プロローグ
「ねえねえ、朝だよ!ユーリス。そろそろ起きてよ」
そんな声が聞こえ、ユーリスは体が揺さぶられる感覚を味わった。しかし、その揺れは揺りかごのように気持ちよく、逆により睡魔に襲われる。結局、
「あと三年・・・」
睡眠時間の延長を要求してくる。そのうえ、桁が間違っている
「本当に三年放っておくよ」
やや冷たい声で少女がいった。それでも起き上がる気はないらしい。それどころかユーリスは
「じゃあせめて三光年・・・」
少女があきれのため息を吐いた。
「三光年って。それもう時間じゃないし、距離だし。まあとにかく起きなさいこの馬鹿」
「ぐおあぁぁああっ!」
少女の繰り出したエルボーアタックがユーリスの鳩尾にめりこむ。十センチほど
「・・・・ぅ・・・・ぉ・・・・っ・・・・」
嗚咽を漏らしユーリスは鳩尾を押さえながら起き上がった
「ティア、朝っぱらから何しやがる!」
「ユーリスの朝起きるのが遅いことが悪いんだよ。ユーリス、分かってる?今日は始業式だよ。遅れたら間違いなく恥だよ、恥」
ティアとユーリスに呼ばれた少女はそう答えた
ティア。ユーリスとは幼なじみのような関係だ
綺麗なセミロングの髪に、雪のように白い肌。顔形はそれな、いやかなり整っている
よく分からないが男子にもかなり人気があって、そして成績優秀だ
そんなティアをみてユーリスはようやく事の異常に気づき大声で
「だぁぁぁ!なんでお前がここにいるんだよ!」
そう叫んだ。ここは男子寮だ。幼なじみだから、という理由で入れるわけがない
「お前どうやって入ったんだ!?扉の鍵はすべて―――」
そこで気がついた。床に割れたガラスの破片のようなものが散らばっていた
これはコップだ、グラスだ、と信じながらユーリスは視線をうえに上げる
しかしこの部屋のそこにあるべきはずの物がなくなっていた
道理で妙に肌寒く風通しがいいわけだ。ユーリスは震える声で
「なあ、あそこにあったガラス窓がどうして・・・?」
「あれ?あれはね私が中に入ったときに割れちゃったんだ」
テヘへ、と笑うティア。それに対しユーリスは
「割れちゃったんじゃなくて、割ったんだろうがああぁぁあッ!――――――お前があぁぁあッ!」
「えへっ」
「えへっ、じゃねえだろうが!どうしてくれるんだ!」
「じゃあ直そうか?」
そういいながらダンボールとガムテープを取り出す。意図に気づいたユーリスは
「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇッ!」
「大丈夫だよ。このガムテープ無駄に強力だから」
「そこは問題じゃねぇぇぇぇぇッ!」
「それにこのダンボール二重構造になってるし」
「そこも問題じゃねぇぇぇぇぇッ!何度言わせるつもりだああぁぁぁぁああッ!」
そこでユーリスはため息を吐く。そして片膝をついた
「どうしたの、大丈夫?持病の貧血と高血圧がきたの?」
「いや、俺持病もってないし。ていうかその病気のチョイスなんだよ。貧血だったら高血圧にならないし、高血圧だったら貧血にはならないし。まあ、確かに高血圧っぽい症状が今起こってるんだけどね・・・お前のせいで」
「そんなユーリスに朗報です。今、七時四十五分です」
「なに!?」
ユーリスは壁に立てかけてある時計を見た。短い針は七と八の間を、長い針は今カチッ、と動き九を指した。ここの登校時間は八時ジャストだから
「残る時間は十五分!?もうだめだ。おしまいだ」
「いや、今からなら間に合うから。そこまで世界の終わり知ってしまったクラスの絶望的な声で言わなくても」
「つかさっき朗報って言ったな!?微塵もいい話じゃねぇぇッ!」
ここは寮なのだから学校のそばだ。ダッシュすれば五~十分でつくだろう。その場合
「まあとにかく今からだと・・・くそ、パンを口にくわえて登校すら出来ないか。今日は午前で終わりだし、仕方ないか。朝食抜きだ」
ズボンもYシャツも寝る前に着てあるので特に着るものもないし着る必要もない。クローゼットから学ランを取り出し肩に引っ掛けるようにして上から羽織る
ユーリスはドアを開け、部屋を後にする
「お前のせいだからな!」
飛び出ていくかのようにユーリスは出て行く。ティアはその後姿についていった