79.おじいちゃんおばあちゃん元気すぎない
ジェフリーは別の馬車に隠れて乗り込んでいたらしい。
まあ、かくれんぼでは一等賞だろう。
何か前方の馬車が気になるなとは思っていたのだ。
聖者としての反応だとは思ってもみなかった。横にいればすぐわかるのだが、二つ前の馬車になるとさすがにわからない。
学院長たちも呆れていたが、ついてきたものは仕方ないだろうと結局連れて行くことになった。
レークスが騎士を付けて城に帰すべきと言ったが、どうやらジェフリーの家門であるらしい、青の教授がいいではないかと丸め込んでいた。
ロイたちは少年に対する彼らの対応に初め戸惑っていて、途中、レークスが学院長に確かめてから、聖者であることを教えられていた。
「アリスは知ってたのか」
「ロイたちが迷宮に入ってる間に城に行って、そのときに」
「城に?」
さて、なんと言おうと悩んでいたら、レークスが助け船を出してくれる。
「例の互助会の件と、回復薬について、王太子様から礼をということでね。俺がついていったよ」
ジェフリーはそんなアリスたちのやりとりを見て何を思ったかわからないが、アリスの聖者の件は出さずにただ機嫌良く歩き続けていた。
なぜかアリスが手を繋いでいる。
まあ、ジェフリーくらいなら支えられるのでいいのだが。
教授陣はこれまたウキウキで、あちこち走り回っていた。
そのたびにお付きの騎士が右往左往している。
迷惑を掛けないでくれと言うことを、やんわり遠回しに言うのだが、聞いちゃいない。
「ねえ、おじいちゃんおばあちゃん元気すぎない? 帰りバテそうなんだけど」
「俺も今一番それを危惧している」
キャルの台詞にメルクが低い声で応えていた。
「俺たちはあちらの面倒は見なくてよいのですよね? 勝手に帰ればいいんですよ」
フォンの言葉にレークスが騎士たちに何か言いに向かった。
「ロロミの花の蜜とかいいながら、いろんなもの採取してるし」
「早く帰りたいわぁ……」
赤、青、緑と学院長。そしてターニャが同行者だ。キリアンとオルレアも行きたがったが却下したとターニャがのたまう。
そして教授陣と学院長に五人ずつ騎士がついている。ターニャの面倒はレークスが見るという。遠い親戚だそうだ。
「ばらっばらなんだよね~誰がまとめるのよこれー」
「下手をしたら夜までに村に帰れなくなりますよ」
すでに王都までは帰れないと判断を下しているフォン。しかし、アリスもそう思った。この進行では無理だ。
レークスがターニャを連れて戻ってきて、騎士たちもバラバラだった教授を回収している。
先ほどの村で、素材回収を生業としている冒険者を雇っている。彼が先行してロロミの花の場所を確かめ、案内してくれるという。
王都の森は、ミールス近くのものとそうかわらなかった。生えている草木や、魔物も変わらない。
ロイが見つけるより早く、護衛たちが見つけて、始末する。そして……また素材採取になる。
「これはなかなかよい肝臓だね。持ち帰って乾燥させよう」
埋めてしまおうと、土魔法で穴を掘ったロイを押しのけ、教授たちが倒した魔物を解体していくのだ。
「絶対王都に帰れない」
「俺たちは森で野宿も別に構わないけど、この方たちは大丈夫なのか?」
レークスと、騎士たちの顔色がどんどん悪くなる。
「ねえ、ロイ」
「……だなあ」
素材採取の冒険者が森の奥へ奥へと案内する。まあ、この森は初めて来た場所なのだから、それに従うのが一番いい。
だが、似ているのだ。ミールスに。植生がとても似ている。
ロロミの花の咲いていそうな場所を二回ほど通り過ぎた。
たぶん少し右手に行けばあるような気がする。
「レークス様。少し休みましょう」
「え、ますます遅れないか?」
「呼び戻してください、レークス様」
ロイの強い言葉に、何かあるとレークスは頷き、他の騎士たちを呼び止め、教授たちを集める。
彼らはとても満足そうに地面に広げた布の上でくつろぎ始めた。
「まだまだ先なのですが……」
案内人は困った様子でレークスに話しかけてきたが、彼は取り合わない。
「興奮してこれだけ動いているが、年寄りたちだ、調子に乗っていると突然動かなくなった時が困る」
あちこちに駆けていく者を見張るのもまた疲れる。
「貴方も少し休んでください」
冒険者にレークスが言うが、何やらそわそわ落ち着かなかった。
ジェフリーも一緒に布の上に座り、おやつをもらっている。
「アリスも食べよう」
「私は大丈夫ですよ」
そこの輪に入るのは遠慮したい。
そして、あまり時間が経たないうちに、ロイとフォンが帰ってくる。
「レークス様、ロロミの花を見つけました。蜜もたっぷりです。歩いてすぐですのでそちらで採取しましょう」
教授陣を集めて休ませている間に、ロイがこの周辺を探索したようだ。
「そこで蜜を採って急いで帰れば夕方には王都に着けると思います」
だが、それに異議を唱えたのは、なぜか案内役の冒険者だった。
「それは本当にロロミですか? 似た植物もありますが」
「ロロミの花の蜜は何度も採取しているから大丈夫ですよ。なに、たいした距離じゃない。もし違っていたら教えてください。こちらには何度も上級回復薬を作っている方々がいるんですから」
なぜか、男の顔色は悪かった。
レークスとメルクが目配せをしている。アリスは教授たちが立ち上がる中、ジェフリーの手を握った。
「もう行くの?」
「ええ。暗くなる前におうちに帰りたいでしょう?」
「今日は帰りたくないかな?」
予想外の返事に、アリスは首を傾げた。
「どうして?」
「うーん……さっきかくれんぼしてついてきたときに聞いたんだよ」
緑のローブの教授に付き従う騎士を見る。
「今日はね、王都が火の海になるんだって」
アリスは非戦闘員。
邪魔だ。
「ジェフリー、隠して!」
少年を抱き上げ、アリスはロイたちの背の方に走った。
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