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8.中級は金貨一枚になります

 ウサギのソテーはとても美味しかった。

「この野菜初めてだ」

「珍しいでしょ。生で食べられるんだって」

「面白い味だな。悪くない。こっちの緑は旨い」

 ロイはキュウリを気に入ったようだ。


「今日はありがとう」

「俺が出たらすぐ戸締まりしろよ」

「わかってるって」

 辺りはもう真っ暗で、アリスもこの後身体を拭いて眠るつもりだ。心配性のロイは、鍵を閉める音を聞いてようやく扉の前から立ち去ったようだった。

 森の奥まで行くのはさすがに疲れて、アリスは夢も見ずに眠った。




 翌日は、朝から中級回復薬を作る。

 なので開店中ではなく、調薬中を掲げるつもりが、当然のように現れたロイが開店中に変えた。

「宿屋で休んでいたらいいのに」

「あっちはあっちで落ち着かない。ここで店番している方がまし」

 宿屋の自室で何が落ち着かないのかわからないが、まあ奥で調薬中、店番をしていてくれるのは助かるのだ。ふらりと寄った冒険者が諦めて余所に行くこともままある。

 夏のこの時期は、街への人の出入りも激しい。商隊の行き来も多い。冒険者が動けば回復薬も出るのだ。

 低級と違って、中級回復薬の調薬はさらに手順が複雑になる。なんとなく順序のわかっているロイが、途中手伝ってくれた。

「いつもいつも思うけど、余計な手順多くない?」

「余計?」

「この皿毎回洗うとか」

「うーん、常に綺麗な状態で使わないと。飲む人もいるものだし。あと、素材が混ざっちゃいけないところで混ざるのは避けたい」

 手順は大切だ。

「おじいが言ってた。一度落とした品質は改善できるけど、信頼は回復できないって」

 だから、手順は守る。

 アリスの言葉に、ロイはふうんと漏らして、カウンターへ戻る。


「昼はどうする?」

「ん? お昼ご飯? 私は食べないよ。ロイは何か買ってくる? 家にはあんまり材料がないんだよね。もう一段落するからカウンター開けても大丈夫だよ」

 調合釜の中身をかき混ぜながら言うと、ロイがそれじゃあと店を出て行った。暇だと言いながらトレーニングをしていた。普段から訓練はしておかないと身体がなまるそうだ。狭い場所でよく動けるなとチラチラ見てた。あれだけ動けば腹も減るだろう。

 と、カランと扉が開く音がする。

「いらっしゃいませー」

 アリスが声を掛けると、ドスドスと荒い足音がした。狭い店内、そんなに踏みしめてどうするんだ。

「何をお求めですか?」

 見かけない男たち。身なりとほこりっぽさは冒険者だ。今日街に来たタイプ。

「回復薬」

「低級中級どちらですか? 上級は注文をいただいて作ることになります」

「中級に決まってんだろ」

 どこにでもいる。こういった横柄な冒険者は。アリスが門近くの冒険者がよく利用する薬屋では無理だなと感じるのはこういったやからが多いからだ。祖父がいたころならまだしも、まだ幼く見えるアリス一人で対応すると、なめた態度の冒険者が十組、いや、五組に一組ほど現れる。

「中級は金貨一枚になります」

「はあ!? 王都でもない、こんな街の、たいしたことのない薬屋の中級が金貨するって!? 銀貨の間違いじゃないのか?」

「間違いですね。銀貨なら低級回復薬です」

「はっ!?」

 店は、入り口の扉はガラスが嵌まっているが、壁はそこまで外から見えるような窓ガラスは多くない。周囲は店ばかりなので、アリスの店に柄の悪そうな冒険者が入っていったのは見えていると思う。それでも、何か起こらないと下手に介入してこじれたら困ると静観されている。

「中級が必要でしたら金貨一枚になります」

 困ったなと思っていたら、カランと再び扉が開く。

「いらっしゃいませ~」

 アリスの間延びした声。

 そして入ってきたのは男が一人。これまた冒険者風だ。

「よお、ここの回復薬はよく効くって話を聞いたんだが」

「少々お待ちください。こちらのお客様がお先なので……低級は銀貨一枚、中級は金貨一枚になります」

「だから、こんな街中の寂れた薬屋の回復薬だ。中級は銀貨で十分だろ」

 それならお断りと声をあげようとしたら、後から入ってきた冒険者が声を上げる。

「中級を銀貨だぁ!? そりゃ買い叩きすぎだろうが」

「ああ!? 黙ってろよ。俺はこの嬢ちゃんと交渉してるんだよ」

「中級なら金貨一枚ですね」

 アリスは同じことを繰り返す。

 それが男たちは気に入らず、すごんでくる。それでも、薬に関しては譲れないのだ。ここで値を下げたら周りの薬屋にも迷惑がかかる。あそこの店では銀貨で買えたぞと。薬に関しては、アリスは絶対譲らない。

「いい加減にしろよ? 俺たちが本気をだしたら――」

「おいおい、まさかお前ら脅してるのか? 脅して薬を買い叩こうとしてるのか? 回復薬ってのは冒険者にとっての命綱だ。それを買い叩くなんて、お前らたいした冒険者じゃねえな」

「何っ!?」

 今度はそこで喧嘩が始まりそうで、出て行って欲しいなぁと眺めている。

「俺はシルバーランクのトールだ」

「えっ」

 三人の方がざわつく。有名な人のようだ? すかさずアリスは繰り返した。

「金貨一枚になります」

 男たちはカウンターにバンっと金貨を置くと、カウンターにあった中級回復薬をひっつかんで出て行った。必要なのは必要だったようだ。


 まあなんとかなってほっと胸をなで下ろす。


「ああいった柄の悪いのがたまに出るよな」

「そうですね。今日は何をお求めですか?」

「中級を一本。なあ、俺が追い払ってやったろ? 少し負けてくれないか?」

 同じやりとりをまたするのかと、内心ため息をつく。

 アリスは薬を負ける気はない。

「中級は金貨一枚になります」

 それにむっとするが、また笑顔になる。

「さっきからずっとそれだが、上手くやらないと、怪我するぞ? いつもいつも俺みたいな親切なやつが来るとは限らない。俺がいないときにまたあいつら三人が来るかもしれない」

 何を言っているんだ。

「薬を安く売る気はありません」

「おい、いい加減にしろよ!?」

 突然の大きな声に、びくりと肩が震える。

 そんなアリスの様子に、トールはにやりと笑った。

「女が一人、店を切り盛りするのも大変だろう。俺がいつも見て回ってやるから、その代わり――」

 カランと扉が開く音がした。

 現れたのはパンを抱えたロイ。

「あれ、トール一人か? お仲間三人、さっき道ですれ違ったぞ」

「ろ、ロイ。ここはお前の……」

「幼なじみのアリスの店だ」

「そうか、うん。わかった」

 すかさずアリスは繰り返した。

「中級回復薬は金貨一枚になります」

 トールは金貨をカウンターに置くと、薬を持って出ていった。


 ことのあらましを話すと、ロイが大きなため息をついて悩ましそうにしていた。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。

ブックマークありがとうございまーす。


アリスちゃんが同じようなこと繰り返す壊れたなんかみたいになっててw

ただ、いつもこれでだいたいなんとかしていたという。

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