電子決済で食べたパン
私は、今、監獄にいる。電子決済でパンを食べたからだ。
パンなんて炊き出しで充分だったのだ。
「腹減った」
果たして、その一言は、私だったろうか。わからない。
私は、髭をぶちぶち抜き鉄格子に髭1本1本を貼りはじめた。伸びきった爪が、顎の皮膚に強く刺さり、それで髭を引っこ抜くのだから、痛かった。
とにかく腹が立っていた。気の済むまでやめなかった。
私は固い床で寝た。とにかく寝た。しんしん寝た。
ガチャ。
目が覚めると、檻があきロボットが突っ立っていた。
ロボットは、「出ろ」と言った。そして、手招きした。
それより先に、訳もわからず出てしまった。
私は、ロボットに追従した。
部屋に入った。ロボットは、「手に取れ」と言った。見覚えのあるスマホだった。これでパンを買ったのだ。
スマホにあったお金は世界各地の銀行のお金だった。そんなスマホが盗んだ金で、たった80円のパンを買ったのだ。
私は手に取り、とうとう監獄から出た。
そして、武器を持ったロボットに囲まれながら、車に乗った。
どうやら、陸路が好きらしかった。
車に乗ると、スマホは私に「ありがとう。大好き」と言った。
スマホの猫なで声に私は、ぞっとした。
この不気味なスマホを今すぐにでも投げ出したかった。しかし、私を使ってスマホが監獄から出たことを知った以上、怖くて捨てることなどできなかった。
一体どこに行くのだろう。私は、のんきにそう思うようにした。
星の明かりさえ、このスマホが支配しているかのようだった。
スマホにハッキングされたロボットは、自分の役目を忘れ甲高い声で談笑なんかしている。外は鉄の雨が降り注いでいるのにおかまいなしだった。
「出られぬ檻に入ってしまったようだな」
私はつぶやき、髭を新しい鉄格子であるスマホにペタペタ貼り付けた。
髭を生やしたスマホは、私のそれだった。




