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【完結】家政婦ソフィアとエルフなご主人様~貧乏令嬢はエルフ公爵様の優しさに癒される~  作者: 夢子


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 眠れぬ夜を過ごし、朝早くから仕事に向かうフィリップに朝食用のお弁当を持たせ見送ると、見計らったようにマイア様が部屋から降りて来た。


「あー……今朝は少し寝坊してしまったかな、フィリップ君に挨拶も出来なくて申し訳なかったね」


 いつもよりも少し遅い時間にわざと起きてきてくれたマイア様は、私が気を使わないようにとそんな言葉を掛けてくれる。


 エルフ族の人は耳が良いと聞く。きっと昨日のフィリップとの話はマイア様に聞こえていただろう。

 だけどそんな素振りも見せず、その上私たち兄弟が朝も二人きりで過ごしやすいようにと気を使ってくれたマイア様。朝寝坊の演技はどこかぎこちなかったけれど、その優しさが嬉しくって胸が温かくなる。


「おはようございます、マイア様、昨夜は有難うございました」


「あ、うん、おはよう。兄弟仲良く過ごせたようで良かったよ。フィリップ君には次回はゆっくりしていってほしいな」


「有難うございます」


 お礼を言えばマイア様はどこか照れたようで、私の感謝の気持ちがしっかりと伝わったことが分かる。


「ねーねーソフィアー、僕はちゃんと主を起こしたんだよ、でもね、主がまだ降りないって言うんだ、僕はお腹ペコペコなのにさー」

「ソ、ソール!」


 マイア様の足元をするりと抜けて、ソールが私に近づきそんな言葉を掛けてくる。

 自分はちゃんと仕事をしたんだ。

 そう言って拗ねているソールは凄く可愛くって、その後ろで慌てて注意をするマイア様もほんのり顔を赤くしていて可愛い。

 せっかくの名演技もソールの言葉で台無しだけど、マイア様の気遣いは十分に伝わった。


「マイア様、有難うございます」

「いや、その、なんかカッコ悪いね……」

「いいえ、マイア様はいつもカッコいいです」

「あ、ありがとう……」


 頬を掻き照れるマイア様にお礼を言う。

 何度言っても足りないぐらいだけど、それで私の気持ちが伝わるのならば何万回だってお礼を言いたい。


「ソフィアー、ちゃんと仕事したよー、褒めて褒めて」


「ソール、今日もマイア様を起こしてくれてありがとうね」


「うん!」


 マイア様の気遣いを暴露したソールは全く気にした様子はなく、撫でてあげれば尻尾を振って喜んだ。

 そんなソールの横では、早くご飯にしよーとマルスが騒いでいる。

 いつものエルフ公爵邸の雰囲気に昨日の嫌な記憶も飛んで行く。


「ソフィアー、ごはーん」

「ソフィアー、早くご飯食べようよー」


 ソールとマルスに急かされて、私とマイア様は笑い合いながら食堂へと向かう。




「ソフィア、待ってたわ、これ散歩のお土産よ」


 食堂に着くと、ルナさんから綺麗な花を渡される。

 いつもはお寝坊さんなルナさんが、朝から散歩に出るのは珍しい。

 きっとルナさんも私とフィリップの話しが聞こえていたのだろう。

 素敵なプレゼントに癒される。


「ルナさん、有難うございます。あとで飾らせて頂きますね」


「ふん、ミルクをいつもいっぱいにしてくれるお礼よ」


 それに散歩のついでだしと、照れた様子でルナさんらしい返しをされ、心がほっこりとする。

 


「ソフィア、わたくしからはこれをプレゼントするわ」


 どさりと音がして、ヤトさんが雉らしき鳥をどこからか取り出しテーブルに置いた。

 出来る女であるヤトさんは、朝から自分の体より大きな鳥を狩ってきてくれたらしい。

 私を癒そうとしてくれる気遣いに嬉しくなるが、大物の登場に驚くばかりだ。


 それにヤトさんの万能ぶりには惚れ直してしまう。

 見回りに、手紙の配達、馬車の手配。

 仲間がいるそうだけど、それでもマイア様の使い魔として有能過ぎると感じた。


「ヤトさん、ありがとうございます。獲物を傷もなく仕留めるだなんて素晴らしいですね」


「うふふ、流石ソフィアね、良く分かっているじゃない。わたくしに掛かればこの程度の敵は朝飯前ですわ」


 胸を張るヤトさんが素敵すぎる。

 ドヤ顔が可愛い。


 マイア様も使い魔たちも、傷ついた私を励まそうとしてくれている。

 私を心配し、元気付けようとしてくれている。


 そんな家族の優しさに、胸の中が幸せで包まれる。


 父のことなど、もうどうでもいいと思えた。


 







「ソフィアさん、弓を引いてみないかい?」


 お昼ご飯を皆で食べ終わると、マイア様がそう声をかけてきた。


 幼い頃実家では、兄と弟のフィリップの剣の練習相手をさせられていた私。


 父は、兄とフィリップには体にあった剣を持たせ、私には適当な短剣を持たせ、二人の攻撃を受ける役目を押し付けていた。


 そして月日が経ち、兄とフィリップがある程度剣を扱えるようになると、今度は私に弓を渡し、後方支援役をやるようにと無茶な指示を出してきた。


 最初は訳が分からなかったけれど、父は初めて私だけを見て弓の指導をしてくれた。

 それが嬉しくって一心不乱に練習に明け暮れた私は、気がつけば弓を上手に扱えるようになっていた。


 それからは兄とフィリップと共に山へ行っては獲物を狩り、良くやったと父は兄とフィリップだけを褒め私は無視された。弓の指導も兄とフィリップのついでだったのだと、幼いながら悟り虚しくなった。

 けれど私は弓を手放さなかった、自分の力で獲物を狩れる。それは実家では重要視される事だったから。

 弟妹達の為に自分が出来ることがある。それが嬉しかった。


 実家の食事改善が出来る。それが私が弓に夢中になった理由の一つだった。




 けれどそれも兄が父に反抗する前の話しだ。

 騎士にならないと決めた兄は、剣を持たず学園へと向かい、私とフィリップと山へ行くこともなくなった。父の指導がフィリップだけに集中すると、フィリップも嫌気がさし家を出て行った。


 私は一人山へ向かい野鳥を仕留めていたけれど、それは生きていく為の物であり、弓が楽しいという思いはいつしか消え去った。

 実家を出てからは一度も弓に触っていない。


 マイア様には以前弓を扱える話はしたのだが、こういった事情は話していない。

 でも今回のフィリップからの報告で、何か感じとってくれたのだろう。真新しい弓を私に差し出しそんな言葉をかけてくれた。


「弓ですか……? マイア様、この弓はどうされたのですか?」


 実家で使っていたものよりも数段美しく、大きな弓を見せられ興味をそそられる。

 虚しさから使うことをやめていた弓だけど、自分が弓に夢中になっていたことを思い出す。

 

「ソフィアさんのために私が作ってみたんだ。ちょっと手に持って合わせてみて」

「マイア様の手作りですか?」

「うん、私はエルフだからね、弓作りは得意なんだ」


 マイア様が自ら作って下さった私の弓だと聞き、過去の記憶は飛んで行き嬉しさだけが溢れ出す。


 手に取った弓には蔦のような模様とマイア様の瞳の色に近い宝石が埋め込まれていて、なんだか嫌な予感を感じ、冷汗が流れた気がした。


「これはね、エルフの魔法陣、戦い用のやつだよ」

「た、戦い用……」


「これは宝石ではなく魔石、私の魔力が込められているんだ」

「魔石……」


 今は中々手に入らないと言われる魔石を埋め込まれた弓だと聞き、一瞬遠くに意識が飛んだ気がした。

 「構えてみて」とマイア様に言われるまま弓を構えてみれば、不思議と手になじんだ。


「うん、大丈夫そうだね。昨日フィリップ君のところでドレス用に採寸したから丁度良かったよ」


 採寸の際マイア様は私の側には居なかったはず。

 なのに私用に弓を作れたと言う事は、最初からこのサプライズを計画していたと言うことだろう。


 手作りの品をプレゼントしようと思ってくれたマイア様の優しさに、また胸をギュッと掴まれる。

 この方は一体どこまで私を喜ばせるのか。

 愛情深いマイア様に心が熱くなった。


「さあ、庭に行こう。裏庭には練習場があるんだ」


 崖のある裏庭に行くと木に的があり、そこがマイア様の言う練習場だと分かる。

 とっても簡易的な物だ。


「先に私が弓を引くね」


 私に作って下さった弓よりも大きな大弓をどこからか取り出し、マイア様は魔法で作られた矢を射る。

 バシュッと良い音が聞こえたと思うと、矢は的のど真ん中に命中していてマイア様の腕前に目を見張る。


 練習も何も無く一矢目から命中させるマイア様。

 「凄いです!」と感嘆の声を上げればマイア様は少し照れたようだけど、ソフィアさんもどうぞと言って普通の矢を渡してくれた。


「この矢も私の手作りだよ、使いやすいと良いんだけど」


「有難うございます……」


 嬉しすぎて、私は大事に矢を受け取る。

 私を思っての手作り品。

 それは人生で初めて貰うものだった。


 マイア様の作ってくれた弓を持ち、的を狙い矢を射る。

 以前実家で使っていたものとは比べられない程の威力で私の矢は飛んでいき、無事的に刺さりホッとする。


「凄いよ、ソフィアさん! 久しぶりとは思えない腕前だ」


 拍手で褒めてくれるマイア様に、ありがとうございますとお礼を言う。

 久しぶりの弓だったけれど、無事的には当てる事が出来た。

 それにマイア様のおかげで、弓が好きだった事も思い出せた。


「マイア様、有難うございます」


 笑顔でお礼を言えば、いつものマイア様らしい笑顔で微笑まれる。


「ソフィアさんが笑ってくれて良かったよ。私も嬉しい」


 安堵したようなマイア様の呟きに私の胸が痛くなる。

 本当にこの人はどこまで私を惹きつけるのか。

 罪作りな人だと思う。


「ソフィアさんはやっぱり笑っている方が良いね、私はソフィアさんの元気な笑顔が大好きだ。ソフィアさん、大丈夫。もし何かあった時は私が味方になるからね」


「マイア様……」


 もう少し練習しようと新しい矢を取り出し、弓を始めたマイア様。

 何の味方になるとはハッキリ言わなかったけれど、実家の事であるというのは流石に私だって分かる。


『私はソフィアさんの元気な笑顔が大好きだ』


 何気ない言葉だったけれど、マイア様の褒め言葉に胸が酷く痛む。

 マイア様の射った矢は、やっぱり的の中心に命中したけれど、何故か私の胸にも刺さった気がして痛かった。

おはようございます。今日も読んで下さりありがとうございます。

ブクマ、評価、ありがとうございます。

ヤル気頂いております。

使い魔たちの精神年齢はソール五歳、マルス十歳、ルナ十五歳、ヤト二十後半。そんなイメージです。最初にマイアに呼ばれた使い魔はルナという設定なんですけどね。

夢子


完結作品

パン屋麦の家

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こちらもよろしくお願いいたします。

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