97.もう簡単には騙されない
「あら素敵なストール」
「こっちはトシさんに、膝掛け」
「へえ、ありがとうよ」
少し肌寒くなってきた頃だ。ビニールハウスの中も熱すぎず快適になってきた。
王都の復興もようやく落ち着いて、王城はどうしたって何年もかけて修繕するものだが、魔法使いを総動員して急ごしらえで形を作った。魔法で城を作るのは、ずっと見ていても飽きないものだった。
国王陛下から、トシとスミレにお礼がしたいのだが、と相談されたのが一ヶ月前。最初は宝石だ金だと言っていたが、たぶん二人はもらっても困ると思う。前に私が金貨でお礼をと言ったら、この年になってそんなものをもらっても困ると断られた。必要ないよと笑って言うのだ。
悩んだ末に、王家御用達の店で膝掛けとストールを作ってもらうことにしたのだ。換金性の高いものより実用的なものがいいだろう。同じような物があるのは見ているし、悪目立ちすることもない。
あの毛布を作った世界だから、満足してもらえるかと陛下は言うが、二人の笑顔を見れば、これで良かったのだなと思う。
「一応ネックレスとブローチも預かってるんだけど……」
「いらないわ。これで十分。この世界の物じゃない宝石類はちょっと、怖いわ。私が生きている間は平気だけど」
「だなあ。未来で何か起きたら困る」
宝飾品は手放したときに鑑定されたりするらしいので、そこでこの世界にないものだとなったときが恐ろしいらしい。
「ロイくんやお友だちもみんな元気?」
「うん。先週からまた迷宮潜りしに行ったよ」
城の材料はまだまだ足りないということで、迷宮品は高く買い取ってもらえる。その買い取る金はバンゴール王国持ちだ。金払いがいいと、今、王都に冒険者が集まってきていた。火の手があがり、王都もかなり焼けた。その復興にも人手がいる。宿屋も埋まって大変だということで、しばらくまたレークスの家に寝泊まりしていた。アリスは学院の寮だ。そちらも落ち着いてきたところで、メルクが家を買った。国王陛下から功労をねぎらい、褒美は何がいいと言われ、この王都を中心に活動するための家を買うお金をお願いしたのだ。
アリスが聖者であると、ミールスの街でもバレてしまった。なかなか戻って元通りにというのは難しい。今、店は人に管理してもらっている。祖父や薫子の書き付けなどは全部、扉経由でこちらに持ってきた。
「そうそう、アリスちゃんの新しいおうちに、プレゼントがあるの」
スミレが綺麗な紙で包まれた箱をテーブルに置く。
「開けてみて」
言われるがままに取り出すと、そこにはあの可愛らしい姿が現れる。
「ぶたちゃん!!」
「魔力回復薬ですっけ? 買うために前のは割ってしまったんでしょう?」
「ありがとうスミレさんっ!!」
可愛いぶたちゃん、とても嬉しい。
「家は結局どのあたりになったんだ?」
「本当は街中がよかったんだけど、皆にダメって言われて」
「そりゃ聖者様ですもんねえ」
王宮に住めと言われた。
けれど、あの空間にずっとおかれるのは本当に勘弁してもらいたい。それこそ扉をつたって逃げ出したくなる。
学園の寮に住み着けばいいとも言われたが、それもお断りした。
毎日何かしら手伝わされる未来しか見えない。
薬師として店を出したかったのだが、正中級回復薬を作りだし、聖者となったアリスが店を出せば、警備も必要だし、他の店よりもアリスの店から買いたいと冒険者が殺到する未来しか見えないと却下された。
とはいえ、特にやることもない。薬作りは続けたい。結局、救護院に専門に卸す薬師として働くことにした。
となると、店舗兼住まいでなくていい。自宅に調薬スペースがありさえすればいいのだと、貴族街で一番小さな家をいただいた。
それでも、部屋がいくつもあり、アリスには管理しきれないのだが。
使う部屋を決めて、月に一度、城の方から掃除をしてくれる人を派遣してもらうことになった。家や、庭の手入れもしてくれる。
それ以外の時は、ロイと二人で住むことにした。
「しばらく気を張っていたみたいだけど、今は表情も柔らかくなったし、よかったわ」
スミレが笑う。
「そうそう、俺からの祝いにこれを」
後ろに大きな段ボールがあるなとは思っていた。
「帰りの扉、寝室につなげろ。毛布が入ってる。ロイの坊やが気に入ったんだろ?」
「わあ……すごく、嬉しい。本当にあの毛布すべすべして気持ちよくて」
「ニドリで買ったからたいした額じゃねえんだよ。羽毛布団も買ってやろうか?」
「ううん。これで十分。今年の冬は暖かく過ごせるな~」
段ボールは木箱と違って軽い。中の毛布もそこまで重くないから、アリス一人で運ぶことが出来た。
「こっちのタッパーはじゃこ握り」
「飴芋どうする? うちの芋だいぶ余ってるぞ」
「あー、レシピの元バレてもよくなったし……商売してもらおうかなぁ~自分で作るのは大変過ぎるから」
「それもいいな」
スミレさんのご飯はキッチンに小さな扉を開けて送り込む。
「それじゃあな、アリス」
「うん! また来週」
最近は救護院の仕事もあるので、会う日を決めているのだ。
「またなんかあったらいつでも相談に来いよ」
「ありがとう。でも、私もだいぶ慎重になったと思うの」
「うーん、うちの孫娘より心配だ……身近にオオカミが潜んでいたしなぁ」
「トシさんったら。でも一途なオオカミじゃない」
「オオカミ? 王都からはもう出ないし、ましてや貴族街にはオオカミなんて来ないよ」
トシはうーんと唸っている。
「それじゃあまたね!」
宙に手を伸ばすと、扉が出現する。すっかり慣れた光景に、アリスは笑顔で手を振った。
「大丈夫、もう簡単には騙されないから!」
了
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これにて
『詐欺られアリスと不思議のビニールハウス』は終了となります。
お付き合いいただきありがとうございました。
落とし子よりはコンパクトになりましたが、書きたかったあたりはきちんと書けたので良かったなと思います。
連載中評価やブックマーク感想、ありがとうございました。
またファンタジーものは書きたいなと思ってるので、そのときはよろしくお願いします。




