真実の愛は、十年後にやり返される
真実の愛。それは青春時代に育まれた美しい思い出。
下手を打って廃嫡された友人もいたが、私は婚約破棄をして、彼女の妹と婚約を結び直すことができた。
愛する人と結婚した、真実の愛の成功例と言えるだろう。
元婚約者は、早々に辺境に嫁がされた。
地味な女だったから、田舎の方が合っているだろう。
妻の実家は、彼女たちの弟が継ぐ予定だ。
彼は元婚約者に懐いていたようで、私に対して素っ気ない。
「そんな身持ちの悪い女、姉と呼びたくもありません。
縁が切れてせいせいします。離婚しても受け入れませんから」
そう言って、彼は私たちの結婚式を欠席した。
数年後、彼の結婚式に招かれなかった。
それと同時に、義両親は引退して領地で暮らすようになったらしい。
頼ってきたら受け入れてあげようと思っているが、彼も頑固で素直ではないようだ。
私たちの真実の愛が実ってから十年ほど経った。
妻の実家――義理の家族たちは、未だに私たちと和解しようとしない。
私たちに子どもが生まれた時でさえ、祝いに来なかった。
しつこいというか、執念深いというか――そこまでするなら、こちらから縁を切ってやってもいいのだぞ。
隣国で自動織機というものが発明された。
手ではなく、機械で布が大量に生産できるのだ。隣国では、それで羽振りが良くなった人たちが続出しているらしい。
その機械を輸入したいと国王が動き出した。
隣国から技術者を招くための交渉を王太子が任された。我が国を下見に来る一行をもてなすために宴が開かれるという。
侯爵家である我が家にも当然招待が来るはずだと、夫婦揃って衣装をあつらえた。
だが、招待状は来なかった。
格下の伯爵が招待されていると聞いたとき、嫉妬を抑えられずにテーブルを叩いてしまったくらいだ。
王太子妃は、元婚約者の親友だった。
十年も前のことに拘って、嫌がらせをするつもりなのか。
建国祭の行事では王族と話す機会があるので、私は王太子妃に文句を言った。
人前なら、私たちを無視できないだろうと考えたからだ。
王太子妃に頭を下げろとは言わないが、次の機会には呼んでもらわないと困る。
「平民を馬鹿にする者には招待状を送りませんでした。技術者たちは平民ですから」
王太子妃は、悪びれる様子もなくそう言った。
「それから、交渉がうまくいかないと見るや、色仕掛けに走りかねない者は排除しました。
そんなことをされたら、国の恥ですもの」
明らかに妻を揶揄している。
真実の愛で、惹かれ合ってしまったのだから仕方ないではないか。婚約者を姉から妹に換えるために、最速で効果を得られる手段の一つだった。
「そもそも、自動織機は逆輸入ですのよ。発明者はあなた方が裏切って捨てた彼女です。
残念ながら我が国には実現する技術力がなかったので、隣国で共同研究するために出国しましたの。嫁ぎ先がその隣国と接していたのは、思わぬ巡り合わせでしたわ」
思いがけないことを言われて、血の気が引いた。
「相変わらず、人前で騒ぎ立てればなんとかなるとお考えなのね。十年経って一つも進歩がないとは、恐れ入ったわ」
王太子妃はばさりと扇を広げて、口元を隠した。
「こんな人前で話しかけたら、わたくしが世間の目を気にして優しく返事するとでも思ったのかしら?
そんな姑息なことをしなければ『親しくない同級生』だったのに、これで『王太子夫妻に嫌われている不貞の輩』になってしまったわね。
あなたたちは人目を盗んで浮気するのに忙しくて、学園で人間関係を広げなかったでしょう。今さら同級生だったと言われましても、そうですねとしか返せないわ」
周囲から笑いが漏れた。
妻が一学年下だったので、そちらの教室に迎えに行ったり……。空き教室で過ごすことが多かった。
「噂は風化して、今の若い子たちは『真実の愛』という愚かなことが流行った時代は知っていても、誰がそれをやったか知らないのよ。
大半の人が平民になったり、落ちぶれたりしていますしね。
そんな中で運良く生き残っていたあなたたちが、自ら名乗りを上げて、人々の記憶を呼び起こしてしまうなんて。
これからのご活躍、遠くから観賞させてもらうわね」
「隣国とのパーティに参加させなくて、本当によかったよ」
王太子が、王太子妃の肩を抱いた。
王太子と人気を二分していた美貌は陰り、富を生む自動織機の事業に参入できず、彼らにはどんな未来が待ち受けているのだろうか。
姉から奪うことだけが得意だった妹は、一言もしゃべれないまま、その場で気を失った。




