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―――俺と主任と異世界と。(偽)  作者: 北島夏生
第1章 ―――俺と主任と異世界と。
13/13

1-11 俺達は兄弟になるぞ

エロが無い、虐殺が無い・・・つまり筆が進まない・・・。

あ、一応、見る人によっては気分が悪くなるような話も混じっていますのでご注意下さい。

エロが足りない・・・。


それぞれに朝食を食べ終えた者から、ソノの寝ていた部屋に集まってもらう。

今日の所は簡単に説明して、また明日にでも此方に来る事にしよう。

流石にこれから先を決める前に、主任にはある程度の状況説明はしておいた方が良いだろうしな。

上に上がる際に、レンティアがティーセットをアイゼルナに持たせてくれたので、今はそれを飲みながら全員集まるのを待っている。

俺の方は暇潰しに、とベッドの上で胡坐(あぐら)をかいて、レティを抱えるようにして座らせると、彼女のだけ弄ってなかった兎耳を思う存分、弄り倒してやる。

余りに反応が可愛いので、我慢出来ずに俺の部屋に移動して1回戦致してしまったのは内緒だ。

とは言えないな、帰って来たら全員集まって待ってたし。


取り敢えずは気を取り直して、改めてアニータに自己紹介してもらう、とは言っても教会のアニータの事は全員知ってるとは思うが。

問題はアニータの扱いだろうな。

一応はケンタのところのツレに含めて考えているけど、ケンタの話からすると据え膳(・・・)なのは間違いない。

とは言え、トシやソノは俺とケンタに遠慮して、先には食わないだろうな。


俺は、お互いに自己紹介し合うウシさんとウサギさんを見つつ、ケンタに小声の日本語で話しかける。

「なぁ、ウシさんは一先(ひとま)ずお前の所でいいな?」

発情しているウサギさんなら兎も角、普通に女を扱わせるならケンタが一番手際が良いだろ。

トシもソノも裏の有る様な話には(うと)いだろうしな。

「ええ、構いません。でも良かったんですか?先に頂いてしまいましたけど。」

良くはないけど、必要な事だしな。

その辺りは分かってるんだろう、済まなそうな顔してる訳でなし、確認というか軽いからかいを含ませただけだろう。

「ん?ああ、良くないけど、良い。俺のウサギさんの機嫌が悪くなるのが嫌だっただけだ。」

ま、特に気にする必要も無い事だわな。

どうせアニータには、全員に代価を支払ってもらう心算(つもり)だし。


「僕の所は良いんですか?」

ケンタは渋い顔を作って戯言にノってくる。

「いや、だって、お前んとこだったら、気に入らない娘は要りませんよ?とか狂育(・・)してそうだし。」

お前なら本当に村一つのハーレムでも運営出来そうだよな。

「何か含みの有りそうな言い方なんですが・・・。」

ケンタは困ったような顔で返してくる。

「キニスンナ。まぁ早いとこ全員が兄弟(・・)になって貰おうかね。」

俺の顔が黒いニヤリ笑いになるのを見て、本気で実行すると分かったのだろう。

そうと分かればケンタの方に否やは無いのだ。


「了解です、お兄さん。」

そう言ってニヤリと笑うケンタ。

お前の方が先なんだから、お前が兄じゃないんかね?

とは言え、ケンタから、お兄さん、なんて呼ばれると、背筋を這い上がってくるような嫌な不快感を感じる。

「うへぇ、何かモゾモゾするわ、不快な方向で。ま、お前のツレという事になった時点で問題は無いんだろうが、念には念を入れて、と言う事でだな。」

そんな風に説明して正当化を図る俺。

「本音は・・・。」

そんな事思ってもいないんでしょう、とばかりにツッコミが入る。

「あの胸を存分に弄り回したい!」

満面の笑みを浮かべて答えてやった。


「何の話なんすか?」

トシが俺たちの話が気になったのか、ウサギさんから離れてこっちに来た。

ついでだからソノも呼ぶか。

「トシか、ああ、ソノも来てくれ。・・・取り敢えずお前らもあのウシさんを抱け。おっと、お前らの意見はいらんぞ、必要な事と思って確り励めよ?」

俺が真面目な顔で、アニータを抱け、と指示を出してきた事に面食らったのか、トシは驚いたように質問してくる。

「理由を聞いても?」

よしよし、ちゃんと質問に答えてやるから身を乗り出してくんなよ、落ち着け。

「まぁ、ケンタから聞いた事と俺の予想の混じったモノなんだがな?」

そう前置きをしてから詳しい説明をしてやることにする。


「まず、教会の目的を大雑把に言ってしまえば、人間の遺産の復活とそれを手に入れる事だ。それを独占する事が教会の権力の増大と利益になると言える。」

まぁ此処までは理解してるよな?

「そこに登場した『人間』、コイツが正当な遺産の継承者というか相続人として現れた訳だ。と、なればその『人間』とやらを教会で囲い込みたいし、正統な後継者を得たい。ぶっちゃけて言えば、あのウシさんは『人間』の子が欲しい訳だ。」

コレがアニータの行動の大雑把な原理だな。

だが、それだけで動いてる馬鹿でもないだろう。

「まぁ、そこの所は腐っても貴族の端くれとも言えるんだがな?『詠唱の正確な発音』という知識を有していると思われる『人間』だぞ?他の教会も巻き込んで、教会に属する子が産めそうな女、その全てを宛がわれても不思議は無い話だ。」

そう、別に自分が子を産まずとも教会の利益は確保できる、教会の利益は、な。

あの教会にもアニータよりは年下だが、子を産めそうな女は他にも居た。

そして実際に抱かれたのはアニータだけだ。

あちらから申し出て、何人もの弟子を抱かせる事だって出来たはずだ。

これが貴族の屋敷にでも泊まっての事なら、何人もの女が饗応に出される事だろうさ。

そして、少なくともそういう目的を持って事が行われたのが、この世界の聖娼の本質だ。

権力者には、教会の中でもそれなりの地位の女を実質の妾として宛がったはず。

アニータに聞いた話の中では明確にはしてなかったが、権力者の元に行く(・・)女と、平民の相手をする為に教会の施設に居る(・・)女が同じ訳が無い。


「と言うわけで、彼女としては俺達の誰が親であろうと構わないが、少なくともその子は彼女なりに愛情を持って育てるだろうし、俺達の方としては誰が父親か特定されない方が有り難い。」

アニータの認識では、俺達は既にウサギさんと接触してしまった後だが、少なくとも殆ど同時期に俺達の胤を得る事が出来る。

それも、教会の中の誰よりも早くだ。

此処に、俺達とアニータ個人の利益を摺り合わせる為の余地が有る。

アニータの方は誰でも良いから早く人間の子を身に宿したい、可能であればウサギさん達より早く産みたいと思っている。

それはアニータ個人の教会での地位向上には、打って付けの一手だ。

そして、俺達は身分の保証と安全が欲しい、これは大前提。

その上で、それを維持する為の助力を要求したい。

つまりは、地位の向上したアニータに、子の父親を守らせたいという事だ。

そして、それを特定の個人だけに限らず、俺達に適用させるには。


「ええと、誰か分からない方が良いんすか?誰の子か分からなくて不都合は無いんすか?」

トシはもうちょっと汚れた方がいいぞ、長生きしたいんだったら。

まぁ、そんな日本人的な心の身奇麗さも、人間的には悪くないんだけどさ。

「そりゃ、誰が父親か分からないなら優劣を付けられないだろ?教会で洗脳するみたいに養育された子の方だって、それが分からなけりゃ扱いを変えられない、つまり全員を親と思って扱う事になる。」

ま、汚い事を考えるのは俺と主任とケンタだけで良いとも言えるがね。

でも、まぁ、お前らには何の心配も無く、ウサギちゃんと共に生きる人生を謳歌(おうか)させてやるのもアリなんじゃねぇかと思ってるんだが。

「教会と事を構えるつもりは無いが、あちらがどう思うか分からないし、保険みたいなものだと思って抱けばいいさ。」

そう、気にせずに抱きたまえ、俺が許可しよう!

実効力は推して知るべし。


「よしよし、お喋りはお仕舞いだ。取り敢えず今日は1回村に帰る。また明日来るから、その時に詳しい話をしよう。」

ソノとトシが納得した所で話は終わりだ。

今度は忘れずにお土産を買って帰らないとな!

また忘れたとなれば、今度は熊鍋を作らされかねん。

「じゃあ、皆で村に持って帰る食料を買いに行くぞ。で、アニータは如何するんだ?」

そう言って立ち上がってアニータに手を差し出しながら確認すると、ウサギちゃんとのお喋りを中断して、

「私は、教会に戻ろうと思います~。また、明日いらっしゃるんですよね?」

と言って手を引かれながら立ち上がる。


「ああ、明日教会の方に顔を出そう。」

ついでにアニータの耳に口を寄せて、小声で、俺達(・・)の為に確りと体を磨いて準備しておくんだぞ?と付け加える。

それを聞いたアニータの目が一瞬大きく開かれ、そして直ぐに恥ずかしげに俯いて、はい、と微かな呟きの様な返事が聞こえた。

やはり、と思う。

積極的に嫌がっては居ない様子を見るにつけ、俺が予想したのとは大きく外れてはいないだろう。

彼女には彼女なりの打算が有って、それに従ってケンタの誘いに乗ったのだ。

胤の代価は、その身体(からだ)と身分の保証と。

後は何を支払ってもらおうかな?

ふむ、ケンタは言い寄ってくる女の、こういった打算的な部分を嫌ってるんだろうかね。

となると、ウサギさんの愛は本当に底抜けの無償の愛に近いのか?

まぁ、ウサギさんは奔放に快楽を求めているだけ、とも言えなくは無いが。


「では、解散。」

アニータは手をブンブン振りながら帰っていったが、ウサギちゃん達はそのままだ。

帰らないのか、と問うと、お見送りします、との事。

「ああ、買い物してから帰るよ。」

と言うと、それじゃあ一緒に回りましょう?と。

出来れば目立ちたくは無かったんだが、楽しそうに俺達の手を取ってくる彼女達の事を思うと無碍に扱う気にもなれなくて。

結局は肩を竦めてケンタ達を見て、苦笑いをしながら歩き出すのだった。


まぁ、先ずは背負子(しょいこ)からだな、俺達4人分を買って背負い、目当ての食品を求めて歩き出す。

昨日買いそびれた髪飾りも忘れずに買ってやらないとな。

朝も朝、日本でなら漸く会社にでも出勤するような時間帯ではあるが、露天の中には店を畳み始める様なところもある。

前回来た時にそれなりに調べた店の売り物であるが、実の所、其れ程役には立たなかった。

それと言うのも、店、と一概に言ってもその実態は『雑貨屋』の様なものであり、前回調べたのと全く同じ物を扱っている店というのが少なかった。

これはどうやら、店に品物を売りに来る『生産者』から直接買うという、相場より安くて利益が見込める物だけ仕入れる、というスタイルによるものらしい。

店の上に立つような、交易を行っている『商会』の方はどうか知らないが、街中の小売はそんな塩梅なのである。


とは言え、パン工房や調味料、生鮮食品を扱うような店、鍛冶屋等、街中に工房を持っている所や確実に売れる商品を扱っている所はそれを専門にしているようではある。

日本のように町の範囲が曖昧な所と違って、この町は明確に町の外と中に分かれている。

行ける範囲内の店が分かっていて、仕入れた商品が口コミで伝わる程度の狭いコミュニティでなら、そんな仕入れでもやっていけるのだろう。

小売市場という概念の元に作られた地区とかも有りそうではあるが、結局は仕入れの段階で破綻する事になるんだろうな。

一応、市場(マーケット)は定期的に行われているようなので、出来ない事もないのだろうが。

日本のスーパーマーケットのような概念の店舗とかなら儲かるだろうか?

恐らくは、クラサドルで始めるならばコンビニに毛の生えたような大きさの店舗がいいところだろうが。

店舗の大型化を阻む要素は幾つも有るが、先ずは此処の居住者数の問題がある。

そして『掛け値』の問題だ。

それから、主食になるパンを工房が専売しているのを筆頭に、食品に関しての制限というのもある。


居住者数についてはどうにもならないな。

敢えて言えば、町に滞在する冒険者については自給自足という事が出来ないので、ほぼ完全な消費者と見て良い。

自給出来るのは、(おおむ)ね肉類に限られるし、周辺の農業による食糧生産に関しては町の需要を充たす程ではない。

こう考えると、この町は恐ろしい程に不安定なんだよな。

他所からの食料の流入が無ければ容易に破綻し得るだろう。

それでもこの町がそれなりに栄えているという事は、何某(なにがし)かの政策に()るものか。


そして、掛け値か。

まぁ、ファンタジーじゃお約束だわな。

交渉で値段を決める、というヤツだな。

だが、実際の所は店舗の規模を大きくする上では非効率この上ないものだ。

客の一人一人に対して一々接客していたら何時まで経っても客が捌けない。

となれば店員を増やす事になるが、人件費はかなりウェイトの高い支出だ。

ま、奴隷が使えれば、その辺りは改善されるのかもしれないが。

ツケがきくのも問題ではある。

一月毎ではあるが、支払い能力を超えるかどうか一々確認なんて出来ない。

冒険者なんて特にそうだ。

ツケ払いの度に居住の証明を確認するのも客の回転率を落とす。

となれば店員を・・・という事だ。


そもそもが回転率が悪ければ生鮮食品と言う物が足を引っ張る。

日本のように食品を長期保存出来る環境には無いからな。

安定した供給と安定した消費、どちらが先なら市場規模を拡大出来るか、ではない。

同時に大きくしない限り、損失に耐えられずに潰れる恐れがあるだろう。

供給が安定しなければ他者の参入を許し、過多になれば値崩れになる。

消費期限の短い食品でそれが可能か?

まぁ、それも仕入れが可能である事が前提ではあるな、下手をすれば食品の取引に関する政策の内容次第では、商売すら出来ないかもしれない。


後は専売か。

コレについては法制度を調べるしかないな。

事に依ると、スーパーマーケットよりも、専門店街といった趣になるだろうな。

そもそもが大型の建造物なんて可能なんだろうか?

ある程度の大きさの建物の設計がほぼ同じ事を考えると、ね。

場合に由っちゃ商店街を整備する、何て事で対応するのか?

何処にそんな金が有るんだっつーの。


ああ、止めだ、止め。

『スーパーマーケット』も『現金掛け値なし』も、アイデアとしては商会相手の取引のタマに幾らかなりとも使えなくは無いが、実際に実現するには問題が多過ぎる。

ケンタ達が背負子に食品を載せていくのを眺めながらの思考を中断する。

何時の間にやら俺の背負子にも荷物が載っている。

ハンナ達が喜々として積み上げたようだ。

気付いた俺が振り返ったら、イイ笑顔のハンナが、両手に持った瓜(恐らくはメロン)だろう物を載せようとしたところで固まってたし。

まぁ、いいか、取り敢えずは昼前には此処を出たいな。

荷物を持っている事を考えれば、移動に8時間位見積もっておいてもいいだろう。


護身用の武器は・・・やっぱりいらないか。

そもそもがマトモに使った事もない武器を引っさげて何と戦うというんだ。

対人、恐らく山賊相手ではお話にならないし、獣相手でもイノシシ相手にあのザマだ。

野兎のような小動物なら何の脅威になるものか。

そうだな、マトモに戦った所で人間が勝てる相手なんて小型犬一匹相手がいいとこだ。

警察犬、アレを基準にすれば、狩りの出来る中型・大型犬1匹と人間一人では武器が有って漸く勝負になる位のものだ。

つまりは、俺達が武器を持って歩いた所で多少の威嚇にしかならない。

であれば、態々高い金を払って死重量を増やしても意味が無い。

(むし)ろ軽くして、走って逃げた方がいいくらいだな。


おっと、考え込んでたら又もや荷物を載せられてしまったようだ。

振り返った所でツレの3人が、笑いながら思い思いの方向に顔を背けている。

コラ、と手を振り上げると、頭を(かば)いながらキャッキャと笑いながら逃げる。

おい、誰かにぶつかって面倒事を起こすなよ、とは思うが楽しそうにしているのなら水を差す気にもなれなくて。

何気無い様子で店を見て回る振りをして、こっそり荷物を載せようとした所を迎撃して捕まえたり、逃げられたり。

そんな騒がしさを纏って俺達は買い物を進めていく。


この町は遺構の上に作られたという話だが、最初から計画的に作られていたのだろうか。

道は直線が多く、区割りが確りしているようだ。

街灯こそ無いものの、石畳がキッチリと敷かれていて、糞溜めになっている場所もない。

排水溝が有り、どうやら地下水道に流れ込んでるらしい。

通り過ぎるヒトは概ね2種類。

冒険者風か、町人風か。

前者なら大抵は鎧下か革鎧で歩き回っている。

結構危ない職業なのか、耳が欠けていたり片目の者も居り、まぁ当人には悪いが厨二病的にはカッコイイ見た目だ。

流石に抜き身の剣を持ち歩く様なのは居ないが、短めの剣を帯剣する者は多い。


町人風と言っても油断は出来ない。

ゲルマン人的コスプレケモミミ中年とかが歩き回ってるのだ。

見ていて痛々しい。

いや、引っ張っても抜けない尻尾とかも合わせると更に倍率ドン!て感じだけど。

因みに、ヴィクトワールは馬っぽい耳だったな。

ま、いいか、そんなどうでもいい話。


通りかかるヒトの中では見かける事が少ないが、自警団と(おぼ)しき者などは身長より短い槍を装備していて、革のカバーを付けている。

腰には細くて丸い棒のような鞘の短剣を差していて、周囲に視線を巡らせながら巡回しているようだ。

此方は2種類居るようで、チェインメイルに派手な染めだか刺繍だかのサーコートを着た者と、要所だけを革で覆うタイプの鎧にサーコートを着込んだ者だ。

ウサギちゃんに聞くと、前者が領軍で後者が自警団なのだという。

まぁ触らぬ神に何とやらで、余り視界に入らぬよう、視線が合わぬようにウサギちゃんの陰でやり過ごす。

リア充爆発しろとか何とか思われる以前に、見つかって職質されたら即アウトだぜ。


そんな風に歩きながら観察しているが、行き交うヒト達は全員が獣耳標準装備で、大多数は尻尾付き。

因みにハンナ達に尻尾は無い。

番のウサギちゃん達の中では、ゴール村の娘にだけ、毛玉のような尻尾があるらしい。

気にはなるが、無いものは仕方が無いな。

見ている限り、実に色々な種類の獣耳があり、犬猫の類だけでも毛の色や長さが違うのが見て取れる。

この辺り、遺伝はどういう風になってるんだろうか。

こっちに拠点を作れたら調べて回るのも面白そうではあるな。


そうしてアッチに行ったりコッチに行ったりで、買い集めた食料品で背負子を一杯にした俺達は、町の西門にやって来た。

崖に近いのは南門だが、食料を背負子に満載した男達が森に向かう南へ行くのも怪しすぎるというものだ。

ウサギちゃん達に別れを告げて、俺達は門を(くぐ)って街道に出る。

常駐の自警団員こそ居るものの、門自体は開いていて自由に通れるようになっている。

街道からそのまま馬車が入れるような大きな門と、その脇に人が二人並んで通れる程度の小さな門。

市壁自体は、レンガ積みの5メートルそこそこの物で、どこぞの城の城壁とは比べ物にならない程度の物だ。

間違っても巨人を退けるような強固な物ではない。

大扉も木製で観音開きの質素な作りをしていて、レンガのアーチが掛かったカマボコ型。

高さこそ馬車が通れるくらいに4メートル程ではあるが、斜め上の辺りのレンガに馬車を擦った跡があるのはご愛嬌か。


俺達が向かおうとしている階段自体は、町の真南より数百メートルは西側に上り口があるので、街道を少しばかり行って人が居ない時に森に入って南に向かう。

採集やら狩やらで、南に向かう獣道のような小道はそれなりにあるのだ。

まあ、迷った所で崖自体は木々の合間に見えているので如何にでもなる。

むしろ、道が如何のよりも獣に襲われたらアウトという状態なんだが。

とは言っても。クラサドル周辺の森では南側が一番獣が少ないらしいが。

それについては誰も口にはしない、何かフラグが立ちそうだから、という曖昧な理由でトシが口に出すのを禁止するよう提案したからだ。


俺達が町を出てからは、取り敢えずは順調に進んでいると言って良いだろう。

狩人やら獣やらに出くわす事も無く崖まで辿り着いた。

西に流れすぎたらしく、上り口まで余分に歩く事にはなったが。

そうして上り口で休憩を取って食事にする。

弁当等という高尚な物は無いので、乾燥した果物やら木の実やらをポリポリカリカリと齧って水で膨らませてお仕舞いだ。

十分に休憩した俺達は、研究所への道で最大の障害へと挑戦する。

とは言っても、ただ、ひたすらに階段を上るだけなんだがね。

唯の階段でさえも、手摺も無しに高さ1000メートル程を背負子を背負って上るとなると、命の危険を感じずには居られないというもの。

此処さえ乗り切れば後は何とかなるだろうから、励まし合い、休憩を(はさ)みながらゆっくりと上って行く。


そうして日は既に傾き、全ての景色に薄い黄色のベールが掛かるように見える頃に、俺達は崖の上に辿り着いた。

後は研究所までは歩いて2時間半、いや、荷物を持っているので余分に休憩を入れれば3時間程か。

日没くらいには研究所に戻れるだろう。

流石に皆、疲労の為にか口数は少ない。

俺も現実逃避気味に思考に没頭して、体の疲労から意識を逸らしている。

はてさて、主任には如何説明したもんかな。


取り敢えずの献上品は様々な食料品だな。

機嫌を取りつつ説明。

あ、何か頭にゲバ棒が打ち下ろされる幻覚が見えた。

コレが予知と言われる特殊能力か。

てれってれー(効果音)、俺ちゃんは新たなスキルを獲得した!


スキル

未来予知(偽)


効果

数多(あまた)の平行世界から、起こり得る最も多い(・・)可能性を読み取る。

つまり、煮えたぎる熱湯に手を入れると、火傷する事が予知出来る程度の精度を持つ!

現実逃避の末に獲得する。


っつーか俺はホントに生きて明日の日の出を見る事が出来るのか?

ウサギちゃんとベッドの上の格闘技を繰り広げると別の意味で見れなくなりそうだが。

いやいや、そんな事考えてる場合じゃねぇな。

ま、流石に殺されはしないだろうが、どんなペナルティ貰う事になるもんかね?

はぁ、やだやだ、と肩を竦めて頭を振るとケンタが話しかけてくる。


「流石に食料だけじゃ機嫌は取れませんかね。」

ケンタの方も余り浮かない顔、と言うよりは疲労が(にじ)み出てるな、これは。

「いや、まぁ、何とかな、らないよなぁ、これは。」

よしんば、機嫌が取れたとしても、情報漏洩(ろうえい)の方が有るしねぇ。

「いえ、僕は何とも言えませんが。」

最後は人事になるわな、俺もケンタの立場だったらそうするわ。

「ま、拠点が作れそうだという事と身分証明書で何とか勘弁して頂くしかないよな。」

この辺りで何とか手を打ってもらえないもんかな。

汗を掻いた頭皮がむず痒くてガシガシと掻く。

シャンプーが無くて抜け切らない油が気持ち悪い。

「拠点の方は、取引材料にはフライング気味ではないですかね?」

だろうなぁ、とは思うが、まぁ其処は言い方次第というヤツで。

俺は手に付いた油を服で拭う事にした。


「んー、ウサギちゃんとウシさんの協力があれば、まず失敗は無いだろう、特にウシさん。」

あれで、あのシスターは町内の事にはそれなりに顔が利く。

在ればだが、不動産屋のようなモノが有れば、顔見知りの商人くらいには聞いて回ってくれるだろうよ。

「まぁ、顔役、といった意味合いで言えば、領主代行官、領軍指揮官、自警団長と同じテーブルに着ける、と言う程度ではあるらしいですからね。」

町の行く末を検討する会議、何てモノがあるなら、それに参加して公聴の対象に成り得る程度には確りした地位があるのだ、『牧師』と言うものは。

見た目はけしからんシスターだけど。

バルンバルンだけど。

もうアレは心の中で乱舞乳(らんぶにゅう)と呼んでやろう。


「それを考えるとソノの事もファインプレーと言えなくもないんだよなぁ。」

心の中ではあの乱舞乳が跳ね回っているが、それは顔には出さずにソノを見ながら言ってやる。

ソノの方は複雑な表情だが何も言わない、というより言える程の余裕が無い。

「結果から言えばそうなりますね、かなり危ない橋を渡りましたし、今も尚、渡っている最中と言えなくもないですが。」

だよなぁ、遅れてたらソノの命がヤバかったし、人間だとバレたのも大きい。

そして、極めつけは『知識』だな。

ショボイ魔術しか使えないアニータが、目に見えて効果を実感出来るほどの治療を為し得た。

それもケンタが教えた詠唱に変えて直ぐに、だ。

お家騒動だか相続争いだか、それから逃れる為に教会に入った、と言ったアニータだが、本当の意味で納得してそうしたかなど、本人にしか分からない事ではないのか。

ほんの僅かにでも燻っている火種が有ると言うなら、俺達との接触は油をかけるようなものだ。

大量にぶちまける、つまり受け止めきれないと理解したなら火種は消える。

だが、中途半端に掛かったなら、火種は油を得る事によって勢いを増して燃え盛る。


はてさて、主任への説明は如何したもんか。

何か考えがループしてる気がするんだがどうなんだ。

此処まで来たら腹を(くく)って、いや、腹を見せてキャウンキャウンと鳴いた方が良いような気がしてきた。

今度は熊肉が食いたいとか言い出したら、ウサギちゃんと一緒に愛の逃避行に出るぞ、俺は。

あ、皮袋が殆ど空だから、その前にお小遣いも貰わなきゃ。

うわぁ、問題山積みの上にお小遣い下さい、とか洒落になんねーぞ。

毎月のお小遣いを強請(ねだ)る肩身の狭いお父さんかよ。


そんな風に身悶えするやら頭を抱えるやらでトボトボ歩いているうちに、木々に紛れて研究所が見えた。

漸く辿り着いたと、安堵の溜息を誰が吐くとも無しに吐いて、残りの道程(みちのり)を進む。

しかし、他のヤツは兎も角、俺には辿り着くという喜びはあれど、心の中は曇っていて晴れることはない。

家に帰るのが嫌で、会社に残って残業する事で家に帰るのを遅らせるお父さんの心境がよく分かった。

分かりたくなかったけど。


説明には全員参加だな。

漏れなく主任の嫌味と小言を共有しよう。

そう思うと幾らか心が軽くなる。

と、同時に少し黒ずんだかも知れないが気にしない。

次に町に行った時にはウシさんの胸に癒されよう、勿論ウサギちゃんにもだけど。


ま、そんな事は置いておいて、先ずは拠点か。

出来るだけ早く研究所の全員を町に移住させねば。

研究所が魔物や獣の襲撃を受けない保証は無いし、はづきちゃんを出来るだけ早く此処から遠ざけたい。

後は。

西門から出る時に、街中に顔を見たドミトリ。

ヤツの仕事は何だった?


高校生の書いたシナリオの勇者様じゃあるまいし、気のせい、などで済ますものかよ。

相手が事を起こすと分かっていて、呆けてみすみす見逃す?

相手をブチのめしておきながら、相手が最後の手段を使うのを待ってやる程の余裕は無いんだよ、コッチには。

そんな下らない事でシナリオを進める展開なんぞ望んじゃいない。

ヤルからには止めを刺すまで確実にヤルぞ。


敵対するなら必ず殺す。

そういう世界に来ちまったし、そういう世界に()れちまった。

口止め料が足りなかったか?

それとも、多過ぎるからってお釣りを返そうとしているのなら殊勝な事だ、お前の命がそんなゴミ屑程の値段とは、全くの驚きだよ。


俺は顔が強張っているのに気付いて、両手で覆うと溜息を吐きながら揉み解す。

戦い、だな。

今日も、明日も、明後日も。

色々な意味で戦いだよな、生きる事は。

何時まで続くものやら。

何時まで続けられるものやら。

何にせよ、今夜は決戦だ。

主任に説明する内容を思いつつ、小高い山の上の研究所の、その正門に手を掛ける。


天には夕陽を浴びた赤い帯が空を切り裂き、見た事もない配置の星が東の空を彩り始める。

再び溜息を吐きつつ敷地に入って思う。


「何処もかしこも血生臭い。地球も此処も、ヒトが居るだけでそうなる。」


「血の臭いは、初めての女を連れ込んだベッドの上だけで結構だ。」

それを聞いた他の面々の顔がどんなモンだったかは、俺は見ていない。

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