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【完結】家政婦ソフィアとエルフなご主人様~貧乏令嬢はエルフ公爵様の優しさに癒される~  作者: 夢子


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ミゲール・スチュアート

 私と父の頭上だけに雲が集まり、影が差したと思った瞬間空が眩しく光る。

 ピカッ!

 あまりの眩しさに目を瞑ると同時に、父を囲むように大きな氷柱がドスドスドスと音を立て地面へと突き刺さる。


「な、なんだこれはっ!」


 驚いた父は私の手を離し尻餅をつく。

 逃げ出したいけど逃げられない。

 氷の檻にでも入れられたような父は青くなるだけだった。


「ソフィア!!」


 マイア様の声が聞こえホッとする。

 父に何度も打たれ殴られた私はきっと酷い顔をしているだろう。

 乙女心としては好きな男性には見て欲しくない顔だけど、そんな事を気に出来ないぐらい今すぐマイアさまに抱きつきたかった。


「マイア、様……」


 体の力が抜け倒れ込むようにマイア様に抱きつく。

 マイア様の香りと体温が私に安心感を与えてくれる。


 マイア様の顔を見てホッとしたからだろうか、今頃になって体の痛みと震えを感じる。

 殴られた頬は腫れているだけではなく口の中も切れているようで血の味を感じる。

 父に強く捕まれた手首も真っ赤に腫れあがり手の跡が付いている。


 それに父と押し問答した際に引っ張りあったせいか、微妙に足首も痛いし膝にも擦り傷が出来ていた。


「ーーっ!、ソフィア」


 倒れ込むように抱き着いた私を見てマイア様の顔に怒りが浮かぶ。

 胸の中に私を閉じ込め、父から守るように私を後ろ手にし構えると、今もまだ地べたに座り込む父を睨みつけた。


「貴様、私のソフィアに何をしたっ!!」


 マイア様の声がいつもと違い低音でビリビリと体に響く。怒りで魔力が溢れているのか、ふわりと風を感じると父の周りにだけに砂埃が立つ。


「お、お前こそ誰だ! ソフィアは私の娘だぞ! その手を離せっ!」


 エルフであるマイア様を見ても、父はソレイに住むエルフ公爵様であるとは気付かない。

 まだ成人したばかりの坊ちゃまだってマイア様の顔を見てすぐにエルフ公爵様だと気が付いたのに、貴族としてはあり得ない父の反応に、これが自分の親だと思うと恥ずかしくなる。


「ああ……君が今のスチュアート家の名を継ぐものか……」


「なに……?」


 私の父だと聞き、マイア様の目が冷めたものへと変わる。

 未だに座り込む父は自分を知っているマイア様に困惑気味で、尚更気味悪さを感じたようで顔色が悪い。


 これまで私だけでなく、フィリップや兄からも父の行いを聞いていたマイア様は、初めて会う父に対し嫌悪しかないようだ。


 誰にでも優しいマイア様だからこそ、父の行動が愚かすぎて呆れしかないのだろう。

 実の娘である私でさえ呆れているのだからマイア様の反応は当然だと言えた。


「姉様!!」


 エリオットがソールの上に乗って私の元へやって来た。

 ヤトさんやルナさんやマルスもいて、ソールの背から降りると私とマイア様を庇うように父の前に立ち、いつでも襲い掛かれるように臨戦態勢をとる。


「ひっ……」


 見たことも無い大型の動物を前に父が小さな悲鳴を漏らす。

 それもその筈、使い魔たちからはいつのも可愛らしさは消えていて、恐ろしさしかないからだ。


「姉様、酷い、なんでこんなことに……」


 私の顔を見てエリオットが泣きそうになる。

 だけどグッと涙を堪えると、マイア様の弟子として父に向き腰に下げている木剣を持ち構えた。


「姉様に謝れ!」


 エリオットの初めて怒鳴る姿を見たが、父の耳には入らない。

 エリオットを目の前にして驚いた顔をする。


「エリオット、ここに居たのか! ずっと心配していたんだぞ!」


 氷の柱にしがみつき、エリオットに声を掛ける父。

 私に会ってからエリオットの名など一度も出さなかった父が、さも心配していたかのようなそぶりを見せるがエリオットの心には響かない。


 エリオットに優しい振りをすればマイア様に許されるとでも思っているのか、その目がチラリとマイア様に動き伺うような様子を見せる。


 強者には弱く、弱者には強い父には呆れしかない。


「黙れ! 姉様にこんなひどい事をする人を僕は父上だなんて思わない!」


 これまで父に逆らった事など無く、素直でいい子だったエリオットの言葉に父が驚愕の表情を見せる。

 ギロリと私を睨み、お前のせいだと言いたげだが、マイア様が怖いようで言葉には出さない。


「……エ、エリオット、私はお前を一番愛しているんだぞ」


 変わりにそんな言葉を吐くが当然エリオットが信じる筈もなく、父に向けた木剣を下げることなく構えたままで、その目には敵意が浮かんでいる。


 その様子を見ていたマイア様がエリオットの肩をポンと叩き安心させる笑顔を向けると、今度は父に向かい呆れた表情を見せた。


「はあー、君はスチュアート家のことを何も分かっていないんだね、とんだ愚か者だ……」


「な、何だと!」


 尻餅をつき、及び腰なのに言葉だけはどこまでも強気な父。

 マイア様が年下に見えるためそんな態度なのかもしれないが、ハッキリ言って情けない。

 父がここまで愚かだったのかと、恥ずかしくてエリオットの目を手で隠したくなる衝動に駆られる。


 マイア様が仕方がないなというように大きなため息を吐くと、父の周りの氷の柱が消えて行く。

 変わりに草の蔓が延びてきて、父の腕や足を縛り上げる。


「貴様、何をするんだ!」


 縛り上げられ転がされてもまだ悪態をつく父。

 使い魔たちに囲まれて怖いからか、目がぎょろぎょろと動き怯えを表している。


 父はこの期に及んでもマイア様をまだ庶民だと勘違いしているのか、それともそう思い込みたいのか「こんな事をして許されないぞ」と喚いている。


「許されないのは君の方だよ……ワイアット・スチュアート」

「な、なに?」


「君が何に執着しているのかは分からないが、ハッキリ言おう。君は騎士ではない」

「はっ? ハハハッ、若造に何が分かる! 剣を持ったことも無いお前に、騎士の何が分かるんだ!」


 マイア様に向けあり得ない言葉を吐く父。

 周りを囲む領民たちからは失笑が上がるが、父はそれに気付かない。


 心なしかエリオットの瞳まで冷めているように見える。

 気のせいとは思えないエリオットの表情に「こんな父親でごめんね」と私が謝りたくなるほどだ。

 五歳児にまで身限られてしまった父は、もう騎士とは呼べない存在であることは確かだった。


「エルフ公爵様!」


 ロイが仲間を引き連れて私達の元へ駆け付けた。

 緊急事態だからか、コリンさんやハンさんの走る姿も見えるが、武装しているロイよりも少し遅れている。


「ご無事ですか?!」


 今日は騎士服に剣を携え普段のロイとは別人のようで言葉使いも違う。

 夜会の時とも服装が違うので、きっと仕事用の騎士服なのだろうが鮮やかな青色の騎士服がとても似合っている。


「ああ、ロイ、ご苦労様」


 私を抱きしめたまま、マイア様はロイに向け軽く手を上げ挨拶をする。

 ソレイの警備隊が登場し、その上それがマイア様の知り合いだと分かり、縛られていた父の顔色がますます悪くなる。


「お、おい、助けてくれ、私は貴族だ。こいつらが、この平民共が急に暴力を振るってきたんだ」


「あ‟あ‟?」


「ひっ……」


 寄りにもよって父は、マイア様への憧れが強いロイにそんな声掛けをしてギロリと睨まれる。


 ロイがエルフ公爵様と呼んだ声が聞こえなかったのか、未だに強気でいる父に可笑しさで笑いそうになる。どこまで言ってもこの人は自分の都合がいいものしか見えないらしい。


 そう考えると、父は私が幼いころからずっと可笑しかった。

 まるで強い騎士にならなければいけないとそんな呪いに掛けられている様な、スチュアート家の歴代騎士たちの妄執に取り付かれているような、そんな可笑しさを昔からもっていた。


 父がどうしてそうなったのか、いつからそうなったのかは分からないけれど、自分で強い騎士になれなかった父は、ある意味可哀想で惨めな人だったのだろう。


 だからこそ子供に自分の理想を押し付けたのかもしれない。


 ただそれこそが、自分をより残念な生き物に変えているということに、この人は気付かなかったのだ。


「ワイアット・スチュアート、もう君に会うことも無いだろうから、最後にミゲール・スチュアートの事を教えてあげるよ」


「は?」


 草の蔦に縛られたまま、ロイ達警備隊の人に連行される父にマイア様が話しかける。


「ミゲール・スチュアートはね、家族を守りたくて剣を持ったんだ」

「は……?」

「ミゲールは本好きな大人しい子供だった、でも村が魔獣で襲われ父親を失った。そこからミゲールは幼い弟や妹、そして母親を、村を守ろうと心に決め、強くなろうと努力したんだ」

「な、何を……?」


 まるで見てきたようにマイア様がミゲール・スチュアートの事を語る。

 家族を守ろうと思ったミゲールは努力の結果強くなり、無事家族や村を守りきり、そして自分のいる街を守り、いつしか国を守れるほどの強い騎士になっていた。


「家族を愛し守ろうとしたミゲールの子孫が、家族を殴り追い詰めるだなんて私は許せない」

「わ、私は……」

「君はスチュアート家を守ろうとしたのかもしれないが、それは全て悪手だったと本当は分かっているのではないか?」

「……」


 マイア様の問いかけに、父の目からダラダラと涙が流れ出す。

 本当は父も自分の愚かさが分かっていたのかもしれない。


 けれど今更後には引けなかった。

 だからといって私やエリオットへ向けた扱いが許されるとは思えないけれど、父は父なりに家を、家族を守ろうとしていたのだと思うと、憎むことは出来なかった。


「もう君の役目は終わった……この先スチュアートの名を君が名乗ることは無いだろうね……」


 マイア様の言葉を受け父がガクリと肩を落とす。

 泣いている顔からはどんな表情をしているかは分からないけれど、ソレイで久しぶりに顔を合わせた時のような、何かに取り付かれた妄執のようなものは消えている気がした。

おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。

ブクマ、評価、ありがとうございます。

ヤル気頂いております。

マイア様にはもっと魔法を使わせたかったのですが……父が弱すぎて……

この程度でお許しください。

夢子


完結作品

パン屋麦の家

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こちらも宜しくお願い致します。


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