表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

7:歴史の遺物

数日後、カイは公社からの指示で、先日孤独死が確認された隣人の部屋を訪れていた。部屋の中は、持ち主を失ったモノたちが、静かにその時を待っているようだった。


カイは、遺品整理のマニュアルに従い、分類作業に取り掛かった。床に広げられたコンテナには、「データ化」「再利用リサイクル」「焼却処分」と、無機質なラベルが貼られている。


作業が寝室のクローゼットに及んだ時だった。衣類が詰め込まれた棚の奥に、カイは小さな木箱が隠されているのを見つけた。中には、古びた写真の束が、大切そうに収められていた。


セピア色に変色したその写真には、黒い礼服を着た人々が、神妙な面持ちで並んでいた。彼らの視線の先には、花で飾られた大きな木箱――棺桶が置かれている。人々は皆、一様に俯き、その表情は硬く、まるで目に見えない何かに対して、敬意を払っているかのようだった。


カイは、写真の束を手に取ったまま、数秒間思考を巡らせた。


「…葬式、か」


それは、歴史の授業で習った、旧時代の儀式の名だった。彼の脳内で、診断レポートのような思考が組み立てられていく。


【対象儀礼:葬式。目的:不明。行動:集団での静止、俯き。感情的兆候:非論理的な悲哀の表情。結論:社会的機能が不明瞭な、非効率的儀礼】


なぜ彼らがそんなことをする必要があったのか、その感情的な意味は全く理解できなかった。理解できない。この非合理性の裏にある、旧人類を動かした根本的な動機は何なんだ? カイは、その非効率性に軽い苛立ちを覚えながらも、同時に、解けない数式を前にした時のような、純粋な知的好奇心を刺激されていた。


一通りの考察を終えると、カイの思考は再び現実のタスクへと戻った。彼は木箱の蓋を閉めると、それを持ち上げ、「焼却処分」とラベルが貼られたコンテナへと、静かに入れた。


コンテナの蓋が閉まり、側面の処理ランプが緑色からオレンジ色に変わる。旧時代の悲しみの記録が、次の焼却プロセスへと送られたサインだ。カイはすぐに次の作業に移る。彼の頭の中には、もうあの写真の光景は残っていなかった。それは、処理が完了した、数あるタスクの一つに過ぎなかったからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ