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78.なぜこうも厄介ごとが

「アリス、また服増えた?」

「増えたよ……カレアーナ様が追加で買ってくださったの」

「とても似合ってるよ。どこかの貴族のお嬢さんかと思う」


 馬車にはメルクとロイ、そしてミアが一緒に乗っていた。ミアがじっとロイを見ている。


「寮の生活ってどんな感じなの?」

「回復薬を作ってるか、人が回復薬を作るのを見てる感じ。この間は平民が日常的に使うような傷薬も作ったよ。あれはそんなに作り方は違わなかったみたい。やっぱりまったく違うのが中級、低級回復薬だって」


「他の方々も作れるようになった?」

「うん。みなさんやっぱりすごいね、少ししたら手際よく作ってた。今はその効果の度合いを測る魔導具作りに集中しているみたい」

 だからちょっと暇が出来てきたのだ。

 ターニャが定期的に新しい薬の素材を持ってくるので作って見せるくらいになっている。


「それならもう帰してもらえるかな?」

 メルクはそう言ったが、簡単にはいかなかった。



「上級回復薬がまだなのよ」

 困ったわと学院長が首を振る。隣にはターニャが力強く頷いていた。


「上級は素材が高価なのでそれほど試していないかと……」

「それで納得しないのがうちの研究者たちなのよ。だから一度実演してもらいたいなと思って。また素材の取り方からになりそう。ただ、森に取りにいかないといけないものがあってね。一つ向こうの町の、さらに向こうに自生しているらしいわ」

「アリスさんをおうちに帰すためにも、一度取りにいかねばなりません」


 ロイの顔が引きつる。


「ロロミの花の蜜ですか? 普通に蜜袋に穴を開けて採取するだけですよ」

「それで納得しないのがうちの研究者たちなのよ……」

 困ったわと繰り返す。


 ロロミの花は、チナ鳥を狩りに行ったときに見つけたものだ。森の、それなりに奥までいかなければない花なのだ。


「申し訳ありませんが、我々だけで皆さんの身を守ることはできませんよ?」

 上級貴族ばかりの教授陣。そこを守る責任は負いたくないだろう。誰だってごめんだ。


「そうなのよ。だからね、それぞれ実家から騎士を連れてこようと思って、今調整中だからもう少し待ってもらえるかしら」


 ふふと笑う学院長を前に、メルクとロイ、そしてミアが固まっていた。

 いつも冷静沈着なミアが言葉を失うような事態になるのだろう。




 その日はそのまま寮に残った。ロイがアリスの魔力の使い具合に怒っていたが、当然のように差し出された高級魔力回復薬に何も言えなくなっていた。

 魔力が足りなくなるとすっと出されるのだが、あまり飲みすぎもよくない気がする。


 早くて十日はかかると言われたロイたちは、ギルドで簡単な魔物の討伐依頼をさがすことにしたそうだ。

 ミアもどこかへ手紙を書いていた。


 そして翌日、レークスが現れる。

 しばらく見ないうちにかなり疲労が溜まっている気がする。少しやつれたようにも思えた。

「聞いたよアリスさん、とんでもない人たちだ」

 アリスの研究室で、がっくりと肩を落としている。


「止められないんですか?」

「いつの間にか申請書がしっかり出されていて、今後の発展のためにと書類も提出されていてどうしようもない。しかも護衛は自分たちで調達するからと……なんとか、アリスさんの護衛としてうちの騎士団から数名と、その日私も一緒に行けるようになった。なんとか、ねじ込んだよ」

「す、すみません……」

「ロイたちもくるだろう。うちからの依頼にしておくから」

 たぶん、昨日ミアから手紙を受け取って急いで色々調べて手を回したのだろう。


 そのミアがレークスと入れ替わりで出て行った。

 ひっきりなしに呼びに来る教授たちの部屋に、今日はレークスが付き合ってくれていた。


 それが一段落して、再び研究室。ミアも帰ってきていた。


「どうしても、外に出るとなれば私が優先するのは上級貴族である教授たちになる。アリスさんは有事の際にはミアや、メルクたちを頼ってくれ」

「有事って……」


 レークスは難しい顔をしている。


「俺が最近忙しいのが、少し不穏な出来事が多くてね。この間城で話していただろ? バンゴール王国の冒険者が多く流れてきていると。どうしても冒険者同士のいざこざが多くなる。そのわりにギルドの依頼を受ける者の量は変わらず、迷宮に潜る冒険者の数も変わらない。流れてきている冒険者の動きがよくわからないんだ。王都にいる冒険者の数が増えているのに周囲の魔物の数が減るわけでもない。少し不審で探っているところだった」

「私も同僚から情報をもらいました。バンゴール王国から来た冒険者が、よい儲け話があると王都周辺で魔物退治をしていた冒険者を誘っている姿をいくつも見つけたそうです。ただ、どんな儲け話かは聞くことはできなかったし、後日彼らに話を聞こうにも姿を見かけなくなってしまったと。だいたい三ヶ月前から続いているようです」


「まあ、家門の騎士が来るのだから、魔物にも対応できるとは思うが、ミアやロイから離れないように。ロロミの蜜、だっけ? 見つけたらすぐ帰ろう」


 なんとも不安な話だが、ロイやメルクが一緒にきてくれるならきっと大丈夫だろう。そう思った。




 ターニャもだが、教授たちがとても張り切っている。周囲の騎士たちは真面目な顔をしているが、どこか面倒くさそうに見えた。


 そして、まさかの――、


「ジェフリーくん……」

「よっ! アリスちゃん!」

「ジェフリー様、今からでもお帰りください」

「嫌だっ! 絶対嫌だ。森行くとか、面白すぎるし。ちゃんと書き置きはしてきた!!」


 メルクたちが何事だと少年を囲む。


「この間お城で会ったの……」

「アリスちゃん気に入ったし、一緒に行こうよ。僕が手繋いであげるから」

「ジェフリーくん……あの、森は危ないよ?」

「大丈夫。僕だけなら魔物だってやり過ごせるし」

 レークスが様をつける相手にメルクたちは戸惑っていた。


「ジェフリーくん、森は普段行き慣れてないと危ないよ」

「それならあのじじばばの方が危ないじゃん」

 それはその通りなのだが。

「大丈夫。僕のことなんかみんな気にしなくなるから。もう街からずっと遠いし。今日泊まりなんでしょ? 僕もお泊まりセット持ってきた!」

 なんだかずいぶんな荷物を負っていると思ったらそういうことか。


 王都でロロミの花の蜜を摂ろうと思ったら、町を越えていかねばならぬらしい。

 ここまで馬車で来たが、この先は徒歩か馬になる。森に入るので大人数の馬を放置するわけにもいかないので歩きだ。


「なぜこうも厄介ごとが……」

 レークスがいっそう老け込んだ。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


おじいちゃんおばあちゃんを森に引率します。

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