★エルフ公爵(変態エルフの覚醒)
「マイア様、ソフィアさんお茶菓子まで準備してくれてましたよ、忙しいのに偉いなー」
ソフィアさんがハンナの宿屋へと手伝いに行く日、コリン、ハン、ロイの三人が屋敷にやって来た。
ソフィアさんが出かけるので私の世話をしてくれるそうだ。
一体この子達はどこまで私を子ども扱いするのだろうか……
実際はコリン達が海で遊びたいだけだと思うし、ロイに至ってはルナに会いたいだけだろうが、幼いころから知る可愛い子供たちなのでそこは素直に受け入れた。
まあ、可愛さではソフィアさんとは比べ物にならないが、この子達も大人になったとはいえ、私から見ればまだまだ可愛い子供。生意気盛りといったところだろうか。
「うん、ああ、そういえば昨日の夜ソフィアさんはお菓子を焼いていたね。私と一緒に本を読む時間を削っていたから必要無いって言ったんだけど、コリン達に悪いからって言っていたんだよ。ソフィアさんは本当に優しくっていい子だ。君たちもそう思うだろう?」
だから味わって食べなさい。
感謝を捧げなさい。
そんな圧を込めて答えたのだが、視線が合ったコリンたちの目が泳ぐ。
何故だろうか。
気まずさを感じる。
「んんっ、コホンッ、マイア様、コーヒーをどうぞ」
「ああ、コリン有難う、良い香りだね」
コリンの淹れてくれるコーヒーは美味しい。
だけどすっかりソフィアさんの味に舌が慣れたようで、ソフィアさんのお茶でないと寂しいと感じるから不思議だ。今度自分でも紅茶を淹れてみようか、ソフィアさんの味を再現してみたい。
そんな事を考えていると、三人が肘を突き合う。
成人してもじゃれ合うこの三人は相変わらず仲が良いようだ。
「え、えーっと、マイア様、夜会の後から何か変わりましたか? そのソフィアさんとの関係? とか?」
「ソフィアさん?」
「えっと、ソフィアさんの周り? ですかね?」
ハンが急に質問を投げて来た。
質問の意味がちょっと分からないが、夜会の後から変わった事など何もない。
強いて言えばブレイデンの余計な言葉のせいで、ソフィアさんが人族の適齢期であることに気付いたことぐらいだろうか。幾らソフィアさんが可愛くても、少しは気を使わなければと思ったぐらいだ。触るのことを極力控えるようにしている。撫でられないのはちょっと悲しいが仕方がない。自主規制した。
「いや、別に、何も変わらないよ。別荘地の人間はここには来ないしね」
欲しかった答えで無かったからか、ハンの目がまた泳ぐ。
もしかしてまた夜会に出たいかどうかを聞いているのだろうか。それはあり得る話だった。
確かにソフィアさんとの夜会は楽しかったので、ソフィアさんが出たいならば考えても良いだろう。
着飾ったソフィアさんは美しかったし、月の女神だと思ったことは本心だった。
勿論普段のソフィアさんも可愛いのだけど、ああいった姿をたまに見るのも良いものだと感じた。
「あー、えーっと、マイア様、兄からソフィアさんに、その、届いた釣書を持って来ました。勿論こちらで厳選してありますので、変なものは混じっていません」
コリンが遠慮気味に釣書を差し出す。
ソフィアさん宛の釣書と聞いて急にイラッとしてしまう。
厳選したと言いながらも束で送られてきた釣書。
見た感じでは十冊はあるだあろうか。多すぎる。
燃やしてしまいたい。
いや、消してしまいたい。
ソフィアさんの目に触れさせたくない。
釣書をつい睨みつけてしまった。
「うーん、ソフィアさんには釣書は必要ないと思うけどねー」
ソフィアさんは結婚する気はなく、ずっとこの屋敷に居たいと言っていた。
なのにブレイデンの奴、本当に釣書を届けてくるとは、余計なことを!
手に持つコーヒーを釣書にぶち撒けるか、いっそ魔法で炭に変えてしまおうか。
そんな事を本気で考えでいる私の前、ロイが大きなため息を吐いた。
「おい、コリンもハンもハッキリ言えよ、遠回しな言い方じゃマイア様に伝わらないって! マイア様は酷い鈍感なんだからさー」
「何の事だい?」
鈍感とは?
意味がわからず首を傾げる。
このロイにだけは鈍感扱いされたくは無い。
女心が分からない男だと、ソフィアさんに認定されているのはロイの方だ。
どう考えても私の方が大人な男だとそう自負がある。
「いや、ロイ、こう言う繊細な事は他人が口を挟むべきじゃないんだって、こじれたら困るだろう」
ハンの説明では分からない。
何を言いたい?
何がこじれる?
もしかして釣書を送って来た相手との問題か?
断るためならば私が魔法で脅してやってもいい。
それぐらい私に掛かれば朝飯前だからね。
「そうだよ。マイア様はとっくに六百歳を超えているんだ。忘れている事があって当然じゃないか」
コリンが急に私を爺い扱いする。
確かに私は六百歳を超えてはいるが記憶力には自信がある。
忘れている事などそう多くはないし、昔のことだってちゃんと覚えている。
もしかして釣書の相手は私が知らない貴族なのだろうか。
だったら尚更ソフィアさんに見せる気にはなれない。
コリンに持ち帰らせよう。
そう決意していると今度はロイが口を開いた。
「でもよー、マイア様に忠告しないとソフィアも可哀想だぜー、婚約もしてないのに人前でベタベタベタベタ触られてよー。このままだとエルフ公爵様でなく、変態エルフって呼ばれるのも時間の問題だと俺は思うぜー」
んんん?
変態エルフ?
それは私のことか?
聞き捨てならない言葉が聞こえ、コリンとハンに視線を送る。
ロイは何を言っているんだ? という意味を込め視線を送れば、目をサッと逸らされる。
どうやらコリンとハンの二人も、私を変態だと思っているようだ。
納得がいかない。
「ロイ? 一体どういう意味かな? 変態エルフとはもしかして私のことかい?」
ギロリと睨みロイに問いかければ、悪びれることなくうんと頷かれる。
何故私が変態だと言われなければならないのだ。
確かに物に執着するところはあるが、研究家なのでそれは当然だろう。
苦笑いを浮かべるコリンとハンとは違い、ロイは呆れた様子でため息を吐くと、私に向け恐ろしい言葉を放った。
「変態エルフって言われるのは、マイア様のソフィアへの求婚行動ですよ」
「きゅこん……? えっ? きゅうこん?」
「そう、求婚。前にエルフの求婚行動ってやつ歴史の授業で教えてくれたでしょう? その求婚です」
意味が分からず「きゅうこん?」とまた呟いてしまう。
きゅうこんとは球根ではなくあの求婚だろうか?
驚く私の前、ロイは恐ろしい言葉を吐き続ける。
「ソフィアに自分が狩った獲物を届けるものそうだろう、その上ソフィアに自慢もしてるしさー」
いやいやそれは一緒に暮らしているのだから当然だろう。
食料品を管理しているのはソフィアさんなのだ。
ソフィアさんに獲物を渡さなくってどうする。
心の中でそう突っ込む。
「それに服だよ、服。ソフィアが良いって言ってんのに何回もライラの店に通ってんでしょう? マイア様が決めた服だけをソフィアに着せたいって、それもうエルフの愛情表現そのものじゃねーっすか?」
いやいやいや、それだってソフィアさんが洋服をあまり持っていないからであって……
確かに似合う色や形のものをライラに相談はしているが、それは雇用主として当然のことだろう。
ロイが過敏に反応し過ぎているんだ。
絶対にそうだと自分に頷く。
「夜会のドレスだってさー、周りを牽制しているからかもしれないけど、マイア様の髪色一色じゃん。あれじゃー俺のもんだって言ってるようなもんだよ。ソフィアへの執着がバレバレで見てるこっちが恥ずかしいって」
いやいや、それだって私一人で決めた物ではない。
フェデル商会でゼインとフィリップ君に相談して決めたものだ。
あのドレスに深い意味はない。
まあ、ソフィアさんが私の色を着てくれたことは嬉しかったけれど。
「それに何より使い魔たちだって」
「使い魔たち?」
チロリと大人しく昼寝している使い魔たちに視線を送る。
呼んだ? と耳を動かしたのはソールだけ、これがソフィアさんの声ならば皆起き上がって「なになになに」と喜ぶところだろう。ソフィアさんは美味しいものをくれる人認定されているため使い魔たちに好かれている。なのでそれがどうした? と首を傾げれば、ロイはまた呆れた顔になった。
「使い魔たちってさー、いわばマイア様の分身でしょう? そんな四人がみーんなソフィア、ソフィアって甘えてさー、俺達へ向ける対応とちがいすぎるよなー」
ロイがコリンやハンに同意を求め、二人は苦笑いを浮かべながら頷いた。
いやいや、それはルナへの嫉妬心からくるロイの思い込みでは無いだろうか。
確かに使い魔達はみんなソフィアさんに懐いている。
だってソフィアさんは使い魔たちを我が子のように可愛がってくれるのだから。懐くのも当たり前だった。
「だからさ、その全部がマイア様の求婚の証しでしょう? エルフの命って言われる弓もソフィアに贈ったらしいしさー」
いやいやいや、弓はソフィアさんが使えるからであって、プレゼントに深い意味はない。
まあ、笑顔が見たいという気持ちは確かにあったけれど、それだけだ。
「それにさっきも言ったけど、ベタベタソフィアに触るじゃん。とくに俺達みたいな若い男がいる前で!」
「えっ?」
ベタベタ触る?
「それってさ、ソフィアが自分のものってアピールしてんだろう? 俺達はエルフの求婚を分かってるから良いけどさー。ソフィアや他の奴らってエルフの求婚行動なんて知らね―じゃん。だからソフィア困ってんじゃないかと思ってさっ。マイア様、ハッキリ言葉にしていないのにソフィアに触れたらそれはセクハラだかんな、大事ならちゃんとした方が良いぞって俺は思ってんだよ」
「セ、セクハラ……」
ロイの言葉にショックを受ける。
ソフィアさんが余りにも可愛くって、ついつい構ってしまっていたが、周りから見ればそれは変態行為だった様で、心に大きなダメージを受ける。
「まあまあ、ロイ落ち着いて、マイア様にも悪気があったわけではないしさー」
コリンが助け舟を出してくれるが受けた心の傷は癒されない。
悪気が無ければ何をしても良いという訳でもないし、ソフィアさんに気持ち悪がれていたらどうしよう……と不安が溢れる。
いやいや、大丈夫。大丈夫なはずだ。
今日もソフィアさんは普通に優しかったし、可愛らしい笑顔を向けてくれた。
でももしあれが雇用主に逆らえないだけの笑顔だったとしたら……
不安になり胃が痛くなり始めた。
コリンの淹れたコーヒーのせいにしたい。
「そうそう、それとさ、マイア様もこれだけ俺に言われれば、いい加減自分の気持ちに気付いたでしょう? ソフィアの事を好きだってさ」
「えっ?」
私がソフィアさんを好き?
驚く私の前ロイもコリンもハンも頷く。
好きってどの好きだ?
「えっ? いやいやいや、確かにソフィアさんの事は好きだし大切だけど、私はエルフだし……」
自分でエルフだと名乗り、これまでの行動を思い出して見る。
ロイの言う通り、無意識のうちにソフィアさんにエルフの求愛行動をしていた自分に気づき、驚きしかない。私はソフィアさんを好きなのだろうか。
「えっ? 私はソフィアさんの事が好きなのか?」
異性として?
私の呟きにコリン、ハン、ロイが同時に頷く。
今更何言ってんですか? と呆れた様子に、流石の私も自覚する。
ソフィアさんが自分の中で特別だということを。
「マイア様、ソフィアさんが誰かと結婚しても平気ですか?」
コリンの質問に首を横に振る。
夜会の時、ロイと仲良くしているソフィアさんを見てとても腹が立った。
それはソフィアさんがもうその時点で私の特別だったからだろう。
自分の鈍さに呆れてしまうし、頬に熱がたまる程恥ずかしい。
「マイア様はソフィアさんをもう手放せないでしょう?」
ハンの言葉にうんと頷く。
ソフィアさんにはずっと傍にいて欲しいと願っている。
ソフィアさんの生ある限り、ずっとだ。
「それってもう恋だろう? マイア様はソフィアに恋してんだよ」
ロイの言葉に今度は素直になれた。
そうか、私はソフィアさんを好きなのか……
だったら釣書など絶対に見せられない。
私以外がソフィアさんに求婚するなど許せない。
消去確定だと誓った。
「そうだな……私はソフィアさんが誰よりも大切だ。絶対に誰にも渡したくはないよ」
自分の気持ちに自覚を持った今、たとえ寿命の長さが違っても、種族が違っても、ソフィアさんを手放す気にはなれなかった。
おはようございます、今日も読んで下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
ヤル気頂いております。
タイトル、マイアの覚醒にするか、変態エルフにするか悩みくっつけてみました。
この話は修正途中で全て消えて……投稿遅くなりました。
泣きました。
夢子




