告白は突然に
ヤトさんに乗ってエルフ公爵邸の上空に着くと、コリンさん、ハンさん、ロイが屋敷から飛び出してくる姿が見えた。
「まあ、着陸に邪魔な子たちですわねぇ、わたくしでなければ踏み潰しているところですわよ」
ヤトさんが呆れた様子でそんな言葉を呟く。
確かに庭の中央にいるコリンさん達はヤトさんの着地の邪魔になりそうだ。
手を振っていないで避けるべきだろう。
「主、降りますわよ、ソフィアをしっかり支えていて下さいね」
「ああ、ヤト、勿論だよ」
私を抱えていたマイア様の腕に力が入り、ぎゅっと引き寄せられ益々距離が近くなる。
ドキドキと鳴る胸は五月蝿くて、コリンさんたちの心配よりも、マイア様にこの音が聞こえないかが心配になるぐらいだ。
「マイア様!」
ヤトさんが無事庭に着地すると、コリンさん達が駆け寄って来る。
ヤトさんは魔法で埃がたたないようにしてくれているようだけど、流石に近くにくれば話は別で、羽を閉じる前にフワリと広げたヤトさんからの風圧を受けた三人は、一瞬よろりとして風を受けていた。
「マイア様何があったんですか?」
「マイア様ソフィアさんが襲われたんですか?」
「マイア様ソレイの街で何かあったんっすか?」
慌てた様子で一斉に喋り出した三人の行動は当然で、コリンさん達三人はこのソレイに深く関係する職に就いているため、事件となれば駆けつけなければならないのだろう。必死さが見える。
「ああ、許せない大事件があったんだ……」
眉根を寄せ綺麗な顔を歪めるマイア様。
ソレイでの大事件と聞いてコリンさんたちの顔が引き締まる。
殺人事件か、はたまた窃盗か災害か。
事件の話を聞き次第飛びだそう、そう思っている三人はごくりと喉を鳴らした。
「あの愚か者どもが私のソフィアに触れようとしたんだ……」
「「「……えっ?」」」
運命病患者を思い出し憎々しげに答えるマイア様。
デリケートな事件の話だと思ったのか、誘拐事件の一種だと思ったのか、コリンさん達の顔色が悪くなる。きっと私がどこかへ連れ込まれ襲われているところを想像したのだろう。服や髪に乱れがないか、視線が動くのが分かった。
「ヤトが知らせてくれなければ、私のソフィアは今頃アイツらに……」
益々誤解を招くような言葉を吐くマイア様。
運命病患者との出来事はヤトさんの仲間がヤトさんに教えてくれ、素早く動いてくれたようだ。流石出来る女ヤトさん。状況判断が素晴らしいしカッコイイ。益々惚れ直してしまう。
ただし、使い魔たちまでマイア様の言葉にうんうんと頷くのでコリンさんたちは酷い顔だ。私を見るのをためらっているように思える。今更手首を掴まれただけで何も無かったとは言いづらい。良心が疼きだす。
「ブレイデンにも伝わるように頼んだ……あの愚か者たちはきっと死刑になるだろう……本当は私のこの手で八つ裂きにしてやりたいぐらいだけどね……」
マイア様の言葉に息を呑むコリンさんたち。
ソフィア一体何をされたんだ?
視線がこちらに向きそう聞いているのが分かる。
でも誰も言葉にしない為、私から説明出来ない。
「あ、あのマイア様」
取り敢えずマイア様を落ち着かせようと声を掛ける。無傷な状態で彼らを死刑にはさせられない。大したことでは無かったともう一度マイア様にも説明が必要だ。
「ソフィアさん!」
一歩近づいた私を引き寄せ、マイア様がぎゅっと抱きしめる。
「怖い思いをさせてごめんね! やっぱり私も一緒に行くべきだった!」
どうしよう、マイア様が凄い誤解をしている。
もう違う意味で胸が痛い。
確かにあの運命病患者は厄介だったけれど、何かされても勝てる気でいたので実際恐怖は無かった。
正当防衛でどの程度痛めつけてやろうかと考えていたぐらいだ。
良心がチクチクする。
「もう絶対に一人にしないからね!」
私をキツく抱きしめるマイア様。
ハンナさんの宿屋での仕事が終わり、屋敷に帰らず勝手に海を見に行っていただけに、マイア様の心配が胸を抉る。
申し訳ありません! と頭を深く下げたくなった。
「ソフィア……」
抱きしめたまま私の名を呼ぶマイア様。
耳元でマイア様に名を呼ばれると、こんな時なのにときめいてしまう自分がいる。
ズキズキと痛むこの胸は、いつしかマイア様やコリンさんたちへの罪悪感だけではなくなっていた。
取り敢えず詳しい話をとコリンさんに言われ、居間へ移動することになった。移動の間もマイア様は私の肩を抱き、絶対に離さないといった様子で胸が苦しい。
使い魔たちも私にベッタリで、ソファへ座った私の膝の上にはルナさんが乗り、足元にはソールが座り、首にはマルスがぶら下がり、ヤトさんは私の横にあるソファの肘当てに止まっている。
当然マイア様は私の隣に座り手を握っている状態だ。
普段ならばロイ辺りが離れろとマイア様を注意するところだけど、今日は何もない。
私の膝に乗るルナさんを見て嫉妬する姿もないし、只々心配してくれている状態だ。
これ以上黙っていれば誤解は深まるばかり、ハッキリキッチリ話をつけよう! そう気合を入れていると、コリンさんが温かいコーヒーを持ってきてくれた。
「さあ、ソフィアさん、お茶でも飲んで落ち着いて」
「あ、ありがとうございます」
マイア様が手を握っているので落ち着かないが、運命病患者との出来事に対してはすっかり落ち着いている。
ミルクは? 砂糖は? とかいがいしく聞いてくるマイア様に大丈夫ですと答え、手を離して貰えないので仕方なく片手のみでカップを口に運んだ。
「コリンさん、とっても美味しいです」
笑顔で伝えればコリンさんだけでなくハンさんもロイもホッと息を吐く。
そうか、マイア様に抱きしめられていた事で、私が緊張した顔をしていたからみんな大変な事があったのだと勘違いをしていたのか。勘違いはマイア様の言葉だけが原因では無かった。そう気づけば尚更申し訳なくなった。
「あ、あの、ご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。でも何もなくて、ですね。マイア様が来てくださったので本当に大丈夫だったんです。ただ知らない人に声を掛けられただけなんです」
心配してくれる皆の様子が申し訳なくて、大丈夫だったと一気に話すと頭を下げる。
「ソフィアさん、全然大丈夫じゃないよ。手首を掴まれたじゃないか」
マイア様が握っていた私の手を引き寄せ、手首を見て痣がないかを確認をする。
「ほら、ここ、ここだよ、赤くなってるじゃないか、あの愚か者どもはまず手首を切り落とすべきだな」
赤くなっているとマイア様は言うが、私から見るとなんともなっていないように見える。薄っすらピンク色? ぐらいだろうか。
マイア様が大袈裟に騒げばまたコリンさん達が誤解する。心配になって視線を送れば、三人とも教会で神父様からの有難いお話を聞いているような顔に変わっていた。何故だろう?
「えーっと、つまりソフィアさんは海で知らない男に声をかけられた、ってことで良いんだね?」
「はい、そうです、コリンさん、それだけなんです」
話しを聞き状況を理解してくれたコリンさんの言葉に頷けば、ナンパだな、ナンパだねと、ハンさんとロイがボソリと呟く。
「コリン、あの男たちは死刑でいいからね、減刑は要らないよ」
まだ怒りが収まらないマイア様に対し、死刑は無理ですねとコリンさんは笑顔でぶった斬る。
ハンさんもロイも無理だね、無理だなと頷き、私も無理ですと頷いた。
「マイア様、大袈裟です。私はなんとも無かったんですから落ち着いて下さい」
そうお願いした私の前、マイアさまは首を横に振る。
そしてソレイの海のような美しい瞳を潤ませると、その魅力ある瞳を私に向けた。
「ソフィアさん、私に落ち着けなんて無理なんだよ。だって私は君を好きなんだから」
マイア様の突然の告白に息を呑んだ私だった。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
ロイの妹との話も書く予定だったのですが……今のところ飛ばしたままです。
夢子
完結作品
パン屋麦の家
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こちらも宜しくお願い致します。