表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/93

92.門は絶対に開くな

 外が急に騒がしくなった。

 メルヴィンも慌てて窓へ駆け寄る。

 パンパンと何かの爆発音が響く。初めは一カ所だったのが、あちこちで音がし出した。


「なんだ、何が起こった!?」

 ウォルバール王子が扉に駆け寄るのを、護衛騎士が慌てて止めていた。メルヴィンは側にいた己の騎士に目で合図すると、待っていたかのように駆け出す。程なくして帰還した彼は、情報とはほど遠いものを持ち帰った。


「なんでも音と火花が散る細長い物が投げ込まれたと。あちこちで起こり、火魔法かと調べていると、急に目や喉に痛みを感じる症状が出て、治療中です」

「そんな魔法が?」

「魔法、なのかはわかりかねますが、現場が少々混乱しております」

「奇襲のための陽動かもしれぬ。警戒しろ。魔力回復薬の貯蔵庫近辺は言った通りにしてあるか?」

「はい。罠を二重に掛けております」

「混乱した兵士どもが引っかからぬよう気をつけろ」

「周知します」


 そこへ慌ただしく扉を開けて騎士が入ってきた。

「ご報告に上がりました! 南門に軍が迫っております!」

「バンゴール王国のか?」

 思わず尋ねたが、有り得ないと顔をしかめる。

「わかりませんが……騎馬が迫ってきているとの報告で」

「門に兵士を寄せろ! 門は絶対に開くな。東や西はもう閉めたのか?」

「それは昨日のうちに閉ざしました。外からの友軍もほぼ王都に入っております」


 どうすべきか一瞬悩んでいるところに、さらに報告だと騎士が現れる。

「東門に軍が迫っております」


「どういうことだ!」

 王都から一番近い領地は五つ。そのどれも馬で急いで三日はかかる。各領地への連絡用の魔道具は、王の首を狙いに行く直前にすべて壊した。

 宰相であるメルヴィンが出入りできる場所だったので、容易いことだった。

 さらに周囲の町、街道沿いに、こちらから早馬を走らせるような者がいれば始末するよう厳重に見張りを置いていた。

 王城にある魔道具以外は、それを妨害する魔道具を街の方々へ置いている。その妨害の魔道具を突破して連絡を取れるのは、破壊した王城の魔道具のみだ。


 どうやって連絡を取ったのだ?


「城下はどうなっている?」

「混乱に乗じて何カ所か大店を襲撃してはいます。騎士などに妨害されはしましたが、機能は落ちているはずです。街の冒険者たちは、消火活動にかかりきりで、それがようやく落ち着いてきたところです」

「貴族の屋敷は?」

「いくつかは制圧したそうですが、ウェーコールのタウンハウスは防衛の魔道具を独自に配置しているところが多く、当初の予定よりは進んでおりません」


「学院長の屋敷は」

「真っ先に襲撃に向かいましたが、在中騎士の練度が高く、防衛の魔道具を使われてしまいました」

「不意を突いてもそれか……もうよい、情報を収集しろ」


 手を振り、騎士たちを下がらせた。

 何か不測の事態が起きている。

「まず軍はいったい何が目的なのか。それを突き止めろ。もし、もしもだ、各地の領主が出兵してきているならば、王家への反逆の意思があると見なし、王都に入れることはならないと絶対に門は開けるな。あちらに、王の現状はわかっていないはずだ。……文書を作り、王の命だと領地へ戻るよう促せ」

「王家の紋章は……?」

「それはヤツが部屋の中まで持って行っている。似たようなものを押しておけ。真実に見えるようにな」


「ノールモルデン公爵! いったいどうなっているのだ」

「落ち着いてください、ウォルバール殿下」

 自国では付けてもらえない敬称に、ウォルバールは口を閉じる。

 なんとも扱いやすい。


「戦には、想定外の出来事はつきものです。なあに、最後のあがきでしょう。王族の魔力は枯渇寸前。今日にでも決着はつきます。あと少しです」

 そう、魔力などもうあるはずがないのだ。防御の間が崩れるのもあと少し。


 そして、また、扉が乱暴に開かれた。


「公爵様!! 大変です! 国王陛下が!! 陛下の言葉に、城下の冒険者が!!」


「陛下の言葉だと?」

 何を、こやつは言っているのだ? そう聞き返すよりも早く、カンドールが部屋の窓を開けた。

 風に乗って流れてくる音に、眉をひそめる。

「何だあれは」

 廊下に飛び出て、音のする方へ走り出した。


 メルヴィンも、魔法使いの端くれだ。風魔法を使う。

 とはいえ、文官としての能力の方が遙かに高く、迷宮への憧れなど皆無であったため、そこまで鍛錬したわけではない。

 だが、足を早く動かす程度のことは今でも出来る。


『……は逆賊である。他国の兵士を王都に招き入れ、この国を他国に売り渡そうとしている。王都の外には各領地から集まった、勇猛たる兵士たちが続々集まって来ている。現在判明している裏切りの家門はヴォンアイグ家、ラウンドル伯爵家、そして、国の宰相であるノールモルデン公爵家。これらのタウンハウスに対する攻撃を許可する』


「なんだこれは」


『王家の者はすべて無事である。咄嗟のことに、防御の間に逃げ込むしかなかった。今は王都に住む貴族、そして民たち、冒険者たちに力を貸してもらうしかない。彼らの狙いは聖女アメリアだ。ウェーコール王国の宝である聖女アメリアを他国へ売ろうとしているのだ。ウェーコール王国に尽くしてくれている聖女アメリアの意思を無視した非道なる行為である。門を開け!』


 音は二重三重に聞こえた。


「公爵様! 同じ言葉が街のあちこちで流れています」


 門を開けという国王の声が、街で聞こえた。

 やがてそれは門を開けという市民の声になった。


「公爵様、どういたしましょう」

 なんだこの音は。

 まるで同じ言葉を繰り返している。

「音の発生源を突き止めよ。即刻止めさせよ!」

 入念に準備したはずの計画が、足下から崩れ落ちるような感覚に襲われた。


 いや、まだだ。

 結局、王の首さえこちらの手に入ればいいのだ。

「魔法使いを集めろ。城ごと破壊する」

「公爵様、それは……」

「ここまでして王の首が得られなかったら元も子もない。綺麗に取ってやろうと思っていたが、そうも言ってられないだろう。王の言葉があっても、王がいなければそこまでだ。部屋ごと潰してやる」

 防御の間と言えども、その周囲がすべて崩れ落ちたら、部屋ごと落ちる。あれは城の高い位置にあるのだから。その下をすべてなくしてしまえばいい。落下の衝撃で死ぬだけだ。


「城は綺麗にとっておきたかったが、もういい」

 魔道具の発動があの部屋周辺だけだったのが幸いだ。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

誤字脱字報告も助かります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ