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詐欺られアリスと不思議のビニールハウス  作者: 鈴埜


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62/97

62.人間ね、素直が一番よ

 自分は鈍かった。


 トシとスミレは聞いているだけなのに察知していた。なんということだ。

 頭の中がぐるぐると回って、肩に手を伸ばされたところでようやく我に返る。


「あの、ご、ごめんなさい……」


 伸ばされた手はぐっと握られ離れていった。


「私、その……」

 こんなときに言う言葉を習っておけばよかった。


「困らせてしまいましたね。戸締まりしっかりしてください。今日はありがとうございました」

 ごちそうさまも、ありがとうも言えずに、カイルの出て行った扉に鍵を掛けるとそのまま二階に駆け上がる。


 ああ、自分は本当に鈍いのだ。

 つくづく思い知った。




「仕事に影響がでなけりゃいいがな」

「……うう」

 トシとスミレには即バレた。


 扉を開けて入って顔を合わせた瞬間、何が在ったんだと言われた。


「まあ、そういったことは女同士話してな。俺は畑の様子見てくるぜ」


 今でも思い出すと叫びだしたくなるのだ。

「今までそういった経験はなかったの?」

「けっ、経験……」

「誰かに告白されたり、アプローチされたり」

「……ないです」


 うーん、とスミレは宙に視線を漂わせている。

「アリスちゃんの世界で、普通は何歳くらいで子どもを産むの? あと、何人くらい?」

「えっ……まあ、早い子は十五くらいに一人目を。少なくても三人くらいかな。うちみたいな一人っ子は珍しい」

「なら、貴方も結婚適齢期じゃない。もう少し自覚しないと。カイルさんは紳士だったからそのままお店から出て行ってくれたんでしょう? そうじゃなかったら? アリスちゃんが泣くはめになったんじゃない?」

「そのときは、魔力を打ち上げるし……」

「うーん……にしてもなのよねえ。もう少し身の回りに気を遣いましょうね」

「はい……」

 大人しく頷くしかなかった。


「でも、なんで断ったの? カイルさんってそんな悪い人?」

「えっ、いえ。いい人だと思う」

「ならなんでカイルさんじゃだめだったの? 告白されたとき、何を思ったの?」


 お付き合いのお話をされて、頭の中に言葉がぐるぐるして、最後に現れたのは――。


「お顔が真っ赤だわ、アリスちゃん。人間ね、素直が一番よ?」




 カイルはその後もまったく変わりなく接してくれた。少し急ぎすぎたと謝られたが、彼が謝るようなことではないと、アリスも謝った。あまりこういったことはなくて、上手く言えなくて申し訳なかったというと、彼は笑っていた。


 スミレに、誤解させない距離というものもあると色々説明されたので、気をつけるようにはしている。


 夕方、扉が叩かれる。もう閉店の看板を出しているからだが、のぞき穴から覗くと、ハンナだ。手に持っているパンを見るに、お裾分けだろう。


「アリスこれ。朝ご飯にして」

「ハンナ、ありがとう」

 ハンナはアリスより二歳年上、結婚したのは三年前だ。ハンナがハンナの夫のことが好きで、それこそ小さな頃からまとわりついていた気がする。


「ハンナは……、ハンナはずっと今の旦那さんがいいって決めてたの?」

「やだなに、急に。どうしたの……ロアン商会のあのお兄さんとなんかあったのね」


 直球で聞いてみたら即バレてしまった。


「何にもないけど、ちょっとふと思って」


 アリスの言葉にニヤニヤしながら、ハンナは頷いた。

「私は一目見たときからこの人だって決めてたのよ」

「それって、七歳とか八歳とかそのくらいよね?」

 ハンナはこの辺りの子どもではなかった。それがいつのまにかよく出没するようになり、アリスとも話すようになったのだ。


「正直ね、結婚なんて嫌になったらやめちゃえばいいんだから、別に届け出ださなくても一緒に住んでたらもう夫婦よ。好きな人と一緒にいるのが一番。結婚がなにか影響するような家柄でもないしね。アリスは、店持ちだから、変な男が寄ってくるのは困るけどまあ、それはまずないし。ロラン商会なら身元の確かな人じゃないの?」

「だから、そんなんじゃないんだって!」

「アリスがここで店やって、彼がロラン商会で働いたら生活は楽だと思うけどね~。子どもができたとて、別に調薬の腕が落ちるわけでもなし」


 だから、それは違うのだ。


「ただ、一人おおごねするヤツいるからなぁ……茨の道ね」

「ごね?」

「なんでもない。とにかく私はアリスの味方だから、相談事はいつでも受け付けるわよ。今までそんな話一つも出てこなかったもんね。まあ、出てこれなかったのか」

 ところどころよくわからない話が混ざる。


「とにかく。貴方ももう立派な大人なの。一人の女性なの。だから身の回りには十分気をつけて、行動する前によく考える」

 スミレと同じようなことを言って、ハンナは帰っていった。


 会話がかみ合わなかった気がする。




 まだ肌寒かったのが、朝晩もすっかり暖かくなり、昼間は日によっては日差しがキツくなる頃、ロイたちが帰ってきた。今回は少し長かった。


 その間アリスの店はそれなりに繁盛して、去年よりも売り上げが伸びていた。低級素材なら自分でも採りに行ける。中級素材はなんと、スウェンとハリーがまた採ってきてくれた。

「正直俺ら、採取の才能あるかも?」

「対価がよく効くアリスちゃんの回復薬なのもいいよね」

 と、喜んで行ってくれる。お互いいい関係を築いていた。


「なんだかすごく疲れてない?」

 ロイの顔がいつも帰ってきたときと違う。


 今日も皆は冒険ギルドへ行き、ロイは真っ直ぐこちらにきたそうだ。

「何か食べる?」

「ああ」

 かなりぐったりしていて、昼に食べていたスープを急いで温めた。一緒にお湯も沸かす。


「ロイ、本当に大丈夫?」

「ちょっときつかった」

「迷宮、やっぱり大変なんだね」

「迷宮というより、フォン。あいつにすごいしごかれて」

 スープを飲みながらため息をついていた。チナ鳥を狩りに行ったときの、厳しいフォンを思い出す。


「そうだ、ロイ上着脱いでよ、背中出して」

 両手をロイの背に当てて、魔力を通す。身体の中の魔力の流れを、滞っていた部分を正常に流れるよう動かす。


「何これすごい楽なんだけど……アリスの魔力きつくないか?」

「ううん、これ、魔力ほとんど使わないの。最初に動かして最後に自分に戻ってくるし。筋肉をほぐしたりにもなるらしいよ」


 ロイが留守の間に、神殿の治癒師と少し話をしたのだ。魔力のないアリスに何ができるのか、教えてもらった。対価は回復薬だ。お布施代わりの回復薬を持って行き、治癒術のさわりを学んだのだ。


 トシとスミレに話したら、キコウだマッサージだと言っていた。


 扉が開く音がして、ガヤガヤと、残りのメンバーが入ってきた。

 そして、アリスがロイの背に手を当ててる姿を見て、キャルがなぜか出て行った。

「やだ、アリスちゃんたら積極的……」

「んん?」

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


アリスはロイの上半身裸に慣れすぎているってやつで〜

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