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番外 お前だけが苦しいと思うな、意外に腐るほどいるぞ。前編。

完全に大和視点じゃないため、一応名目上は番外編。

更新遅れたあげく二部に分けてしまい申し訳ない……サブキャラ中心にスポットを当てたお話となっております。大和達が買い出しに行ってる間の出来事。

 なんで俺はこんなことをやらなきゃならないんだろうか。


「ほらそこ、ぐずぐずするなでぃす。包丁捌きはもうちょっと素早くやるものでぃすよ」

「「は、はいぃぃぃぃいいい」」


 いくら上司(寮長)の命令とはいえ、これはいくらなんでも滅茶苦茶だ。理不尽だ。


「誰もお鍋を見てないのでぃすか!? ふきこぼれたりしたらどうするんでぃす! まったくもうこれだから最近の若者は……」

「「す、すみませんんん…………」」


 何が楽しくて、毎日聞いているこの小さな女の子の小言を、こんな時にまで聞く羽目になるんでしょう。


「ちょっと修治(しゅうじ)さん、よそ見はあとでも出来ますから今はさっさと動いてくださいでぃす」

「はぁい…………」




 俺の名前は修治。

 ここ【たそがれ寮】を治める寮長、黒井霞直属の部下で修理・治療を担当している。

 寮長直属の部下というのは、某黒スーツの軍団とはまた別の部隊だ。


 いつも口紅のプリントが目を引く妖しげなマスクをつけて変な髪型変な趣味……ぶっちゃけどっからどう見てもオカマな、掃除・美化担当の麗太(れいた)


 どこの一族の言葉か分からない口調で話し、ただひたすら寮長の側近をやったり情報処理をこなしたり黒スーツ軍団を指揮したりする、事務・護衛担当の桜妃(おき)さん。ぶっちゃけ怖い。


 見た目は五歳、頭脳は一人前。礼儀正しく立ち振る舞いは立派な大人。だが正体はとんでもない毒舌マシンガンの持ち主である誇り高き幼女、調理・食事担当の筑祢(つくね)ちゃん。ぶっちゃけシャレになんないくらい怖い。


 そして修理・治療担当の俺、修治の四人で、ここに住む寮生達の世話をしている。

 具体的に俺の仕事を例に上げてみると、まず怪我をした奴がいたら治療してやる。あとは寮の物が壊れたりしたら修理しに行ったり……例えば窓とか窓とか窓とか? そして壊した奴を叱ったり……例えばあの兄妹とかあの兄妹とかあンのチビガキ兄妹とか?

 他にもまぁ、筑祢ちゃんは知っての通り俺達の健康などを考えながら食事を作ったり、桜妃さんはいつも寮長の側にいて影ながら仕事をサポートしている。麗太は……アイツもアイツで“うまく”仕事をこなしている。つまりバレない程度にサボっている。ただこの前は、新入り(大和)に執拗に絡みすぎて寮長の目についてたけどな……。


 そんな麗太は俺の横で、トントンとリズミカルに包丁を操っている。その格好はいつもの掃除用エプロンとはまた別に、リボンとフリルをふんだんに使った、桃色エプロンを着用していた。

 …………ちなみに言う。コイツは俺とタメで、十四歳の健全な男子……のはず。はずなんだ。ちょっと前までは…………。


「ちょっとなぁに修治? 人の顔じろじろ見ないでちょうだい。ほら、手が止まってるわよぉ、若い男はさくさく働く!」


 だめだセリフが三十代のおばちゃんの貫禄だ……。


「つーか、お前普段の格好もひどいけどそのエプロンまじ何? 超ピンクピンクしてんですけど」

「あんたのファッションセンスもそこそこ奇抜だと思うけど? 私はいいのよ、心はどこまでも純な乙女だから」


 純なオカマの間違いじゃねえ? てゆーか、今どき純な乙女でもそんな格好しねぇよ。そして俺の格好はいいんだよファッションなんだから!


「そんなマタニティグッズにでも描いてありそうなくまちゃんがポケットにプリントされてるオーバーオールなんて、そもそもどこで売ってるのやら……」

「うるせええええ! こ、これはだなぁ! 仕事上小さい子ウケがいいかなと思って……! つーかお前も人のこと言えねえよ!」

「はいはい、分かったからさっさと手を動かす! もうちょっとテキパキやりなさいな。また筑祢ちゃんに怒られるわよ?」


 うっ、イタいところ突かれた。心なしか冷や汗が体内でスタンバイしてる気が……。


「……へいへーい分かったよ。でも意外にムズいんだってコレ」


 俺の目の前には不格好に切られたにんじん。

 その横には見事なまでに綺麗に切られたにんじん。

 俺の手に握られた包丁は微かにカタカタ震えている……うん、俺の手が震えてるだけなんだけど。


「麗太、なんでお前そんなに包丁慣れしてんの?」

「これぐらい女のた・し・な・み」

「……さいですか」


 はあぁー……と、デかい溜め息を一つ吐く。ダメだコイツ修復不可能だ。

 それに比べて俺は……おれはし、仕方ないよな。俺なんてったって修理と治療担当だし? 料理は包丁じゃなくてお湯を使うもんなんだヨ?


「いやぁね、料理は深く濃密かつ濃厚な愛情で作り上げられるのよ」


 ダメだコイツ修復不可能だ。そして俺ダメダメだ。

 さて、また怒られる前に作業に戻りますか――


夢羽(むう)がいなくなったですって!?」


 そんなとき、食卓の方から少女の甲高い悲鳴が聞こえてきたのだった。


 ――――――――

 ――――――

 ――――


「な、なんで……? あの子ちゃんと装飾班さんのところにいたはずじゃ……!」

「いいいやいや、あ、あのね、夢羽ちゃん……くん? あああの子は途中で妖精さんを追っかけてっちゃって……」

「なんで止めてくれないんですかっ! きょーちゃんさんは味方だと……同志だと思っていたのに!」

「ひぃっ!」


 ウェーブのかかった長い髪の少女の剣幕に圧され、怯助さんはいつものように怖じけ付いている。

 うーん、怯助さんは憧れではあるんだけどなぁ……いろんなモノを自力で作っちゃうし。ただコレさえなければなぁ…………一生治らなさそうだけど。

 てかきょーちゃんさんっておかしくないか? 同志ってオイ……まぁ細かいことは、俺には関係ないしどうでもいいか。


「あぁぁぁ大変だわ……もし夢羽に何かあったら大変……」


 そしてまたうーん。兄弟想いなところは多少風太に似ているかもしれない、この娘。


「ね、ねぇ……なんか俺的に心配しすぎな気がするんだけどさ、もうちょっと力抜いたって――」


 キッ、と少女が俺を睨む。


「だめですっ! いつ何が起こるか分かんないんだから……!」

「でも相手は妖精だろ? だったら大して害はないんじゃないの……?」

「あの子は害のあるものにも笑顔でついて行っちゃう子なんですっ!」


 お姉ちゃんそれは言い過ぎでは。


 ――夢想家。それが少女の双子の弟、夢羽の二つ名であり普通じゃないところ。

 夢見る乙女? とは聞こえがいいもの、実際は現実と空想がごちゃまぜになって区別が出来ていないのが事実らしい。夢羽は、見えてもいないのに“見てる”と思い込み錯覚する。それが心配なんだとこの少女、嘉穂(かほ)は毎度ぼやいていた。……さらに言えば、夢羽は“見えてない”だけで何故か嘉穂にはばっちり“見えてしまう”から尚のこと心中複雑らしい。本人曰く、自分が信じると夢羽も信じちゃうから、私が否定しなきゃいけない、だそうで。相変わらず過保護だなぁ。

 過保護の嘉穂と、夢想家の夢羽。なんだかちぐはぐな双子だな。


「まったく……妖精なんていないって何度言ったら分かるのかしら。男の子がそんなモノに気を取られちゃダメよっ……! かくなる上は…………」


 懐から取り出したるは無銘の、何やら怪しきスプレー缶。それを「しゃきーん」と小さく呟きながら構える嘉穂。自分で言っちゃうか。


「なにそれ、摧涙スプレーかなんか?」

「違いますっ! そんな怪しいモノじゃないわっ!」


 首をぶんぶん振って否定する嘉穂。ちょっとカワイイなオイ。


「こっ、これは……これは私がきょーちゃんさんに特注で作ってもらった、『開運・なんでもイナクナール』スプレーよっ!」


 いや十分怪しいだろ。開運って何だよ。

 てか怯助さん、アンタつくづくなんつーもん作ってんだよ。


「他にもっ、夢羽に着けさせたチョーカーは悪霊退散の効果があるし、着ているあのセーターは肩がこらないって通販で評判の代物だし、いつも私が寝る前に『現実と空想の見分け方』って本を読み聞かせしてあげてるのに……ほっ、他にも……」


 …………嘉穂。お前しっかりしてるように見えて実は騙されやすいタイプだな?

 そこへ「何事でぃすか」と食堂の長、筑祢ちゃんが現れる。事情を麗太が伝えると、筑祢ちゃんはあっさり一言。


「なら捜せばいいじゃないでぃすか」


 いや、それはそうなんですけど。

 つーか、さっきまであれだけビシバシしごいてたのに、ホントにいいのか?


「どうせ買い出しの方々が戻らなきゃ先の段階へは進めないでぃすし、さっきまでのは皆さんの肩慣らしのためでぃす。感謝するといいのでぃす」


 あれで肩慣らしだったんだ……。

 そう言うと筑祢ちゃんはふぅ、と嘆息し、無言で俺の元に近づくと、何故かいきなり俺の腕を思いっきりつねってきた。


「いっ、いいい痛い痛い痛い痛い! ちょ、筑祢ちゃん何するの!? 痛い痛い痛い!」

「……せいぜい頑張ってフラグでも立ててきやがれでぃす」


 ねえ筑祢ちゃん、その偏った知識はいったいどこから仕入れてくるんだい?




 ともかく俺達は即効で『夢羽捜索隊』を結成し、食堂を後にしたのだった。

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