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2話

麻生沙也さんの布都神社の説明。退魔とは、心霊とはなにか、羅生家が調伏した名だたる妖怪悪鬼怨霊の伝説についてなどの話を僕は聞き流していた。最初は真剣に聞いていたのだが固有名詞が多すぎて話についていけなかったのだ。


かなり時間が経ったあと、ここからはあなた自身に関する話です、と前置きされてふわふわ漂っていた意識を現実にもどす。




「あなたは式神となったわけですが、式神としての退魔の力を引き出すには条件——キーワードと言った方が正確かもしれません——があります。契約したとき、『ち、ちからが湧いてくる!!』なんてことはなかったでしょう?」


「ここに来る途中、お化けが沢山見えるようになりましたが」


「それらは浮遊霊、地縛霊、死んだことに気づいてない死者、妖怪、穢れから生まれた妖、穢物ですね。訓練無しで霊視が出来るようになるのは空さんの天性の霊能力が高かったからですが——あれらは人に害を及ぼさない限り放置するのが基本です。キリがありませんから」


「それで、式神の力を使うキーワードというのは」


「契約の際、新しい名前を付けられませんでしたか?」




『クリカラ。お前はこれからクリカラだ。倶利伽羅剣、最強の退魔の剣。私だけの剣。殻栗空はカラカラではなくクリカラ、私だけの剣として生きろ。この式札に誓え。』




カラカラと呼ばれていた自分に、不動明王の剣の名前を付けてくれた。


あの時の鼻の奥がツンとする感覚を思い出す。




「クリカラ、と。多分僕が殻栗空だからだと思うんですけど」


「真名からとって、完全に名前で縛っていますね。お嬢様がどうしてそこまであなたの自分の物にしたかったのかは分かりませんが、それがあなたの式神としての名前です。あなたが『クリカラ』と自分の名前を詠唱するか、所有者の祓さんがあなたを『クリカラ』と呼んだ時、あなたは退魔の式神として、一本の剣になります。ただし。」


「ただし?」


「『式神』でいる間はあなたは祓さんの命令に逆らうことが出来ません。どんな危険な悪霊でも「倒せ」「祓え」と命じられれば命を顧みず形代刃物を振り回して戦いますし、たこ踊りをしろと言われても逆らえません。人間に戻るには真名を名乗る必要がありますが、『カラクリカラ』には『クリカラ』が含まれているため祓さん程の術師なら無理やり式神のままにしておくことも不可能ではないでしょう」




祓がぼくにタコ踊りをさせているところを想像して鳥肌が立つ。




「最後に。とても大事で、とても言いづらいことを。『式神モード』は使えば使うほどあなたは強くなります。その代わり、少しづつ人間から外れていくでしょう」


「お化けや神様と同じになるって祓が言ってましたね」


「すぐ完全にそうなるという訳ではありません。お化けや神様が人に気づかれないようにあなたは少しづつ『気配』が消えていきます。老人になるころには相当気を付けて探さないとあなたは誰にも気づかれないでしょう。更に年を重ねれば霊視でしかあなたを見つけることは不可能になり、人外へと落ちます」


「はあ」


「はあって、あなた。誰にも存在を認識できなくなるんですよ」


「僕は先ほど死にかけていたところなので——実感がそれほど」


「なるほど。ちなみに式神の所有者は——いえ、これは私の説明する幕ではありませんね。長々と喋ってしまいました。もう時間も時間ですし、ご夕飯をこちらで用意させて頂きませんか?帰りは車を用意いたします」


時計を見ると六時半。前半の話が長すぎる。それにずっと正座していて足が痺れたので、車を出してくれるという申し出はありがたかった。


「頂いていきます」




羅生家では家族集まって食事を摂るという習慣がないらしい。僕はすでに起きていた祓の部屋に案内された。


『女の子の部屋に入るなんて初めて』という感想を抱くにはあまりにも女子高生の部屋のイメージとはかけ離れていた。


部屋の家具がアンティーク調の高価なもので満たされており、なにより広すぎる。まあまあな値段のアパートの一室くらいあるんじゃないか。洋式トイレに風呂場まである。


運ばれてきたカルボナーラをつつきながら、ぼくと祓の無言の食事が続く。


沈黙に耐え切れず、僕は切り出した。


「最初は殺すつもりだったのに、なんで助けてくれたの?跡取りになったら嫌いな心霊現象ともっと関わらなきゃいけないのに」


「狂い神憑きがお前だったからだ。学校内にいることは分かっていたが、お前だとは思わなかった」


「僕らって友達だったっけ?助けておいてもらってなんだけどさ、なんで僕なら助けるのさ」


「……お前は、鈍感だからな」


「え?」


「心霊は救いようがないってところを取り返しのつかないところまで行ってしまった、最低最悪の話ばかりだ。だけどね、私だってハッピーエンドは好きなのだよ。お前を私のものにしたらひとつでも多くそれが見れるかもしれない」


僕の質問に応えて、祓にとって大切なことを言っているのだろうが、意図が汲めない。だから黙っていた。


「それに助かったと言うのはまだ早いぞ。救いようの無いバッドエンドを下してやらなければならない相手が残っている」


「え?」


「狂い神を祓う」

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