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3:空席の補充

公社に戻ったカイは、報告書の作成に取り掛かった。オブジェクトAの損傷状態、遺留品リスト、現場の汚染状況。彼のタイピングは、淀みがない。


報告書の最終確認をしていた時、タブレットからアラート音が鳴った。


【警告:オブジェクトAのIDが、公社職員データベースのアカウントと一致しました。職員ID:タナカ・ケンジ(経理部)。報告書に所属情報を追記しますか? Y/N】


カイは「Y」のボタンをタップする。タナカの顔写真データを数秒見つめた。一度だけ、自販機の前で会釈を交わしたことがあったかもしれない。…まあ、どうでもいいことか。カイは思考を打ち切った。


その時、フロアの向こうから誰かの声が聞こえた。


「おい、さっきの7号線の事故、経理のタナカさんだったらしいぞ」


「ああ、タナカさんか。彼が担当してた第3四半期のデータ整理、誰がやるんだ?面倒なことになったな」


その利己的なぼやきに、別の女性職員の声が重なった。


「でも、現場にいた子供は無事だったんでしょう? それは良かったわ。未来の貴重な労働人口が一人、失われずに済んだのだから」


その安堵の空気は、一瞬で霧散する。女性職員は、全く間を置かずに、隣の同僚に話しかけた。


「そういえば、今日のランチ、どこにする?」


その日の午後、社内ネットワークに新しい公募通知が掲載された。


【件名:欠員補充のお知らせ】


【部署:経理部】


【役職:スタッフ(1名)】


タナカという個人が存在した痕跡は、システムから静かに消去されていく。カイはその通知を既読にすると、すぐに画面を閉じて自分の業務に戻った。それは、壊れた部品が新しいものに交換されるという、ごく当たり前の知らせに過ぎなかった。

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