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第六話 ヤツを騙せれば百万円。

 やっとみんなと顔合わせした後、俺はというと……


「……ったく、これまで何人も様々な奴を迎えてきたが、話の途中で気絶した奴はお前が初めてだ」

「それはどうも……」

「今のをどう解釈してお前の脳味噌は褒められていると認識するんだ?」

「どうもスイマセン……」


 寮長の絶え間ない小言に何回も泣きそうになっていた。

 ……情けない。

 情けないが結構怖いんだぞ、迫力でけえんだぞこの人。お前俺と変わってみろ。

 ていうか変われ。


「何くだらないこと考えてるか知らないがそのぐらいにしろ馬鹿者、人がせっかく今からお前の疑問の答えを教えてやろうと言うのにその失礼な態度はなんだ」

「スイマセンスイマセン以後身に焼き付けて染み込ませますスイマセン」


 ちっ、地の文すらすっかり奴には読まれてら。

 このときだけは電気ネズミならぬ電気チビやら、罠オタクの方が遥かにマシに思えた。


「……まぁいい、私もどこまで話したか忘れたからな……せっかく先に寮を見てきたんだ、お前が不思議に思った点を言ってみろ」


 そう言うと寮長はふぅ、と溜め息をつきながら、ソファーに楽な格好で座り足を組んだ。

 同時に人差し指で俺を指し、ソファーを指差す。座れということか。

 許可が直々におりたので俺も寮長の向かい側に腰掛ける。

 ただし足を組むような余裕はなく、手を膝に置いたままガッチガチの状態だったが。


「じ、じゃあえっと……なんでここには『普通じゃない奴』があんなに暮らしてるんだ? 少なくとも俺の生きてきた中ではあんなヤツらがいるなんて漫画の中でだけだと……」

「だからだ。あれがお前らにとっての日常に紛れ込んでいたらどうなる」


 俺達にとっての日常?


「うーん……ちょっと、いやカナリ迷惑……」

「そう、あいつらはお前らにとって日常生活を脅かす存在、存在してはならない存在。しかし実際は……いるんだよ。膨大な人口を持ったこの世界に、極少数ながらそのような特殊能力を持った奴がこの世界には生まれ出てしまう。本人の望む望まないは関係なく」

「…………」


 思わず息を呑む。唐突過ぎてよくわからないが、その表情や真剣な声音からして冗談だとは思えない。

 ……最後の一言が、まるで自分が体験してきたかのように……なんだかとても重みがあったように感じたからだ。


「もちろんそんな奴らを野放しには出来ない。あいつらの力は自分達が思っているのよりも遥かに、恐ろしく驚異的だ。……そのためにこの【たそがれ寮】が創られた」


 そう言うと寮長は胸ポケットからタバコとライターを取り出し火をつけた。

 紫煙を吐きながら彼女は話を続ける。




 ――この寮が設立されたのは意外にもつい最近、とはいっても数年前らしい。

 各地の『普通じゃない』人々は日常に埋もれ、苦悩していた。

 ある者は自身の境遇を嘆き苦しみ、ある者はそれに堪えきれなくなり暴走し、ある者は自由を奪われ研究所に束縛され、ある者はその強大過ぎる力故に……殺された。

 だがこれらは世界の極一部での出来事故、民衆に混乱を招かぬ為に公になることはない。

 彼らは苦しみ、嘆き、悲しみ、怒り、諦め、絶望した……自分達をこのようにした世界の理不尽さに。


 しかし彼らも学んだ。

 『日常』を送れるよう努力した。

 自力で能力を制御し、普通の人を演じられるよう精一杯努めた。

 ……だが、それは大人のみの話。




「若い者はまだ能力が安定しておらず、自身で抑えようにも抑えきれないことが多々あった。子供ならなおさらだ。感情に任せて暴走させてしまうからな。だからここではそのような、一般の人間に影響を及ぼす、普通の環境では暮らしていけないような若者達を集め監視、保護している」

「だから俺と同年代ぐらいの奴しかいなかったのか……」


 ただの変な奴らだと思っていたのに、まさかこんな重い事情があったなんて……

 …………ん?


「……あれ? じゃあなんで俺はここに連れてこられたんだ?」


 しばし沈黙。


「………………あ」


 寮長はなんとも間抜けな声を出した。

 ナニ? 今の、思いもしなかったことを聞かれたみたいな態度は。


「すいません寮長さん? 普通じゃない奴がここに住むのはわかりましたけど、なら俺は何が『普通じゃない』んですか?」

「…………」


 寮長は黙り込んだままひたすら口から煙を吐き出している。

 ちょっと待て、普通そこで黙るか? ここ結構肝心なトコロですよ? 俺にとっちゃカナリ重要かつ知る権利があると思いますが?

 スイマセンお願いしますから何か言って下さい超不安なんですけど俺。


「別に俺、今まで何不自由なく平凡に十六年間過ごしてきたつもりだし周りに迷惑なんてたぶんかけてないし普通の環境でバリバリ生きてきたんですけど。……ちょっと、まさか俺だけ理由なしってことはないよな?」

「それはない」

「じゃあ一体なんなんだよオイ!」

「……うーむ」


 寮長は何やらしばらく思案していたが、観念したのかタバコを灰皿に押し付ける。


「……ぶっちゃけて言うとな」

「なんだよ」

「お前だけ特例で、何の能力もなくても連れてこいということになっている」


 …………今、なんと?


「お前だけ特例」

「ちょっと待て! それってどういうこ」

「私にもよくわからんが、なんでも『あえて何もない者』という能力者がいるらしくてな、そいつは生まれ変わっても代々『勇者』であって世界を救ったり救わなかったりしていたんだがある時呪いをかけられたらしく、成人になる誕生日を迎えたとき世界中の不幸を背負うという呪いを宿敵にかけられたらしい……その呪いが皮肉にも代々勇者の生まれ変わり『あえて何もない者』に受け継がれている。だが呪いの副作用で勇者の力を封じられたから能力が皆無つまり役立たずというわけだがな」


 長い! セリフ長い!

 これ絶対煙に撒こうとしてやってるな!? 話題の真偽はともかく!

 ていうか勇者ってなんだここゲームの世界か!? 俺まだ青いプルプルした物体とすら遭遇してないよ!

 強制イベントで即座にラスボス(=寮長)だよ!


「……まあ一つだけ、勇者に代々受け継がれるものに消すに消せなかった能力もあるが」


 お、なんだ俺にもちゃんと不思議な力あるんじゃ――


「勇者に代々受け継がれてきたツッコミの能力。役目といってもいいな」


 ――ツッコミ?

 呪いを受けても失われずに残っていた唯一の能力が、ツッコミ!?


「いや、ちょうどよかったんだよな。この寮ボケばっかでツッコミ出来る奴全くいなかったし頼んでも全員辞退していくし正直どうしようかと……」

「ちょっと待て待て待てまてまてマテ! それってなんだ、俺はただのツッコミ要員か? この色々どうしようもない寮にツッコミするために来たと!」

「まあそんなところ。……いやジョークだからジョーク。半分くらい」

「その半分くらいってなんだよオイィィィイ!」


 その後俺がぎゃあぎゃあ抗議していると、さて私は仕事があるからな、といって寮長はさっさと部屋を出ていった。


 ……くうぅぅう! 騙されたぁぁぁああ!

 ちょっと本気になりかけたのに! くそ、いつか絶対騙し返してやる……!

 でもそんなこと出来る奴が、果たして今までいたのかすら不明だよな。

 あの寮長相手に、だ。

 …………百万円、賭けてみるか?

 そんな真似出来る奴、いるわけない方に。


 ――――――――

 ――――――

 ――――


「くすくす……ねぇ、なんであんな胡散臭い言い方したのさぁ」

「……別に私はそんなつもりなかったが」

「うっそだぁ。だって姉さんが『私にもよくわからない』なんてことありえないじゃなぁい。予め寮に入れるずっと前から監視してるんだし、ねぇ」

「…………」

「あらら図星ぃ? でもなんでまたぁー。あーちゃんのときもだったよねぇ?」

「あいつらは『特例』だ。他の奴らとは一線越えている。それはお前も分かっているだろう、(いざな)い人」

「……くすくすくす、はいはぁいわかってるよぉ。まぁだ真実を知る時じゃあないもん、でしょぉ?」

「分かっているなら余計なことを喋るな、気が散る、失せろ」

「わぁひっどぉ〜い。でもまあねぇ……」




「所詮これは仕組まれた舞台。人形劇はまだ役者が揃っただけ……くすくす」

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