第二十二話 ゲームであそぼう!
アリスに協力する、そう言ってから数日がたった。
が、能力探しと言われても何をしたらいいか分からず、今のところは全く進歩ナシ。
現在は昼飯を食い終わり、食後にまったりと自室のベッドに仰向けになって、ぼーっと考え事をしながら寝転んでいるところである。
「はぁ、どうしたもんかなぁ……」
肝心の寮長は仕事で寮にいないし、部下の人々に聞こうにも「忙しい」の一言で終わってしまう。
まぁ、俺もそこまで真剣に探しているわけじゃないので、結局普段通り寮で生活するだけとなる。
って、待てよ、普段通り寮で生活ってなんだよ。おい自分。
俺の普段通りの生活と言ったら、学校に行って半分マジメ半分テキトーに授業受けて、放課後は――
「放課後……」
あれ、俺いつも放課後何してた?
部活には入ってないし、寄り道毎日してたわけじゃないし。
確か直帰派だったはず……家帰っても母さんの手伝いと漫画とゲームぐらいで、あと特筆すべきことはないな。
うーん。改めて考えると、俺ってムナシイ奴?
「はー……最近ゲームやってないな」
寮に来てから何かとバタバタしてたし、先日アリスに言われて部屋を片付けるまで、ゲーム機本体が見当たらなかったのだ。
そのため、しばらくの間というもの俺はゲームに触れてすらいなかった。
うん、気晴らしにやろう。でもって今度、雷華や風太辺りでも誘って格闘ゲームでもやるか。
アリスに指摘されてから、ちょっとは整理整頓した収納棚。全五段になるその棚の、下から二番目の段を漁る。
そこには、ハードを問わずゲームのソフトがずらりと並んでいた。手前の列の奥にまた一列、列の上には入りきらなかった分が適当に積み重ねられている。
俺はとりあえず、手前のゲームソフトを次々に棚から出し、奥に目当ての物がないか探す。
えっと、確かここにやってる最中だったゲームが置いてあったはず……お、あったあった。
そんなことをしていると不意に、コンコン、と扉をノックする音が二回聞こえた。
誰だろうこんな散らかってる時に……散らかしてる最中のときに。
よっこらせっ……と、一気に老けた感じのするおなじみの台詞を呟きつつ、立ち上がり部屋の扉を開ける。
「はいはいどちらさま〜?」
ガチャ。
「やぁ」
そこにはだらしないを通り越してむしろえろい、着物を着崩した超絶ロン毛の美少女(?)が居た。
やぁ、とか言いながら軽く手を上げ、地に足をつけて立っていた。
「久しぶ――」
バタン。即座に扉を閉める。
ふぅ、何だったんだ今の。
確認の為もう一度扉を開けてみる。
ガチャ。
「いくら久々だからってひど――」
バタン。また扉を閉める。
げ、幻聴? 幻覚? とにかく落ち着け俺。
ほらアレだ、深呼吸だ。深呼吸しよう。すー。はー。よし。
ガチャ。
「あ、よかった気のせいか……」
そこには誰も居なかった。髪の毛の一本も落ちてない。
まさかアイツがここに来るわけなかろうに。誰も呼んでないし、呼ばないし。
「ひどいなぁ〜。久方ぶりの登場だってのに、扱い悪くない?」
くすくす、と背後から笑い声。
いつの間にかアイツ――百合亞は俺のベッドの上に居て、エク○シストみたいなポーズでこちらを見ている。
き、気のせいじゃなかったーッ!
「……で、俺に何の用だ?」
カナリ極めて冷静さを(必死に)装って問いかける。
すると百合亞は、今度はブリッジの状態から逆マトリックスへ移行。
長ったらしい髪の毛を重そうに持ち上げるようにも見えた。
あえてそう見えるようわざらしく、スローモーションでゆっくり、直立のポーズに持っていく。
「満点〜」
耐えろ、耐えるんだ。自重しろ俺。
ツッコんだら負けだ。
新体操かよ! とかツッコんだら負けだぞ。
「で、何の用?」
「んもぅ、ヤマトったら冷たぁいんだからぁ」
声にも表情にも、頬に手を添えるその仕草にも艶っぽさが漂う。
一般人ならここでクラッときてしまうだろう。
が、相変わらず間延びした独特の喋り方が俺の癇に障る。
しかしいちいち気にしてたら会話どころじゃないので、そこは慣れるしかない。
「……で、何の用だ?」
「ん〜? そんなにカタ苦しい顔しないでよぉ。大した用じゃないしぃ」
同じ質問を三度目にして、やっとまともな返答。
そして懐から百合亞が取り出したのは――
「これがやりたかっただけなんだけど」
なんと、ゲームソフトだった。
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早速本体の電源を入れ、ソフトを本体に入れてプレイ開始。
百合亞はゲーム機のちょっと前の位置に座布団を敷いて、正座してコントローラーを握り締めている。
心なしか、いつも虚ろな瞳が今回はきらきらと輝いているように見えた。
その視線の先にはテレビ画面。たった今、色鮮やかなゲームのタイトル画面が映る。
俺はベッドで横になってそれらを眺めていた。
「おい」
「なぁに? 今オープニングだから話しかけないでよぉ」
意外なことにご静聴中だったらしい。
仕方がないので言いたいことを飲み込んで、無言でテレビ画面を見つめる。
やがてムービーが終わって、最初に主人公の名前を入力する画面が表示された。
「なぁ、お前――」
「ね、名前どんなのがい〜かなぁ?」
またも話を遮られた。
仕方がないので適当に名前を考えてやる。
「普通にカタカナで『ユリア』でいいだろうよ」
「じゃあ『ヤマト』でいいやぁ」
「話聞いてた? 話聞いてた? あと勝手に人の名前使うな」
「え〜……ヤ、マ、ト、っと」
そんな俺には目もくれず、百合亞はカチカチとボタンを動かす。
名前入力が終わり、やっと本編が始まる。
俺はその隙をついてすかさず、今まで言いたかったことを口にした。
「なぁ、おい、一つ聞きたいんだが」
「ん? どしたの」
ゲームを進める手を止めて、俺を振り返る百合亞。
普段の含みのある笑みじゃなく、無垢な瞳がこちらをじっと見る。
「お前、このゲームのジャンル言ってみろ」
睨みを利かせ、声のトーンを落として真剣さを強めてみる。
ディスプレイには、ポニーテールの可愛い女の子と、彼女に叩き起こされている主人公の図。
ちょっと不機嫌そうな女の子の声で「まったく、アンタのせいで遅刻しちゃうじゃない!」という音声がスピーカーから聞こえてくる。
「何って――ギャルゲー?」
百合亞はあっさりとその名を口にした。
「あっさり言うな! なんでわざわざ俺の部屋に来てギャルゲーをやる!?」
「だって百合亞、ゲーム機本体持ってないんだもん」
「じゃあなんでソフトだけ持ってんだよ!」
「誰かに本体借りようと思ってぇ」
「逆だろ! フツー逆だろ!」
それでは友達が貸してくれること前提じゃなきゃ出来ないだろが!
「まぁまぁ、大和はこの中の誰が好みぃ?」
そう言ってギャルゲーの説明書をぺらっと開く百合亞。
開いたページには見開きで、何人ものヒロイン達の顔と簡単な紹介文が載っていた。しかもご丁寧にセリフ付きで。
「……この娘かなぁ」
俺は右ページの一番上の、ふんわりした長い髪のいかにもおっとりとした女の子を指差した。
「あ〜この娘かぁ〜。この娘のルートだと、嫉妬と猜疑心に捕らわれてどんどん病んでいくんだよねぇ〜」
百合亞は意味あり気にニヤニヤ笑う。
「大和、ヤンデレ好きだったんだぁ〜」
知るかぁああ!
第一、見た目だけで選んだんだからわかんねえよヤンデレとか!
紹介文のどこにもそれを臭わせる記述ないよ!
「じゃあ大和のご期待に応えてこの娘攻略ルートへ……」
「中止! とにかく中止! 別のゲームやろう別の!」
強制的に電源を切り、部屋の棚から適当に取り出したゲームソフトを新たに入れ、電源を入れ直す。
よく見たらそれはキャラクター物のレーシングゲームだった。
赤い帽子とヒゲがトレードマークのオヤジが、タイトル画面を占拠している。
「よし、これで勝負だ」
自信満々に宣言し、意気揚々と自機を選ぶ。
このゲームは一時期カナリ極めたからな。
不動の一位をかっさらってやるよ。
「百合亞、このゲームやったことなぁい」
「分かった分かった、操作教えるから」
一通りざっと操作を教えてやり、俺と百合亞はコンピューターも交えての乱戦へ突入したのだった。
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――――
おかしい。おかしいぞコレは。
何回やっても一位になれない。
あの時の栄光は何処へ?
そんなこんなで、もう九回はやっただろうか。
不動の一位だったはずの俺が、今日は一位になれないままだった。
しかし、一位は百合亞ではない。百合亞には毎回勝っている。
一位になれない原因は百合亞なんだけどね。
「おい! お前、俺にばっかお邪魔アイテム使うなよ!」
「え〜だって楽しいじゃぁん」
「コンピューターいるだろ!? 的確に俺ばかりを狙うな!」
「やっぱぁ、生きた人間の反応が一番面白いじゃあん?」
「シバくぞテメー」
現在一位のカメ(カメなのに……)とデッドヒートを繰り広げつつ、百合亞の投げてくるバナナを避ける。
だが避けるときに多少無駄な動きをしてしまったが故に、その隙にカメがゴールイン。
次に俺がゴールイン。
さらに百合亞がゴールイン。
「やったぁ〜」
「う、嬉しくねぇ……」
がっくし、と肩を落とす。
くっ、百合亞の邪魔さえなければ一位だったのに……。
「見苦しいよぉ? これくらいの苦難は乗り越えてくれなきゃ」
たかがゲームで苦難と言うか?
まぁ、俺もムキになってたけどさ。
……されどゲーム、ってか。
ふと、百合亞が何かを思い付いたように、ニヤリと口元を動かした。
「そ〜だなぁ。じゃあ、一位になれたらご褒美あげよっかぁ?」
「ご褒美?」
何を急に言い出すかと思えば。
怪訝に思う俺を見ながら、百合亞はくすくす笑ってこう言った。
「一位になったら……ヒントをあげるよぉ。キミが知りたがってることの……ね」
ドクン、と心臓が跳ね上がった。
脈拍数は測るまでもなく上昇しているだろう。
知りたいことって、俺とアリスの――
「……よし、やってやるよ」
「そうこなくっちゃぁ」
こうして、何時間にも渡る大勝負が、認識新たに幕を開けた。
次回に続きます。
今回はギャグ(ほのぼの?)の回とシリアスの回と分けてみました。
最初は一緒に書くつもりが、気が付けばギャグパートが長くなってたもので……。
なるべく早く更新したいところです。