1-5 ウサギ狩り、その顛末。
アマアマです。
エロエロです。
削除されたらごめんなすぁい。
前節で気分が悪くなった人は、悪い事は言わないのでこれ以上読むのは止めた方がいいです。
無謀も過ぎれば絶望です。
彼女を見つけ、テーブルを発った俺は、真っ直ぐに彼女のところへ向かう。
彼女は既に何人かの男から札を入れられているのだろう。
その胸元には青に白線(5アルグ)1枚と青(1アルグ)と黄(1カプル)が数枚程入っているから、既に値段的には彼女の上限に近づいている筈。
と、そこで札を持って来ていない事に気付いた。
取りに戻るか、と考えたが、あの額を見る限りは俺の上を出す奴が居るとも思えないのでそのまま近づいていく。
彼女が此方に気付いたところで手招きをする。
日本式じゃなく欧米式の方だ。
この世界じゃ、こうした手振り身振りは大概、欧米式だ
彼女が気付き、客に挨拶をして離れるのを確認した所で俺も戻る。
席に戻った俺は彼女が来るのを待って問いかける。
「さて、今は何枚要るのかな?」
と彼女に青札を振って見せながら返答を待つと、
「貴方が出せる限りよ。」
と意地悪く微笑む彼女。
此方が肩を竦めると、
「どれだけ要るか調べてみたら?」
と、彼女は許可を出してくれたようだ。
ならば気にする事もあるまいし遠慮などしない、よぉし、パパがんばっちゃうぞー、と。
彼女の胸を下から包むように掬い上げて、札を指で押し上げる。
出て来たところで彼女を見ると、どう?とニッコリ笑う。
俺はこの枚数なら、と更に強く彼女の胸を揉みながら胸元に口を寄せて、出て来た札を噛んで引き出す。
それを手に取ってテーブルに置くと、銀貨を取り出し彼女の後ろに回る。
後ろから左手を彼女の腹に這わせ、そしてその右胸を持ち上げると、右手の人差し指と中指の先で挟んだ銀貨を彼女の顔の前に出して振って見せてやる。
肩越しに俺の顔を見上げる彼女の顔は、その銀貨をどうするの?と興味を示しつつも嬉しそうな笑顔だ。
銀貨を胸元に入れようとしたところで悪戯を思いつく。
彼女の胸元に滑り込む筈だった指先はその豊かな双丘を素通りして下がり、左手は右胸を開放して彼女のスカートを素早くたくし上げる。
それと同時に、彼女の左足の内側を俺の左の靴先で抑え、更に俺の右足で彼女の右靴を内側から蹴り出して俺の肩幅より広めに開かせると、下げていた右手をスカートの内部に滑り込ませて左手を放す。
下腹部に押し付けられた手の冷たい感触にビクリと震えた後も為すがままになっているので、そのまま手を滑らせて奥に進める。
俺の手は、冷えた蜜のヌルヌルした感触を感じながら其処を探り当てると、銀貨を差込んで指で更に奥へと押し込んでいく。
冷たい硬貨が侵入する感触に彼女が、んん・・・、と悶えそうになったのを左腕で抱きしめて押さえつけ、口を口で塞ぐ。
彼女を抱きしめながら指が入る限り押し込みつつ、一歩一歩ゆっくり下がってから、引き抜いた右手で赤札を取り出し、そのまま彼女の胸元に差し込んでやる。
驚きながらも陶然とした顔をしていた彼女は胸元の赤札を確認すると、満足したような笑みを浮かべて、椅子に座ろうとする俺に寄りかかってきた。
「こんな所でこんな悪戯をした人は初めてよ。罰を受けてもらうからね?」
と下腹部を撫で回しながら怒ってもいない顔で言ってきた。
「ああ、怖いな、どんな罰を下されるものやら。今から逃げてしまおうか?」
と言うと、駄目よ?逃がさないんだから!と使っていなかった椅子を引いて俺の右隣に陣取る。
と、そこで俺は気付いた。
周囲のテーブルの親父達の顔が全て俺に向いていた。
そして恐ろしい事にケンタが親父達の後ろに隠れるようにして立っており、その顔は酷く・・・。
そう、酷く楽しそうな玩具を見つけた様に、しかし、笑顔の形をしたナニカに似た別物である造形を作っている。
「お、お、お、お前、テーブルを離れたんじゃないのか!?」
ケンタを指し示す俺の指先はプルプルと震え、同じ場所を指している事が出来ない。
「フフリ、我々を忘れてもらっては困りますよ、北川さん。」
その声を聞いて視線を向けると、ぶふっ、と思わず吹いた。
トシとソノもしゃがんで隠れてやがった!
畜生!やり直しを要求する!人生のやり直しをだよ、くそがっ!
酒に酔った勢いと溜まった性欲と雰囲気のせいで、普段の俺なら絶対やらないような事を妄想のままにやっちまった!
黒歴史がっ!俺の黒歴史がまた新たなる1ページに記された・・・。
「おいおいおい、アンちゃんやるなぁ。おいちゃんビックリだよ!」
そこの狸親父!デカイ声出すな!
「若気の至りで、お恥ずかしい限りです。」
プーッ、と噴出す声が聞こえた。
あの3人、後で口を封じるッ物理的にッ!と、なれば針と糸を買わねばな、強い針と糸をな!
「いやいや、初めて来たっつーけど慣れてるなぁ、この色男!おいちゃんも、もう5歳ほど若かったら真似しても様になるかもしんねーけどよ。」
いやあんた、20位はないと駄目だろ。
つうか、存外小太りなくらいの方が女好きするのかも知れないが、あんたは駄目だ。その状態で減数分裂すればいけるかもしれないが。
そんな事を考えながらも既に事態は手遅れであるのを意識の外に放逐しながら、トシとソノに話しかける。
「それよりも、だ。お前らはどうすんだ?折角の機会に、ディナーショー見て普通の娼婦と遊んできました、じゃコース料金が勿体無いだろ?」
と恥ずかしさを忘れる為に酒杯を重ねようとテーブルに手を伸ばすと、隣の金髪ウサギちゃんが口を塞いで液体を流し込んでくる。
ウサギちゃんが口移しで酒を飲ませる様子を見て、周りの親父どもが更に楽しそうに囃し立てる。
最早駄目だ、これは駄目だ。毒を食らわば皿までという事か・・・。
「なぁ、お前。名前を教えてくれるかな?」
親父や3人との遣り取りも知らぬ振りで、座る俺の胸に頬を擦りつけたり、キスをせがむ彼女にそう言ってじっと見つめると、
「ハンナロア。森兎族の村、ミストンのハンナロアよ。貴方のお名前は?」
俺の手に自分の手を重ねて顔を近づけてくる彼女。
「俺はシューヘイ、ヤパンのシューヘイだよ。」
そう言って右手で彼女の肩を抱き寄せてキスする。
そうして暫くすると、次のプログラムの準備が整ったのか、合図の為と思われる鐘の音が鳴る。
そこで何人かの男の溜息が聞こえて来たので、恐らくこの鐘が鳴った時に権利を有していた客が、彼女らの今日のお相手という事になるのだろう。
本職の娼婦が隣に居るのだから、折角だし何か聞きたい事は彼女に聞く事にしよう。
ヤローに話しかけるよりずっと有意義だろうしな。
「あの鐘の音でお誘いの時間は終わりかな?初めて来たからあまり詳しくないんで、説明してくれるか。」
彼女は、俺が手を付けていなかった料理を引き寄せ、フォークとナイフを使って肉を綺麗に切り分けていた。
「やっぱり初めてなのね。一度も見たこと無い人だもの。貴方の言うとおり、あの鐘で競りは終わり。落とした人に兎を自由に調理する権利が有るのよ?」
肉を切る手を一旦止め、そう答えてから続きを始める。
此処で使われているステーキ皿、いやそれは鉄板だな、ファミレスの熱々に熱したステーキプレートと殆ど同じだ。
その上に載った肉を切る手を眺めながら話を続ける。
「だが、俺の場合は鐘が鳴る前に決まってたように見えるが。」
丁度切り終わったのか、一口サイズに切られた肉を持ち替えたフォークに刺して食べる彼女。
と思いきや、そのまま俺に口付けしてその肉片を送り込んでくる。
「そうね、時間前でも私達に多少の融通を許される余地があるの。私達に掛けられた値段が一定以上に達している事。そして、私と貴方の同意があること。勿論、私達もお得意様を素気無く振るような真似はしないし、かと言ってお得意様にだけ感ける訳じゃないわ。」
冷めて生暖かい程度になった肉片を噛みながら彼女の話を聞くに、必ずしも競り勝って権利を手に入れる必要は無いのだという。
ん、中々美味いな、熱々だったら言う事無かったのに。
自由裁量か。店に損害を出さない限りは気持ちのいい職場を提供しますよ、と。
噛んだ肉片を飲み込んで先程の結果を確認する。
彼女の話通りならその結果は言うまでも無く。
「つまり今回の事は?」
今度は、彼女の手が引き寄せていたのはスープ皿だった。
「何も問題は無いわ。ふふっ、あれだけ上乗せされたんじゃ、他の人も文句は言えないわね。例え競りに参加していた人に更に上乗せする心算があっても、黄色札を積んで競り合ってたんですもの、見っとも無くて口は出せないわ。」
そう言って、2度スープを掬い取って口に含むと俺の方に身を寄せてくる。
「つまり、俺が連れて来た後に殊更甘えて来たのは、これ以上他の参加者が出ない様に牽制した?」
今度は此方から侵入して二人でスープの味を楽しむ。
暫く転がす様にしてから、彼女から離れる。
「それも有るわね。あれだけ私が甘えているのに横から攫うんじゃ、横恋慕のアンデスタンだわ。そ・れ・に、貴方に甘えたいのは本心だもの。」
聞いた事の無い単語だな。
人名なのか?
と思ってる間にシチューと思われる野菜を押し込まれる。
「ファンテフファン?」
そう聞き返すと少し困ったように首を傾げる。
ああ、この仕草が一番可愛いのかも、と思うと今度からは少し困らせるのも良いなと思い、楽しみが増える。
「知らないの?おかしいわね、この国辺りじゃ皆知ってると思うんだけど。もしかして、ずっと遠くの出身なのかしら?」
ハンナロアは少し興味を惹かれた様子で微笑んでいる。
「そういうこと。で、アンデスタンて人の名前でいいのかな。」
だが、問屋が卸さない。此方の話はお預けだ、犬ではないが、な。
と思っている間に、俺の口にまた肉が運び込まれ、唇を舐め上げられる。
「そうよ。横恋慕のアンデスタン。とある王国の王様で、夫の居る貴族のご婦人方をお茶会に招いては摘み食い。ご婦人方のお子様は、みんな猿の獣人だ。これに怒った貴族達、王様を捕まえ皮を剥ぎ、『之なるは天下に悪名轟く大猿也。人に仇為す故に成敗せし。』以後、横恋慕する者は皮剥ぎの刑に処されるとか。」
少し残念なように苦笑気味に微笑んで説明をしてくれる。
ん、残念だがあの表情を引き出すには少し足りないか。
「横恋慕という事は、浮気を唆したら皮剥ぎ?死刑は流石に厳しくない?」
存外、亜人種というのは貞操観念というものが高いのか、それとも嫉妬深いのか。
今度は、アスパラガスに似た温野菜にペーストの付いた物を咥えて突き出している。
ふむ、お望みと有らば。
「ふふっ、アンデスタンの事は事実みたいだけど、皮剥ぎはないわ。でも、浮気は鞭打ちの刑にされるから皮を剥がされるわね、背中の一部だけではあるけど。」
刑罰なのか?この辺りは宗教的なものかと思うんだがな。
今度は・・・。
うぉ、ハンナロアが咀嚼している。
中身が何だろうとちょっと難易度高くなってない?彼女のなら平気だけどさ。
「ふと思うんだけど、ハンナロアと結婚する奴は絶対ブクブクの豚獣人にされると思うよ。」
ついつい食べ過ぎるんじゃないだろうか。
いや、もしかすると食事がゆっくりになって、早食いする人に多い食べ過ぎが減るのか?
「やぁだ、結婚だなんて。出逢って直だなんて早すぎるし、恥ずかしいわ。それにハンナロアじゃなくてハンナでいいわ。親しい人にはそう呼ばれたいの。」
彼女は本気で恥ずかしがっていた。
ある意味、これも才能なのか。
どうやらハンナが咀嚼していたのは、何かの塩漬け肉を戻した物らしい。
丁寧に塩抜きして筋を噛み切っていたようだ。
俺の口に入った時には少し薄い塩加減だったが、これはこれで丁度良い。
「で、何人かもう出て行ったみたいだけど、あれは?」
先程のウサギさんチームだろう娘と男が何人か連れ立って出て行くところだった。
というか俺の連れの3人だった。
それから、彼女が取ろうとした料理を手で制した。
何かさっきから周りの視線というか、Cコース側からの視線が痛い、これ以上は後が怖いので自分で食べる事にした。
「ダンスが終わる度に競りがあるのは分かるわよね。そしたら鐘が鳴った時点から、その娘は落とした人のものよ。だからこれ以上競りに参加したりダンスを楽しむつもりが無いなら、二人だけの時間が始まるのよ?何処に消えたかなんて調べるだけ野暮よ。」
話し出す前に、彼女が首を傾げて少し困ったような残念な微笑みの表情をした。
ん、やはりこの表情だな、これを目指す事にしよう。
「つまり俺はもう、ハンナに何処で何をしようと自由って事ね。」
意地の悪いニヤニヤ笑いが止まらない。
これはケンタのことは言えないな。
「そうよ?貴方はどうしたいのかしら?」
俺のその笑いを見てもハンナは引いた様子は無い。
それどころか挑むような調子で微笑みかけてくる。
こうなってくると意地でも・・・。
「ふふっ、貴方、とっても雄の顔になってるわ。貴方の想像の中の私はどんな姿になってるのかしら?知りたいけど、怖い気もするわ。」
彼女の微笑みは、期待するような微笑に変わっている。
彼女に深く口付けした後、その耳元に口を寄せて囁く。
「心配する必要は無いさ、きっとその時はそんな事、気にする暇も無くなるよ。」
ふと見ると、ステージの上では10人ほどの獣人達がベリーダンスを踊っていた。
諸兄が期待するような際どい所だけを隠した薄い衣装などではなかった。
際どい所以外を隠した薄い衣装だった。
俺はハンナを連れ立って外に出ることにする。
立ち上がった時に、隣の狸親父がイイ笑顔でサムズアップしてきたので俺も返す、と狸親父は拳を握り締めたまま親指を曲げて人差し指と中指の間を通す。
クソがっ、この世界でもそんなハンドサインあるのかよ!
知りたくも無かったわ、そんな下らない知識は!
最後の最後で汚れたような気分になって出口へと向かう俺とハンナ。
「ちょっと手続きしてくるわね。」
とハンナはフロントのカウンターを指し示し、そちらに向かってゆく。
俺はどうするかな、と何気なく見回すと、ロビーのソファーに先に出た3人が座って居るのを見つけたのでそちらに行く。
「先に行ってたんじゃないのか。」
俺がそう話しかけてソファーに腰を下ろすと、
「ええ、先輩のラブラブエアーが凄くて近寄れなかったんですよ。それに、何処に行くかも決めてないですから。」
ケンタが苦笑する。
トシとソノは・・・ソファーに深く腰掛けて見事に寝てやがる。
「いや、何か俺も勢いだけであそこまで行くとは当初の予定には計画されてなかった筈なんだがな・・・。」
俺がそんな言い訳じみた事を言って茶化すと、
「なんだか近寄り難いほどのラブラブっぷりで、彼女らが娼婦だなんて実感が湧かないんですよね。」
ケンタは思う所があるのか、後半は妙にしみじみとした語り口調で返してきた。
娼婦、と一口に言っても、その人となりはそれぞれ個人によって大きく違うだろう。
そういうことを抜いても彼女、ハンナロアはビックリするほど甘々だと思う。
何しろ彼女は俺から離れない、料理は口移しが当然!みたいな反応だし。
周りから見たら、さぞや物凄い馬鹿ップルぶりだろうと思う。
明らかに馬鹿とカップルの比重は馬鹿の方が多い。
冷静に見ている自分の部分が、悶絶して死に掛けているのが分かる。
「何処まで、なんだろうな。」
抽象的な言葉で呟く。
「さて、流石の本職ですからね、素人に分かるはずも有りません。真贋が分からないのなら、それは本物なんじゃないですか?」
付き合った女の数ならダントツのケンタでも分からないか。
いや、多いが故にそれ程深く踏み込まなかったということもあり得るのか。
「それもそうか。一夜の夢ならば、それに真贋などというものは無く、全ては夢のまま受け入れるべしということか。」
所詮は娼婦と客、そう考えて思考停止のまま全てを受け入れるべきか。
「先輩も案外ロマンチストな考えをする事がありますよね。」
まるで今気付きましたよ、といった風情で僅かなからかいを含めてくる。
「男はみんなロマンチストだ、というつもりは無いが、余りに現実を究極まで合理的に判断するとこういう考え方に至るのかも知れんぞ?」
俺は苦笑したくなるような気分で、お前も俺も似たようなもんだと含ませる。
「究極の合理主義者は究極のロマンチスト説ですか。」
俺の言葉に気付いていても、まるっきり自分は関係有りませんよ?という態度はいつもの通りか。
「まぁそんな心算はないんだがな、ある意味釣り合った天秤の両端にあるのかも知れんなぁ。」
もう、考えるのも面倒臭くなってきた。
「どうなってるんでしょうね。」
もう知らんよ。
今日の事は全て夢、もうそれでいいじゃないか。
俺としては、トンデモな黒歴史として新たな1ページを刻んだんだからな。
「それで、この後の予定は?」
あからさまな方向転換を図ってケンタに振る。
「はぁ、この辺りで彼女達がお勧めする宿に入るつもりです、先輩もどうですか?それにしても今日の宿、勿体無いですね。」
ケンタは特に思う所も無いのか、話の方向転換に乗ってきた。
「まぁ仕方が無いか。連れ込み宿って訳でもない、普通の宿屋だったしな。」
別に俺が稼いだ金という訳じゃないから、惜しくないと言えば惜しくはないのだが。
それでも無尽蔵に湧いて出るもんじゃないし、節約出来る所は節約するに越した事はないか。
「ですねぇ。普通の娼館だったら怱々に宿に帰るなり、泊り込むなり出来るんですが。」
全てが予定通り進む事も無ければ、全てを予定通りに進める必要も無い。
これくらいのイレギュラーなら、そう大したものでもない。
そう、ちょっとばかりの金で解決するような問題などは・・・。
「ま、普通の娼館じゃ体験出来ないような目眩くスンゴイ体験が出来ると思えば、お得だった、で良いんじゃないの?」
俺はニヤリと笑って、特に問題にするような事は無いと断じる。
これ以上、余計な事を気にしてもしょうがないのだと。
「そうですね、主に主任の怒りの矛先は先輩に向かうんじゃないかと思えば、ラッキーと思ってればいいと言う事ですね。」
分かってて、それをからかいのネタにするか。
そういうのは出さないのがお約束というものだよ。
いや、寧ろこのような場合に出して来て、からかうネタにする方がお約束か?
「頼むから今それを言わないでくれ。勃たなかったらどうしてくれんだ。」
まぁ、小言を言われるくらいで済むだろうよ。
実際問題、あの人が懸念しているのはそんな事じゃない筈だ。
いや、ま、直接確認したわけじゃないが、な。
「あのラブラブっぷりなら大丈夫でしょう?むしろ十月後を視野に入れて何か仕込みをしそうなくらいに見えましたが。」
問題としてはこっちの方だろうよ。
「うぉっほーい。なんつー恐ろしいフラグだそれは。」
そうだな、あの人が気に掛けるとしたらこっちの方だ。
だが、どの程度かにもよるか。
一度、意見の摺り合わせが必要か。
お前はどっちにするんだ?あっちか、こっちか。
どう考えてもお前はこっちなんだがな。
「大丈夫ですよ。彼女らは誰の子供でも『村の子供』として育てますから。娼館等で働いてるのは借金がどうとかじゃなくて、天職みたいなものとして考えてるようですね。」
先輩も気にせずにどうぞ、か?
お気遣い痛み入るね。
「天職ね。女だけの種族。積極的に種を貰って育てる、か・・・。数の割には種族としての発言力は大きいんじゃないのか?」
どうもケンタの話には余計な含みがありそうで素直には受け取れそうも無い。
「確かに全体の数が少ない為に表の発言力はそれ程には高くないみたいですね。」
早いな、必要な事は判ってるって事か。
やっぱりお前はこっちだよ。
「裏を返せば、という奴か。」
俺が来るまでにそれなりに必要な事は聞きました、って事か。
「ええ、それなりに。まあ裏も表も最大は猿系だそうで。」
これは彼女らに兎種の生活や統治形態について色々と聞いた方が良いかな。
事によっちゃ後からジワリジワリと苦しむ事になるかも知れんな。
「歴史的経緯を見聞きすればな。」
ケンタの顔からはニヤリ笑いが消えて普段の澄ました顔つきだ、外向けの。
恐らく俺の顔も似たような表情だろう。
「今では鈴木や佐藤ですね。」
数が増えて集団の力が増した。
否、その段階を通り過ぎるまで増えて集団としての統制は取れないのか。
猿種という括りは一緒でも、他種の亜人と距離は変わらないという事だな。
寧ろ数を増やさず混血を作らない特定の種族の方が力を持ち得る場合があるんじゃないのか?
「種族ごとの血の重みはフラットに為りつつある訳か。はたして、俺達の血を混ぜたらどんな事態が起こるかな?」
そして、兎族が種として埋もれず力を保つためには。
「それこそ国中がひっくり返るような騒ぎに、ですかね。」
どんな事態が起こるかは、いい加減な想像に任せるしかないな。
「騒ぎで済めば御の字だと思うがな?」
囲い込みだけで済めば良いが。
トシやソノは、ひねもすベッドから出られない生活というのも存外悪くないと思うのかもしれないな。
唯只管にベッドに入ってくる亜人種の女達に種付けするのが仕事か。
笑える、そのうちインブリードに巻き込まれるに決まってる。
ん?あいつらなら喜んで請け負ったりしてな!
「血を混ぜるという話に関係するんですけど、先輩のあの懐かれ様がですね。」
アレか・・・。
またニヤリ笑いになってるな。
「確かにあの懐き様は驚きなんだが。」
何か琴線に触れるものでも有ったのか?
「もしかすると『番』なんじゃないかって。」
こりゃまたこっちじゃ初めて聞く単語だな。
俺の記憶に間違えが無ければ、動物のオスとメスのペアだと思うんだが。
「番?何だそれ?というか、何時の間にそんなに情報を仕入れたんだ?」
まあケンタも必要がありそうだから聞いたんだろうが。
つがい、ねぇ・・・。
「さっき先輩がラブラブしてた間に外に出たわけでして。それで、落としたウサギさんがあれは番なんじゃないのかな、って言ってました。」
ウサギさん情報か。
あまり厄介な面倒事を掘り起こしてもらいたくは無いんだがな。
「詳しく聞いたのか?」
それでも無視は出来ないのが辛い所か。
お前の妙に楽しそうな雰囲気を見ると俺の胃に悪影響が出るんだが?
「ええ、どうやら男だけとか女だけとかの種族にあるらしいんですが、発情するらしいですね。」
いよいよ楽しそうな笑顔になってそんな事を言い出すケンタ。
「発情!?それはまたケモノチックな話だな。」
俺はナニか嫌な汗が顔から流れるような感覚を覚える。
「どうにも理由は分からないけれど、番になるべき相手に遭うと、所謂『恋に落ちた乙女』的な状態になるみたいですね。いや、実際はもっと激しいようですが。」
俺を見てニヤニヤしたワルい笑顔になるケンタ。
いや、確かにアレは俺もどうかと思う馬鹿っぷりだけどさ。
「まぁ、そんな精神状態で関係を持てば妊娠する機会は増えるだろうな。」
俺は澄ました顔で答えるが冷や汗が出る感覚を感じる。
「いえ、もっと問題なのはですね、どうやら発情状態ってのは比喩でなくてガチなんだそうです。つまり卵母細胞がウェルカム状態で待機する訳ですよ、発情時は常に。」
ぐあああああ、アウトォォォォ。
というかソレどういう原理なの!?スゴイ知りたいんだけど!
「何だそれ、頭の痛い話だな。もしかして今の状態のウサギちゃんを美味しく頂いて、中に漏らしたら・・・。」
頭の中は冷や汗ものなのだが何でもないような素振りで応対する俺。
しかしケンタの奴は、俺の頭の中の状態をほぼ把握してるので、いよいよニヤリ笑いが止まらない。
「かなりの高確率で妊娠、そして出産、らしいですよ?」
はい、今日一番のワルい笑み頂きました。
「マジかよ・・・。避妊具は・・・。」
ファミリープランは大事だと思うんだ、俺は。
「無いですね。でも番で子供の2、3人も生めば、大抵は治まるらしいですよ。」
ほんと、どんな原理なんだよソレ。
視覚効果かホルモンか?
クソッ、此処で決めろってことか?
どうもケンタはトリックスターな気質があるな。
結局の所、ケンタは俺がハンナを抱いても抱かなくても面白がるんだろうな。
「いや、まだハンナが発情してると決まったわけでは!」
無駄な抵抗を試みる俺。
俺がなんと言おうとハンナが発情してるのかどうかは決まってるし、抱いて中りなら発情、中らなければベタ惚れ・・・。
いや、実はあの態度がハンナの演技という可能性も!
「先輩、無駄な抵抗ですよ。普段のハンナロアがあんな態度を取る事は無いと確認していますので。諦めましょう。」
言ってる事は至極マトモなんだがその顔は黒い、いや腹黒い。
そんなこんなで悩み、悶えていると、ハンナ以下4人のウサギちゃんがこっちにやって来る。
この様子だと全員が落とせたようだな。
するとその内の一人のウサギちゃんがタタタッと小走りにしてこっちに向かってくる。
その顔は満面の笑みを浮かべており、綺麗な銀髪と白い耳が棚引く様に流れている。
誰が落としたものやら、と眺めていると有ろう事かその娘は。
ソファーに座るケンタの正面から抱きつき、頬を摺り合わせ、股間同士を強く押し付け合うようにして僅かに揺り動かしていた。
ケンタ、ケンタ、と耳元で囁くように名前を呼ぶ銀のウサギ。
それを見た俺は驚愕に固まり、そして理解が及ぶにつれて、酷く歪んだ笑顔になるのが自分でも分かった。
そして俺の顔が歪んでいくのを見ながらケンタはその表情を硬くして行き、終いには大きな溜息を吐いて笑顔になり、
「先輩、諦めましょう。」
と、同志ケンタは提案するのだった。
2014/01/04 誤字訂正