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第十三話 華麗なる寮生。

「暇だ。何か退屈しのぎになるモノを考えろ」

『……………………』


 開口一番、突如皆を集めて寮長が言い出したのはそんな一言だった。


 ――――――――

 ――――――

 ――――


 寮長のトンデモ発言の約十五分前のこと。


「大和くぅ〜ん」


 自室で久方ぶりの穏やかな時間を送っている最中、アリスの呼び声が耳に届いたのである。


「ん? どーかしたのかアリス」

「寮長から緊急招集だってッ、でもってアリスが皆を呼ぶように言われたの」

「緊急って、」


 なんだなんだ、何か良くないことでも起こったのか?


「分かんないけど……とにかく今すぐ会議室に集合だってッ」

「本当なんなんだよ……」


 仕方ないので、名残惜しいがすっかり温まったベッドから腰を上げ、自室を後にした。


 ――――――――

 ――――――

 ――――


「おぉ大和、元気かー?」

「や、大和さんこんにちは……」


 会議室にたどり着くといきなり挨拶による歓迎に迎えられた。

 ……何故ここに我がクラスメイト諸君が?


「あの、みなさん、ここは学校でも学校の会議室でもありませんヨ?」

「大和こそ何言ってんだ。俺達は仮にもこの寮の傘下の人間だぜ? 緊急招集となりゃ来てトーゼン」

「といいますか……私たちたまに来るって予め了承をもらいましたよね……? 来ちゃいけないんですか……?」


 フリフリのロリータな私服やっぱりロングスカートの女の子が、恐る恐る尋ねてきた。

 しかし態度はおどおどとした様子を装っているが、その控え目な言動からは“控え目なりの”反論めいた響きが伝わる。

 だから俺は自分の失言を認め謝った。


「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。ただこんなところに皆が全員揃っていたから驚いて条件反射というかなんとゆーか……」


 素直に謝れない自分ファックユー。


「『緊急招集』は、この寮の関係者でそのとき仕事や急用がない者は全員集合という規則なんです。陳腐な脳をお持ちの貴方でも理解出来ましたか?」


 そしてメガネシャラップ。


「んぁー? 嘉穂や夢羽たちまでいるのかよォ」

「風太くん……! 本当に久しぶりぃ……っ!」

「風ちゃんだ風ちゃーん。雷ちゃんもひさしぶりだねぇ、小人さんみたいにちっちゃくなった?」

「なってないっ!」


 やかましいのが二名ほど増え、場が一層騒がしくなってきた。




 まぁ集合というだけあって、少々狭い会議室では人口密度が高い高い。

 それでもこんな寮に会議室があるだけでも立派なものだ。広さも一般的だし。

 ただ人数が“会議”の人数じゃないだけで。

 ぎゅうぎゅうというわけではないが、おそらくこの部屋にある椅子だけでは足りないんじゃないかと思われる。

 いつの間にかあちこちに集落が出来ていて、どこにも属せないロンリーな俺は話を盗み聞きしてみることに。




 《集落 A》 インテリ軍団


「――というわけで、こここれはエタノールとジメチルエーテル――この化合物がナトリウムと反応して――ヒドロキシ基――」


 何言ってるのかさっぱりぽんだぞ。

 ……自分で言っておきながら後悔。


「なるほど……流石怯助さんです。僕も更に勉学に励まなければな」

「いっ、いやいや佐川くんは十分過ぎるくらいゆゆゆ優秀だよ! と、というかコレ……ボクが同い年のときにはやらなかったような……てかコレこっ、高校生で習ったような…………そして佐川くん、ぼぼぼボクが間違ってなければきっ、キミ、ちゅっちゅっ中学生だったよねぇ……?」

「先の先までしっかりとやらなければ受験には受かれません」


 俺は? 俺は? これでも現役ですけど?

 けど全然分かりませんでしたけど?


 そんな優等生――佐川を見つつ、怯助さんに弟子入り志願中の――修理・治療担当の修治が熱く怯助さんに語りかける。


「お前年中受験受験ばっかじゃねーか。それにしても怯助さんスゴいです……! ますます弟子にしてほしくなりました」

「いっ!? いいいいやいやいや修治くんにはもっといい師匠がぴったりじゃ……! つ、筑祢ちゃんとかさぁ!」

「はい、絶対無理です」


 その発言の後、マッハ3で筑祢ちゃんが追って来たのでいつの間にか追いかけっこ、トムとジェリー状態になっていました。仲良くケンカしな。

 でもって次の集落。




 《集落 B》 乙女(?)軍団


「らっ、雷華ちゃん、きょきょきょ今日こそこのフリフリの服を着」

「無理、不可、断固拒否。絶対嫌」


 だろうなぁ。イメージに合わない。

 ロングスカート少女――嘉穂はがっくりと肩を落とし、涙声で話を続けた。


「うー……まだ全部言ってないのにぃ……」

「雷ちゃーん。ぼくからもお願いするから、おねーちゃんのお願い聞いてあげてよー」

「夢羽……おねーちゃんは嬉しいわっ、あなたがこんなに立派に」

「きっと妖精さんみたいに可愛くなるよー」

「もっと嫌だぁああ!!」

「……まだ全文言ってないけど、前言撤回するわ夢羽。妖精なんていませんって何度言ったら」

「あら……雷華ちゃんの妖精さんみたいな姿、しょっちゅう見れるわよ……?」

「えーっホントホント?」

「(またしても全部言えてない……)ど、どうしてですかぁ……?」

「だって……私が着せたりしてるもの」

「……………………え?」


 ……予想外の衝撃発言に、俺も「え?」と言っておく。

 そんなこともお構いなしに震子さんは喋る喋る。


「他にも……そうね……どこかへ遊びに行って帰ってくるときに、なんとも言えない……こういうのを“萌え”というのかしらね、そんな感じの服装で恥ずかしそうにしながら帰ってくるわよ……? どこでそんな格好に着替えてるのか知らないけれど…………」

「うわぁああ! 言うなっ! 言うなああ!!」

「みたいみたーい! ねーねー雷ちゃんいいでしょー?」

「やだやだやだぁぁああああッッ!!」


 それは俺も是非見てみたい……。


「そんな妹の盗撮写真ならここに」

「わー! 風ちゃんありがとー」

「イヤァァァアアアアアアルバムに変な写真がぁぁあああ!!」


 いつの間に撮ったんだよ風太。つーか盗撮ってバラしてどーする。




 とまぁ、こんな感じでわいわいがやがやと騒いでいたのです。


「……寮長の気配がする」


 こんな一言が発せられるまで。


 ――――――――

 ――――――

 ――――


 そして現在に至る。


「…………え、えっと寮長さん? その真意は如何なるモノで?」

「真意も何もない。暇だから何か考えろと言ったまでだ」

『……………………』


 一同起立、気をつけ、礼、絶句。ジョークだけど。


「……その為だけに緊急招集?」

「そうだ」

「帰っていいですか?」

「許可を貰ってから行け」

「じゃあ帰る許可をください」

「断る」


 なら言うなよ。


「え、えぇと……こういう場合って挙手すればいいのかな?」


 一連の儀式が終わったところで、アリスが困惑気味に手を挙げた。


「なんだアリス」

「あのあのッ、せっかくだからみんなでパーティーとかしたいなぁ……って」

「ほう」


 寮長が少し意地悪な顔をしたのを皆、見逃さない。


「して、パーティーというのは何かを祝う際に行うものだろう。今回のは何を祝うパーティーなんだ?」

「ふえッ、えー……」


 さすがにアリスも不意を突かれたのか、あわあわ言いながら取り繕う言葉を探している。ご愁傷様だ。


「えっ、と…………あ! そうそう、そうだッ! せっかくだから、新しく仲間に入った大和くんを歓迎するパーティーってことで! 今まで歓迎会なんてやらなかったし、ねッ?」

「え、えぇッ!?」


 突如主役に抜擢された少年に視線が集結した。

 ……アリス、いくらなんでもさぁ、イキナリ俺に話振るかぁ!?


「ちょ、ちょっと待った! なんでイキナリ俺!? 大体今までやらなかったならそれでいいじゃん!」

「…………大和くん、いやなの、かな」

「いいっ、嫌じゃないさ! ただみんなはいいのかなーって」

「いいんじゃねェの? 楽しそうだし」

「私も賛成しますでぃす」

「楽しそうね。いいんじゃないかしら……」

「ぼぼっ、ボクもいいと思うよ?」

「……仕方ないですね」

「ケーキはあるのか!? なら雷華様もやるー!」

「幸せ者だなぁ大和。喜べよー」

「わーいパーティーパーティー楽しいなー! おねーちゃんはー?」

「わっ、私も……っ!」


 あれれ全員文句なし?


「決まりだな」


 フッ――とカッコ付けたように寮長が笑う。

 あれっ俺の自由意思は?




 ――その後、それぞれの役割を分担して決めた。

 明日から早速準備ということで会議は解散。

 俺は買い出しの班になった。メンバーは……。


「よーしお前ら! 明日の指揮官はこの雷華様だ! 皆、今からわたしのことは『軍曹』と呼ぶがいいっ!」


 まず軍曹殿が一名。


「買い出しかァ。久しぶりだなー……」


 その兄が一名。


「よぉ相棒! 一緒に頑張ろうぜー」

「誰が相棒だ誰が。俺はこんなさわやか三組を相方にした覚えはない!」

「ははっ、手厳しいなぁ」


 さわやか三組こと、俺の席の隣のアイツ。


「オイオイオイオイ。いい加減名前覚えろよな……」

「へいへーい、覚えてるって五十嵐クン」

「まったく……」


 ごめん、実はすっかり忘れてた。今思い出した。

 そしてあと一人。


「……主の命ならば、致し方ない」


 ――誰ですかアンタ。

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