1-4 ウシさんが好きです。でもウサギさんはもぉーーっと好きです。
この節には、性的表現が含まれています。
不適切な表現を含む小説として削除された際は馬鹿な作者と笑ってやってください。
この節を読んで不快感を催した方は、次節以降を読むことは無謀ですのでお避け下さい。
午後からは、店の位置と品揃え、値段を調べながら移動し、当初の目的に従って町を西に東へと歩き回る。
それにしても冒険者風の男女は結構な頻度ですれ違うから、下手すると町の住人より多いんじゃないのか?と新たな疑問が浮かび上がる。
半日で粗方の探索を終えた俺たちは、すきっ腹と疲れた体を抱えてテクテクと裏通りを歩いてる最中だった。
いや、普通の食堂といった風情の店屋や宿屋兼酒場といった構えの店は探せばそれなりに見つかるんだが、コレ、といった店が見つからず、今は表通りを逸れて裏道を散策しているところだ。
とはいえ、表通りからそれほど離れた道ではなく、表通りと平行に走る道の一本である。
しかし、元々がそのような地域であるのか、通りの両側には疎らに夜の蝶が羽化を始めている。
まぁ、つまりは立ちんぼ、街娼達が立ち、或いは目的の場所があるのか、艶やかな化粧やドレスに身を包んだ女性達が行き交っている。
本当なら腹ごしらえした上で繰り出す心算だったが、店を探しているうちに此処まで来てしまった。
因みに、奴隷制があるような国なので、当然のことながら赤線青線のような線引きは無く、娼館は通り沿いにて堂々と明かりを灯して、艶やかな蝶に誘われた馬鹿な男たちを飲み込んでゆく。
他のもっと大きい街では、そうした娼館は商人だけでなく、貴族が元締めとして経営しているような所も存在するらしい。
街娼はというと、何かギルドが在る訳でもなく、知り合い同士で固まってグループを作って縄張り(と言うほど明確なものではないが)のようなものを作ったり、食事や塒を共にして太い客を紹介しあったりという感じらしい。
主婦等が連れ立って、アルバイト感覚で立つ事もあるようなので、全く孤立して一人で、というのは余程の理由がない限り無いそうだ。
最も、娼館から外れて街娼をしている時点でそれなりの訳有り、と言うことなのだろうが。
娼館に所属しているなら上がりからはいくらか撥ねられるだろうが、衣食住に関していちいち頭を悩ませる必要も無いし、客とのトラブルにも介入して貰えるだろう。
どうしたって娼婦として働く限りは付いて回る、妊娠や性病といった問題についても店側の利益を前提としてではあるが手を打ってくれるだろう。
聞いた限りは、「流し屋」というのが大抵の元締めか娼館に雇われる形で出入りしており、堕胎や性病の検査、治療を請け負っているそうだ。
横に逸れる話だが、流し屋は娼館に限った話でなく、様々な理由から堕胎や間引きを請け負う仕事であり、そういうことになった子は森の中等の祭壇に「妖精の遊び子」として置き去りにされるという。
まあつまりは妖精の遊び友達になったのだ、と言って母親に成れなかった彼女らの心理的な負担を減らそうとしている、らしいが俺から見れば彼女らの周りの人間の負担を減らす目的の方が大きいように思える。
何より問題なのは、森に置き去りにしていながら死体が残らない以上、何が起こっているかは言わずもがな、味をしめた獣が人を襲うようになる、ということだと思うのだが。
いやこちらの人間が、冒険者を雇って獣なぞ打ち殺せと息巻いて問題にもしないと言うなら気にする事も無いか。
閑話休題。
さてさて、流石に貧民窟のような場所には恐ろしくて入れないが、ドミトリから色々と聞いていた俺達は、比較的安全な地域をフラフラと歩き回っている。
あくまでも貧民窟との比較で、ということだからまるっきり安全な訳も無いが。
それなりに上等で、格式ばってない店があればいいんだが、やはり色街での飲食店は期待するほどに上等なものではないようだな。
表通りに戻って探すか、と提案しようとして振り向くと、トシが道の先の店を指差して、あの店はどうですか?と聞いてきた。
道の先、篝火の躍るような明かりに照らされているその店の前には、折りたたみ式のスタンド看板が出されている。
どうやら看板の内容は『今日のコース料理』といったものに見える。
コース料理か。
この世界の店では珍しい、と言うよりもこっちでは初めて見た。
面白そうなので、特に深くも考えずにその店に入ることに決め、
「ンじゃ、ま、あそこでいいだろ。」
で済ます。
店の正面に立って見るに、この店も宿屋みたいな設計かと思いきや、どうやら特注の様だ。
看板にはやはり『今日のコース料理』として値段違いで3種類ほど書かれている。
驚いたのは、看板に使われているのがカフェの今日のお勧めを書き出すような黒板であることだ。
勿論、コース料理、しかも3種類も出していることも驚きだろう。
この世界の文化的レベルを考慮するなら、日本のように多様な料理を必要な数だけ用意する形態は、ほぼ不可能なんじゃないかと思っていたからだ。
料理の材料を確保する物流もそうだが、まず根本的に統計を取っているのかという問題だ。
保存技術に劣る世界で、数の出ない料理の材料を抱えておく事は出来ない、となれば詳細な統計を取り、且つ当日の天候を予想しておかなければならない。
地球の技術だからこそ可能なサービスと言える。
若しかしたら、長期保存可能な材料を中心にしているのかもしれないし、或いは予想しうる注文数より少なく仕入れることで対処しているのかもしれない。
ラーメン屋みたいに予定玉数出たら閉店、みたいな。
そんな感じで、看板を見ながらもその内容は全く頭に入れず、余計なことを考えていると、それなりに客が入っている様子であることに気付く。
入っていく客と思しき男達は、それなりに身形の良い感じで、若しやドレスコードなんかでもあるんじゃないかと心配になってきた。
しかし、案内に来る店員、と言ってもいいのかどうかという男の格好は、どう贔屓目に見てもサーカスのクラウン、つまりは派手な道化師のような格好だ。
コース料理とクラウンが噛み合わず、どうなってるのか理解が及ばない。
クラウンは何人かで交代しながら客が入る度に、両手を大袈裟に振り上げ驚いた様子を見せて恭しく挨拶をし、それに失敗しては取り繕うように大袈裟な手振り身振りと口上で客を案内して行く。
3度ほど道化師の案内を見ていると、何かに気付いたような大袈裟な身振りをした後、こちらにやって来た。
「おお、閣下。いと賢き至高の君よ。我らがアロトント・ミュゼムへのお越し、恐悦至極にございます。」
閣下(Your Excellency)なんて初めて呼ばれたわ。
「お連れの皆々様方はご案内申し上げております。宜しければ閣下も如何で御座いましょう。」
え、あれ?あいつらもう入ってやがる。
クソッ、なんか恥掻いたぞ、入るなら入るで言ってけっての。
「ああ、うん、宜しく頼む。」
俺は、なんとかバツの悪さを誤魔化しながら搾り出すように声を出す。
「はい、畏まりまして御座います。では、こちらへ。」
道化師の先導でいよいよ中へと案内される。
道化師に案内されたのは、入り口のロビーの奥にあるホテルのフロントのようなカウンターだった。
そこで先ずは料金を払う必要があるのだが・・・。
「すいません、先輩。此処で支払いがあるそうです。」
ケンタ以下3名が出迎えてくれた。
「だったら先に行くなっての。」
ケンタは苦笑しながら先輩が看板を見てる間にソノさんが連れ去られたので、との言い訳。
「いや、まぁ、別に良いんだが、コースはどれにするんだ?」
俺がケンタに聞いてみると、既に3人はコースを決めている様子で、ケンタに任せているようだ。
「どうも初見はBコースかCコースしか選べないみたいですね。Bコースでどうですか。」
Bコース・・・。料金表を確認してみると、3アルグ!?3万も取られるっての!?
「いや、まあ払えないって事は無いんだが、後で何かチクリチクリとやられそうでなぁ。」
うん、主に主任辺りから小言とか小言とか厄介事とか、貰ったり押し付けられたりしそう、ほぼ俺直撃で。
「いやいや、北川さん、折角のコース料理なんです。此処は清水の舞台から焼身自殺する勢いで逝ってみましょうよ!」
お前、それ現住建築物放火だからな?まぁ、いいけど。
「分かったよ。どうせ悪銭身に付かずだ。下らん出費をする前に有意義に使うか。」
3人から、おおおー、と喜びの声が上がり、その声を受けて俺は懐から財布代わりの布袋を取り出して12アルグをカウンターに置く。
カウンターにいる執事っぽい服装の店員が硬貨を数えてハンドベルの小さいようなのを摘み上げて鳴らすと、壁際で控えていた男が進み出て案内するという。
いや、同じロビー内なんだからハンドベル必要なくね?と思うが、まぁ様式美というヤツかな。
ふとカウンターの上を見るとB5版位の紙が積んである。
何気なく手に取って見るに、チラシ?いや、これプログラムだな・・・プログラム!?
そう、紙には演目が書かれて、というか印刷されていた。
下のほうにはアロトント・ミュゼムとあるから此処の物なのだと思うが。
「これ演目らしいけどナニコレ?」
俺が3人に聞くと、え、今気付いたんですか!?という驚きの声。
「先輩、ここは劇場ですよ。ミュゼムってどうやらシアターの事らしいですね。恐らくミュージアムがシアターの意味になったんじゃないかとは思いますが。混同したのかどうか、理由は分からないですけどね。」
「え、嘘、みんな知ってたの?」
俺の疑問にはソノが答えてくれた。
「はい、店の正面のうえの看板には店の名前の下にダンスアンドソングス、ディナーショーって書いてありました。」
うん、上なんか見てなかったわ。
「あー、俺、下の看板が珍しくてそれしかマトモに見てなかった。それならまぁそれなりの値段もするわな。」
なるほど、ディナーショーなら席の数だけ料理を用意すればいいのか。
なんか疑問が一つ消えたわ。
というかクラウンと料理の関係もディナーショーと絡めればそういうものかと納得も出来るか。
そんなことを考えながら奥への扉の前でこちらを待っている店員の方へ歩いていく。
店員と言うより職員とか従業員と呼ぶほうがシックリくる建物の大きさだが、まぁウェイターでいいか。
さて、どうやら劇場の中はかなりの広さがあるようだ。
入り口付近もそれなりの広さのロビーになっていたが、其処からかなり丁寧な装飾を施された扉を潜って奥の部屋に進む。
其処もまた休憩用の小さなロビーになっており、トイレ等に繋がってるようで全体的に日本の映画館のような作りを思い出す。
小ロビーではホール内の音楽が僅かに聞こえる程度であり、何人かの男達がソファに座って話しに興じてる。
内容を理解する前にホールの扉が開かれたのでそのまま入る事にする。
ホールに入った俺たちは、タキシードを着こなした別のウェイターに案内され、中へと通される。
内部は既にダンスが始まっており、興奮した男達が曲にあわせて、「ヘイ!ヘイ!」と合いの手を入れている。
入り口から正面に半円に突き出した舞台(張り出し舞台型と言えばいいのか?)があり、そこで女性が踊っているのが見えたが、チラリと見ただけでひとまずは席に着くのが先とばかりに先導するウェイターについて行く。
案内されたのは壁際の長方形のダイニングテーブルで、長辺に片側三つで計六つの椅子がテーブルを囲んでいる。
テーブルの間を料理を持って行き来するメイドさん。(!)―――古来より彼女らに対しては、尊敬と畏怖の念を持って「さん。」とつけるのが慣わしである。―――達を見るに、案内は男、給仕は女と別れているようだ。
そしてそこかしこのテーブルで男に撓垂れ掛かっている女の姿を見るにつけ、まるでキャバレーだな、と思わずにいられない。
席に座る前に周りを見渡すと、酒が入ってだらしない笑顔のおっさん連中ばかりで、女はどうも水商売の女とメイドさん。だけのようだ。
どうやら席は二種類あるらしく、中央には演壇に向かって「ハ」の字型に開いたソファーと、左右のソファーの間に長辺を演壇に向けて伸ばすように置かれた、同じほどの長さのテーブル。
それが演壇の正面にダンスが見やすい位置から入り口の方へ三対ほど連なり、その周りを放射状に長テーブルの席が囲んでいる。
席に座った俺はソファにいるのがどんな奴か気になり、人垣の間を通して見てみるに裕福そうな格好をしたカイゼル髭の中年とその取り巻きっぽいのが数人だった。
そいつらの間にはキャバレーよろしく見目麗しいホステスっぽいのが挟まっており、楽しそうに(営業スマイルかどうかまでは分からん。)笑って料理を食べさせたり、酒を勧めていた。
「クッ。格差社会を思い知らされるぜ。」
等と益体もない呟きが洩れる。
テーブルの酒を注いで一気に呷って人心地つく。
アルコール度数はビール以上、ワイン位かな?と思っていると。
一緒に座った奴らの反応がないので気になって同じ方向を見る。
こいつらの視線の先は舞台の上に釘付けだったのだ。
「こいつは!」
俺は思わず舞台の上を見て力強く声に出すと、周りを見渡す。
声に反応して皆で一斉にお互いを見渡した後、舞台を食い入るように見つめて数瞬。
力強くコブシを握り締め、ある者は右手を高く掲げ、またある者は両手を振りかざし、俺は中腰に立ち上がり胸の前に突き出す。
舞台の上でスカートを高く掲げてカンカンを踊る女達は!
「はいてない。」
誰とも分からぬ呟きが聞こえる。
「これはそんなまさかいやしかしありえぬとはいわぬまでも!」
隣のトシの意識が怪しい。
そう、俺は正にこの時知ることになったのだ!
ちょっとお高い、ただのディナーショーかと思ったら、「紳士の為の」ディナーショーだった。本当にありがとうございました。誰に?名も知れぬこの世界の神に対してだコノヤロー!
いかんな、余りの事態に俺も興奮を抑えきれぬらしい。
その興奮の源泉たる舞台上のカンカンを食い入るように見る。
俺達は誰も声を発せぬ、いや、声を出す事すら忘れたような状況でただ只管に舞台の上を見つめるのだった。
さて、数えてみるに女性ダンサーは十二人いるようで、正に今スカートをたくし上げ、胸の前で左右に激しく振っているところであった。
曲は・・・天国と地獄?なぜだと言われても困るのだが、どうやらその編曲のようである。
時たまお馴染みのフレーズが入るほか聞いたこともない演奏が流れる場面もあるのだから編曲としか言いようがない。
舞台の前に客のいる床面より低く作られた、堀のような場所で演奏しており、彼らの頭の上に音の反射のためにか角度をつけた板がつけられている。
舞台からは客席に降りる階段が、正面と両袖近くの三箇所にある。
「お・お・・お・・・。」
臨終間近の爺さんのように震えるように声を出すトシ。
カッと目を見開き食い入るように見つめるソノ。オイ、その手を股間にやって弄るな、やめろ!
俺と目が合ってニヤニヤ笑いが止まらない、ケンタ。こっち見んな。
なんて観察してた俺もすぐに舞台上で激しく翻るスカートの中に目が行く。
全員が髪に大きな白い羽飾りをつけていて、それが激しく揺られており、プラチナブロンドや燃えるような赤毛が翻っている。
ダンサーは4人を除き、同じように黄色のビスチェの様な上着(脇腹から背にかけて紐だ!)に白と黒のフリルで切り返しを入れた衣装であり、スカートの中は白のフリルが幾重にも重ねられている。
足は白のサイドレースのガーターストッキング、ガーター付きである。他は言わずもがな、「はいてない。」
それぞれの髪の色に合った、よく手入れのされた密やかな茂みが神々しい。
中には全くの更地(!)も見かける。
他の4人は同じデザインで赤、紫、緑、水色の四色になっており、劇場の看板を背負っているのだろうか。
彼女らの後ろには白のYシャツに黒のベストとズボンを着込んだ十二人の男性ダンサーが彼女らと同じように、いや、むしろ見せられるものが無い分さらに激しく、柔らかな肢体で以って軽やかに踊っている。
時に彼女らと体を密着させて男女の行為を想起させるように、時に彼女らと絡みながら激しく振り回し、或いは大開脚の彼女らの両太腿を支えて高々と抱えあげて回転し力強くサポートする。
なんとも見応えの有るカンカンに仕上がっている。
と、のめり込む様に見ていると男達が離れ、ラインを作って見事なシンクロを作り出すと、軽やかなステップで激しくスカートを振りながら先の四人が舞台中央に集まる。
そして互いに寄り集まって舞台の中心を向くようにすると、膝を抱えるように胸元まで引き上げ、そこから足先を自分の頭より高くなるように真っ直ぐ蹴り上げる。
四人が蹴り上げると、軸足で180度回転し、大開脚のまま自分の前方に倒れていく。
その周りを囲むダンサー達は規則正しく配置され、外に向かってスカートを左右に振っており、中央の4人の開脚に合わせるように左足を右足に引きつけるように振り出し、右足より外に出たところから一気に振り上げて足先が頭上を越えるように前方へと投げ出しながら開脚して床に股間を密着させる。
さながら大輪の花が開花するような姿に観客が大いに沸く。
ダンサー達がスカートを振りながら立ち上がると膝上辺りまでが汗とは思えぬヌメリで濡れて光っており、それが観客の興奮を弥が上にも高めているのがわかる。
「ヘイ!ヘイ!」
俺達はもう他の客と一緒になって叫んでいた。
なんという高揚感。なんという一体感。
そして黄色のダンサーが半円の縁で中央側の手を掲げて開脚して床に座り込み、男達がさらに袖に向かって広がる。
中央では四人が両腿を持って男に高々と掲げられ、ヌメる股間を惜しげも無く晒している。
そこでいったん曲が終わり。
これでフィニッシュのようだ。
紳士達も立ち上がり、大いに沸いている。
拍手が鳴り止まぬ中、また別のテンポの良い曲が響き始める。
その曲に女性達全員がスカートを翻し、疲れを見せぬ軽やかなステップで階段を降り始める。
「お?お?何が始まるんです?」
思わずソノがお約束を口に出す。
階段を降りた彼女らは、先ずソファー席へと足を向ける。
あでやかな肢体運びで以って、なまめかしくも華やかに、カイゼル髭の元へと向かっていく。
男は満足したように朗らかな笑みを浮かべて四人に話しかけ、テーブルから赤色の札を取ると、金貨と思しき物と一緒に赤ビスチェの女の豊満な胸の谷間から差し込む。
俺達の周りの男は、おー、とか流石だな、とかこれは決まりだろ、などと口々に話してる。
気になった俺は隣のテーブルの、赤ら顔にでっぷりとした下膨れの腹をした初老に差し掛かった頃と思われる狸紳士に話しかける。
「ここは初めて入ったんですけど、あれは一体?」
そう問いかける俺に、アンちゃんも好きモンだなー、とか賞賛の意を込めて俺をしっかと見たあと、テーブルに置かれた小箱に立てられた五色の札を指して、
「ありゃぁな、そこの札にテーブルの番号が振られてるんだ。それで色は金額を表す。まぁ現金は踊りの報酬で・・・。」
そこまで聞いて何となく浮かんだ二文字―――娼婦。
「・・・札は何枚入れてもいいし、何度でもだ。ああ、何枚必要かはその娘に聞いてな?敢えて聞かずに入れることで注目してるというアピールとか、まだ上乗せする余裕はあるぞ、というハッタリかます駆け引きもあるが。ま、客の誰がどの女に入れるのも自由だ。だが誰でも、と自由、というのが癖モンでな、札を入れたが最後、競り負けても入れた札の一割は払わにゃならん。競り勝つにしろ、そうでないにしろ、入れ込んだ女に札を入れてやるのも気を引くという意味じゃ悪くないがな?」
紳士に礼を言って考えるに、なるほど娼婦を買うのに競売方式になってるのか。
少なくとも安い娼館ではありえんな。
となると色違いの四人は、結果的に人気の有る高額な娼婦ということになるんだろうな。
もしかすると吉原みたいに八方美人は嫌われるかも知れん。
いや、逆に複数に入れて3P、4Pとか・・・。
ふむ、カンカンを踊ってる間に皆はどの女に金を出すか品定めしているわけか。
どれだけ柔らかな肢体で深く飲み込むか、どれだけ激しく濡れて滑らかであるか、を彼女達は見せ付けているのだ。
私達を見て!そして食べて!ってな訳だな。
いかん、治まってきた俺自身が再び激しい自己主張している!鎮まれ、俺の息子よ!突撃の刻は今ではない!
心頭滅却すれば女体もまたガチム・・・おぇぇ。
俺 は、精神 に 多大な ダメージを受けた! 俺 の 精神 は 混乱 している!
どうしますか?
こうげき ←
ぼうぎょ
スキル
とうそう
アイテム
じゃねぇよ、俺!
とかなんとか下らない事を考えていると、こちらにもダンサーがやってきた。
隣のテーブルに座る糞おや・・・紳士の頭の上を蹴る様な動作でスカートの中を見せ付ける黄色ビスチェちゃん。
栗色の髪は滑らかであるが、近くで見ると舞台の上での華やかさで隠されていた事実―――顔の造形が普通、つまりは十人並み―――を現す。
とは言え、日本人顔ではなく東欧系な感じなので、総じて何割か余分に綺麗に見える。
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて札と大銅貨を胸元に差し込み一揉みしてから手を戻す男。
しかし、俺はそれ所で無い事実に驚愕するのであった!
カンカン自体が遠くであったことと、目立つ白い羽飾りによって隠された真実に気づかなかったのだ!
驚愕に目を見開く俺、そして研究所の皆を見回し、両の手のひらを相手に向けつつ頭の上に乗せ、指をパタリパタリと曲げ、そして伸ばす。
男どもは宇宙の真理を知り尽くし、深く悟ったかのような表情で、うむり、と頷くのであった。
この女・・・兎耳だとおおおおぉぉぉおぉ!
全俺がスタンディングオベーションである。
栗毛の黄色ビスチェちゃんは犬猫が耳を伏せるように、その兎耳をペタリと伏せ、後ろに流している。
研究所でヤツの語った言葉が、俺の中でリフレインされる。
――特に森兎族に代表される兎種は、女しか生まれず集落に男が居ない為に数が増え難く、性に関しては奔放且つ貪欲で一度咥え込んだら次の日が昇るまで放さない為に、毎年腹上死の犠牲者が出る――。
まずい、俺達の内から最初の犠牲者が!
「うへへぇ、1億萌えパワーとか神に匹敵ですよぉ。」
隣のソノが自分に対して行われた「栗毛ちゃん大開脚」の餌食になり、その挑発するような妖艶な笑みに脳をヤられている。
くそっ、帰って来いソノ!一緒に日本に帰ろう!
うおっ、まずい、いきなり赤に白線(5オラム)に手を伸ばすとかありえん。
俺がソノの手を強く叩いて札を落とさせると、ハッとした表情で我に返る。
「なんという精神汚染でスか・・・。」
その言葉に深く頷くようにトシの言葉が続けられる。
「あのまま赤札を栗毛ちゃんの胸元にインサートしてたら、北川さんによって、瓦礫の山に置かれたバスタブにインサートされるところだったくらいに汚染されてた!」
俺だって胸元よりはプラチナブロンドちゃんの茂みの奥にインサートしたい!というのが、彼女が振り上げた足を下ろさずに、椅子に座った俺のその背もたれに足を置きつつ身を寄せて、その手を俺の顎と頬にかけて愛撫するように撫でる彼女の視線を受け止めながらの感想だ。
しかし、俺には聞こえていたぞ?札を叩き落としたときにしたであろう栗毛ちゃんの「チッ。」という舌打ちが!
だが悲しいかな、男とは下半身でものを考える生物である。
具体的には上の二つに割れた灰色と下の二つに分かれたツーボールだな。
興奮すると、どちらも脳汁垂れ流しだぜ!
と考えてるうちに他のダンサー達もテーブルの間を歩き回り、おひねりを胸の谷間に押し込んでもらい、上やら下やらを揉んだり撫でたりしてもらいながら、嬉しそうに行き来している。
それぞれに馴染みの客なり、買って貰いたい好みなりがあるのか、思い思いの客の前で特別なアピールというヤツを披露している。
ケンタなんかは気に入られたもんで、代わる代わる腿の上に座るもんだから、濡れて冷たくて気持ち悪い、と言ってる。
彼女らが通る時に観察したが、黄色ビスチェちゃん達はどうやら全員が兎の獣人らしい。
恐らく残りの四色の娘も兎族なのではないだろうか。
まだソファーのカイゼル髭のところに居るから回るのかどうか知らんけど。
恐らくは、あそこの席がAコースというやつだろう。
その周りがBコース、で、更に外側がCコースと。
Aコースの料金は1オラム(120,000円)でCコースは1アルグ(9,000~10,000円)。
そりゃ、Aコースに陣取って御付きの人も含めて金払ってるだろう奴だ、その周りを売れっ子が囲い込んで、黄色ビスチェちゃんが隙を伺う構図にもなるわな。
因みにCコースと思われる連中の席はサラッと流すだけだった。
やはり折角の機会を得たのだから、此処は一つウサギさんを1匹確保せねばなるまい。
さっきは見てなかったプログラムを見るに、このカンカンには兎族としてまとめて参加しているらしい。
この後もプログラムの説明からすると、ストリップやポールダンス、ラインダンス、ベリーダンスといった演目があるが、兎系獣人は出ないようだ。
となれば、ここで札を入れるしかないわけだが、さて幾ら出したものか。
暫く観察した限りでは、人気にもよるのだろうが概ね5~10アルグ(45,000円~100,000円)程だ。
一晩貸切とすれば、そう高すぎる値段とも思えないな。
ふむ、人気のない娘を誘うなら、俺達4人で追加の支払いが金貨4枚位で済むとすれば・・・。
兎系獣人である上に、値段の割には彼女らの容姿はかなり良いので、費用対効果はかなり高いと言える。
「で、どうするかねチミたち。」
俺の言葉にトシとソノの緩んだ顔がハッと真剣な顔に戻る。
「此処はノる手しかありませんな。他の手は愚策としか。」
キリッとした顔で腕を組み、頷くようにトシが言い切る。
それを受けてソノが、
「では某もまたノらずにはいきまスまい。一蓮托生なればこそ。」
と、鋭い視線を送るトシに強い意志を感じさせる眼差しで答える。
「ああ、いや、うん。分かった。とりあえず1オラム以内に抑えてくれれば入れていいよ。」
イレテ、イイ・・・、そう呟くと二人とも顔を見合わせて、おおおー、と声を出して破顔する。どんな漢字を当てたんだか・・・。
「で、ケンタはどうする?」
特に意見を言ってなかったケンタに振ってみると、
「ウシも気になりますけど、ウサギも悪くないですよね。先輩?」
おお、どうやら乗り気のようだ。
恐らく此処で入札の流れになってなかったら、ウシさんの所にでも行ってたんじゃないだろうか。
俺も誰に入札するか決めねばな。
などと考えてる間にAコースを離れた4色ウサギがBコースの席の間を巡りだす。
「おい、あの4人には値段に関係なく入れるなよ?」
声を抑えた日本語で、3人に注意する。
「あのAコースですか?」
何故駄目なのかよく分かってない2人を置いて、ケンタが確認を取ってくる。
「ああ、あのウサギちゃん4人にはAコースの奴らが全員に赤札を入れてる。あいつ等が何処の大店の番頭だかマフィアの顔役だか知らねぇが、コナ掛けるのはちと御遠慮って感じだわ。」
俺の言葉にトシとソノは、いま気付きました、と言わんばかりに軽く目を大きくする。
おいおい、如何に無法地帯とは言えない、それなりの法と秩序に守られた世界でも、日本を基準にする訳にはいかないんだぞ。
大体、お前らはソレを既に学習したと思うんだがな。
まぁ、生まれてから20年以上も日本で暮らしているんだから、怱々抜ける感覚でもないのかも知れんが。
そんな事を考えていると、4色ウサギちゃん達が俺達のほうにもやってくる。
隣の親父達もご機嫌でおひねりを入れたり、胸にキスするツワモノもいる。
胸元に溜まったおひねりなんかは、さり気なく左手首に下げた布袋に移動させているが、たまにポロリと落とすのに気がついた。
よくよく見ると、床には何枚か硬貨が転がっているが誰も拾わないでそのままになってる。
俺は気になった事をケンタに確認する。
「なぁ、この床の金ってアレか、チップってヤツなのか?」
ケンタも床の金には気付いていたようで、考える時間も無く直に答えが返ってきた。
「恐らくは。此処に入って遊べるだけのお金を持っているなら、一々銅貨なんかを拾い集める程でもないでしょうし、見栄ってやつなんじゃないですか?」
予想通りの答えが返って来たので大丈夫だろう。
トシとソノも日本人的リードエアーで金には手を出さないでいるし。
二人とも気付いてるよな?
「まあそうなるか。片付けに回る下女なんかへの互助目的なのか、彼女らの見栄なのかは聞かなきゃ分からん事だろうけども。」
聞いてみますか?とケンタがニヤニヤ笑ってるので、それこそ野暮ってもんだろう、と返しておく。
さて、そんな遣り取りをしてる間に彼女らは俺達のテーブルにやって来て、それぞれに俺達の肩に手を置いて科を作り、無言でおひねりを要求する。
ケンタは余裕の笑み、いや、金を預けていないから、苦笑しながら俺に要求するように視線を向ける。
トシとソノの方は、いや、まあ撃沈だなありゃ、顔が真っ赤だ。
確かに4人はウサギさんチームのリーダーを張るだけの美しさがある。
ファッション誌のモデルで喰っていけるような見事な容貌と少し高めの背。
それなりに自己主張の激しい胸と細く括れた腹から腰のライン。
勝ち気の赤、おっとりの緑、妖艶の紫、ニヒルな水色。
うん、これは見事だ。
彼女らの表情や仕草から大まかな性格が読み取れる。
或いは、そう取られるように性格を仕草で補強しているのかもしれないが、それと分かるような押し付けがましさが無いなら気にする必要も無い。
俺は懐から布袋を取り出して、大銅貨4枚を掴み出すと1枚づつ彼女らの胸の谷間に押し込もうとして。
「ねぇ、それだけ?」
赤のウサギは、溜息をつくような、囁き掛ける様な優しい声音で、強請る様なものではない純全な疑問を問いかけるような調子で。
貴方の器はそれでいいの?
そんな問いかけをされたような気分にさせられた。
俺の中の何処かの何かが熱くなり、そして別の部分が冷えたような感覚を覚える。
俺は、取り繕ったような苦笑を浮かべて大銅貨を戻して銀貨を4枚取り出し、これ以上は器じゃない、と言いながらそれぞれの胸の谷間に押し込んで胸を揉んでやる。
これぐらいの役得はあってもいいだろう?
何故か尊敬の目を向けるトシとソノ、やはり苦笑で応えるケンタ。
赤いウサギの胸は、仕返しに、と強めに揉んだ後、乳首を摘んで軽く擦る様に捻ってやった。
彼女らはそれぞれに俺達の頬にキスすると、次のテーブルに移っていった。
赤いウサギは不満気な視線を残して行ったので、仕返しには成功したようだ。
おっと、ボーっとしてる場合じゃないな。
殆ど手を付けられずにテーブルに置かれて行くままだった料理のうち、手掴み出来る物を摘んで口に放り込む。
今日の目的、いや、今回の目的を果たさねばならん。
まだニヤついているトシとソノを促して、ウサギ狩りをしなければいけないな。
そんな事を考えながら、立ち上がって俺の標的となるプラチナブロンドちゃんが何処にいるかを探す。
俺達のテーブルに来ていた黄色ビスチェちゃん達の中で、彼女が一番俺にアピールしてたのを覚えている。
美しい女性に期待されたならば、その期待に応えてやらねば男が廃る!と色欲全開で自己正当化する俺。
「おい、早いとこウサギちゃんを捕まえておけよ。俺の方は差し当たってプラチナブロンドちゃんのとこに行く。」
そう言い残して、それぞれの前に銀貨を1枚づつ置いてテーブルを後にする。
最早俺には、あの柔らかな金の髪と垂れ下がった白い毛並みの耳しか目に入っていなかった。
2014/01/05 誤字訂正