1:午前七時の静寂
「生命活動停止者は4名でした」
壁面ディスプレイから流れる、昨日の株価の終値と変わらない温度の声で、カイの一日は始まった。
午前7時00分00秒。
体内ナノマシンが、彼の意識を寸分違わず覚醒させる。
急激な覚醒による不快感はなく、まるでスイッチを入れたかのように、思考はクリアだった。
室内は静寂に包まれている。防音壁に吸収され、外の音は一切届かない。彼が住む高機能アパートメントは、全ての住人に等しく、完璧な静けさを提供する。
カイは壁から差し出された栄養チューブを無味の燃料として摂取し、主張のないダークグレーの制服に袖を通す。
それだけで彼は「公社の職員」という記号になった。。
公社に到着し、自身のデスクに着くと、すぐに上司がやってきた。
「カイ」
「はい」
「昨夜の7号線の件、担当は君とBチームだ。現場の処理を頼む」
「了解しました」
カイは短く答えると、タブレットを起動し、現場の初期データを転送し始めた。
彼の心は、石を投げ込んでも波紋一つ立たない、静まり返った水面のようだった。
これから向かう先に、4つの「死」が転がっている。
しかし、その事実は、彼の心に何のさざなみも立てなかった。




