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【完結】家政婦ソフィアとエルフなご主人様~貧乏令嬢はエルフ公爵様の優しさに癒される~  作者: 夢子


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エリオット

 フィリップの訪問を受け、居間に顔を出したマイア様にもエリオットを紹介し、皆で昼食を摂る。


 エリオットは五歳とは思えない程行儀が良くカトラリーを上手に使う。

 ただエリオットは食事中の会話を楽しむことも無く、食事を溢さないようにと緊張した様子で食べていて、その様子を見た私とフィリップの視線が合い、お互いに酷い顔をしているのに気づく。子供の頃を思い出したからだ。


 でも私にはフィリップがいたし、フィリップには私が居た。


 けれど母が出て行った後の実家にはエリオットしかいなかった。

 この子が父からの攻撃を一身に受けていたかと思うと、笑顔を保ちたいと思っても保てなかった。


「ソ、ソフィア姉さま、ごめんなさい……僕、もうお腹いっぱいで……」


 五歳のエリオットが食べられる量をと、私達よりも少なめにお昼ご飯を準備したのだが、それでもエリオットはお皿の半分程度を食べるともうお腹がいっぱいだと言い出した。


「エリオット、謝らなくって良いのよ。食べられるだけ食べればいいの、無理しなくたっていいわ」


 笑顔でそう伝えればエリオットはホッと息を吐く。

 残すなと怒られるかと思っていたような態度にまた胸が痛んだ。


「エリオット、残したら僕が全部食べてあげるから任せて」


 既にポッコリとお腹を膨らませたマルスが声を掛ければ、エリオットに子供らしい笑みが浮かびホッとする。笑うことが出来る、それが分かり嬉しかった。


「マルス様、ありがとうございます」


「うん、エリオット、僕はマルスで良いよ。食べることは僕に任せて良いからね」


「う、うん、ありがとう、マルス」


 子供の頃の私達はお腹が空いて仕方がなく、食べることが大好きだった。

 だから厳しい躾けもどうにか耐えることが出来たけれど、今のエリオットは食べること自体が苦行のようで苦痛に感じているように思える。


 一体父はエリオットに何をしたのか……


 家を出た私が言えた義理ではないかもしれないけれど、体も食も細い弟のことが心配で、父に対する嫌悪感が益々募ったのだった。







「さて、フィリップ君、ご実家で何があったか話して貰えるかな」


 お昼を食べた後、エリオットはマルスとソールと一緒に庭に出て遊ぶことになった。

 珍しい事にルナさんとヤトさんが最初からエリオットと顔を合わせてくれて、「私達が見ているから大丈夫よ」と子守を請け負ってくれた。

 エリオットに聞かせたくない話があると、ルナさんとヤトさんは気付いてくれたらしい。

 流石と言える行動だった。


「私の店も開店して暫く経ち、忙しさも多少は落ち着いたので休みの日にまた実家へ行ってまいりました。その、エリオットが気になっていたので……」


 皮肉なことにソレイ駅が開業したことによって、実家へ行くのも不便ではなくなってしまった。

 これまでは遠いという理由で実家には断固として帰らなかったフィリップ。

 店長になって父に胸を張れるという理由もあっただろうけれど、やはり実家の様子が気になっていたのは正直なところだった。

 なので連休をもらったその足で、フィリップは実家へと向かいエリオットの様子を見て愕然とした。


「実家では父の後妻となったあの女が我が物顔で威張っていてさ、庶子であるマイケルの方が跡取りのように扱われていたよ……」


 苦々しい表情でフィリップは話し出す。

 父が迎えた後妻は元々父の愛人だった女性で、マイケルとは父と後妻の子供であり、私達とは腹違いの義弟となる。


 エリオットとマイケルは同い年だけれど、愛人の子として可愛がられていたマイケルは成長も早く、実家で父から過剰な練習を課せらていたエリオットよりも体格が良く、見た目から年上のように見えるためエリオットを見下し威張り散らしているようだ。


 それも王都の庶民街で暮らしていたためガキ大将のような雰囲気があるらしく、大人しいエリオットを自分の手下にしようと思っていたらしい。

 義母の影響もあるのだろうと、フィリップは怒りを露にしながら話してくれた。


「いくら体格が良くても幼いころから鍛えている剣では流石にエリオットには敵わない。その代わり武術の稽古だと言ってマイケルは力任せにエリオットを殴っていた。俺は止めに入ったけれど、あの()はそれも勉強だと言って止めなかったよ。だったら俺がマイケルの相手をしようか、武術の稽古なのだろう? と言ってやったら流石にあの糞は黙っていたけどな。あの糞はエリオットよりマイケルに期待しているようだ。体も大きいし、何より元気一杯という雰囲気が気に入っているらしい、俺には立場の分かっていない馬鹿な糞ガキにしか見えなかったけどな……」


 話しを聞く限り元気というよりは躾のなっていない乱暴者にしか思えないマイケルだけれど、強い騎士に思い入れのある父からすると、そんなマイケルが快活で男の子らしく見えたのかもしれない。

 きっと体の大きさも父のお眼鏡に叶ったのだろう。

 単純な父が考えそうな事だった。


「マイケルのようにお腹いっぱい食べろと、残さず食べろと、あの糞はエリオットに無理矢理食事を食べさせていた。その食事も後妻によってエリオットの分だけ味付けに嫌がらせをされていたんだ。俺が気付いて注意をしたが、後妻は自分は知らない、料理人の手違いだろうと言い逃れていた。あの女はマイケルをスチュアート家の跡取りにしたいのだろう、まあマイケルが庶子である限り無理なんだが、そこは父が何とかする、あの女はそう思っているようだった」


 マイケルとエリオットは都合のいい事に同い年だ。

 最悪マイケルの名をエリオットと変えれば何とかなる。

 父はそんな考えでいる様だった。


「それとアイツに金の無心をされたよ。最近仕送りが滞っているけどどうしたって聞かれたから、離婚された母親の方に送っていると言っておいた。アイツは自分から離婚を言い出した手前それ以上何も言い返さなかったけれど、どうやらあの後妻は金遣いが荒いようで困っているらしい。今までは俺達の仕送りがあったから自由にさせられていた。でも今後はそうもいかない。ははっ、いい気味だ。これまであの女に良い顔をしてきたんだろうけど、これからはそうもいかないだろうな。でも……そのせいで乳母が辞めることになった、給料を払えなくなったらしいからね。そんなことがあってエリオットを連れて来た。俺の身勝手だけど、あの家にエリオットを一人で残せなかったんだ……エリオットも今回は素直に俺について来た。父親の関心がマイケルに移っているって子供ながらに感じたんだろうな。もう父上のような立派な騎士になるだなんて言わなかったよ」


 フィリップの話を聞いて胸が痛くなる。

 あの小さな体であの子(エリオット)はどれ程のことを我慢し、耐えてきたのだろうか。


 母が出て行ったことで妹たちも家から出て行ってしまった。それだけでも辛いことなのに、あの父は後妻と義弟を連れ込みエリオットを追い込んだ。


 立派な騎士になる。


 そう言っていたエリオットは、父の所業を見て考えが変わってしまったかもしれない。

 結局あの父は、騎士になる息子に期待をかけすぎて自分で打ち壊しているのだ。


 兄の時も、フィリップの時も、そしてエリオットの時も……

 彼らが騎士に失望したのは父が原因だった。


「えっと……それで申し訳ないんだけど、何の準備もしていない状況でエリオットを連れてきてしまったから、昼間あの子を見てくれる人間がいないんだ。すぐに乳母なりなんなり雇う予定だけど、それまでの間、昼間だけでも姉さんにエリオットを見てもらえないかな? 図々しお願いだって事は十分に分かっているんだけどね……」


 商人としての仕事があるフィリップが働きながら子供の世話をするのは難しい。

 その上フィリップは新米店長だ、慣れない仕事がある上に当然残業もあるだろう。


 まだソレイになれていないエリオットを一人部屋に残してはおけない。

 家政婦として失格だし、マイア様にご迷惑をお掛けしてしまうけれどここは断れない、引き受けよう、そう思っていると、マイア様が分かったと頷き口を開いた。


「分かった。エリオット君の事はウチで預かろう。私も思う所があるし、それにその方がフィリップ君もソフィアさんも安心でしょう」


「マイア様……」


 マイア様の優しさに胸が熱くなる。

 隣に座るフィリップも感動しているのか、「エルフ公爵様……」と呟き胸に手を当てている。

 うんうん、そうでしょう。そうでしょう。

 うちの旦那様は世界一優しい方なのよと、心の中で自慢する。


「それに暫くエリオット君はウチでのんびりしていた方がいい。あの子には使い魔たちと遊そばせて子どもらしい生活をさせるべきだ。フィリップ君はできる範囲で会いに来てくれればいいよ、私とソフィアさんでエリオット君の両親代わりをするからね」


 優しいマイア様がそんな提案をしてくれる。

 確かに今のエリオットには人の多い場所より、この穏やかなお屋敷での生活が合っている気がする。


「エルフ公爵様、あの、お言葉に甘えても宜しいでしょうか?」


 申し訳なさそうなフィリップにマイア様が頷く。

 私は子供好きだから大丈夫だよ、と笑ってもくれた。


「それにね、私たちはもうすぐ本当に兄弟になるんだ。ソフィアさんと結婚したらフィリップ君もエリオット君も私の弟だからね、これは予行練習だよ」


「えっ?」


 驚くフィリップを見てマイア様がニヤリと笑う。

 前回のことがあっただけに悪戯が成功したような表情だ。


「私とソフィアさんは結婚することになったんだ。フィリップ君、至らない兄だけど宜しくね」


 マイア様がパチンとウインクすると、屋敷中にフィリップの「えー!」と驚く声が響いた。

 屋敷の周りにマイア様の結界があって良かったと思う程の大声だ。恥かしい。


 けれど庭にいた使い魔たちには当然フィリップの声は聞こえていて、その大声を聞きつけたエリオットと使い魔たちがなんだなんだと屋敷に駆け込んで来た。


「あー、フィリップ、変な顔ー」


 フィリップの表情を見たソールがそんな事を言い出し、それを聞いた皆もエリオットも笑い出し、私達のいる場所は笑顔に包まれたのだった。

こんにちは、今日も読んで下さりありがとうございます。

ブクマ、評価、ありがとうございます。

ヤル気頂いております。

マイケルのイメージはジャ○アンです。

フィリップを揶揄えて嬉しいマイア様でした。

夢子


完結作品

パン屋麦の家

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こちらも宜しくお願い致します。


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