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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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86.全然使えなかったぁ

 何度も手順を確認した。

 まず、扉は固定する。スミレさんから持たされたガムテープを使って、ノブにぐるぐる巻きに、反対側を椅子に結びつけて扉の前に置く。

 こうしておけば出るときはガムテープを手で切ればいい。それも練習した。


 扉を開けていると、向こうから入ってこられない。アリスはそう信じている。思い込む。

 以前、トシとスミレと一緒にお茶をしていたときに、ご近所さんがきた。だが、ビニールハウスの扉はなぜか開かなかった。

 アリスが扉を閉めた途端開いたそうだ。

 ただ、トシとスミレはこの範疇にないようだ。


 借りていた部屋は扉が一つしかないので、まあ、開けておけばまず入ってこられない。


 学院長の教えてくれたとおり、本棚の前に立つ。本は全部下に放り投げられていた。

 乱雑な扱いに腹が立つ。

 言われた通り背板を外すと小さな箱があった。木箱の中を覗くと、赤い宝石のようなものが入っている。これが、魔石であり、魔道具となるらしい。


 ドンっ、と壁が揺れた。

 アリスは慌てて木箱を抱える。

 片手で持てるので、扉へ走った。

 広い部屋なのだ。アリスの家より広い。

 

 ドンっ、と再び壁が揺れる。嫌な音がした。

 みしりと、音が響く。

 ガムテープに手をかけ、破る。

 あとは扉を閉めるだけのところで、壁が内側に向かって崩壊した。

 あまりの光景に思わず動きを止める。


 アリスの身はほとんど扉の内側に入っていた。

 騎士らしき男は飛ぶようにこちらへ駆ける。


 持てる力の限り、扉を引いた。

 閉めれば、終わる。


 男の手が目の前に迫り、思わず、噛んだ。


 叫び声。

 口の中に広がる血の味。


 パタンと、閉まる扉の音。




「アリス!」

「アリスちゃん!!」


 目の前に、扉はなかった。


「血が!」

「や、私じゃない」

 だから、平気。平気だ。


「はああ、全然、全然使えなかったぁ……」

 色々もらった、敵を撃退する道具。とっさにはまったく使うことができなかった。


 へなへなと座り込むと、水を渡された。

「アリスちゃんじゃないなら、相手の、よね? 口をすすいでちょうだい」

 ありがたくコップを受け取り、口の中の血の味を全部洗い流す。


「目的の物は持ってこられたのか?」

「うん、これ」

 木箱を開けて見せる。

「まあ、大きな宝石みたいね」

「宝石なら、とんでもない価値になるなぁ」


「さあ頑張ってこい! 食料ならいくらでも提供するぞ」

「籠城とかになったら頼ってね。百人分はさすがに何日もは無理だけど。そのときは……何かもうこの際いろんなこちらの便利グッズあげちゃうわ。私たちは、アリスちゃんが無事還ってくることを祈ってるから」


 この後は、命のやりとりがどうしても起きる。

 もう会えないかもしれないという気持ちが急にこみ上げてきて、二人に抱きついた。


「ありがとう。絶対また来て、二人とパンケーキするの」

「おう! アリスは三段重ねだな」

「ロイくんにも生クリームたっぷり乗っけてあげようかしら」


 それじゃあと、手を振り、アリスは扉を開いた。



「アリス!」

「お待たせ。学院長、これを」

 木箱を見て、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「それじゃあ、全員で移動しましょう」




 この結界は、魔法も物理攻撃もすべてはねのける。広さは通す魔力によって変わった。


「同時に城も守る優れものなのよ」


 城の方は受信機が各地点に設置されており、異変が起きた場合は防衛の間でその結界を発動させる場所を決めていくらしい。受信機は壁の中に埋め込まれ、それ自体も強力な防護魔法がかかっている。無傷では壊せない。


 土で家を覆い、籠城を決め込んでいたアリスたちが、突然その魔法を解いて外に出てきた。

 当然彼らを止めようと潜んでいた者たちがそこら中から現れる。

 アリスたちの目的が馬だと知られないよう、結界の外側でメルク、ロイ、キャル、フォン、ミアが応戦するようにしていた。そして、何か特別な魔法を使っているように、中心で教授たちが無駄に手を振っている。


「馬を殺されたら元も子もないからね」

 そうして事前にマリアが風を使い調べていた、厩につくと馬を奪う。一瞬だけ結界を解いて、馬も中に入れ、今度は馬車だ。


 馬車は籠城していた家のすぐ側にあったので、マリアはそれに近づこうとする者は容赦なく攻撃していた。

 壊されることもなく、無事だった。


 馬を馬車に繋ぐと、さすがに拙いと敵は捨て身の戦法に出るが、魔法使いがおらず、結界の範囲をまた一時的に広げて近寄らせすらしなかった。


 大きな馬車で来たのが功を奏した。


 騎士が手綱を掴み、フォンは周りを見たいと後ろの荷物置き場に立ったまま、行きよりずっと速く走り出す。


「馬で追いかけてきています」

「俺が始末する」


 ロイは窓から顔を出して、魔法を使った。

 後ろの方から悲鳴が聞こえた。




「学院に行くつもりだったけれど、アリスさんの話を聞く限り、不埒者たちがたくさんいそうよね」

「街がどの程度の被害に遭っているかによりますね」

「火の海とジェフリーが聞いたのでしょう? 城下も混乱していると考えるべきね。近くまで行ったら徒歩に切り替えるべきか。いや、でも下手に整備されているから、あちらからも丸見えね。それならギリギリまで馬車で突っ切る方がましかもしれない」


「その方がいいと思います。門が閉まっているかにもよりますが、開いているならそのまま突っ切ってもいい。結界で物理だろうが魔法だろうが無効になっているとはいえ、飛んでくる矢には怯んでしまうものです。その一瞬が命取りになることもある。特に戦闘慣れしていないと」

「そうね。実家のタウンハウスの方がまだましかもしれないわ」


 学院長の部屋、そして、学院長の実家のタウンハウスには、防御の間と同じものがあるらしい。

 もしものための措置だそうだ。

 そこにこの赤い石をはめれば、今どのように城側の魔道具が使われているか把握することが出来る。


「これの存在を知っているのが、かなり高位の貴族と王族のみなのよね。嫌な予感しかしない」


 学院にいた騎士は、何かを探していた。それはもう必死に。この魔道具の存在を知っているとしか思えないとの結論だった。


「まあ、ここまで来たら腹をくくるしかないわ。頑張りましょう。皆さんも、心配な相手がいるかもしれないけれど、協力をお願いするわ」

 彼女の言葉に皆が頷いたところで、窓を叩かれる。


「王都から幾筋もの煙があがっているのが見えます」

 御者役の騎士が言う。

「もうすぐ門に着きます。このまま突っ切れないときは手前で止めますね」

「そうね、降りて強行突破よ」

 ロイが、動けるようになっていてよかった。置いていくはめになったらと思うとぞっとする。 

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