第十五話 デパート爆破未遂事件。
今回は大和視点じゃない部分が多々出てきますが、そこは三人称になっております。
タブーだとは思いますがあらかじめご了承下さい。
「大和くん達、無事かなぁ……」
寮の談話室にて、装飾担当になったアリス・怯助・震子の三人。
彼女らは無駄話に花を咲かせながらも、いそいそと折り紙で子供の誕生日会などによくありそうな『わっか』を作っていた。
「……ただの買い物よ。そんな心配することじゃないわ…………」
「でも……さっきからイヤな予感がすっごくするんだもん」
ちなみに、同じく装飾班に配属された佐川は、至極当然とばかりに作業に参加していない。
自室に篭って少しでも受験勉強に励まなければならないのに、こんなくだらない行事に参加する義理はない、とのこと。
同じく装飾班。双子の片割れ――弟である夢羽は、突然「おりがみの妖精さんまってー」とか言いながらふらふらと談話室を出ていってしまった。
姉である嘉穂は調理班のため、その場に夢羽を注意する者が誰もいなかったのだ。
しかしそれが、かえって寮生である三人には「居づらい雰囲気にならずに済んでよかった……」と思われているのだから皮肉なモノである。
『寮』という閉鎖空間に閉じ込められ、普段同じ顔ばかり見て暮らしている彼女らにとって、一応同じ管轄内の人間とはいえ『他所者』と、どう接したらいいのか分からないというのが率直な意見だった。
「……あら、怯助君早いのね」
気が付くと、すでに怯助は自分のノルマを達成していた。
「あ、う、うん。何ならてて手伝おうか?」
やや上ずってるものの、いつもよりはマシな声で怯助は受け答えする。
表情も普段の態度よりは自然体な印象がした。
ある意味、いつもの反応も『自然体』ではあるが。怯助の場合。
「私は平気だから、一番遅れてるアリスちゃんを手伝ってあげたら……?」
「そそ、そうだね。いい? アリスちゃん」
「えへへへ…………」
震子に指摘され思わず苦笑を浮かべるアリス。
見るとアリスの側に置かれた折り紙の束は、開始約一時間にも関わらず半分も減っていない。
この一時間ずっと『買い出し班』のことが心配で、そのことばかりずっとぼやいていたからだ。
「えっと、じゃあ遠慮なくお願いします」
「そういえば……今は喋り方がいつもより落ち着いてるわね怯助君」
「や、やっぱりあの兄妹がいないって分かってるからかと……」
怯助にとってあの兄妹が相当な心労になっていることが伺える一言である。
「あの二人がいないだけで寮内の雰囲気も変わりますよねッ」
「……それだけ、あの二人の存在が濃いって事じゃないかしら」
「(…………ただ五月蝿いだけじゃないかなぁ……)」
騒がしさの欠けた寮から、溜息が一つ溢れた。
――――――――
――――――
――――
一方、話題の中心人物である兄妹の片割れはと言うと……。
「まったく……どこへ行ったのだアイツらは」
休日客で賑わうデパートのフロアにて、一人ぽつんと突っ立っていた。
「雷華様がちょっと最新ゲームを見に売り場まで向かって帰ってきたらこのザマだ。主人がわざわざ言わなくとも『待て』をするのが飼い犬としての常識だろうが。帰ったらしっかりと調教をしなければならないな……しかし調教しようにもその肝心の奴らがいなければ話にならん。うーむどうしたものか……」
ものすごい勢いでぶつぶつそう呟いていると、前からデパートの職員らしき人物が雷華に近づいてきた。
「キミ、お父さんやお母さんは一緒じゃないのかい?」
「誰だ貴様は。それに雷華様に向かってキミとはなんだ。ちなみに言っておくが雷華様は今は両親の元を離れ別居中なのだ。そこらへんの餓鬼どもと一緒にするな」
そう言って真っ平な胸をぐぐぐと反らし、腕を胸の前で組みふんぞり返るおなじみのポーズをした雷華。
そんな無駄に偉そうな雷華の一言にもめげず(それでも顔は引きつっていたが)、もう一度話しかけるデパートの職員(♂)さん。
「そ、それじゃあ、誰か他の人と一緒じゃないのかい?」
「その一緒にいた下僕三人がいないから雷華様がこうして一人悩んでいるのではないか」
とりあえず、雷華の自己尊厳と下僕三人への皮肉その他もろもろがたっぷり入った無駄に長ったらしい説明を聞いた職員さんは、なんとか事情を理解するのに精一杯であった。
だが、要するに彼女が迷子であるという事だけは確信した。
「ま、まぁとにかく『迷子センター』に行って、アナウンスでその人たちを呼んでもらおうか」
その言葉を聞いた雷華が突如憤慨して喚き散らす。
「この雷華様が迷子扱いだと!? ふざけるのも大概にしろ貴様ぁ!」
コイツ黒こげにしてやろうか。
一瞬そうしようと実行に移しかけたが、そんなことをしたら寮長の大目玉を食らうのは必須なのでなんとか自身を抑止した。
さらに今さら思い出したが、雷華には外出の際、能力の発動を抑制するリストバンドの着用を義務付けられている。
発動すれば雷華自身に電流が跳ね返り流れるので、むやみに感情を荒げればそれだけ自分に被害が及ぶ。
下手に動けば自滅というわけだ。
少なくともそれを分かっていたので、雷華は即座に短気を起こさずに済んだのである。
少なくとも今は。
「はいはい。じゃあ一緒に行こうか」
がっし! と腕を二人の男性職員に掴まれ、情けなくもずるずると引きずられていく雷華。
「わっ! ちょっと離せぇ!! 離せって言ってるのが聞こえないのか馬鹿者! 王様の耳は少なからずロバ並には機能するがお前の耳はクズ耳か!? 大体迷子なのはアイツらであって雷華様じゃないと言っただろうが! ちょ、ホントに離せったら! は〜な〜せ〜っ…………」
どれだけ雷華があがいても、彼らが手を離すことはなかった。
(この子を放置しておいたら、なんかいろんな意味危ない……)
そんな風に思案しながら、職員達は軽く嘆息した。
彼女の教育者は何をしているんだか、と。
――――――――
――――――
――――
そんなことも露知らず俺はというと、ゲームを見に行った雷華を無視して買い出しを済まし、今さっきレジにて代金を支払い、食品達を袋に入れる途中であった。
買い物をしてる間、桜妃さんに『町』についていろいろと教えてもらったりしていた。
この町は普通の町じゃない。ここは“能力者の住める町”なのだ。
大人も子供もいる、一見何の変哲もない普通の町だが、住人の七割が実は能力者だし、残りの三割の人々もその親類とかばかりらしい。
だから能力を乱用しても大丈夫、というわけかと思いきや、そうではなかった。
彼ら住民は自分達で上手く能力を制御し、秩序ある環境作りを心がけている。
だから認められているとはいえ、その扱いに注意を怠ってはならないのだ。
素直に、すごいなぁとしか言えない。
俺だったらそんな立派な考えに至らないだろうな。
そんな便利な能力なんて持ってたら、使いたくなるに決まってる。
たまに雷華や風太達が羨ましく思うときがあるぐらい…………いや、真似たくないことばかりだけど、ね。
そんなわけでいろいろと考え込んでいたら、今更のようにあることに気が付いたのである。
「…………あれ、誰か一人足りなくないか?」
「ディス・イズ・マイシスターだから」
というわけで迷子の軍曹さんを捜索開始。
――――――――
――――――
――――
「一体どこ行ったんだあいつ……」
「もうゲーム売り場にはいなかったぜェ?」
帰ろうにも雷華を置いていくわけにもいかないよなぁ。
あんなのを放置していたら最高にご近所迷惑だ。
だから今こうして捜索しているのだが……。
「桜妃さん! そっちは見つかりました?」
書店スペースの向こうから桜妃さんが駆けて来た。
「否、雷華殿の気配は一向にせず」
「やっぱりあのとき一緒について行けばよかったなァ……」
はぁ〜、と溜息をついた瞬間。
タイルの床に何かが落ちているのを見つけた。
――黄色いリストバンド?
しかもなんかで切られてる……?
『ピンポンパンポーン♪』
あ、なんかやな予感。
『本日はご来店頂きまことにありがとうございます。お客様に迷子のお知らせ――』
『だから雷華様は迷子じゃなーいっ!!』
『――え、ちょ、ちょっとお客様! 何をなさっ――きゃあっ!』
バチバチバチ!
と、凄まじい音が聞こえたと思ったら、今度はデパート内が大停電に襲われた。
「――な、停電!? ていうか今の声やっぱ……!」
「間違いねェ! 雷華の仕業だ!」
『もう頭にきた! ええい貴様らよく聞けぇ!!』
――なんで停電なのに放送機器は無事なんですか?
え、特殊拡声器? 本来は演説用? 怯助さんに特注で作ってもらった?
なんなんだこの都合のいい設定!?
さらに追い討ちをかけるように、
『ピッ、時限爆弾セット。イマカラ5分後ニバクハツシマス』
お、おいうちをかけるように……時限爆弾、バクハツ……?
な、ななななな何ぃ!?
『今の音声を聞いたか馬鹿共! あと5分でこの爆弾は爆発するぞ!! ちなみにこの爆弾の威力は高層ビル1つを軽々粉砕出来るほどだっ!』
「なんでそんな危なっかしいモノを持ってるんだあいつはッ!」
「それもたぶんきょーちゃんからちょろまかしたんじゃないかと――」
「なんでそんな危なっかしいモノを作ったんだあの人はッ!!」
『いいかどこかにいるはずのクズ三人組! この爆弾を止めたければ今すぐにこのデパートの屋上に来い! 少しでも遅れたりしたら皆ドカン! だからな!!』
どうでもいい小話。
嘉穂ちゃん夢羽ちゃんの双子は『姉弟』です(笑)
夢羽ちゃんが女の子だと思っていた方、スイマセン。
三人称難しいです……未熟な部分があちこちあると思いますが流してください(汗)
以後、精進します。