武器屋
「そうだ、帰る前に少し武器を見ていこうか、知り合いの武器屋がこの近くにあるんだ」
エリオットのためなのか、それともマイア様自身が武器を見たいのか、マイア様と私だけであれば絶対に提案しないであろうお誘いに、私とエリオットはちょっとワクワクしながら「はい」と頷く。
ニール書店から少し移動した先、エリオットでも歩いて行ける距離に宝石店のような佇まいの武器屋があった。
白に近いベージュ色の建物に「ガッシュ武器店」と看板がかけられている武器屋は、私が想像していた武器屋とは違い高級店であることがすぐに分かった。
「こんにちはー」
マイア様はそんな敷居の高そうな店に気軽な様子で入って行く。
私とエリオットは少しだけ緊張しながらマイア様の後に続く。
「これはこれはエルフ公爵様、ようこそお越し下さいました」
黒いスーツ姿の品のある執事のような男性が、マイア様を笑顔で出迎えてくれる。
私は入口でさえ豪華すぎるその店に、緊張を隠せないがどうにか笑顔を保ち、何でもない風を装う。
エリオットの手前出来るだけ姉の威厳を保ちたかった。
「やあ、店長こんにちは、ガッシュはいるかな? もしかして工房の方に居るのかな?」
「はい、オーナーは工房ですが、すぐに呼んで参りますのでどうぞこちらでお待ちください」
「有難う。助かるよ」
マイア様に店長だと言われた男性の案内で、店の中にある応接室に案内される。
壁紙は落ち着いた赤地に金の刺繡柄。
床は大理石。
部屋に入るのも緊張してしまう応接室に、靴を脱ぎたいぐらいだった。
「宜しければこちらをどうぞ」
皮張りの豪華なソファへと座ればキッチリしたスーツ姿の女性が現れ、私とマイア様には紅茶を、そしてエリオットにはオレンジジュースを出してくれた。
「ああ、いい香りだ。ソレイ茶かな?」
匠のものと思われるカップを手に取り、マイア様は気軽な様子でお茶を口に運ぶ。
辺境伯邸で高級茶を出されていたこともあり、私もどうにか平常心でカップを口に運んだが、残念ながらお茶の味が余り分からない。
何故ならエリオットのグラスがとても高価そうで、ジュースを飲むエリオットが気になってそれどころでは無かったからだ。
エリオットならば大丈夫だと分かっていても、もし割れてしまったら……とそんな事が気になって気持ちが落ち着かない。
マイア様のお陰で貧乏は脱却出来たはずなのに、身に着いた貧乏性は治らないのだと悟った私だった。
「よー、エルフ公爵様、久しぶりだなー」
高級茶に舌鼓を打ち、お茶菓子の美味しさにうっとりしていると、高級店に不相応な作業服を着た男性が私達の前に現れた。
「ガッシュ、久しぶりだね」
挨拶を返すマイア様の顔がほころぶ、立ち上がりガッシュと呼んだ男性とハグを交わし、お互い変わらないなと言って笑い合う。
ガッシュさんは小柄でガッチリとしていて、まるで物語の中のドワーフを人型にしたような方だ。
ただドワーフならばもっと背は低いだろうし、ひげもじゃなイメージだけどガッシュさんはそうではなく、黄土色の髪を短髪にしていて髭も生えていない。
それにドワーフは空想の中の生き物だ。こんな街中に居るはずがなかった。
「ガッシュはね、ドワーフの血を引いているんだ」
「えっ……?」
空想の世界が今私の目の前にあり驚きしかない。
エリオットはまだドワーフが分からないのだろう、私の横できょとんとしている。
「ガッシュは若く見えるけどもう百歳超えた? ぐらい、だっけ?」
「ああ、多分そんくらいだなー」
「ガッシュはずっと私の武器を作ってくれていて、この店のオーナーでもあるんだ」
「エルフ公爵様とは八十年ぐらいの付き合いか?」
「ああ、もうそんなに経つのか」
二人はまた笑い合う。
ドワーフの血を引くガッシュさんも寿命が長いようで、マイア様との付き合いも当然長い様だ。
年齢は五十歳ぐらいに見えるけれど百を超えているという。
先に死ぬであろう私としてはマイア様の傍に長生きな友人がいると分かり、ちょっとだけ嬉しくなった。
「えーっと、さっきの店長は孫の……?」
「ああ、孫のケビンだな、長女のとこの一番目の子供だ。あれも寿命が長めだな、もう五十は超えている」
「えっ?」
どう見ても二十代後半、頑張っても三十代にしか見えないケビンさん。
もしかしたらこの世界には私が知らない種族の人がまだ沢山いるのかも。
そう思うと本好きの私はワクワクが隠しきれなかった。
「このめんこい子がエルフ公爵様の嫁さんか、もう子供までいるだなんて驚いたなー」
ガッシュさんがガハハハッと笑い、このこのこのとマイア様の脇腹辺りを肘でつつく。
私を嫁と勘違いし、そしてエリオットを二人の子供と思ったガッシュさん。
マイア様は「えへへ、二人共凄く可愛いだろう」と言って訂正はしない。
二人にとって結婚前かどうかなど些細なことのようだ。
私も笑顔で話しを流す。
「そんで今日はどうしたんだ? いつもはヤトで連絡してくんのによー」
「ああ、そうそう、実はね、エリオット、こっちにおいで」
手招きされたエリオットは立ち上がりマイア様の下へと近寄った。
少し恥ずかしそうにしているのはマイア様の子供だと勘違いされたからか。
私もあんな顔をしているのかと思うと、何だか恥ずかしくって思わず手で口元を隠した。
「この子専用の剣と、それから同じ重さの木剣が欲しいんだ」
「ほう、この子に剣を……」
さっきまでマイア様と笑い合っていたガッシュさんの目がギラリと光る。
鋭い目つきにエリオットが怯えるかと思ったけれど、エリオットは表情を真面目なものに変えただけで顔色を変えることは無かった。
「この子は私の弟子になったんだ。エリオット、ガッシュに挨拶をして」
「はい、僕はエルフ公爵様の弟子エリオットです。よろしくお願いします」
エリオットが頭を下げる姿をガッシュさんは見つめる。
これは将来楽しみだな、良い目をしてる。
その言葉にマイア様が頷いた。
「でしょう。エリオットは筋が良いだけじゃなくって性格が良いからね。きっと本物の騎士になれると私は信じているんだ」
「本物の騎士……?」
「そう、志の高い騎士様にね、エリオットは弱い人をいじめたり馬鹿にしたりはしないだろう」
「はい、僕、そんなこと絶対にしません」
「うん、そう言う所がエリオットの素晴らしいところなんだよ」
「僕の、良いところ?」
「うん、良いところだよ」
マイア様が頭を撫でれば、エリオットの頬が赤く染まる。
大人になった時どうなるかは分からないけれど、今のエリオットは真っすぐでとてもいい子だ。
騎士に中には悪事に手を染めるものや、強いものに流され弱いものから摂取するものもいる。
マイア様はエリオットにそういった者にならないで欲しいと、そんな願いがあるのだろう。
剣を作る前にエリオットが分かるように騎士としての心構えを教えてくれるマイア様には感謝しか無かった。
父のような騎士にだけは絶対になって欲しくないとそう思うから。
「よし、じゃあ、エリオットだったか、採寸をするぞ、ちょっとジッとしてろよ」
「はい! よろしくお願いします!」
「採寸が終わったらどんな剣がいいかエルフ公爵様と一緒に相談するからな」
「はい、楽しみです」
ガッシュさんがエリオットの頭を撫でる。
その力が強すぎてエリオットの首が取れそうだったけれど、エリオットは凄く嬉しそうだった。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
ガッシュの身長は男性にしては小柄でソフィアと同じぐらいです。
夢子
完結作品
パン屋麦の家
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