エリオットのお友達
第一王子であるラッセル様と兄アンドリュー、そして姉カレンがエルフ公爵邸に突然来た理由は、エリオットと会う事と、ラッセル様と姉が婚約をする報告、そして兄と宰相の娘であるジャネット様が婚約をする報告、そして私とマイア様との婚約、結婚についての話だった。
「まさか皆が同じ時期に婚約する形になるとは思わなかったけれど、出来れば順番的にはアンドリューを一番最初に婚約させておきたいんだよね」
姉の婚約や私の婚約に父が口を挟まない訳がない。
特に姉は父の自慢であり、その上この国の王子が結婚相手だ絶対に口を挟んでくるだろう。
それに自分の成果だと、育て方が良かったのだとドヤ顔で自慢するだろうし、ラッセル様にもマイア様にも近づいてくる姿が想像できる。
王家としても子供にあれ程の仕打ちをする人物を、親族とするのは認められない。
なので先ずは兄がスチュアート家の家督を継ぐのが優先されるため、もう暫くマイア様との婚約発表は待って欲しいとそう言われた。
「待つも何も、婚約を大々的に発表する予定も無いのですが……」
私の呟きにマイア様もうんと頷く。
ここにブレイデン様がいたらそんな訳には参りません! と騒ぎそうだが、ソレイの大聖殿での結婚式だけで満足してもらいたいと思う。
宰相家とスチュアート家は兄が家督を継いだ時点で婚約発表をし、その半年後には結婚をとそんな思惑でいるようだ。
そして姉とラッセル様は一年後に婚約発表を盛大に行うらしい。
そしてその後また一年置いて結婚式をと考えている様だが、ラッセル様が二年も待てないと言ってるので少し早まる可能性はあるようだ。
「マイア様とソフィアさんはいつ頃結婚をとお考えですか?」
「結婚……えーっと、どうなるんでしょうかねー?」
「うーん……ブレイデン次第? なのかなぁ……」
私とマイア様の目が泳ぎ、ラッセル様と兄姉の呆れた顔が目に入る。
自分たちのことなのにこの二人は何を言っているんだ……
そんな心の声が聞こえ、昨日会ったブレイデン様の顔を思い出す。
ブレイデン様もレンさんも私とマイア様を見て同じ様な表情をしていた。
どうやら私とマイア様は結婚に不向きなようだ。
自分に自覚があるだけに、申し訳ありませんと素直に受け止められた。
「本来ならば姉であるカレンの方が先に結婚すべきでしょうが、王子妃となるカレンを後押しして頂けるなら、マイア様とソフィアさんが先に結婚して頂くことは正直有難いと思っております」
姉は家格が低い子爵家の娘、あのスチュアート家の娘であっても反対する意見は多い。
けれど兄と私の結婚相手が誰なのか知れば、文句を言う者もいなくなるだろうとラッセル様は微笑んでいた。
「えっと、じゃあ、マイア様、その辺りで結婚しましょうか」
「うん、そうだね、ブレイデンにも相談して、その辺のタイミングを計ろうか」
また他人事な様子の私達に対し、ラッセル様と兄姉が苦笑いを浮かべている。
この人達は……とまた呆れているのが分かる。
でもそこは許して欲しい。
結婚式に興味がない私達に形式的な物を期待しても無駄なのだ。
「でも何だか変な感じだね、私とソフィアさんの関係は誰かに認めて貰わなくても、ずっとこのまま永遠に変わらないのにね」
「マイア様……」
マイア様が私の頭をそっと撫でる。
結婚してもしていなくても、自分の想いは変わらないよ。
そう言ってくれているようで、嬉しくって頬が少し熱を持つのが分かる。
「コホンッ、ではマイア様、ソフィアさん、婚約式や結婚式の日程が決まりましたら王家までご連絡お願い致しますね」
「「えっ?」」
エルフ公爵邸に来ると咳ばらいをするものが多いのだが、ラッセル様も私達を前に咳ばらいをしニコリと笑う。
兄姉が困った子を見るように私を見て笑っているのは何故だろう。
「もう砂糖は要らないな」
「お腹いっぱいだものね」
言っている言葉も意味不明だ。
砂糖など、結婚式にも婚約式にも関係ないはずだから。
「お二人の婚約式も結婚式にも王家のものが出席致しますからね。くれぐれも忘れずご連絡をお願い致しますよ。ハハハ、争奪戦になりそうだなー」
ラッセル様にしっかりと約束をさせられ、そしてマイア様はすぐにブレイデン様に手紙を書かされ、兄たちの訪問は荒しのように過ぎ去っていった。
勿論夜にはフィリップにも会って行った。
兄姉から話を聞いたフィリップが「ちゃんと急かすから安心して」と誓っていたが、マイア様と私の事ではないと、現実逃避した私だった。
「あたしがキャリィだよ、エリオットくん、宜しくねー」
エリオットと一緒にハンナさんの宿屋へやって来た。
今日はエリオットとキャリィちゃんの顔合わせ、ワクワクしているキャリィちゃんの前、エリオットはちょっと緊張気味で私の手をぎゅっと握る。
「僕はエリオットです。キャリィちゃんに会えて嬉しいです」
緊張しながらもきちんと挨拶を返したエリオットはホッと息を吐く。
私を見上げ「姉様ちゃんと出来たよ」と視線で訴えてくる姿がとても可愛い。
思わず頭を撫でたくなったがキャリィちゃんの前なので我慢する。
幼くともエリオットにも男の矜持があるだろう。
可愛い女の子の前で姉っ子だと笑われるのは可哀想だった。
「エリオット君、お庭に行こ、あたしが育てたお花が咲いてるんだよー」
「う、うん。姉様、お庭に行ってきます」
弟のような存在が出来て嬉しいのか、張り切るキャリィちゃんに引っ張られるように、エリオットは宿屋の裏口を抜けて行く。
「良かった、大丈夫そうだね」
ハンナさんがホッと息を吐く。
エリオットの事情を話しておいただけに、心配をお掛けしてしまったみたいで申し訳ない。
「キャリィはエリオット君の話を聞いてからずっと楽しみにしてたのよ。年下だから可愛がってあげなきゃって、毎日何をしようか考えていたんだから」
ジュディさんがホッとしたような様子でそう答えてくれる。
私の弟と遊んで欲しい、そう聞いたキャリィちゃんはエリオットへのおもてなしを毎日のように考えてくれていたようで、クッキーも焼いてくれたのだとジュディさんが教えてくれた。
「子供のことは子供に任せておけば大丈夫さっ」
ハンナさんが私の背中を叩き、安心させるような笑顔を向けてくれる。
エリオットの様子を見ればその言葉が正しい事は分かった。
「さあ、ソフィアちゃんはこっちに来ておくれ、店を手伝ってくれるんだろう?」
ハンナさんの言葉にはいと頷く。
エリオットが遊んでいる間、私はまだ観光客過多で忙しいハンナさんの宿屋を手伝う予定だ。
「ほら、ここに座って、ここからなら庭が見えるからエリオット君の様子も見えるだろう」
ハンナさんに連れていかれた場所は厨房の隅の窓辺。テーブルの上にはジャガイモが籠に入れて有り、私の仕事は椅子に座ったまま芋向きをする事らしい。
「出来る範囲で良いからね、エリオット君の事を優先して見守ってあげな」
ハンナさんは私の肩をポンっと叩き仕事に戻って行った。
私が気を使わなくって良いようにと仕事を準備してくれていたけど、本気でやれば数分で終わる仕事に気遣いを感じる。
エリオット君を見ていてあげて。
そんなハンナさん達の心遣いが分かり、私の心までほっこりと温かくなった。
「姉様、今日ね、すっごく楽しかったの。あのね、キャリィちゃんが見せてくれたトマトのお花は黄色でね、お星さまみたいにツンって尖っているんだー」
ハンナさんの宿屋への訪問が終わり、エリオットと手を繋いでの帰り道、エリオットは私の手を握り興奮した様子でキャリィちゃんと遊んだ話をしてくれる。
エリオットがここまで興奮するのはマイア様の弟子になった時以来で凄く嬉しくて、子供らしい可愛い姿を見て私まで嬉しくなってしまう。
「それからね、キュウリもね黄色の尖ったお花だけどトマトとよりも少し丸いお花なんだよ」
馬車乗り場まで続く道を進む中、エリオットは瞳をキラキラさせて今日の出来事を話してくれた。
次回はキャリィちゃんと仲のいい近所の子を数人呼んでくれるらしい。
その中には男の子もいるけれど面倒見のいい子だから大丈夫だろうと、ハンナさんもジュディさんも太鼓判を押してくれた。
「エリオット、良かったわね。また来週が楽しみね」
「うん! キャリィちゃんのお友達とも沢山遊ぶんだー」
お土産にもらったクッキーを大事に抱え、エリオットがニッコリと笑う。
子供らしいその姿に何だか涙が出そうだった。
「ソフィアっ!!」
馬車乗り場へ到着すると、突然名を呼ばれ肩を掴まれた。
エリオットがびくりと肩を揺らし、私の背に隠れた。
「ソフィア、ソフィアだ。本当に、本物だ……」
ロイさんと変わらない程の背を持つ男性が、私の肩を掴んだまま泣きそうな顔になる。
夕暮れ時、今は仕事帰りで馬車乗り場も多くの人がいる。
なので当然私とその青年は注目を浴びているのだが、私は突然の出来事に驚き過ぎて頭が真っ白で、大注目を浴びている事に気付かない。
「ソフィア……会いたかったよ……ずっとずっと会いたかった……」
「ぼ、坊ちゃま……」
私の名を呼び瞳を潤ませるその青年は運命病に罹った坊ちゃまで、何故このソレイに居るのか今の私には理解できなかった。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
やっと坊ちゃま登場です。長かった。
夢子
完結作品
パン屋麦の家
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