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番外 ある者の独白。

ここいらで番外編でも。

大和以外の人物の視点となっております。

本編にはあまり関係ない……はず。多分。

 初めに言っておこう。

 オレが願い求めるのは、あくまでもアイツの幸せだ。

 オレ自身のことは二の次といってもいい。

 けれどアイツが求めているモノは、それは本当に、アイツの幸せに繋がるのだろうか。



 最近、どうもアイツの外出がやたらと多い。

 もちろん何処に居るのか見当はついている。

 だがそれでも、オレはこの得体の知れない不安を、未だ拭うことが出来ないままなのだ。


 ――研究所。

 オレ達が現在住まうこの寮も相当奇妙なのだが、ここも負けず劣らず奇妙な所である。

 外界とは遮断された空間であるこの寮と、直通で扉が繋がれている外界の内の一つ。

 つまり寮と、それなりに関係のある機関であり、そういう所にはロクな場所がないのをオレは知っている。

 繋いでいるヤツがロクな人種じゃないというのもあるが。

 しかしオレ自身あまり訪れたことがないので、実はよく分からない。


 最初は遊び半分で根暗を追って、たまたま入り込んだらしい。

 だが本来外界への出入りは、許可された者しか行ってはならない。

 寮長に無断で『誘い人』が許可したのだそうで。

 そこを当事者に聞いてみたが……何ともふざけた回答が返ってくるばかりだった。


「だってぇ、面白そうだと思ったからぁ」

「別に扉の管理人とか責任とか善悪とかどうでもいいしぃ、ちゃんと『こうなるコト』が分かっててやったんだもぉん」

「本人達が望んでやってることなんだしぃ、いいんじゃないのかなぁ」

「ね、お兄ちゃぁん?」


 つくづく舞台を乱すことが好きな観客だな、とオレは思った。

 こいつは最初から全て分かっていて、この舞台を作り上げた。

 アイツが研究所に行くことで起こることやその後の展開、行動、全てヤツの予定通り。

 ヤツにとってオレ達はただの役者でありただの道化――いや、オレにはヤツの行動も、態度も、言動も、外見や仕草さえも、オレ達の反応を見て楽しむため、わざとそう振る舞っているように見えるのだ。気味が悪い。


 話を戻すが、その結果アイツにも研究所への通行許可が出てしまった。

 向こうの責任者か何かが、アイツを気に入ったとのこと。

 何をしてるのかは不明。

 だが正直、内容が気になってしょうがなかったりする。

 まさかあのアイツが――毎回顔を真っ赤にして帰って来れば、誰だって不思議に思うからだ。

 ――これは長年アイツの傍にいたオレなりの勘なのだが、実は毎回顔を真っ赤にしている理由は違うと思う。

 普通の奴には区別がつかないらしいが、怒っているように見えて恥ずかしがっていたり、本当に腹を立ててることもある。

 一体毎回何をしているやら――


 そして、この出来事はアイツの記憶には無いことなのだが、オレはアイツを連れてあの研究所を訪れたことが、一度だけある。

 いつだったかはオレも詳しい日時は覚えてない。

 アイツの能力がまだ暴走していたとき、寮長と共に何か頼み込んだ覚えがあるだけだ。

 内容はオレにはよく分からなかったが……まぁ専門分野じゃないし。

 だからこそ『あの男』との面識はあったし、その姿はとても鮮明な形で俺の中に残っていた。

 それが最初で最後だと、ついこの前までそう思っていた。

 けれども、神様とやらはどうやら相当気まぐれなモノのようで……。

 それはつい先日のことだった。




「……何コレ、ノート?」

「そっ、そそそそうみたい……中身は見るなって言われたから僕は見てないけどね。おそらく……」


 根暗から手渡された一冊の大学ノート。

 まだ使い始めてから日が浅く、一見新品そのものだ。

 しかし明らかに新品とは違う。

 何故なら表紙に『チビ助観察日記』と、黒の油性ペンで書かれていたからだ。


「ほ、本当は寮長に渡すものらしいんだけど、その前に渡しておけって向こうが……まぁでも、これで少しは向こうでの様子が分かるよね」

「……余計なお世話」


 ぴしゃりと会話を打ち切る。

 そしてノートの中身を確認した。

 ……そこには、オレが知りたがっていた全てが記されていた。

 向こうでのアイツの様子、行動、言動……これが全てというわけではなく、あくまでほんの一部なのだろうが、それでも十分だ。

 が、これを書いたのは誰なのか。


「この書き方、文からすると……え、まっ、まさか、でもそんな……」


 根暗が驚愕する。

 まさかとは思ったが、それは『あの男』の直筆だった。

 しかしそうなるとこれは……何だ?

 ノートの中身は日記だった。

 あの男の視点で日常が綴られているだけで、特に目立つところもない。

 だが、この日記の趣旨がオレには分かる。

 手に取るように。

 一見、適当に物事を書きつづった、ただの日記に見えるだろう。

 しかし仮にも向こうはプロだ。

 記述されていることはどれも、アイツの精神状態を探る上での要点を得ていたからな。


 なのに、この違和感はなんだろう。

 正答を出したはずなのに、何かおかしい。

 これはあくまで別解か? もっと別の思惑が?



 ――何度も読んでいく内に、段々と分かってきた。

 答えは簡単で、何故あの男が、こんなモノを書いているのか。

 そして何故、オレに渡すよう指示したのか。

 違和感の正体は、嫉妬。

 送りつけてきた理由は……はッ、新手のイジメか?

 つまり、目的はコレ、オレの嫉妬心を煽って挑発してるってのか。

 まるでヤツと思考が同じだな。


 最後のページにはこうも書かれていた。

 アイツが向こうへ行かない日はオレが日記をつける。

 アイツが向こうへ行った日はあの男が日記をつけるらしい。

 これは寮長にも了承を貰っている(いや、他の文章の内容からして、これから貰うんだろう)から、強制だとも。

 表向きは、アイツの様子に変化がないかという資料なんだろうが、オレにはただの嫌がらせしか思えなかった。

 何が楽しくてあの男と交換日記なぞしなければならないのか。

 不愉快極まりない。

 けど、最後の一文には俺を持て遊ぶかのように、

『もしやらなければチビ助に何をするか分からないからそこの所よろしく』

 と、いうような内容が。

 一体何をするのかは、先程の日記の内容からして……考えたくもない。

 オレの知らないアイツを垣間見る羽目に合うだろう。

 嬉しいのか悲しいのか分からない罰ゲームだ。

 気味が悪い。


 けれど、俺が出した結論は――




「……ん? 何書いてるんだ風にぃ」

「え、あぁ、ちょっと勉強を……」


 自室のベッドでゴロゴロしているアイツを尻目に、ノートに鉛筆を走らせる。

 なんだかんだでもうこれで八日目だ。


「うえぇ、ベンキョ? 風にぃそんなにマジメだったかぁ?」

「何を言うか我が妹よ。言っとくが、オレがその気になれば大学入試レベルの問題も容易く解いてみせるぜェ」

「うっさんくさぁ……」


 事実なんだけどなぁ、と一人ごちて、オレはまた目線をノートに戻す。

 ええと今日の出来事は……。


『新入りの歓迎(という名の洗礼、または悪戯)をしようとして失敗。地雷に引っかかったりネズミ取りに引っかかったりする。相変わらず馬鹿で可愛い』


というわけで荒垣兄、風太の視点でした。

なお、研究所はしばらく本編には絡んでこないと思われるので、伏線でもなんでもありません。

いわば隠し設定のようなモノです(笑)

『扉』から行ける場所の中の一つ、ってことで。

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