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77.私がロイに殺されぬように

 貴族の格として、レークスよりも学院長が上だったということだ。


 城に上がった翌日、アリスはたくさんの荷物と一緒に学院へ向かった。

 守り切れなくてすまないと謝られたが、致し方ないことだ。というか、たぶん、レークスはアリスの護衛をと言われていたのだ。国王など、上の人から。

 学院長からの要求があった時点で、レークスに責を問う者はいなくなるだろう。それなら、アリスは学院に行くことに別に異議はない。


 聖者と知っているのはごく一部。

 つまり端から見ればアリスは単なる平民でしかない。

 力の強い方の貴族の言いなりになるのは当然のことだ。



「ロイにとんでもなく怒られそうだな」

「レークス様は悪くないので」

「わたくしがお守りしますのでご安心ください。ちなみに、学院長だけはアリス様が聖者だということを知っていらっしゃるそうですので、わたくしの存在もよくわかっていらっしゃると思います」

 前半はレークスへ、後半はアリスへの言葉だ。

 ミールスの街にいたときからアリスの監視をしていたという、彼女は……知ってる。最近近所に越してきた夫婦の奥様だ。ミアと名乗っている。


 あまりに自然に溶け込んでいるのだと恐ろしくなる。


 彼女もまたアリスと同じようにシンプルなワンピース姿だ。

「ナイフも魔法も使えます。そこら辺の冒険者よりはずっと腕は立つのでご安心ください」

「陛下が寄越したのだ。十分信頼しているよ。私がロイに殺されぬようにアリスさんの身をよろしく頼む」




 学院の寮は、とても広かった。

「お手伝いさんが一緒に来るって聞いたから、側仕え用の別室付きの部屋を用意したわ」


 学院長がうふふと笑う。

「荷物の片付けは彼女にやらせればいいのよ。早く研究室に行きましょう」

「片付けはあとですればいいのよ。ミアさんもいらっしゃい」


 ターニャの言葉を否定し、ミアもという学院長は彼女がどんな目的でここにいるかを理解しているのだろう。

 片付けは確かに後でいいので、待てないターニャについて行くこととなった。


「急ごしらえですけどね、アリスさんの研究室も用意しましたよ!」

「えっ……私は別に研究することは……」

「お手本を披露するとき、毎回私の研究室を潰されるのです! 片付けるのが面倒なので作りました」


 ああ。あれはターニャの研究室だったのか。

 アリスが薬を作る場所だけが広々として、周りの机や棚は物で山積みだった。


 用意された部屋は、とても広い。

 広くて何もない。机が三つも四つもあるのはなぜだろう。

 その中の一つにアリスの調薬陣と釜が置いてあった。他にも調薬に使う魔導具がいくつもある。かなり高価な物が揃っていた。


「アリスさん、スケジュールをお教えしますね」


 いつの間にかスケジュールが作られている。アリスの負担を減らすためにと、お手本以外に調薬が正しい手順でできているか見るための順路を決めたというのだ。


「アリス様の負担はまったく減っていないように思えるのですが?」

「えっ!? これでも一番効率よく移動できるよう工夫を凝らしたのですが」

 ミアの指摘にターニャは純粋に驚いていた。


「まあ、正直他にやることもないし。大丈夫ですよ。ミアさんもありがとう」


 何も予定のない日や時間を作られても、その間何をしていたらいいかわからない。

 ミアはじっとアリスを見つめた後ターニャに向き直る。


「アリス様が疲れているようでしたら休憩を要求します」




 そこから練習をした教授陣やキリアン、オルレアの作る様子を見て、間違っているところを指摘した。さすがと言うべきか、二、三回見れば彼らはアリスの言うとおり正確に作ることができるようになった。

 今はその基準値を測る魔導具の開発を始めているようだ。


「というわけで、正中級回復薬を作って欲しいのよ」

 ターニャにどんと渡された材料を使って回復薬を作る。


 アリスが作るときはぞろぞろとローブを羽織った教授陣が来る。




 寮の生活は快適だった。

 食堂に行けば美味しい食事が食べられるし、風呂まである。

 最初困ったのが、寝ているのに起こされることだったが、それはミアが一喝してなくなった。


「何かを思いついた研究者の相手は大変ですね」

 これにはミアも呆れていた。


 それでも概ね平和で、レークスが心配していたようなことにはならなかった。


 そして十日ほど経った頃、ロイたちが迷宮から帰ってきたと連絡があり、レークスの屋敷に行くことになった。


「みんなおかえりなさい」

「アリスちゃんただいま~とっても疲れたわぁ」


 湯浴みは終えたらしいロイたちと、食堂で昼食だ。

 キャルとフォンはとても満足そうで、マリアはぐったり。メルクとロイは普段と変わらない感じだった。

「今回はさらに深層に潜ったのよ。素材もかなり高値で売れたし、大変だったけど楽しかった~」

 キャルは根っからの冒険者だ。探究心がすごくあるのだそうだ。

「まあこれで今年の冬の備えは出来たと思う。やはり迷宮品は値段が跳ね上がるなぁ」


 迷宮は、地上にはない様々な物がある。

 宝のような物もあれば、迷宮だけにいる魔物から採取できる素材が、よい武器や防具になったり、薬効を持っていたりするのだ。


「アリスは今寮にいるって聞いた」

「そうなの。レークス様が忙しくなってしまって。ミアさんがついてきてくれるから大丈夫だよ」

 ロイは壁際に立ってる彼女にちらりと目をやる。そして頷いた。


「それで、アリスちゃんはまだまだかかりそう?」

「全然帰っていいって言われない……」

 メルクは苦笑いをしていた。


「もう一回潜ろうよ!」

「勘弁して~、そんな連続で行くようなところじゃないでしょう。寝た気がしないのよー!」

 マリアは大反対。キャルは元気だ。


「潜るにしてもまたいちから準備しないとだし、アリスちゃんの滞在があとどのくらいになるか聞いてからかな」

「今日は私、飲み屋に行くっ!」

「あー私も行く~!!」

「何なら適当に泊まってくるから気にしないでちょうだい」


「ロイも行こうよ! 打ち上げしよう!」

「いかない。今日はもう寝る」

 まだ昼間なのだが、迷宮内では満足に眠れないというし、疲れているのだろう。

「明日はアリスについて行くから」

 隣の席のロイがこちらを見て言うと、メルクも頷いた。

「進捗を俺も確かめたいからついて行くよ」

 今日は帰ってくるよねとターニャに聞かれていたが、まあ、明日でも問題ないだろう。アリスは二人に頷いた。

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