精霊使いの戦い
三十分ほどヘリコプターでの移動で、あたりは暗くなっていた
まだ四時にすらなっていない
暗いのはここ特有の気候だ
常に暗くて、太陽が昇ることのない(正しくは光が遮られている)のろわれたような土地
「ここがテルツァ鉱山か・・・。本当にゴーストタウンだな」
ヘリから降りたユーリスは、ぼそりと静かにつぶやいた
「廃鉱になってから五年は経つけど・・・ここまで不気味になってるなんて」
「これも魔神のせいか・・・」
ユーリスは目を細め、暗い森の道の奥を見つめる
テルツァ鉱山―――かつては大量の鉱石を産出する最大の鉱山だった
放棄された無数の巨大な山は、もう見る影もないほど朽ちかけている
この鉱山に
「魔神がいる」
ユーリスは右拳をぎゅっと握る
「そうね、気をつけましょ。ここには人はいないけどね」
「人以外はいますから」
森にはおびただしい量の鬼火か浮いている
青白かったり、赤かったりと色は様々だが、すべてたちの悪い精霊だ
「よし、行きますか」
二人は鉱山に向かって走っていった
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ユーリスたちはテルツァ鉱山内部入り口の穴の前にいた
ここは簡単に言うと鉱山採掘後というところだろうか
なんと魔神は洞窟内にいる―――出現したらしい
ユーリスたちにとってははた迷惑だろう
「それにしても」
「暗いですね」
洞窟内はもはや真っ暗の領域だ。何も見えない
「ここは精霊魔術しかないわ。光りかが―――」
「ちょ、ちょっと待ってください」
精霊呪文を唱え始めたカナンをユーリスが制す
「えーと、明かりは俺が唱えるんでカナンさんは出来るだけ体内魔力を消費するのを避けてください」
「それは分かるけど、『ライト』の魔術より明るくはそう照らせないはず」
「大丈夫です。焼き払う猛火の球―――『火炎球』」
ユーリスが分類『火球創造』の初級魔術を唱える
普通の大きさは手のひらサイズ。大きい人はおよそ五十cmくらい
競れ煮対してユーリスの大きさは
「・・・す、すごい・・・」
カナンが感嘆の声を漏らす
大きさは約2mにも及ぶ。正直言って目を疑いたくなるような大きさだ
「さて、蛇が出るか蛇がでるか」
「どっちもおなじだよ。ユーリス君」
あくまでも冷静に間違いを正すカナン
ユーリスの火炎球で照らす範囲は案外広い
これならば不意打ちはないだろう
かなり歩いただろうか
『っ!』
本能的に何かを感じ二人は身構える
間違いない。あいつの気配だ
あいつは音もなく現れた
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「熾天使よ、我が命令に応じ、ここに姿を―――『精霊召喚』」
カナンの反応は早かった。すぐさま精霊を召喚する
「魔装形態――――――《天使の翼》」
そして精霊を最適な武装化、『魔装形態』として変化させた
天使の翼は青白い双翼だ。魔力の量が尋常じゃない。弱い精霊なら一瞬で消え去るだろう
しかし、尋常じゃないのは相手もだ
全長は10mほど。ユーリスたちは必然的に見上げる姿勢になる
それでも顔の辺りが見えない
「ユーリス君。気をつけて」
その言葉が開戦の火蓋となった
カナンは天使の翼で上昇する
そのカナンめがけて魔神が手のひらに魔力を集めはなった
手のひらと言っても物が物だ。馬鹿でかい
カナンは解呪の効果を常時付与している翼を交差させその一撃を防ぐ
衝撃は打ち消せないのか一瞬のけぞる
それをお構いなしとした勢いで天高く上昇そのまま一回転し
「神閃光剣!」
剣の形に実体化した5mほどの『光』そのものを叩き込む
攻撃するカナンは戦天使そのもの
魔神は少しよろけるが切り裂かれたわけではない
「なんてタフガイなやつだ」
といいつつユーリスは魔神に向けて手を突き出す
「原初と終焉はおなじの炎である―――『超新星爆発』
手を向けた―――魔神の体の中央でものすごい轟音が轟く
分類『爆発』の最強魔法『超新星爆発』
「くそ。四肢の一つも持っていけないか」
ダメージがないことを確認したユーリスはやや物騒なことを言った
「しかたない、もっと強力な魔法を使うか」
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上空では空中魔力の嵐が吹き荒れている
「はああぁぁぁぁぁっ。くらえええぇぇぇぇぇぇっ!!!」
カナンは空気中に漂う魔力を圧縮
そこに光のエネルギーを流し込み、放った
攻撃自体は当たるのだが、ダメージにならない
魔神が魔力の塊を放ってきた
高度を低くしてそれを回避する
「神聖閃光線!!!」
目を焼いてしまうような眩い青白い光の光線、いや巨柱だ
光の本流は魔神に当たったはずだがやはりダメージにならない
どういうこと、言わんばかりの表情だが、頭の中でカナンは考えている
魔神のからくりを
一応、精霊の力が効かない生命体は同種、精霊以外にも存在する
ある生物は高位次元に存在しあくまでこの世界に実体をもっただけで通り抜けてしまう
ある生物は魔法に対する防御壁を張っていて、効力がうしなわられている
と言ったように防ぐやつはいてもすべてが防げるわけではない
魔神は今まで精霊使いに殺されてきた
魔神にこちらの攻撃が防げるわけがない
それなのに
「雷光剣」
光の短剣を召喚。一気にぶっ放す
小さかったからだろうか。その攻撃は魔神に触れたとたんに消滅した
「なーるほど」
仕組みが分かった。今までの攻撃が強すぎて気づかなかった
対精霊の能力を備えていたのだ
しかし、そんな能力を何処で得た
一つ。進化、つまり亜種だ
進化して対精霊を手に入れた
二つ。自然現象
対精霊の場所に物を長時間置いていると対精霊の力を帯びてしまうのを応用した
三つ。人の手
何かしらの手段を用いて対精霊を打ち込む
「可能性が高いのは間違いなく」
三つ目だ
「けれど」
そんなことが人間―――精霊使いにできるのか
精霊使いの大半が対精霊を使えるが、最上級クラスの一撃を防げる対精霊を使える人は聞いたことがない
「ユーリス君クラスだったら可能かもしれないけど」
あれほどまで巨大な火炎球を使えるユーリスなら可能かもしれない
「それならユーリス君に任せよう。雷光神聖閃」
収束する光と雷
ハイブリットのオーラは剣の形をとりそのまま振り下ろされた
轟音をたてたがダメージにならない
「今のが私の最強の一撃だったのに」
悔しがるがこれとは別問題
あの加護がついているなら、あれはただの化け物だ
「ユーリスく・・・!」
急下降しながらユーリスに近づいたが、唱えている精霊呪文を聞いてすぐに急旋回
「炎とは、世界を照らす光にして世界を滅ぼす闇でもある―――『太陽』」
分類『火球創造』の最上位魔法『太陽』
唱えたとたんに大爆発が発生。熱エネルギーと爆風の嵐が吹き荒れる
一瞬にして視界が真っ赤に染まる
ものすごい勢いだったがそれでもなお、魔神は生きている
「ねぇ、ユーリス君」
カナンはユーリスに話しかける
「えーと、大丈夫ですか?」
「生きているんだから大丈夫のはずだけど」
「よかった」
ユーリスは胸をなでおろす
「それでユーリス君。今使える最強の分類『火炎衝撃』の魔法を唱えてほしい」
「か、カナンさん、正気ですか!?」
『火炎衝撃』は炎系最強の分類
『燃焼』>『火球創造』>『炎風』>『爆発』のように強くなりその頂点が『火炎衝撃』
「下手すれば、ここら一体が崩れますよ」
その言葉は嘘ではない
火球創造のように炎の塊を呼び出し炎の風を纏わせる
地面に攻撃が当たったとたんに大爆発が発生。当たり一体を焼き払う
そんな攻撃だ
下手すればユーリスたちのいる洞窟が崩れるかもしれない
「それでもお願い」
「分かりました。少しだけ待ってください」
ユーリスが詠唱を始める
現れたのは巨大では表せられない炎の塊
「これで終わりだ。『最終戦争』」
燃える塊は斬り刻み込まれたかのようにばらばらに分裂
次の瞬間無数の燃え盛る炎の塊はまるで隕石のように一斉に魔神めがけて降り注ぎ
激しい熱衝撃と超高温の業火と盛大な爆発が魔神を呑み込むかのように埋め尽くした
『最終戦争』
炎系最強分類『火炎衝撃』にしてその中の最強でもある
つまり炎系最強魔法なのだ
使った後は何も残らないことからその名前がつけられた
―――あまりにも壮絶すぎる
カナンはその一撃を見てそう心の中で思った
そして、程なくして炎が消えていく。爆発的燃焼があたりの酸素を食べるが如く使い尽くした
しかしそれでも濛々と黒い煙が立ち上がっている
二人は見た
『最終戦争』という凄まじい攻撃の結果を
降り注いだ炎の塊の爆撃で当たり一帯に重なるように穿たれたクレーター
焼き尽くされ真っ黒にこげた地面、壁などの洞窟内
それだけの攻撃を食らってなお二人の視線の先にあの生き物は立っていた
二人は死んだ人を見てしまったような顔で
「・・・どう・・・し・・・て・・・?」
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魔神をみて、ユーリスは呆然と
「いったい、何をしたんだ・・・」
彼は信じられないようにつぶやく
と二人とも気を抜いていたのがまずかった
魔神の放った攻撃に気づかなかったのだ
ユーリスの『太陽』に匹敵する爆発が生じ二人とも飲み込まれた
恐ろしい攻撃が二人を襲った
「く、くそが」
それでもユーリスは起き上がる
とっさに炎系防御障壁をはり攻撃を防いだのだ
「っ!カナンさん、カナンさん!」
ユーリスは倒れているカナンのそばに近寄る
まだ死んでいない。しかしこのままだと死んでしまう可能性がある
「なら、いくぜ」
カナンを早く救うため
その障害を排除するために
ユーリスは走り出した
何ももっていない。ただの素手だけだ
「うおおおおおおおおっ!」
雄たけびを上げながら、ユーリスは魔神に向かって突進した
「炎の鬼神、我が命令に応じ、ここに姿を―――『精霊召喚』」
焦げて熱い地面による痛みにこらえ召喚できないはずの精霊を呼び出す
「魔装形態――――――《炎龍牙腕》」
右手を握る
刹那、右腕から炎が噴出
腕に赤い粒子が集まる
次の瞬間、巨大な篭手の形となった
篭手の形は炎の龍の頭。炎は永久に同じ量だけ燃え続ける。ユーリスを燃やすことはない
そして跳躍
足元が爆発。ものすごいスピードで上空に舞い上がる
ユーリスは腕を振り上げ
「―――火天」
腕を超高温のすべてを燃やす天の炎を擬似顕現させる
そのまま
「消え失せろ、デカブツ」
ありったけの力をこめた篭手の一撃は魔神の首に吸い込まれ
炎の龍の牙は10m以上もある対精霊の加護を纏った巨体を、真っ二つに切り裂いた