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番外 お前だけが苦しいと思うな、意外に腐るほどいるぞ。後編。

長期間、更新が途絶えてしまい申し訳ありませんでした。

さらにごめんなさい、オチがありません。

「夢羽! むうー!」


 捜索開始十五分経過。

 捜し人(夢羽)の足取りが意外にも掴めないまま、時間ばかりが過ぎていた。


「なぁ嘉穂! お前ら仮にも姉弟というか双子なんだから、夢羽が行きそうな場所とか検討つかねぇのかよ!」

「簡単に言わないでよ修治くんっ! そんなことが出来てたら私は、私は今まで全然苦労してないわっ!」


 嘉穂は走ったまま涙声を荒げ、怒りを露にした。


「それもこれも、ぜんぶぜーんぶ『ようせいさん』のせいなんですからっ!!」


 そんな感じの会話を繰り返しながら、布団をひっぺがし押し入れの中身を片っ端から出しまくる。

 二階の部屋という部屋を捜し尽し、プライバシー侵害なんてへったくれとばかりに、次々と個室を荒らしていく。

 劇的すぎるビフォーアフター。

 その爪痕はなかなか壮絶なもので、普通ならマナーとして元通りにしていくべきであったが。

 ……今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

 中央の階段を駆け上がりながらふと脳内によぎった言葉。

 ほんの十五分前に聞いたばかりの、あの一言。


『この程度の任なら、軽く十分程度で片付くでぃしょう。さっさと終わらせてさっさと戻ってきてくださいでぃすよ、修治さん?』


 ――早く終わらせないと、待ち構えているのはHELL(地獄)行き列車だぞ俺ぇぇェェエエエ!!


 二段抜かしで一気にラストスパートをかけ、最後の一段を思いっきり踏みしめる。

 荒い息を整え、俺は階段を上り終えたとき独特のある種の達成感を味わっていた。


「ふぅ、やっと三階かぁ〜……」

「まったくでぃす、やっと本命の階でぃすね。有力候補とはいえ、怯助さんのトラップ迷宮だけは勘弁してほしいでぃすが」


 …………沈黙。

 そして覚悟を決め勢いよく振り返ってみると、俺の背後に立つ小さな影が。

 …………何故筑祢ちゃんがここにいる?


「あの、つくねちゃん、なにゆえいつの間に、食堂で待っていたのでは?」

「きっちり五分前ほどからずっと、ずっと修治さんの後ろにいましたでぃすが何か?」


 どこぞのB級ホラーより遥かに怖いです。

 俺が言葉にできない恐怖に戦慄していることなんて軽くスルーしながら、筑祢ちゃんは手の中に常備していたストップウォッチの液晶を見て呟いた。


「……捜索開始からそろそろ二十分でぃす。私も手伝いますでぃすが、早く見付けないと五分おきにペナルティのレベルを上げますよ修治さん? 最悪でも大和さん達が帰ってくるまでに済ませなかったら…………どうなるか、よぅく、分かってますよねぇ?」

「ひぃぃいやぁあああああ!!」


 猛ダッシュ! そのままの勢いで目の前の扉を突き破る!

 ――訪れたのは静寂。俺の目に写る限りではなんともない、生きていくのに必要最低限なものしかないシンプルな部屋。

 いやもはやコレはシンプルなんてレベルじゃない気がする。

 部屋の中にあるのはふわふわのクリーム色のカーペットに、部屋の隅に衣服が綺麗に畳まれて何着か(といってもまったく同じようなセーターがニ、三着)置いてあるだけだ。

 家具は皆無、つまり収納も皆無なり。

 うん、おかしな所はたくさんあるが特に何も怪しい場所はない。

 ……というか、そもそもこの部屋のどこに隠れろと。

 ある意味見晴らし良すぎですから。


 …………はぁ、柄にもなく少々焦りすぎたか。

 ともかく落ち着け俺、深呼吸だ。

 すー、はー。

 ふぅ、なんだ結局ここにもいな――いや、人影はある。


 物音のする方角へ向かってみると、そこは脱衣所。

 それはシャワールームの真ん前に、上気した頬に湯気を纏わせながら立っていた。

 純白の雪のように白い肌は、今はほんのり赤みが増して色っぽい。


「………………」

「………………」


 そして互いにタイミングを計ったかのように同時に叫び出す。


「きゃぁああああああああ!!」

「わぁぁああああああああ!!」


 弾かれたように猛ダッシュ猛ダッシュ猛ダッシュ!

 俺は何も見てない見てない見てないッ!

 決して震子さんの裸なんて見てない!

 俺が立ち去った後が見る間に猛吹雪極寒の地だなんて知らないぃぃい!

 やっぱり官能的な(からだ)だなぁ、だなんてぜんッぜん考えてないぞォォオ!?

 きょ、怯助さんスンマセンスンマセン!

 あっでもあの人ヘタレだから大丈夫……ってそんな問題じゃねーよ自分!

 てか震子さん普段からあんだけ露出してんのに羞恥心あったの!?

 …………あれ、そもそも、雪女って風呂入れたの?


「しゅ、修治さん! 前――!」


 一瞬真横から筑祢ちゃんの焦った声が。

 思考に集中し過ぎてスピードを落とせないまま俺が顔を上げると――目の前にまたも人影。


「え――――わぁぁああああああちょっとどいてぇぇえッ!!」


 ぐしゃっ。




 ………………今なんかものすごいギャグにしにくい擬音が聴こえたような。


 状況を正確に伝えると、廊下のど真ん中にて、俺は現れた人影を避けれず向こうも俺に気付いたときには遅く、そのまま勢い余って突っ込んでしまいお互い転倒した。

 そして現在、俺の腹の上にはぐったりとした人影、さらにおかしなことに何故か俺が下敷きになっている矛盾が成立していたり。

 あとこ、心なしか柔らかいものがあた、当たってるような……。

 それでもヒト一人の重さはそれなりのもので、例えその体が俺の未知の領域の柔らかさを持っていたとしても、重いことに変わりはなく。

 正直重いのと、先程の衝動時の痛みでいっぱいいっぱいであった。


「ぐぅ、くるし……」


 情けないうめき声を上げながら上半身を起こそうとしたとき、別の部屋の捜索に当たってた嘉穂が戻ってきた。


「だめだわあそこの部屋も違う……修治くん?」


 ……あれ?

 なんでさっきまでこっちに近付いてきたのがまた一歩下がったんですか嘉穂さん?

 何故怪しい人を見るような視線を俺に送りますか俺別に何もして……って筑祢ちゃんまで!?

 だからなんで揃いも揃って俺を批判の目で見つめてくるんですかしかもさ、筑祢ちゃんに至っては最初から最後まで見てたよね?

 この状況がただの事故だって分かってるはずだよねぇ?


「お邪魔、だったかしら……?」

「そうでぃすねぇ」

「待て待てまてマテ嘉穂誤解だって! 筑祢ちゃんも分かってるんだから否定しろよ!」


 と、その時、もぞもぞと(くだん)の人影が「ん〜ぅ……」とか声を漏らしながら意識を取り戻したようで。


「ふわぁぁあ……」


 大きな大きなあくび&伸び。

 とても正面衝突したばかりの人間とは思えない。


「む〜……う? あれぇ、なんでボクしゅ〜ちゃんの上に乗っかってるの?」


 おや?

 なんでだか知らないが、見知らぬ少女から聞き覚えのある声が発せられたぞ?


「あ〜お姉ちゃんだ。なんでお姉ちゃんしゅ〜ちゃんと一緒にいるの〜? 二人仲良く『みっかい』?」

「「違いますッ!!」」


 二人同時にハウリング。

 第一、筑祢ちゃんもいるのだから二人きりじゃないし……ってオイ筑祢さん?

 どうしてあなたは「信じられない」とでも言いたげな顔で俺を凝視するの?


「――って、そうじゃなくて、夢羽! あなた何その格好は何!?」


 そう、俺達が血まなこになって捜していた人物が、今ここに別人のような姿で座っている。

 キラキラという効果音の付きそうな、装飾品たっぷりのお姫様ドレス、ご丁寧に金の縦巻きロールなカツラまで装着済み。

 よく見れば顔にメイクまで施されている。

 そして危うく騙されそうになったが、胸は『やたらリアルな偽物』によるものだった。

 どこで手に入れたんだよ。


「おい、夢羽……」

「……ねぇ、これは一体」


 …………何の冗談?


「えへへ〜コレ? すごいでしょ〜お姫様みたいだよね〜」


 のんきな口調のお姫様はその場で立ち上がり、くるっと一回ターン。


「……ええと、おかしいな……わたしったらいつの間に幻覚が見えるようになっちゃったのかなぁ」

「俺もだ……目の前に異国の風景が広がってる……」

「二人ともおんなじポーズでどうしたの〜?」

「べりっ、と石像にヒビが入って、中からすっきりとした様子の人が出てきそうな格好でぃすかね」


 俺と嘉穂の心労など露知らず、にこにこ笑顔の夢羽と淡々とした表情でジョークを呟く筑祢ちゃん。

 てかオイ、分かりにくいCMパロディは止めようよ筑祢ちゃん。

 肩こり、腰痛の悩みじゃないから今は。


「夢羽、お姉ちゃんの質問にちゃんと答えてね? あなたその服とかは一体どうしたの?」


 まるで幼い子を諭す幼稚園教員みたいだな、とか思ったのは内緒にしておく。


「んっとね〜」


 こっちもこっちで、お前精神年齢いくつだよと聞きたくなるところだがな。


「それは――あ〜っ!」

「な、なに!?」


 突然空中を指差して叫んだ夢羽と、びっくりして持ち前の護身用スプレー(製作者は怯助さん)を取り出す嘉穂。

 彼女の本能が敵の接近を告げるのか、肩や口元が大袈裟なくらいひくひくと動いていた。


「ようせいさ――」

「いやぁぁああああああ来ないでぇぇぇええええええ!!」


 悲鳴をゴング代わりに、新妻vsGのような闘いが……あのスプレーもしやゴ○ジェット?

 てか、彼女にはその『ようせいさん』がどのように見えてるのやら……。

 それはある意味、夢羽にも言えることだが。


「あぁ〜っ! 待ってようせいさ〜ん」


 そして夢羽はまたしてもふらふらと、危なげな足取りで見えないなにかを追いかけて行って……ってオイイィィィ!

 捜した意味がたった今リセットの予感!


「あぁっ! 待ちなさいってば、夢羽ー!」


 ちょ、嘉穂まで!

 待って迷子増えても嬉しくない!

 時間が! 時間がヤバイんだって!

 マジ待ってペナルティ増えるのはもっと嬉しくないからッ!!


「……修治さん?」

「な、なななななッ!? なんだい筑祢ちゃん?」


 どうしよう、筑祢ちゃんがバックにとてつもないオーラと虎を纏ってるような……マズイ予感。


「…………ペナルティ、忘れてないでぃすよね。さっさと探せでぃす」

「はいぃィイイ!!」


 あぁ神様。俺に安らぎの時はないんでしょうか。

 ……ないんですね、ハイ。


 その後、大急ぎで似てない双子を追いかけ、結局食堂に戻ってきたのは買い出し班が帰宅して一時間後であった。

 捜索開始からおよそ一時間半。

 ――ペナルティ、レベル35。

 ちなみにレベルの上限は不明。

 おかげで俺は数週間、筑祢ちゃん監視下の元、食堂の手伝いと“その他もろもろ”をやらされる羽目になるのであった……。




 余談。

 夢羽にお姫様な格好をさせた張本人は、意外にも震子さんであることが(本人が自供したため)後日判明した。

 何やってんだあの人。

というわけで、ある意味大和よりも不幸な位置にいる少年、修治の視点でお送りしました。

タイトルは大和に向けた言葉です(苦笑)

そして少なからず嘉穂ちゃんも苦労人でありますね。

はたして彼等の心労が軽くなるは…………来ない気がします。

次回はやっとパーティーの話……だいぶ間が空いたから忘れ……頑張ります(汗)

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