弟の成長
「アハハハ、ごめんごめん。ソフィア姉さん家政婦として働いているんだ。結婚したのかと勘違いしたよ。アハハハ」
フィリップは笑いながら謝り、マイア様にも頭を下げた。
勘違いして申し訳ありませんと言いながらも、どこか私達を揶揄っている風で、「結婚祝いを持ってこなくて良かったよ」と肩をすくめておどけてみせる。
私もマイア様も何となく恥ずかしくて微妙に顔が赤い。
それを誤魔化すように「夕食にしようか」とフィリップを誘い席を立ち、食堂へと向かう。
今日のソールは普通の犬のフリをしていて、マルスも普通の? 蛇のフリをして、ソールの上に乗り当然顔で食堂につてくる。
ルナさんとヤトさんの二人は、相変わらず引きこもり状態でさっきの場所に逃げたままだ。
私の時はあんなにフレンドリーだったのは、マイア様に雇われる契約を終えたからだったのかもしれない。使い魔として初めて会うフィリップを警戒するのも当然だった。
「猪のワイン煮よ。この猪はマイア様が仕留めたものなの」
フィリップの前に食事を提供する。
一緒に食事を摂るのは久しぶりで、料理を作っている間もフィリップが何を食べたいかな? 今も子供の頃と好物は変わらないかしら? と色々と考えた。
「わぁ、姉さんの得意料理だね。子供の頃はいっつもお腹が空いてて、良く山に行っては兄弟皆で猪を捕まえたよね。あの手ごわかった猪を一人で狩るだなんてエルフ公爵様は流石ですね」
子供の頃の話題を出しながら、フィリップが料理を喜んでくれる。
その笑顔を見れたことで今日のミッションは完結したともいえる。
マイア様は「子供だけで猪狩り」とちょっと苦笑いだが、ウチが貧乏だったことは知っているのでそれ以上は何も言わず、料理に最初に口を付ける。
「うん、今日もソフィアさんの料理は美味しいね。フィリップ君も遠慮なくどうぞ」
「有難うございます。いただきます」
マイア様の手前だからか、それとも商人として立派になったからか、カトラリーを上手に使い品よく料理を口に運ぶフィリップを見て改めて成長を感じる。
父に反発していたフィリップはマナーを学ぶことを嫌がったり、剣術の稽古を逃げたりと、一番手を焼いた弟だった。
「それがこんなに立派になるだなんて……」
思わずそうぼやけば、フィリップが苦笑いになる。
「あの頃の俺は父上が大っ嫌いだったからね」
過去の反抗期時代が少し恥ずかしいのか、大人になったフィリップは照れているようだ。
自分のやらかしを素直に認められることもフィリップの成長だ。
「もう大人になってしまったのね……」
今後は弟扱いも出来ないのかも、そう思うとちょっとだけ寂しい。
いつまでもフィリップの大好きなソフィア姉さんでいたかった。
「大人になってもソフィア姉さんは俺の大事な姉さんさ」
気遣いが出来る言葉にやっぱりフィリップの成長を実感した。
嬉しいけど寂しい、複雑な心境だった。
夕食のデザートを食べ終わり、明日も仕事だというフィリップが帰る時間となった。
ヤトさんが辻馬車を呼びに行ってくれて、すぐに迎えに来てくれた。
「今日はご馳走様でした。エルフ公爵様、姉さん、有難うございました。店が開店いたしましたら是非一度いらしてください。おもてなしさせて頂きますので、宜しくお願い致します」
「うん、ソフィアさんと一緒によらせてもらうよ。ゼインにも宜しくね」
「はい、会頭にも伝えさせていただきます」
商人らしい挨拶を終え、フィリップは馬車に乗りこもうとした。
でもそこで何かを思い出したように止まると、見送る私の元に戻って来た。
何か言いたい事があるのか、子供の頃のようにもじもじとした様子を見せる。
「あー、えっと、姉さん……俺、来週、実家に帰ってくる」
「えっ? 貴方が実家に行くの? 本当に?」
あれだけ実家を毛嫌いし、父に反発していたフィリップが実家に行くと聞いて私はとても驚く。
「こんな家二度と帰ってくるもんか!」そう言って出て行ったフィリップが自ら実家に帰る。
私的には天変地異の前触れかと思う所だけれど、それだけフィリップが成功し、己に自信が持てたからだろう。
父と会っても胸を張れる。
嬉しい報告になんだか涙が出そうだ。
「お土産いっぱい持っていって驚かせてやるんだ」そう言って笑うフィリップに、宜しくねと頷いて見せる。きっと実家にいる弟妹達はカッコイイ兄の登場に喜ぶことだろう。
「皆に宜しくね。私は元気だと伝えておいて」
「うん、兄弟だけには姉さんが元気なことを伝えるよ。じゃあ、今度こそ本当に帰ります。今日は有難うございました。姉さんの料理はやっぱり美味しかったよ」
手を振りフィリップは馬車に乗り込んだ。
言いたかったことを私に伝えたからか良い笑顔だ。
「フィリップ君はソフィアさんによく似てるね」
「そうですか?」
「うん、前向きで一生懸命で頑張り屋だ。あの年でフェデル商会の一店舗を任されるんだ。凄く努力したと思うよ」
「はい、そうですね……有難うございます」
マイア様の褒め言葉に胸が温かくなる。
フィリップの頑張りを認めてくれる人がいる。
たとえ父がフィリップの報告を受け入れなくても、マイア様が褒めてくれた。それだけで救われる気がした。
「うん、お店が開店したら二人で約束通り店に顔を出して上げよう。こんな私だけど一応公爵だからね、きっと彼の経営の後押しにもなれる。ソフィアさんと一緒にフィリップ君を応援してあげよう」
「マイア様……有難うございます。あの子も喜びます」
開店日にこの街の有名人であるエルフ公爵様が店に来たとなれば、商人であるフィリップに箔が付くだろう。
それを分かって提案してくれるマイア様にはまた恩が積み上がる。
もう一生この屋敷で働かせて欲しい。
それしか恩の返し方が浮かばない。
ただしそれはマイア様が受け入れてくれること前提だけど。
「フフフフフ、それに一時でも私はソフィアさんの夫になった訳だしね」
「マ、マイア様?」
「フィリップ君は一瞬だけど義弟になったんだ。私も彼の事を可愛がらせて貰おうかなー」
「もう、マイア様……」
二人で笑い合いながら屋敷に戻る。
ルナさんもヤトさんも部屋から出て来ていて、私達の足元に寄って来た。
「次はソフィアの弟に会って上げても良いわよ」
ツンとした表情でルナさんがそんな事を言ってくれる。
有難うございますとお礼を言えば、お腹が空いたわと返される。
照れているようでとても可愛い。
食事を終えたソールとマルスまでごはんごはんと騒ぎ出す。
「いい子のようで安心しましたわ。ソフィアの弟との連絡は、わたくしが受け賜わりましょう。任せなさい」
ヤトさんがそんな優しいことを言ってくれる。
どうやらフィリップは使い魔たちにも認めてもらえたようだ。
その事にホッとし、有難うございますとお礼を言った。
「さあ、今夜も本を楽しもうか、ルナとヤトの食事は居間で良いかな?」
マイア様の掛け声に皆で頷き、居間へと向かう。
私はルナさんとヤトさんの食事とおつまみを用意するためキッチンへ向かった。
「どうかフィリップが嫌な思いをしませんように……」
実家へ向かうフィリップは絶対に父と顔を合わせるだろう。
あの父が弟が帰って来ると聞いて家を空けるとは思えない。
ついに家を継ぐ気になったかと、そんなあり得ない事を当たり前に言いそうだ。
騎士ではなく商人になったフィリップを見下す可能性だってある。
それが心配だった。
「ソフィア、大丈夫?」
「もしかして疲れちゃった?」
味見の為について来たソールとマルスに心配され、大丈夫よと笑顔で答える。
大人になったあの子の事だ、実家に帰ればどうなるかぐらいきっと分かっているはず。
「それでも帰ると決めたのだもの、フィリップならば大丈夫よね」
すっかり大人になったフィリップの様子を思い出し、過度な心配は止めようと決めた私だった。
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ヤル気頂いております。
ソフィアの実家スチュアート家の子はかなりアクティブです。長女以外。
夢子
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