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87.それは、残念ね

 門はもぬけの殻だった。争った跡も何もない。

 ただ、開かれ、行きにいた門兵も消えている。

 そして、街の中は行き交う人々でごった返していた。これは馬車は無理だろうと、早々に降りた。その上で、馬車の中で話し合っていたとおり、数人ずつで分かれて行動することになった。

 この人数は多すぎるのだ。


 街のあちこちで火の手が上がっているらしく、魔法使いを呼ぶ声がする。


「冒険者はこっちにかかりきりだろうな」

 アリスの手を引くロイが、煙の方を見てつぶやいた。

 先頭を行くのはミアだ。その後ろを学院長と赤と青の教授、そしてターニャとロイとアリス。第六騎士団の二人も着いてきていた。ジェフリーもいるが、この人数を隠すことはできないそうだ。

 最悪の場合は学院長をとお願いしたが、ごねられた。何とかなだめすかして了承してもらう。


 城の方で煙は見えない。

 どのような攻め込まれ方をしたのかはわからないが、あまりに静かだとそれはそれで不気味だ。

 貴族街もそれなりに混乱していた。

 普段見かけない冒険者がうろうろしている。


「混乱に乗じて悪さを働こうって者もいるのよ。それが、本当にそれだけなのか、それとも裏のある者なのかがもうわからないわね」

 学院長が口元をゆがめて笑う。


 馬車が通ることのできるよう、道幅はかなり余裕を持って作られている。

 表の道を行くのは目立ちやすかった。なるべく道の端をこそこそと通り過ぎる。

「この辺りに見張りがないのもおかしいですね」

 騎士の言葉に周りの者が頷いた。

「タウンハウスに入るときは十分警戒して」

 すでに占拠されている可能性を忘れぬようにと、再三注意されている。


「さあ、見えてきたわ。正面は……一応閉まっているわね。通用口から入りましょう」

 学院に居着いているのでめったに帰ってこないのだと言っていたが、構造はよく理解しているようだった。道を折れ、屋敷の真裏の小さな門から入る。ここの鍵は内側からしか開かないが、数名は外から開く鍵を持っているという。その一人が学院長だった。


 高い塀の途中にある、重そうな扉。そこへ手をかざすと指輪の石が青く光った。


 するりと中へ入り込み、さらに裏手から屋敷へ入ると、メイドがいた。小さく悲鳴を上げた彼女を、ロイが捕まえ口を塞ぐ。

「屋敷の者以外は侵入してる?」

 アリスたちが特に彼女を縛り上げたりしないようだと思ったのか、質問に頷いた。

「ロンバートも無事かしら?」

「は、はい」

「ありがとう、仕事の邪魔をして悪かったわ」


 学院長はそう言って廊下へ向かった。

「ここにはほとんど帰ってこないから、新しいメイドは私の顔を知らないのよ」

 ふふっと笑う。


 そして、階段を上る途中で、男が駆け寄ってきた。

「クラリッサ様!」

「ロンバート、状況を報告してちょうだい」

「……はい。学院から、強襲の報告がありました。オルレア様からです。その後連絡は取れなくなっています。ただちに屋敷の防護魔法を発動しました。周囲のタウンハウスに連絡をし、門扉を閉ざしました。五時間ほど経っております」

「そう。親戚筋は?」

「見回りに出た騎士が帰ってきておりませんのでなんとも」

「それは、残念ね」

 レークスの屋敷よりさらに豪華で、廊下の絨毯もふかふかだ。


「こちらの方々は?」

「今日一緒に採取に出掛けていた者たちよ。あちらでも襲われたの」

「なんと……」

「緑の、ヴォンアイグ家が裏切っていたようよ。騎士たちも容赦なく攻撃してきたから」

「……見回りの騎士が色つき教授様たちの家を見ていると言っておりましたので」

「……残念だわ」


 階段を上りきり、左手に折れてすぐの部屋に入ると、学院長、クラリッサは奥の執務机をぐっと動かす。

 その細い腕でどこからそんな力がと思ったが、もとよりそうやって動くよう細工がしてあったようだ。

 机があった場所が開けると、今度は足でその板を踏んだ。すると、するするとそれがせり上がってくるのだ。


「すご。え、何?」

「面白い!」

 ジェフリーが素直に喜んでいる。

 たぶん、からくりというやつだ。スミレさんが貸してくれた本にあった。壁がくるりと回って奥に部屋があったり、天井からはしごが降りてきたりする。


「お金かけたのよ。さ、城の様子を探りましょう。ロンバートと第六騎士団の騎士たちは一階で訪問者があれば人相を確認して。やりとりできるよう魔道具を渡しはしたけど、今日会った人たちの顔を知ってるあなた方が確認するのが一番早いわ」

「何か軽食を用意しましょうか?」

「お腹は……ロイさんはどう?」

「あっちで食べたから大丈夫」

「なら貴方はそこのソファで休んでいなさい。動かなければならないときに、完璧に動けるように」


 治癒術で無理矢理治したのだ。疲労感などは薬で回復しきれていない。

 ロイもそれはわかっているのか、大人しく座った。

「アリスさんもよ。魔力回復薬をあれだけ飲んで無理矢理使ったんだから、突然身体が動かないなんてことになりかねない。そうね、ロンバート、暖かいお茶を持ってきてくれる?」

 座れと言われたが、このあと机がどうなるか気になって仕方ない。ロイも同じようだった。アリスたちの反応に、学院長は苦笑しながらあの魔道具をローブの中から取りだした。


 馬車の中で、マリアと他教授たちと順番に魔力を込めて、魔力回復薬を飲んでいた。本当にかなりの魔力を使うらしい。アリスなんてすぐに干上がってしまうだろう。


 机と思ったのは間違っていたようだ。上がりきった箱は、今度はぐるんとその一番上の板を上に開ける。箱が開くような感じで、天板がとれた。

 そして現れたのは王都を小さくしたような地図だった。あちこちに小さな石が嵌まっている。それは同じような赤い石だ。

 地図は、右側半分が王都全体、左側が城の中のようだ。

 学院長は魔道具の石を取り出し、右手のくぼみにはめた。


 すると、あちこちが光り出して、やがて消える。

 全部消えた後に数カ所、赤く光った。


「王族が立て籠もる部屋は、光っている」

 学院長が指さした場所は赤い。


「さらにその周りも防御壁は働いているようね」


 そういったあと、右手で元の赤い石を撫でると、石の色が変わる。緑色だ。

 同時に、見取り図の方の石の色も変わった。王都全体の地図に変化はない。


「ここには人がいる。こちらは人はいない。こちらの部屋は多そうだな……緑色が濃い。食堂か……広いし、それでいて机以外何もない場所だ。人を閉じ込めておくにはいいところ……地下の牢屋にもいくつかあるな。騎士が詰め込まれているのか? うーん」

 さて、と学院長は真っ直ぐこちらを見る。


「アリスさんはどこまで協力できる?」



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