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依頼《クエスト》と学園の姫《プリンセス》

ユーリスたちが通う精霊学園セレスティアルは精霊使いを教育する特殊学校だ

精霊使い―――この世界とは別の高位次元層に存在する『反転精霊世界パラレル・ワールド

そこに住まうといわれる精霊と契約を結んだ者のことだ

精霊使いは様々な属性の精霊と使役し、その力を自在に振るうことが出来る

精霊学園セレスティアルに通うのだから、当然ユーリスも精霊使いだ

何とか始業式開始時間までには間に合い、なんとか問題なく終わった

しかし、問題がなかったわけではなかった

ユーリスは今、学園長室にいた

「ほー、なるほど。寮の窓を一枚割ったと」

ユーリスの目の前で話しているのは、当学園長アマリリスだ

抑制されている静かな声に反して、震えが走るほどの凄みを感じる

ゆるやかに波打つブロンドの髪

妖艶な大人の色気をたたえた美貌

歳は四十近くらしいがどう見ても二十代にしか見えない

魔女は年齢を超越するとも言うが、その噂は本当なのかも知れない

小さな眼鏡の下でアッシュグレイの瞳がこちらをじっと見つめている

「・・・・・・」

ユーリスは無言を貫く。それを気にせず質問を続けて来る

「では質問の内容を変えよう。言い訳は?」

「ティアが割ったんです」

「聞こえないぞ」

「ティアが割ったんだ!これでいいだろッ!」

「言葉遣いが悪いぞ。それと幼なじみを言い訳にするのはよくないと思うぞ」

「くっ」

ユーリスは顔をしかめる。確かに幼なじみ―――――そのうえ女子だ―――――を言い訳にするのはよくない行為だ。自分の間違いを人に擦り付けるよくない行為だ。重々承知だ。でも

(今回は言い訳もくそもないだろ)

ユーリスの寝ている間に、つまり許可を得ずに入ったのだから不法侵入に値する。そして器物破損だ。これはもう警察もんだが電話したところで「君、頭大丈夫?二次元と三次元の区別くらい出来るように」と言われ、つーつー、と音がなるだけだろう

「そんな顔をするな。私の人生の経験上から推測するが、おそらく割られた窓から入ってきたのだろう?」

ザッツライト。そのとおりだ。微塵の狂いもないぞ

「そんなところだろうと思ったさ。しかしなんだ、お前は何枚の窓ガラスを割れば気が済む」

「知るか」

ユーリスはぶっきらぼうに答える

「再び質問を変えるぞ。お前は過去一年間で何枚の窓ガラスを割ったと思う?」

適当にユーリスは頭の中に浮かんだ数字を言った

「三枚か?」

「さすがにそれは少なすぎだろう」

「五枚か?」

「もっとだ」

「十枚か?」

「違う」

ユーリスは頭を手で押さえ、半眼でうめく

「だぁぁッ!覚えてるかこんなこと!結局何枚だ」

「さすがに私も覚えていない」

「だったら、聞くなあぁぁぁ!」

大声でユーリスはアマリリスに指向けそう叫んだ

「そんなことは放っておこうか」

「そんなこと程度なら聞くな!・・・ってことは窓はそっちか?」

「ああ。負担してやる」

これで面倒なことを回避できた。ユーリスが窓ガラス一枚の代金を返すのにはかなりの時間がかかるからだ

「代わりに聞きたいことがあるんだが」

「その聞きたいこととはなんだ」

「おまえCクラスで合ってるな?」

ユーリスはあきれのため息を吐く

「学園長名乗るならそれくらい覚えろよ。そうだ。俺は万年落ちこぼれのCクラスだ」

「じゃあ、お前手加減してるな。しかも相当の」

アマリリスが突然訊いてくる。ユーリスは背筋がヒヤッとした。しかし、鉄仮面ポーカーフェイスは崩さない

「お前実際Sクラス級の力を持ってるだろ?」

精霊学園セレスティアルは成績累進式だ

S~Cまでのランクがあり、当然Sランクが一番強い

ランクわけの仕方は

Cランクは精霊を媒介とした魔術が精一杯で精霊は質量のない不定形な力の形としか召喚できない人

Bランクは精霊をそのままこの世界に呼び出し使役のできる人

Aクラスは精霊をより高度に最適化した魔装形態ユニオンとして使役できる人

SクラスはAクラスの選抜メンバー20人だ

ティアはAクラスで、ユーリスはCクラスだ

「そんなわけないだろう。Aクラスならともかく俺はCクラスの中の落ちこぼれだ。アンタの見当違いじゃないのか?」

ユーリスはきっぱりとそういった。しかしアマリリスは

「私にそんな嘘が通用するとでも」

ぞっとするほど冷たい声で告げた

「お前のそばにいるたびに恐怖と歓喜、危機感と高揚感が一体となった緊張感が感じられる。強大な力を持つ精霊使いの接近に気づいて全身の神経が研ぎ澄まされていく様な気分だ。精霊使いとしての私の血、いや私の精霊たちが強敵の遭遇を予感して滾っていく感覚。これは私の懐かしきころ、現役のころによく感じた感覚だ」

アマリリスは姿こそ妖艶な美女だが、少し前までは破滅の魔女ウィッチ・オブ・カタストロフの二つ名と共に戦場を駆け回った精霊使役護士隊、通称精霊隊のトップだ

曰く他国の精霊護士五十人を一人で鎮圧した

曰く破滅の魔女が出陣した、と言う噂が立っただけで敵が逃げていった

曰く炎竜サラマンダー風竜ストラーダなどの竜種が暴れる事件が起こり、幾多の精霊護士が討伐に向かったが着いたときには最後の一匹を殺し終えたところだった

などの伝説を作り上げた歴戦の護士だ

彼女がそういったのだからそうなんだろう

確かにユーリスは実力はかなり隠している

「なぜお前が実力を隠しているのかは私には分からない。」

「しかし、このままでいれると思うなよ」

そこにコンコンと言う扉を叩く音が鳴り響いた

「誰だ?」

「カナンです」

「ちっ、まあいい、入れ」

ギギギ、とゆっくりドアを開けて入ってきたのはきめ細やかなストレートの綺麗な銀髪を肩にたらした美少女、いや美女だ

切れ長のアイスブルーの瞳、凛々しい端正な顔立ち

制服の胸元には花形の徽章が縫い付けられている――――――学園第一位が着けることの許される名誉の徽章

名前はカナン。Sクラス所属、Sクラス最強にして学園最強。またの名を光速の姫ライトスピード・プリンセス

やわらかい雰囲気に対し、攻撃は苛烈。百戦百勝の精霊使い

「お取り込み中でしたか。では出直してきます」

カナンはやわらかい雰囲気で微笑を浮かべそういった。

「いや、いい。だから私が入れたんだ。こっちに来い」

アマリリスは再びドアを開けて退室しようとするカナンを呼び止める

そのためになぜ殺気を放つ

「はい、分かりました」

さきほどの殺気を受けながら平然とした笑顔をこちらに向けるカナン

(さっきの食らって笑顔か。さすが学年一位だな)

あの殺気を受けたら普通は顔を引きつらせるかヘニャリと足をそろえて倒れるだろう

「こちらの方は?」

ユーリスを指差し、アマリリスに聞く。「君は?」と言えば一発で終わるからそんな回りくどい事しなくてもいいのにっとユーリスは思った

「ユーリスと言う名前だ。おい、あいさつしろ」

アマリリスに促され、ユーリスは慌てて

「ユーリスです」

と言った。噛まなくてよかった

「よろしく、ユーリス君。カナンと呼んで」

「いいえ、カナンさんと呼ばせてもらいます」

カナンは、うふふっと笑う

「学年一位だからってそんなかしこまった言い方はしなくてもいいのよ。私の友達のはカナンと呼んでくれるわよ」

「それはカナンさんのクラス、Sクラスの人だからですよ。あまり実力の差がない人だからです。普通はカナンさんのことはアマリリスと同じく畏怖と畏敬を持ってるはずです。だから――――――」

「―――そんなことはどうでもいいだろう」

今まで黙ってたアマリリスが急に会話に入ってきた。この表情で分かる。相当いらいらしているのだろう。・・・殺気はなってるし

「で、なんのようだ?」

アマリリスは話を切り返す。するとカナンは手に持っていた長方形の紙をアマリリスに渡す

「先ほど入ったこちらの件ですが」

すると、アマリリスは目を細めるがすぐに笑みを浮かべる

「なるほど。これはお前たちの出番かもしれない」

「一体なんなんだ?」

「つい先ほど要請された特別依頼です」

アマリリスではなくカナンが答えた

依頼クエスト制度

学園生同士の戦闘以外でランキングを上げるシステムだ

ランキングとは当精霊学園でしか取り入れていない独自のシステムS・S・R《spⅰrⅰt・skⅰll・rank》のことだ

アマリリスが飽きないように常に戦闘させるシステムとしか思えないが

しかしこのランキングがよい人はかなりの特権をもらえる。ギブアンドテイクというやつだ

話し戻して依頼制度

与えられる任務の内容は様々で、暴走した精霊の鎮圧、この世界に召喚された魔獣の討伐、はぐれ精霊使い(ようするに国に敵対している精霊使いのこと)の逮捕などがある。大抵の場合、一人でこなせる任務などまずないが

「ちなみにこの依頼はSランクだ」

「Sランクか」

Sランク依頼は学園提示最高難度の依頼だ

上昇するS・S・R・P《spⅰrⅰt・skⅰll・rank・poⅰnt》は膨大だが死と隣り合わせの危険な依頼だ

CクラスでS・S・Rも低いユーリスは関係ないはずだが

(なんでこんな嫌な悪寒が)

「テルツァ鉱山は知ってるか」

「テルツァ?ああ、最近廃鉱になったあそこだろ」

テルツァ鉱山。五年ほど前は鉱石の採掘地として有名だったが、掘りつくし廃鉱になってしまった山だ

もう管理されてなくて中は廃墟と化し大きなゴーストタウンとなってるはず

「あそこに反転精霊の門(パラレル・ゲート)が開き、なんだ魔神ジンが入ってきたらしい」

「おいおい・・・まじかよ」

魔神といえば大量の精霊使いを葬り去った悪名高い魔獣の一つだ

死者を操り、高位精霊を食らうような存在。死神すら体内に吸収し糧とする

確かにそれが本当ならSランクで間違いないだろう

「そういえばさっき言いましたよね。私だけの『お前』ではなく『お前たち』だと」

「ああそうだ」

(なんか嫌な予感が)

「というわけでユーリスとカナンお前たち二人でその依頼クエストいって来い」

「おいちょっと待て」

なぜかそうなるのではないかと予想してたが、さすがに止めないとと思い制止の声を入れる。正直言ってこの依頼は受けたくない

「俺はCクラスだぞ」

「ここまで追い込めば、どうせ使うだろ」

眼鏡をクイッとあげて口元に笑みを浮かべる

「全力を、な」

「おい。教育者としての発言か。それが。もしこれがアンタの見当違いだったらミンチになって帰ってくるんだぞ。勝てる気がしないぞ」

「それは負ける気もしないの言い回しか?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

・・・・・・・・・

横からカナンがユーリスとアマリリスを交互に見てくる。ちょっと困っているような顔だったので、アマリリスとのにらめっこ(ようなもの)をやめて観念したかのような口調で

「まあいい。とにかくこの依頼いつから開始だ」

するとアマリリスではなくカナンが口を開く

「そうね。あと四時間後校門に集合でいいかしら」

今は十一時だから三時か・・・

「俺はかまわない」

ユーリスはうなずきながら、そっと小さな声でつぶやいた

「ちっめんどくさいことに巻き込まれたぜ」


「さてと」

アマリリスは二人が去ってからふっと微笑んだ

「さて、どう出るかな。ユーリス」

「――――確かに彼、面白そうですね」

突然、本棚の影から一人の男がすっと現れた

ずいぶん整った顔立ちに円眼鏡。白いYシャツに赤いネクタイ。ストライドの入ったズボン、そして頭に鳩でも入りそうな大きめな帽子。手には真っ白な手袋、という姿だった。年は二十四、五くらい。どう高く見ても二十台。優しげで話が通じそうと、少しファッションがどこかのスパイかマフィアっぽい・・・と言ったところだが普通の教師にしか見えない

影精霊使い――――と本人は言っている

名前はクロス。学園長の秘書にして、この学園の守護者。またの名を黒の魔道士ブラック・マジシャン

「あんたはどう思う、あいつのこと」

「そうですね。彼は実力はあると思います」

「あんたがそういうのだからそうなんだろうね。私より長く生きてるのだからな」

「でももったいないですよ、彼は。若いうちは貪欲のほうがいいのに。すべてを手に入れるって思ってたほうが伸びるのに」

「そんなことより監視してくれないか」

「まったく、せっかちですね。あなたは」

するとクロスは拳を開く。その手のひらの中央に幾何学模様が浮かび上がっている

魔法陣だ

これは精霊魔術ではない。そもそも精霊魔術には魔法陣など現れない

「あんたのことを詳しく知りたいものだね」

アマリリスは嘆息してそういった

「知らぬが仏って知ってます?」

すると蝙蝠が現れる。違う、蝙蝠のような姿をしているが翼のある目玉だ

「その趣味の悪い探査機、やめてくれないかね」

そういうころにはもう蝙蝠の群れは窓の方に向かっていた

窓は割れずすべてすり抜けていく

「さて、終了終了」

そうするとすぐさまアマリリスに向け手を振りまた影に消えていった

「さて、正体はばれているんだ。本気を出してくれ。ユーリスよ」



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