7:歴史の遺物
数日後、カイは公社からの指示で、先日孤独死が確認された隣人の部屋を訪れていた。部屋の中は、持ち主を失ったモノたちが、静かにその時を待っているようだった。
カイは、遺品整理のマニュアルに従い、分類作業に取り掛かった。床に広げられたコンテナには、「データ化」「再利用」「焼却処分」と、無機質なラベルが貼られている。
作業が寝室のクローゼットに及んだ時だった。衣類が詰め込まれた棚の奥に、カイは小さな木箱が隠されているのを見つけた。中には、古びた写真の束が、大切そうに収められていた。
セピア色に変色したその写真には、黒い礼服を着た人々が、神妙な面持ちで並んでいた。彼らの視線の先には、花で飾られた大きな木箱――棺桶が置かれている。人々は皆、一様に俯き、その表情は硬く、まるで目に見えない何かに対して、敬意を払っているかのようだった。
カイは、写真の束を手に取ったまま、数秒間思考を巡らせた。
「…葬式、か」
それは、歴史の授業で習った、旧時代の儀式の名だった。彼の脳内で、診断レポートのような思考が組み立てられていく。
【対象儀礼:葬式。目的:不明。行動:集団での静止、俯き。感情的兆候:非論理的な悲哀の表情。結論:社会的機能が不明瞭な、非効率的儀礼】
なぜ彼らがそんなことをする必要があったのか、その感情的な意味は全く理解できなかった。理解できない。この非合理性の裏にある、旧人類を動かした根本的な動機は何なんだ? カイは、その非効率性に軽い苛立ちを覚えながらも、同時に、解けない数式を前にした時のような、純粋な知的好奇心を刺激されていた。
一通りの考察を終えると、カイの思考は再び現実のタスクへと戻った。彼は木箱の蓋を閉めると、それを持ち上げ、「焼却処分」とラベルが貼られたコンテナへと、静かに入れた。
コンテナの蓋が閉まり、側面の処理ランプが緑色からオレンジ色に変わる。旧時代の悲しみの記録が、次の焼却プロセスへと送られたサインだ。カイはすぐに次の作業に移る。彼の頭の中には、もうあの写真の光景は残っていなかった。それは、処理が完了した、数あるタスクの一つに過ぎなかったからだ。