マイア様との平和な生活
マイア様のお屋敷での生活も順調に進み、あっと言う間に一週間が経過した。
以前の職場同様、勤め先の主人であるマイア様を「旦那様」と呼んだところ、まるで新婚夫婦のようで恥ずかしいと、思いっ切りテレられてしまい。その影響で私まで釣られてテレてしまい。
結局話し合いの結果「マイア様」と名で呼ばせてもらう事に決まった。
メイドが主人の名を呼ぶなど不敬でしかないが、心優しいマイア様は全く気にすることは無く。
それよりも一緒に暮らしているのに、エルフ公爵様とかご主人様とか旦那様などと堅苦しく呼ばれる方が嫌なのだと、家政婦である私に名呼びを許してくださったのだ。マイア様は心が広すぎると思う。
「ソフィアさんは、これから一緒に暮らす家族だからね」
その言葉がどれだけ嬉しかったか、きっとマイア様は気付かないだろう。
実家では名で呼ばれる事などあまりなく、父に至っては「おい」とか「おまえ」と私を呼んでいた。
自分で付けたであろう私の名を、父が今でも覚えているかも怪しい。
兄と姉、それと弟にしか興味が無かった父だ。
まあいつも通り、仕方がないと私は諦めていた。
「ソフィアさーん、ちょっといいかーい?」
「はーい、今参りまーす」
朝の掃除を始めていると、マイア様から声がかかった。
今のところマイア様はコリンさんの心配をよそに、規則正しい生活を送ってくれている。
私を気遣って下さっている所も大きいが、なんといっても使い魔たちの協力がとても大きいと思う。
寝かしつけはルナさんの魅惑の毛皮で。
ルナさんが布団に潜りこめば、マイア様もその誘惑に勝てず布団に潜りこむ。
私が一言「マイア様はもふもふの魅力をご存知ですか?」と尋ねたところ、もふもふとは? とマイア様は興味を持って下さって、それからは寝るときはいつもルナさんを撫でているらしい。「吸われるのはちょっと嫌だけど、主が寝てくれるなら仕方ないわよね」とツンッとしたルナさんだったけれど、私にはまんざらでもないように見えた。
そして朝の起床はソールの力が大きい。
「主ー、起きて起きて」と、ベッドに飛び込んできた大型犬にぺろりと舐められれば、マイア様も流石に目が覚める様で、あの大音量ではた迷惑な目覚まし時計を使うことも無くなった。
そして食事はマルスのお陰で三食きちんと摂っている。
「主ー、お腹が空いたよー、僕死にそうだよー、しょんぼりへにょりん蛇だよー」と、マルスに首にまとわりつかれ、可愛くお願いされればマイア様も我慢しろなどとは言えない。
可愛い使い魔たちなのだ、愛情深いマイア様が可愛がらない訳がなかった。
「私達は主に呼ばれなければ姿を現わせないでしょう? でも今はソフィアのお陰でずっと傍にいられるから幸せよ」
姉御肌なヤトさんにそう言われ、少し照れてしまう。
マイア様は使い魔たちを大事にしているが、これまで用が無ければ呼び出さず、ずっと傍にいることは叶わなかったらしい。
けれど今は私を見張るためか、それとも私から自身を守るためか、それとも私を守って下さっているのか、使い魔たちをずっと屋敷に呼び出していて、一緒に生活を送っている状態だ。
マイア様の魔力によって形成されている使い魔たち。
なので魔力温存の為にそうしていたのだろうと思っていたのだが
「主は返還したら、そのまま私達のことを忘れているだけよ」
そんな事をヤトさんはちょっとだけ辛辣な言葉で吐いた。
主を守れないことが嫌で怒っていたらしい。
いやもしかしたらちょっとだけ寂しかったのかもしれない。
使い魔にとって主は神に等しいのだから。
普段の様子とは違い可愛く拗ねるヤトさんの姿に、私は惚れ直してしまった。
一度手を洗い、マイア様の元へ向かった。
今日のマイア様は私が髪を櫛で梳き、綺麗に結わえたのでとてもカッコ良く仕上がっている。
最初は私にお世話されることを恥ずかしがっていたマイア様だったけれど、私がルナさんやソールの毛皮を嬉々として櫛で梳き、マルスとヤトさんの体を温めたタオルで拭いている所を見てからは、自分もその枠だと思ったらしく「お願いします」と頼のんでくれたので、マッサージ付きで髪を梳かせて貰った。
「マイア様の髪は、サラサラで凄く綺麗ですね」
「そ、そうかな……」
「はい、もふもふとはまた違った趣があります」
「……」
仕上げに使い魔たちとお揃いのリボンを付ければ、可愛いエルフ様の出来上がりだ。
マイア様は「もふもふと同レベル……」と嬉しいような喜べないような微妙な表情だったけれど、私的には最高の褒め言葉だった。
「ゆるく結わいたので締め付けは無いと思います。髪が落ちると本を読むにも作業するにも邪魔になりますけど、これなら大丈夫ではないでしょうか?」
「うん、そうだね。それに自分で結わくよりもずっと楽だし綺麗だ。ソフィアさん、ありがとう」
マイア様はこんな些細なことでもお礼を言ってくれる。
それがどれ程嬉しいか、この方が知ることはないだろう……
心の宝箱にそっとしまった。
「マイア様、いかがなさいましたか?」
私が声を掛けると、マイア様は苦笑いを浮かべた。
デスク横にはヤトさんがいて、仕事から戻って来たようだった。
仕事で行き詰っていることでもあるのかしら?
そう思ったが、マイア様の手元には書類ではなく手紙らしきものがある。
どうやら仕事のことではないらしい。
でもこの微妙な雰囲気は何?
疑問符を浮かべる私にマイア様は申し訳なさそうに話しかけて来た。
「あ、うん、掃除中に悪いね。ちょっと手紙が届いたのでソフィアさんに報告があってね」
「手紙? 私宛では無いですよね?」
ちらりとヤトさんを見る。
ヤトさんが首を横に振るので、やはり私宛では無い様だ。
まあソレイに来たことを誰にも伝えていないので当然と言える。
では何の報告だろう?
答えは直ぐにマイア様が教えてくれた。
「えっと、実は友人が遊びに来たいようで……」
友人、と聞いてピンとくる。
辺境伯か、はたまた王子様か。
さあどちらだ。
負けはしませんよ、と気合を入れる。
コリンさんからマイア様の交友関係はしっかりと聞いた。
なので覚悟はちゃーんと出来ている。
ここの生活にも大分慣れた事で、かかってこいと強気になれた。
「ご友人ですね。畏まりました。客室はお掃除出来ておりますので、いつでも大丈夫ですよ」
私の強い意志のある笑顔を見て、良かったとホッとするマイア様。
どうやら客人が来ることで私に負担を掛ける、そう思っていたようだ。
マイア様はどれだけ優しい人なのだろうか、私は家政婦でそれこそ仕事なのに。
「それで何名様でしょうか? ご訪問のお日にちは?」
親しい貴族であるならば、三日後ぐらいが妥当だろうか。
知り合い程度ならば、一週間先でもおかしくはない。
「ああ、うん。友人って言っても相手はコリンたちなんだ……」
「ああ、コリンさんですか」
なら安心ですね。
そんな言葉が出かかったが、私はこの屋敷の使用人。
本来ならば主人の友人であるコリンさんのことは、コリン様と呼ばなければならない存在だ。
それにもしかしたら、マイア様の側近としてコリンさんが私の様子を見に来る、ということなのかも知れない。
ならば精一杯のおもてなしを!
できうる限りの歓迎を!
試験を受けるような気持ちになっていたところで、玄関の呼び鈴がチリリンと鳴った。
「マイア様~、コリンですよ~、手紙で伝えた通り遊びに来ましたよー!」
大きな声で叫ぶコリンさん。
呼び鈴を押した意味がない。
それにこの人は先ぶれの意味を理解しているのだろうか。
直前の手紙にはなんの効力も持たない。
「えっと、ソフィアさん、あの、ごめんね」
困った顔で謝るマイア様。
ぴらりと見せてくれたマイア様宛の手紙には「今から遊びに行きまーす。コリン」と綺麗な文字で大きく書かれていた。
コリンさん……
貴方マイア様のこと、子供だって言ってられませんよ。
心の中でそう毒づいた私だった。
おはようございます。今日も読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、ありがとうございます。
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コリン、やっぱり問題児ですね。
夢子
別小説投稿しております。
その言葉後悔しませんか?
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パン屋麦の家
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