナロザ、レドブルガだ。

ソノが4人で、ルチア、エイーリー、マリナ、レミーナ。

トシは最多の5人。アニア、レンティア、トゥーラ、リオーナ、アイゼルナだ。


俺達はレンティアに紅茶を用意してもらって思い思いの場所に座っている。

先ずは彼女達の話を聞くに、彼女たちはミストン村から来る娘達と入れ替わりで村に帰るのだという。

発情してからそれなりに抱いているので妊娠はほぼ確実だろうという話で。

普段なら、妊娠が確実になってから村に戻って、流れるか出産して暫くしたら、此処に戻るか、別の町或いは店に行くか、村の仕事を手伝いながら交代要員として待機するそうだ。

この娘達は、発情しているという特別な事情から前倒しで村に帰るのだという。

ただ、妊娠してなかったり、妊娠が終わってからも発情が続くようなら、俺達の元に来たいそうだ。

(つがい)とか言われるとそういう事にもなるよな、とは思うが、さてどうするか。

俺達の拠点となる研究所に連れて行く訳にもいかないし。

研究所とその周りの建物は、色々(・・)とあって酷い有様の所もあるし、オーバーテクノロジーの塊という以前に、あそこは崖の上、魔物の領域だ。

今は警戒してか、研究所に近づく事も無い魔物も何時襲ってくるか分かったものじゃない。

そう、あそこを放棄する事を前提に、情報を集めつつ人の領域に拠点を作り、何がしかの継続的収入を得なければならない。

指輪の換金の時に分かった事で、ちょっとした細工の物でもかなりの値段になるが、しかしそれは、真っ当な物を持ち込んだならばいらぬ詮索や騒ぎを起こしかねない物でもあるということだ。

その他に換金出来そうな物も結局の所その評価は、出所不明のオーバーテクノロジー(ゆえ)の産品なのだ、ドミトリ辺りにでも嗅ぎ回られる事態など御免だぞ。

等と徐々に冷めゆく紅茶を啜りながら考えていると、妙に静かなのに気付く。

気になって顔を上げると全員が俺を見ている。

俺は驚いて噎せて、ブハッとカップの中の紅茶を吹き散らす。

そのまま咳き込んでるとハンナがハンカチで拭き取ってくれる。

俺、こういう甲斐甲斐しい娘に弱いんだよなぁ・・・しかし。

またか、また俺の決定待ちなのか!

いや、俺、平研究員なんだけど!

立場的に中間管理職かも知んないけどさ!

あんまり俺に負担かけられると俺の胃が酷い事になるんですけど。

これ絶対、主任は面白がってるんだろうなぁ。

最低限の所は手綱を握るだろうけど、他は俺達が流されるままに流れていくのを指差して笑ってるんだきっと。


またもや思考がずれて行くままに任せて逃避しつつあると、ケンタの方で多少のフォローをしてくれるようだ。

「僕達が来ている村はちょっと秘密なんですよね、実は税金払ってないので。だから皆を連れて行ったり、場所を教えたりする事は出来ませんし、そんな事を許可する権限が無いんですよ、先輩は別ですけど。」

だああああああああぁっ!?

俺を売りやがったなコイツ!

見ろ!全員が俺の方見てるじゃねぇかよ、期待するような目で!

仕方ねぇ、引導渡してやる。

「ん、あー、結論から言って村に連れて行くことは出来ないな。」

そこまで聞いて全員ががっくりしているな、最後まで聞けよ。

「だが、俺達はクラサドルに部屋でも借りるか、家を買おうと思ってる。ま、他に良い町があるなら其処でも良いかも知れんが。其処なら入り浸っても良いぞ。」

それなら、という事で納得する娘も居れば、そうは問屋が、という娘も居る。

ハンナはどうやら後者の方らしい。

「1日と掛からずに歩いて来れる所に、知られていない村が在るような場所は無かったはずよ?それこそ南の崖から飛び降りて来ない限りは。」

う、鋭いな。

ダダ甘なだけじゃないのよ、って事か、それとも(つがい)としての立ち位置が定まって来た事への余裕か。

主任は何処まで許容するかな?

ええい、クソッ、まさか意趣返しも入ってるんじゃないだろうな。

あの人の事だから無いとは言えんのが何とも。

ああもう、成る様に成れっつぅの。

「ここ最近、行方不明の狩人とか冒険者の話を聞いてないか?」


そんな話を切り出す。

「お客さんが、知り合いの狩人が居なくなったって話してたのを覚えてます。」

全員の顔を端から見ていくと、マリナの所でそんな答えが返ってきた。

「俺の村はちょっとばかり特別でな?村の掟というか決まりにもそれが現れてる。」

誰かが、村の掟・・・と呟いている。

引き込めたかな?

「まぁ、その中の一つが村人以外の人を中に入れないという事。それと、村の場所を知られないという事もある。」

そう言いながら一人ずつ顔を見回していく。

「恐らく、その狩人は村の場所を知ってしまったんじゃないかな?俺は村の自警団には入って無いから知らないけれど、それで捕まるヤツ(・・)は居るらしい。」

全員を見回したが(いぶか)しんでいる娘は居なさそうだ。

発情による好意の増加もあるんだろうかね。

「ま、そんな事になったヤツ(・・)が如何なるかは、な?」

そう言って肩を竦める。

「俺はそいつを殺した訳じゃないが、ま、生きて帰るとか期待するのはちょっとな。」

マリナに向けてそう言うと、ちょっと悲しそうな顔をする。

馴染みの客辺りから聞いた話なのかね?

「どうしてそんな恐ろしい事を?」

マリナはそう聞いてくる。

「村が特別だと言ったよな?俺達が何者かは、見て分かると思うんだ。それも大分古い血(・・・)のな。」

マリナから視線をはずし、また全員の反応を確認するように見回していく。

驚きの顔をする娘も居るから、恐らく猿系の獣人、それも、遡れば王族か高位の貴族に辿り着くような血筋だと思った筈だ。

「村の起こりは正確には分からないが、ま、落ち延びた()ん事無き血筋の一族だった可能性もある。追っ手から逃れ、その血を絶やす事無く受け継がねばならないってね?」

そう言って残り少ない紅茶を口に含む。

冷たい、苦い。

お代わりをレンティアに頼む。

「貴人の隠れ里ですか。」

俺の様子を見ながらアリスがポツリと呟く。

「と言う訳で、村には誰も入れない、出さない、知られない。そういった掟が出来たと。」

俺はそう締め括った。

「レンティアがお代わりを淹れてくれる。続きはその後でな?」

そう言って、知らずに緊張していた体を解すのだった。

2014/01/12 表現変更 改行追加 誤字訂正

2014/02/01 誤字脱字修正

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